100とは

ショートソックス

ショートソックス

朝、目を覚ますと

聞きなれない英語のざわめきに包まれていた。

そうだ、僕は、サンフランシスコに着いた日の夜を、ホテルのロビーのソファーで過ごしたのだ。

深いため息がひとつ出た。僕は目をこすって起き上がった。

サンフランシスコの朝は肌寒かった。雨はすっかり止んで、窓から見える空が目に眩しかった。

よく見ると、ロビーに置かれた家具は、てんでバラバラで、ロビーというよりも、誰かの家のリビングのようだった。古いピアノが一台あったが、テーブルとして使われていた。

時計の針は七時を指していた。人だかりの理由は、テーブルの上に置かれた、ひと抱えほどの大きさの紙の箱だった。

寝間着を着たままで、いかにも今、目覚めたばかりという姿容をした老若男女が、紙の箱から何かを取っては、散り散りに去っていった。ほとんどの人が裸足だった。

その不思議な様子をぼんやり見ていると、黒髪でショートカットの女性が、紙の箱を指差して僕に何かを言った。

早口の英語で何を言っているのかわからなかった。僕は「うんうん」とうなずいた。すると、眉間にシワを寄せながら、紙の箱から茶色いかたまりをひとつ取って僕に手渡した。

「ブ・レッ・ク・ファー・ス・トの・ドー・ナ・ツ」と、女性は口をつぼめながら言った。

「一人ふたつ。毎朝七時にロビーに届く。これがここのホテルの朝食。時間に遅れると無くなるわよ」と言い、英語が理解できているかを確かめるように僕の目をじっと見つめた。

僕は「ありがとう」と言った。

ドーナツは、真っ白いグレーズがたっぷりとかかって、大きくて、ふわふわだった。「またドーナツか……」と思った。

かじると、口のまわりがグレーズだらけになった。「おいしい」と呟くと、女性は「悪くないでしょ」と言った。

そうこうしていると、支配人が身体を揺らしながらやってきた。昨夜、僕がホテルにやってきた経緯を、その場にいた人たちに、面白おかしく話した。しかし誰一人、僕のことなど無関心だった。支配人は、チェックインをするために、こちらへどうぞ、と指で僕を呼び寄せた。

一泊20ドルと支配人は言った。何日泊まるかと聞かれたので、「二週間」と答えた。支配人は、宿泊代の合計を紙に書いて見せた。そのとおりに現金を払うと、「ようこそわが家へ」と微笑んだ。

僕はほっと安心して、笑みがこぼれた。

サンフランシスコに着いてから、まだ一日すら経っていないのに、とても長い旅をしたような気分だった。

父と母に葉書を書こうと思った。

ショートソックス

毎日履きたい

抜群のフィット感を追求した、毎日履きたくなる、くるぶし丈の「スポーツソックス」。土踏まず、かかと、足首をしっかりホールドするサポート、メッシュ素材を取り入れてムレにくくした甲の部分、足底には、ふかふかのパイルでクッション性を高めました。

ショートソックス
ショートソックス

日常使いのスニーカーを履く時は、足首から少し覗く色味を楽しんだり、スポーツする時は前後左右にずれないフィットを実感していただけるはずです。ほどよいボリュームがあるので、トレンドのスポーツサンダルと組み合わせてみるのもオススメ。

そしてメンズのすべてのソックスには消臭機能を持つ糸を使用。洗濯してもその効果は続いていくのです。履いた時の美しいつま先が、すべてのクオリティの高さを物語ります。

ショートソックス

白いソックス

部屋は狭くて、シャワーは共同。ラジオはあったけれど、テレビも電話もなかった。しかし、五階だった部屋の大きな窓から望める、サンフランシスコの景色は美しかった。

ホテルの地下には、ランドリールームがあって服の洗濯が出来た。

ある日の午後、洗濯をしようとランドリールームに行くと、洗濯機に片手をついて、足をすっと伸ばし、バレエのポーズらしきをしている若い女性がいた。

「こんにちは」と声をかけると、びっくりした素振りを見せてから、小さな声で、「こんにちは」と言葉を返してきた。

僕は、空いている洗濯機に、服と洗剤を入れ、ふたを締めた。スイッチの入れ方がわからなくて困っていると、「スイッチはここ」と、女性は親切に教えてくれた。女性は首筋に汗をかいていた。

