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難民映画基金インタビュー第2回
『Rotation』マリナ・エル・ゴルバチ|日常が軍務に置き換わるとき

Aug 31, 2026
LifeWear

ロッテルダム映画祭(IFFR)で2025年にパイロット版として創設が発表された「難民映画基金」(Displacement Film Fund 、以下DFF)。「ディスプレイスメント(避難・強制移動)」を余儀なくされた、またはその物語に向き合う映画制作者5名に対し、短編映画制作のために一人あたり10万ユーロを支援し、2026年のIFFRでのプレミア上映の機会を提供する取り組みです。株式会社ユニクロも、創設パートナーとして参画しています。

2026年1月30日(現地時間)、支援を受けた5名の短編がIFFRで初披露され、DFFは初の成果を迎えました。プレミア上映の翌日に実施した、映画が生んだ連帯とこの新しい基金の可能性についての関係者へのインタビューをお届けします。本シリーズ第2回は、ウクライナの兵士の体験を綴った短編映画『Rotation』を監督した、マリナ・エル・ゴルバチが、DFFでの経験を振り返ります。

——DFFの依頼から、わずか6ヵ月月という短い期間で映画を完成させました。振り返ると、どのような経験でしたか?


私にとっては、プリプロダクションなしにいきなり創作へ飛び込むという、とても良い機会でした。ヒューバート・バルス基金からのプロジェクトの打診があったとき、「ディスプレイスメント」という言葉から「日常が別のものへと置き換わっていくこと」というテーマで取り組もうというアイデアはすぐに浮かびました。ただもちろん、スクリーンに何を映すべきかを明確にするために、ウクライナへ赴き、現地の現実にもう一度触れる必要がありました。すべてが猛スピードで進んでいきましたが、同時に、その時期の自分の芸術的な欲求を、自分のビジョンや提案されたテーマと結びつける絶好のチャンスでもありました。制作だけでなく、映画言語そのものにも、「緊急性」が求められました。それが、35mmネガフィルムで撮影する、というアイデアにもつながったんです。

——ウクライナ産フィルム、Svemaのストックが使われていますね。


はい。ウクライナで製造されたネガフィルムの最後の在庫があるはずだと考えました。ロシア軍機による絶え間ない爆撃を受けているショーストカ市で製造、保管されていたフィルムがSvemaです。工場はすでに生産を停止し、施設は破壊されていました。そのフィルムはどこかのシェルターに眠ったまま、いつ塵として消えてもおかしくない存在でした。だからこそ、このプロジェクトが、その物質に新たな芸術作品としての価値を与えることができると思ったんです。傷や物理的な問題があっても構わないし、その方がテーマに合っているなと考えました。私たちが語っているのは感情的な傷であり、市民の平穏な生活が軍務に置き換わっていくことだったので。


——制作のプロセスの中で、心に残った瞬間、発見したことはありますか?


今のウクライナでの撮影は、安全上の問題から決して容易ではありません。夜間の撮影は不可能でしたし、現地の映画制作者たちとの協力も難しい状況です。戦時下では、特に男性は兵役義務があるため国外に出られない人も多い。だからこそ、彼らの人生にアートを取り戻すことが何より大切でした。制作の3、4日間だけの短い期間だったとしても、戦前の日常に少し戻れるような、みんなが一緒にいられる時間を作ること。それが目標でした。キーウでのプリプロダクション中、夜には爆撃音が聞こえていましたが、それでも朝になるとみんなでコーヒーを片手にミニバスに乗って撮影現場へ向かう。とても非現実的でした。それでも、みんながそこに集まり、完璧なテイクが撮れ、芸術的なビジョンを実現できた瞬間には、本当に喜びがありました。

——映画を完成させたことで、この基金や「ディスプレイスメント」というテーマについて、何か新たに気づいたことや、自分の中で変わったことはありましたか?


