100とは

フリースブランケット

フリースブランケット

同じ時間に

夜、僕は一人でラジオを聴いていた。アシャが好きだといっていたジャズ番組に、ラジオのチューナーは固定されていた。

その日はトニー・ベネットが番組で特集されていた。アシャはトニー・ベネットの「I Wanna Be Around」 というアルバムがお気に入りだった。

ラジオからは「The Good Life」が流れた。アシャが好きな歌だった。パリに発つ準備をしながら、彼女もきっとラジオを聴いているだろうと思った。

ふと、もしかしたらアシャから電話がかかってくるかと思い、電話機をぼんやり見つめていると、ほんとうに「リーン」と電話のベルが鳴ったから驚いた。

受話器をとり、「アシャ」というと「あら、どうして私だとわかったの?」とアシャはいった。「トニー・ベネットをラジオで聴いていたからさ」と僕が答えると、「同じこと考えてたわ。『The Good Life』を聴いていたら、きっとあなたもこの歌を聴いていると思ったの。準備も終わって、一息ついたから、声が聞きたくなって電話したのよ」。

少しハスキーで、静かで落ち着いたアシャの声を電話口から聞いていると、あらためてアシャの声はすてきだなと思った。

「アシャの声はすてきだね」というと、「ありがとう。こんなふうに思ったことや感じたことを素直に言葉にするようになって、あなたは変わったわ。前は何もいってくれなかったもの。私うれしいわ」

アシャの声の後ろから、ラジオから流れるトニー・ベネットの歌が聞こえてきた。

「僕ら別の場所で同じラジオを聴いてるんだね」というと「うん、そうよ。これからも」とアシャはいった。

「ねえ、今ブランケットにくるまっているんじゃない?いつものように」

僕とアシャは夜になると、部屋の中でブランケットをからだに巻いたり、かけたりして過ごすのが好きで、ラジオを聴くときはいつもそうしてソファでくつろいでいた。

「うん、そうだよ。アシャは?」と聞くと「私も今、いつものようにブランケットを巻いてる」といった。

「そういえば、このブランケットもあなたとお揃いよね。同じ時間に、同じラジオを聴いて、同じブランケットを巻いている私たちって可笑しいね」

アシャはクスクス笑いながらいった。そして、「私もあなたの声が好きよ」とつぶやいた。

同じ時間に ストーリーイメージ

「五年は長いね……」と僕はいうと、「うん、長いね」とアシャは答えた。

アシャと僕は受話器を耳に当てて、しばらく黙っていた。

トニー・ベネットの声だけが聴こえていた。

フリースブランケット

極上のぬくもりと柔らかさ

本格的な冬に向けておすすめしたいリバーシブル仕様のフリースブランケットです。表地はフェアアイル柄やチェック柄をプリントし、季節感を演出したマイクロフリースを使用。繊維が細かくやわらかな肌ざわりが特徴です。裏地はなめらかでとろけるようなタッチのシルキーフリース。

繊細なシルキーフリースは染色によって糸の硬さが変わってしまいます。極上の質感や風合いをキープしながらも鮮やかな色を表現するために、染めの時間や加工方法を何度も検証し、見た目にもあたたかいアイテムに仕上げました。

フリースブランケット
フリースブランケット

繊細なシルキーフリースは染色によって糸の硬さが変わってしまいます。極上の質感や風合いをキープしながらも鮮やかな色を表現するために、染めの時間や加工方法を何度も検証し、見た目にもあたたかいアイテムに仕上げました。

フリースブランケット

Stranger in Paradise

僕らはこれまで二人でニューヨークで過ごしてきたことや、面白かったこと、楽しかったことを、ラジオから流れるトニー・ベネットをBGMにしながら、長電話をして話した。

「私、あなたがいっていたどんなことにも心を使うっていう考え方にとても影響を受けたわ。最初は何をいっているのかわからなかったけれど、ある日、ブロードウェイを歩きながら、『いいこともそうでないことも、どんなことにも感謝をするんだ。学びだからね。そうすればどんなことも受け入れられるようになる』とあなたがいったとき、心を使うって意味がわかったの。暮らしにおける、どんな些細なこともすべて学び。だからこそ感謝という心で向き合う。あなたのこの言葉は私の人生を変えてくれたと思う。ありがとう」

「それは僕だって人から学んだことだよ。学びってほんとにすばらしいと思う。両親、友だちだけでなく、この社会、この世界だって、何かいつも学びを与えてくれているからね。
ただ、それを学びと思えるかどうかだけ。学びというのは、答えを教わることではなく、与えられたことを自分で考える、考え続けるということ。だから、そう考えると、学びというのは人生そのものだよね」