「ありがとう。あの……あなたはバレリーナですか?」。たどたどしく訊ねると、「近くにあるバレエ学校に通っているの」と女性は答え、自分の洗濯物を、大きなバスタオルで、ばさっと包んで、ランドリールームから出て行った。

ランドリールームは、洗剤の甘い匂いが充満していたが、妙に落ち着く場所だった。僕は洗濯と乾燥が終わるまで本を読んで過ごした(読んだのは、ジャック・ケルアックの「オン・ザ・ロード」だ)。

洗濯した服の乾燥が終わると、彼女の真似をして、バスタオルに服を包んで部屋に戻った。そういうちょっとした、それまでしたことがない外国風のやり方を真似して、いちいち身につけていくのが嬉しかった。

部屋のラジオをつけるとジャズが流れた。服をベッドの上に広げると、自分のものではない、マシュマロのように真っ白なソックスが片方だけ混ざっていた。

ソックスは、コットン製で、そのやわらかな風合いがなんとも言えず愛らしく、飾って眺めていたいと思うくらいに外国を感じるものだった。

きっとこのホテルにいる誰かのソックスだ。ランドリールームの棚に置いておけば、きっと持ち主が気づくだろう。僕はランドリールームに戻った。

すると、さっき会ったバレエ学校に通っている女性が、洗濯機や乾燥機のふたを開けて何かを探しているようだった。

「もしやこのソックス、あなたのですか? 僕の服に混ざってました」と言うと、「あ、それ、私のソックスです! 無くしたかと思って探してたの」。女性は、照れながらも、嬉しそうな笑顔を見せた。

ソックスを手渡すと、女性は「ありがとう。じゃまた」と言って、ランドリールームを出て行った。

僕は、急に胸がどきどきして、困ったような気持ちになった。

いつかの初恋の気持ちを思い出していた。

ショートソックス

秘密は、かかと裏に

素足で靴を履いているかのように、足元を軽やかに見せてくれる「ベリーショートソックス」は、履いているうちに脱げてしまうのが悩みでした。

ショートソックス
ショートソックス

そこで編み地にテンションを持たせる工夫をしました。そのテンションが、足サイズの小さな人にはフィットして、大きな人には伸びる働きをします。かかとの収縮性がアップしホールド感が増しています。かかと裏のラバーも加わり「脱げにくい、ズレにくい」が実現しました。

ソックスをくるりと裏返した時、普段、見えないところの縫製が、なんてきれいなんだろうと驚いた。くやしいから毎日履いている。けちつけたくてもひとつも見つからない。

松浦弥太郎
ショートソックス
ショートソックス
002MENベリーショートソックス
閉じる

LifeWear Story 100とは。

ユニクロには、
流行に左右されず、
けれども、決して古びることのない、
長い間、作り続けている普通の服がある。
品揃えの中では、
とても地味で目立たない存在である。
コマーシャルにもあまり出てこない。

それらは、ユニクロが、
もっと快適に、もっと丈夫に、
もっと上質であることを、
長年、愛情を込めて追求したものだ。

それらは、ユニクロの人格と姿勢が、
目に見えるかたちになったものであり、
丹精に育てているものだ。

昨日よりも今日を、今日よりも明日と。

手にとり、着てみると、
あたかも友だちのように、
その服は、私たちに、
こう問いかけてくる。

豊かで、上質な暮らしとは、
どんな暮らしなのか?
どんなふうに今日を過ごすのか?
あなたにとってのしあわせとは何か?と。

そんな服が、今までこの世界に、
あっただろうかと驚く自分がいる。

ユニクロのプリンシプル(きほん)とは何か?
ユニクロは、なぜ服を、
LifeWearと呼んでいるのだろう?
LifeWearとは、どんな服なのだろう?

ここでは、LifeWearの、
根っこを見る、知る、伝える。
そして、LifeWearと、自分にまつわる、
ストーリーを書いていきたい。

LifeWear Story 100は、
LifeWearと僕の、旅の物語になるだろう。

松浦弥太郎

松浦弥太郎
松浦弥太郎

エッセイスト、編集者。1965年東京生まれ。
2005年から15年3月まで、約9年間、創業者大橋鎭子のもとで『暮しの手帖』の編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。現在は(株)おいしい健康の取締役に就任。数々のメディアで、高い審美眼による豊かで上質な暮らし提案に努めている。新聞、雑誌の連載の他、著書多数。ベストセラーに「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」他多数。NHKラジオ第一「かれんスタイル」のパーソナリティとしても活躍。

閉じる閉じる