もちろん。2020年以降、私は日本でも公開され、好評を得た映画『世界が引き裂かれる時』(22)を制作しましたが、それは戦争の始まりとも関係していました。当時はメディアで大きく扱われてはいなかったものの、マレーシア航空17便撃墜事件の悲劇とも深く関係し、オランダと直接的なつながりがありました。そのときに感じたのは、自分が想像し、恐れていたことがすべて現実になってしまったということでした。アーティストとして何ができるのか、毎日続く恐ろしい出来事をどう感情的に受け止めればいいのかわからなくなっていました。何を作っても状況を変えるには不十分に思え、私の人生におけるアートの位置づけ、それが私の存在にどんな影響を与えるかを根本から見直す必要がありました。

ある日、森を散歩しながら別のプロジェクトについて考えていたんです。それは5年後に発表される予定のものだったので、「5年後、世界はどうなっているか?」という問いが頭にありました。世界は戦争状態なのか、デジタル化が進んでいるのか、人間的な価値は残っているのか。民主主義や人間性、平和とは何なのか。たとえウクライナにいなくても、つまり戦争を日常として感じている私のような人間にとって、それはどういう意味を持つのか。そんなときに、ヒューバート・バルス基金から「今、感じていることをそのまま作品にしてほしい。6ヵ月月後に公開されます」という連絡がありました。その言葉が私の考え方を変えました。長編を作るとき、通常は「未来から来た自分」になって今を見なければいけません。でも、それが不要になったのは今回が初めてのことでした。

——先が見えない状況で、映画はどのように世界に応答できると思いますか?


今の状況を、私は「新たな感情のリアリティ」と表現することがあります。かつて一般市民だった人が兵士になったり、軍務に就くようになったことで生じる、新たな感情の流れ。それを外から観察する私自身も含め、毎日試練に直面しつつ、同時にこの世界の無限の広がりと立ち向かっている状況を想像してみてください。私が捉えようとしていたのは、まさにそれでした。彼らが経験している感情をどう映画に落とし込み、観客に届けられるかと考えていました。観客に理解させることよりも、感じてもらうことを重視しました。誰にも「もっとわかりやすくしろ」と強制されなかったことが嬉しかった。自分が作りたいものを自由に作ることができました。編集を終えたあと、テスト上映後に映画作家の友人たちに「何が見えたか」を聞いてみたんです。映画には映していないけれど確かに存在する登場人物たちの体験を、それぞれが自分の記憶と結びつけてくれていました。今、私たちの使命は、人間の感情を守ることだと思っています。ポジティブなものだけでなく、人間の感情が網羅しているあらゆる側面のすべてを感じることは許されるべきです。もしそのうちのどれかを押さえ込もうとすれば、かえって爆発してしまうので。


——あなたにとって「ホーム」とは何を意味しますか?


今この瞬間、母はウクライナにいて、私はいつも母の無事を案じています。だから、私にとっての「ホーム」は、母のキッチンです。そこで一緒に座って話し、手作りのお菓子やお茶を楽しめる場所。でも同時に、家族と共に築いている私の生活の場所でもあります。子どもたちが学校に通う場所も「ホーム」と言えるかもしれません。仕事によって住む場所は変わりますが、友人を招ける場所、それもまた「ホーム」です。つまり、特定の場所に限定されるものではなく、どこにでもなり得る。でも私の居場所は「ホーム」です。壁の色まで知っている自分の「ホーム」があり、その場所を離れていても、私たちが暮らしている場所もまた「ホーム」だと思います。

——今、自分が語るべきだと感じている物語とは?