「うん、ほんとにそうね。私ね、あなたと明日からもしかしたら五年?もう会えなくなる。だけど、あなたという人を知ることができて、あなたはこれからもこの世界のどこかにいて、きっといつかまた会えると思ってる。それまでの未来に向かって、自分のするべきことを精一杯やる。あなたもきっと五年の間にきっと大きく成長すると思う。そうして五年後に、お互い成長した自分になってもう一度会うって、とてもすてきだと思えるし、そのためにがんばれると思うの」

「あなたからもうひとつ教わったことがあるわ。それは『ていねい』という日本らしい言葉。それは『今』を大切にするということよね。『今』の自分が、何年か後の自分を作る。未来の自分に現れる。これは真実。それなら『今』自分はどうする?ってことよね。『今』何をどんなふうに食べるのか。『今』どんなふうに人と接するのか。『今』何をするべきなのか。その答えは『ていねいに』とあなたがよくいっていた言葉にあると思う」

「ありがとう。アシャ。僕らは五年後、きっと大きく成長した自分になって会える。正直、さみしいけれど、五年後の約束があるって、すごいちからになるよ。僕がアシャから教わったのは、孤独を愛するってこと。孤独から逃げずに、孤独を抱きしめてあげるってこと。そう、孤独は人間の条件だということ。孤独はあたりまえなんだ。これを知れたことで僕は救われたよ」

「ねえ、ほら、『Stranger in Paradise』がラジオから流れてる。これからの私たちのテーマ曲よ」

Stranger in Paradise ストーリーイメージ

「そうか、僕ら二人は『Stranger in Paradise』だね。そんな二人がニューヨークで出会って、二人ともそれぞれの新しい世界に旅立ち、きっとまたどこかで会える。『Stranger in Paradise』という言葉をお守りにして明日を迎えよう。愛してるよアシャ。」

「うん。私も愛してるわ」

そういって僕とアシャは静かに受話器を置いた。

フリースブランケット

いつも近くに

ひざ掛けや腰巻きとしてのほか、スナップ式のボタンを留めればポンチョのように羽織りとしてもお使いいただけるマルチウェイが自慢です。

フリースルームシューズ、フリースルームセットと柄合わせのコーディネートも楽しめるのもポイント。ご自宅ではソファに置いてうたた寝のお供に、お車の後部シートやトランクに、そしてアウトドアではキャンプやスポーツ観戦時にもおすすめです。大人からお子様まで気持ちよく包み込む、冬のLifeWearです。

フリースブランケット

フリースルームシューズ、フリースルームセットと柄合わせのコーディネートも楽しめるのもポイント。ご自宅ではソファに置いてうたた寝のお供に、お車の後部シートやトランクに、そしてアウトドアではキャンプやスポーツ観戦時にもおすすめです。大人からお子様まで気持ちよく包み込む、冬のLifeWearです。

部屋の中だけでなく、
どこにでも持っていきたい。
マイ・ブランケット。

松浦弥太郎
072 フリース
ブランケット
(フェアアイル)
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LifeWear Story 100とは。

ユニクロには、
流行に左右されず、
けれども、決して古びることのない、
長い間、作り続けている普通の服がある。
品揃えの中では、
とても地味で目立たない存在である。
コマーシャルにもあまり出てこない。

それらは、ユニクロが、
もっと快適に、もっと丈夫に、
もっと上質であることを、
長年、愛情を込めて追求したものだ。

それらは、ユニクロの人格と姿勢が、
目に見えるかたちになったものであり、
丹精に育てているものだ。

昨日よりも今日を、今日よりも明日と。

手にとり、着てみると、
あたかも友だちのように、
その服は、私たちに、
こう問いかけてくる。

豊かで、上質な暮らしとは、
どんな暮らしなのか?
どんなふうに今日を過ごすのか?
あなたにとってのしあわせとは何か?と。

そんな服が、今までこの世界に、
あっただろうかと驚く自分がいる。

ユニクロのプリンシプル(きほん)とは何か?
ユニクロは、なぜ服を、
LifeWearと呼んでいるのだろう?
LifeWearとは、どんな服なのだろう?

ここでは、LifeWearの、
根っこを見る、知る、伝える。
そして、LifeWearと、自分にまつわる、
ストーリーを書いていきたい。

LifeWear Story 100は、
LifeWearと僕の、旅の物語になるだろう。

松浦弥太郎

松浦弥太郎
松浦弥太郎

エッセイスト、編集者。1965年東京生まれ。
2005年から15年3月まで、約9年間、創業者大橋鎭子のもとで『暮しの手帖』の編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。現在は(株)おいしい健康の取締役に就任。数々のメディアで、高い審美眼による豊かで上質な暮らし提案に努めている。新聞、雑誌の連載の他、著書多数。ベストセラーに「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」他多数。NHKラジオ第一「かれんスタイル」のパーソナリティとしても活躍。

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