とても難しい質問ですが、ある意味「未来からの問い」のようなものだと思います。デジタル、メディア、世界政治など、あらゆる分野において、現在の状況を振り返ってみると、5年前に見逃されていたのに、今になって重要になるようなストーリーもある。だから未来に何が起こりうるかを想像し、少なくともその時点でもなお意味を持つようなものを生み出すこと。人々が抱くあらゆる感情を実感し、その感情を尊重し、それらと親しくなるためふさわしい映像言語を見つけること。それが今最も重要だと思っています。なぜなら、これからの時代、人々が国籍や所属によってではなく、もっと根本的なレベルで、出身地を超えた「人間」として自分自身を認識していくようになると信じています。ここで言うのは、感情的な意味でのことです。人は、あらゆる正しい感情を持っているからこそ、自分自身を「人間」と呼ぶことができるのです。完璧だからとか、善良な人間だからという理由ではなく、あらゆる感情を抱くことができるからこそ、そう言えるのです。私は、できるだけ多くの人々に、「同じ人間」としてつながる感覚を持ってほしいと思っているんです。そのこと自体がとても重要だと思っています。

——1月30日(現地時間)に行われた、ワールドプレミア上映はいかがでしたか?


とても温かい反応でした。本当に予想外でした。なぜなら、私たちは他の映画監督の作品を事前には観ていなかったですし、リリースに書かれたコンセプトくらいしか知らなかったんです。だからこそ、この体験が各映画制作者にとってどれほど癒やしになったかを見るのは、とても興味深いことでした。プレミアも映画もすべて率直で、とてもパーソナルなものでした。映画を作るという提案に応えるだけの時間しかなかったので、自分を取り繕う余裕なんてなかった。だからこそ、あれほどストレートで、心の底から湧き出るようなものになったのだと私は感じました。上映前に記者会見があったんですが、ジャーナリストたちが駆け寄ってきて映画について熱く話してくれました。私たちは「何の話をしてるんだろう?」という感じで(笑)。

——5本の映画を一緒に観ることで、何が見えてくると思いますか?


もちろん、依頼された通り、独立した短編として制作されたものですが、5本をまとめて観ると、世界観という全く別の次元で機能する、ひとつの包括的な感覚、深みが生まれると思います。このプロジェクトが各映画として独立して存在しつつも、同時に全体として生き続けてほしい。なぜなら、そこには協力と連帯という性質があるからです。だから、互いの作品を観ていなくても、連帯感がある。観る者に何かを押し付けることもありません。ただ、とても個人的な体験を分かち合おうとしている。その語りのトーンがとても好きでした。


マリナ・エル・ゴルバチ Maryna Er Gorbach

ウクライナ出身。脚本、監督、プロデュース、編集を手がける。2014年7月17日にウクライナ・ドネツク州で起きたマレーシア航空17便撃墜事件を背景に、ロシアとの国境付近で暮らす出産間近の女性を描いた『世界が引き裂かれる時』(22)は、2022年サンダンス映画祭ワールドシネマ・ドラマ部門で監督賞を受賞した。

「PEACE FOR ALL」とのコラボレーションが決定


ユニクロのチャリティTシャツプロジェクト「PEACE FOR ALL」と「難民映画基金(Displacement Film Fund)」のコラボレーションによるTシャツが2026年6月19日(金)より発売。支援を受ける5名の映画監督が寄せた「平和」をテーマにした言葉をもとに、映画の力で難民の声を世界に届ける想いをデザインで表現しています。 このTシャツの利益は、「Displacement Film Fund(難民映画基金)」へ寄付されます。

PEACE FOR ALL Tシャツ(難民映画基金)


難民映画基金(Displacement Film Fund)」とは


「難民映画基金」は、避難を余儀なくされた映画制作者、または避難民としての経験を描いた実績のある映画制作者の活動を支援・助成するために設立されました。2025年の第54回ロッテルダム国際映画祭(IFFR)において、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)親善大使であるケイト・ブランシェット氏が共同設立し、主導するこの基金は、第54回ロッテルダム国際映画祭で発表され、マスターマインド、ユニクロ、ドローム・エン・ダード、タマーファミリー財団、アマホロ連合が創設パートナーとして名を連ねています。ヒューバート・バルス基金を運営パートナー、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を戦略パートナーとし、短編映画への助成制度を開始。さらに、第55回ロッテルダム国際映画祭において、新たな主要パートナーとしてアールティ・ロヒア氏およびSPロヒア財団が加わることが発表されました。両者はパイロットイヤーの成功を受け、同基金への支援を約束しています。
詳しくはこちらから


ロッテルダム映画祭(IFFR)で2025年にパイロット版として創設が発表された「難民映画基金」(Displacement Film Fund 、以下DFF)。「ディスプレイスメント(避難・強制移動)」を余儀なくされた、またはその物語に向き合う映画制作者5名に対し、短編映画制作のために一人あたり10万ユーロを支援し、2026年のIFFRでのプレミア上映の機会を提供する取り組みです。株式会社ユニクロも、創設パートナーとして参画しています。

2026年1月30日(現地時間)、支援を受けた5名の短編がIFFRで初披露され、DFFは初の成果を迎えました。プレミア上映の翌日に実施した、映画が生んだ連帯とこの新しい基金の可能性についての関係者へのインタビューをお届けします。本シリーズ第2回は、ウクライナの兵士の体験を綴った短編映画『Rotation』を監督した、マリナ・エル・ゴルバチが、DFFでの経験を振り返ります。

——DFFの依頼から、わずか6ヵ月月という短い期間で映画を完成させました。振り返ると、どのような経験でしたか?


私にとっては、プリプロダクションなしにいきなり創作へ飛び込むという、とても良い機会でした。ヒューバート・バルス基金からのプロジェクトの打診があったとき、「ディスプレイスメント」という言葉から「日常が別のものへと置き換わっていくこと」というテーマで取り組もうというアイデアはすぐに浮かびました。ただもちろん、スクリーンに何を映すべきかを明確にするために、ウクライナへ赴き、現地の現実にもう一度触れる必要がありました。すべてが猛スピードで進んでいきましたが、同時に、その時期の自分の芸術的な欲求を、自分のビジョンや提案されたテーマと結びつける絶好のチャンスでもありました。制作だけでなく、映画言語そのものにも、「緊急性」が求められました。それが、35mmネガフィルムで撮影する、というアイデアにもつながったんです。

——ウクライナ産フィルム、Svemaのストックが使われていますね。


はい。ウクライナで製造されたネガフィルムの最後の在庫があるはずだと考えました。ロシア軍機による絶え間ない爆撃を受けているショーストカ市で製造、保管されていたフィルムがSvemaです。工場はすでに生産を停止し、施設は破壊されていました。そのフィルムはどこかのシェルターに眠ったまま、いつ塵として消えてもおかしくない存在でした。だからこそ、このプロジェクトが、その物質に新たな芸術作品としての価値を与えることができると思ったんです。傷や物理的な問題があっても構わないし、その方がテーマに合っているなと考えました。私たちが語っているのは感情的な傷であり、市民の平穏な生活が軍務に置き換わっていくことだったので。


——制作のプロセスの中で、心に残った瞬間、発見したことはありますか?


今のウクライナでの撮影は、安全上の問題から決して容易ではありません。夜間の撮影は不可能でしたし、現地の映画制作者たちとの協力も難しい状況です。戦時下では、特に男性は兵役義務があるため国外に出られない人も多い。だからこそ、彼らの人生にアートを取り戻すことが何より大切でした。制作の3、4日間だけの短い期間だったとしても、戦前の日常に少し戻れるような、みんなが一緒にいられる時間を作ること。それが目標でした。キーウでのプリプロダクション中、夜には爆撃音が聞こえていましたが、それでも朝になるとみんなでコーヒーを片手にミニバスに乗って撮影現場へ向かう。とても非現実的でした。それでも、みんながそこに集まり、完璧なテイクが撮れ、芸術的なビジョンを実現できた瞬間には、本当に喜びがありました。

——映画を完成させたことで、この基金や「ディスプレイスメント」というテーマについて、何か新たに気づいたことや、自分の中で変わったことはありましたか?


もちろん。2020年以降、私は日本でも公開され、好評を得た映画『世界が引き裂かれる時』(22)を制作しましたが、それは戦争の始まりとも関係していました。当時はメディアで大きく扱われてはいなかったものの、マレーシア航空17便撃墜事件の悲劇とも深く関係し、オランダと直接的なつながりがありました。そのときに感じたのは、自分が想像し、恐れていたことがすべて現実になってしまったということでした。アーティストとして何ができるのか、毎日続く恐ろしい出来事をどう感情的に受け止めればいいのかわからなくなっていました。何を作っても状況を変えるには不十分に思え、私の人生におけるアートの位置づけ、それが私の存在にどんな影響を与えるかを根本から見直す必要がありました。

ある日、森を散歩しながら別のプロジェクトについて考えていたんです。それは5年後に発表される予定のものだったので、「5年後、世界はどうなっているか?」という問いが頭にありました。世界は戦争状態なのか、デジタル化が進んでいるのか、人間的な価値は残っているのか。民主主義や人間性、平和とは何なのか。たとえウクライナにいなくても、つまり戦争を日常として感じている私のような人間にとって、それはどういう意味を持つのか。そんなときに、ヒューバート・バルス基金から「今、感じていることをそのまま作品にしてほしい。6ヵ月月後に公開されます」という連絡がありました。その言葉が私の考え方を変えました。長編を作るとき、通常は「未来から来た自分」になって今を見なければいけません。でも、それが不要になったのは今回が初めてのことでした。

——先が見えない状況で、映画はどのように世界に応答できると思いますか?


今の状況を、私は「新たな感情のリアリティ」と表現することがあります。かつて一般市民だった人が兵士になったり、軍務に就くようになったことで生じる、新たな感情の流れ。それを外から観察する私自身も含め、毎日試練に直面しつつ、同時にこの世界の無限の広がりと立ち向かっている状況を想像してみてください。私が捉えようとしていたのは、まさにそれでした。彼らが経験している感情をどう映画に落とし込み、観客に届けられるかと考えていました。観客に理解させることよりも、感じてもらうことを重視しました。誰にも「もっとわかりやすくしろ」と強制されなかったことが嬉しかった。自分が作りたいものを自由に作ることができました。編集を終えたあと、テスト上映後に映画作家の友人たちに「何が見えたか」を聞いてみたんです。映画には映していないけれど確かに存在する登場人物たちの体験を、それぞれが自分の記憶と結びつけてくれていました。今、私たちの使命は、人間の感情を守ることだと思っています。ポジティブなものだけでなく、人間の感情が網羅しているあらゆる側面のすべてを感じることは許されるべきです。もしそのうちのどれかを押さえ込もうとすれば、かえって爆発してしまうので。


——あなたにとって「ホーム」とは何を意味しますか?


今この瞬間、母はウクライナにいて、私はいつも母の無事を案じています。だから、私にとっての「ホーム」は、母のキッチンです。そこで一緒に座って話し、手作りのお菓子やお茶を楽しめる場所。でも同時に、家族と共に築いている私の生活の場所でもあります。子どもたちが学校に通う場所も「ホーム」と言えるかもしれません。仕事によって住む場所は変わりますが、友人を招ける場所、それもまた「ホーム」です。つまり、特定の場所に限定されるものではなく、どこにでもなり得る。でも私の居場所は「ホーム」です。壁の色まで知っている自分の「ホーム」があり、その場所を離れていても、私たちが暮らしている場所もまた「ホーム」だと思います。

——今、自分が語るべきだと感じている物語とは?


とても難しい質問ですが、ある意味「未来からの問い」のようなものだと思います。デジタル、メディア、世界政治など、あらゆる分野において、現在の状況を振り返ってみると、5年前に見逃されていたのに、今になって重要になるようなストーリーもある。だから未来に何が起こりうるかを想像し、少なくともその時点でもなお意味を持つようなものを生み出すこと。人々が抱くあらゆる感情を実感し、その感情を尊重し、それらと親しくなるためふさわしい映像言語を見つけること。それが今最も重要だと思っています。なぜなら、これからの時代、人々が国籍や所属によってではなく、もっと根本的なレベルで、出身地を超えた「人間」として自分自身を認識していくようになると信じています。ここで言うのは、感情的な意味でのことです。人は、あらゆる正しい感情を持っているからこそ、自分自身を「人間」と呼ぶことができるのです。完璧だからとか、善良な人間だからという理由ではなく、あらゆる感情を抱くことができるからこそ、そう言えるのです。私は、できるだけ多くの人々に、「同じ人間」としてつながる感覚を持ってほしいと思っているんです。そのこと自体がとても重要だと思っています。

——1月30日(現地時間)に行われた、ワールドプレミア上映はいかがでしたか?


とても温かい反応でした。本当に予想外でした。なぜなら、私たちは他の映画監督の作品を事前には観ていなかったですし、リリースに書かれたコンセプトくらいしか知らなかったんです。だからこそ、この体験が各映画制作者にとってどれほど癒やしになったかを見るのは、とても興味深いことでした。プレミアも映画もすべて率直で、とてもパーソナルなものでした。映画を作るという提案に応えるだけの時間しかなかったので、自分を取り繕う余裕なんてなかった。だからこそ、あれほどストレートで、心の底から湧き出るようなものになったのだと私は感じました。上映前に記者会見があったんですが、ジャーナリストたちが駆け寄ってきて映画について熱く話してくれました。私たちは「何の話をしてるんだろう?」という感じで(笑)。

——5本の映画を一緒に観ることで、何が見えてくると思いますか?


もちろん、依頼された通り、独立した短編として制作されたものですが、5本をまとめて観ると、世界観という全く別の次元で機能する、ひとつの包括的な感覚、深みが生まれると思います。このプロジェクトが各映画として独立して存在しつつも、同時に全体として生き続けてほしい。なぜなら、そこには協力と連帯という性質があるからです。だから、互いの作品を観ていなくても、連帯感がある。観る者に何かを押し付けることもありません。ただ、とても個人的な体験を分かち合おうとしている。その語りのトーンがとても好きでした。


マリナ・エル・ゴルバチ Maryna Er Gorbach

ウクライナ出身。脚本、監督、プロデュース、編集を手がける。2014年7月17日にウクライナ・ドネツク州で起きたマレーシア航空17便撃墜事件を背景に、ロシアとの国境付近で暮らす出産間近の女性を描いた『世界が引き裂かれる時』(22)は、2022年サンダンス映画祭ワールドシネマ・ドラマ部門で監督賞を受賞した。

「PEACE FOR ALL」とのコラボレーションが決定


ユニクロのチャリティTシャツプロジェクト「PEACE FOR ALL」と「難民映画基金(Displacement Film Fund)」のコラボレーションによるTシャツが2026年6月19日(金)より発売。支援を受ける5名の映画監督が寄せた「平和」をテーマにした言葉をもとに、映画の力で難民の声を世界に届ける想いをデザインで表現しています。 このTシャツの利益は、「Displacement Film Fund(難民映画基金)」へ寄付されます。

PEACE FOR ALL Tシャツ(難民映画基金)


難民映画基金(Displacement Film Fund)」とは


「難民映画基金」は、避難を余儀なくされた映画制作者、または避難民としての経験を描いた実績のある映画制作者の活動を支援・助成するために設立されました。2025年の第54回ロッテルダム国際映画祭(IFFR)において、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)親善大使であるケイト・ブランシェット氏が共同設立し、主導するこの基金は、第54回ロッテルダム国際映画祭で発表され、マスターマインド、ユニクロ、ドローム・エン・ダード、タマーファミリー財団、アマホロ連合が創設パートナーとして名を連ねています。ヒューバート・バルス基金を運営パートナー、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を戦略パートナーとし、短編映画への助成制度を開始。さらに、第55回ロッテルダム国際映画祭において、新たな主要パートナーとしてアールティ・ロヒア氏およびSPロヒア財団が加わることが発表されました。両者はパイロットイヤーの成功を受け、同基金への支援を約束しています。
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