100とは

ツイードニットコート(長袖)

ツイードニットコート(長袖)

アシャの手のつなぎ方

いつだってアシャは、手をつないで歩くのが好きだった。そしてまた、手をつないで歩いている人々の姿を見るのも好きだった。

「ねえ、見て、ほらあそこ。あの二人、手をつないで歩いてるわ。すてきね」

アパートの窓からブロードウェイの景色を見ながら、こんなふうにアシャはよく言った。

それは小さな子ども同士であったり、親と子やカップルだったり、とにかく手をつないで歩いている人を見つけると、アシャは喜んではしゃいだ。

当然、僕とアシャも、道を一緒に歩く時は、手をつないだ。最初の頃、僕はそれがとても気恥ずかしくて、自分から手をつなぐことができなかった。

「ねえ、いつも私から手をつながないと、あなたは私と手をつないでくれないのね。どうして?」と、ある日、アシャは聞いた。

「嫌ではないんだけど、なんだか恥ずかしいんだよ……」と僕は答えた。

「まあ、その気持ちはわかるけど、私は手をつないで歩いている人を見るのがすごく好き。だから、私たちも手をつないで歩きたいの。女の私としては、あなたから手を出してもらいたいわ」

「わかった。確かにそうだね。ほら、手を出して」

「ありがとう。嬉しいわ……」

アシャは僕の手に自分の手をのせ、しっかりと握って、いつも子どものように手を振って歩いた。

そんなふうに手をつないで歩くことが、いつしか当たり前になった僕は、アシャと手をつながないことが不自然にさえ思うようになった。アシャの細い手は小さくてやわらかかった。

「ねえ、見て、前を歩いている老夫婦。手をつないで歩いていてすてきね」

ある日、ブライアントパーク脇のフィフスアヴェニューを歩いていると、アシャが小さな声で言った。老夫婦は一歩一歩、ゆっくりと歩いていた。

アシャの手のつなぎ方 ストーリーイメージ

「こんなふうに手をつないだ後ろ姿がすてきなカップルになりたいね。私たちが手をつないで歩く後ろ姿を、誰かが見て、すてきだなと思ってもらえたら嬉しいなー私」

アシャは、僕とつないだ手が目立つように、着ていたニットコートの袖を少し上げた。

「見て、あのおばあちゃんもカーディガンの袖を少し上げてるの。手首が見えていると、つないだ手と手がきれいなの。私は最近それに気づいたの」

お互いの手首が見えていると、つないだ手と手がきれい。アシャの小さな発見だった。そしてそれは、僕らの手のつなぎ方でもあった。

あったかそうなニットコートの袖から見える、アシャの手と手首はたしかにきれいだった。

ツイードニットコート(長袖)

さらりと上質なニットコート

軽さとあたたかさが魅力のニットコートは、高見えする上品な雰囲気が自慢です。その理由の1つは生地の表情。ジャカード編みでツイードのような質感を表現しました。やわらかくてシワになりにくい、気軽に羽織れる扱いやすさは、本物のツイードコートにはないニットならではのよさがあります。

また、襟周り、前立ての端、ポケット口には編み糸を2本取りする“増し糸”というテクニックを使用。強度を上げながら、ニット素材のよさを引き立てるデザインに仕上げました。

ツイードニットコート(長袖)
ツイードニットコート(長袖)

また、襟周り、前立ての端、ポケット口には編み糸を2本取りする“増し糸”というテクニックを使用。強度を上げながら、ニット素材のよさを引き立てるデザインに仕上げました。

ツイードニットコート(長袖)

母の『星の王子さま』

手をつなぐ老夫婦を見て、僕は母を思い浮かべた。両親は手をつないで歩くことはなかったけれど、家の中では、身体が不自由になった父の手をひく母の姿があった。

先日、帰国した際、ひさしぶりに老いた母と一日を過ごした。

ぽかぽかとした秋の昼下がり。母は古ぼけた一冊の本を手にして、僕の横に座った。

「この本、何度読んだことでしょうね」。しわくちゃな母の手の中には、サン=テグジュペリの『星の王子さま』があった。

幼い頃、テレビが無かったわが家では、母が毎晩してくれる本の読み聞かせが、なによりの楽しみだった。

母は、本の登場人物に合わせて声色を変えるのが得意で、その声を聞いていると、すぐそこに、あたかも登場人物が立っているかのようだった。

僕は、母の声を聞きながら、時にはらはらし、時におもしろく、時に悲しくなって、物語を楽しんだ。

「久しぶりに読みましょうか」と母は言った。

「キツネのところがいいな」と笑っていうと、「そうそう、あんたはそこが大好きで、私はそこばかりを読まされたわ」と母も微笑んだ。

「こんにちは」「ここだよ、リンゴの木の下だよ」とはじまる、王子さまとキツネが出会う場面が、僕は大好きだった。

老眼鏡をかけた母は、静かに物語を読み始めた。

淡々と物語を読み進めていく母の声を聞きながら僕は、母の声が、いつか読み聞かせをしてくれていた頃と、ひとつも変わっていないと思った。

その声は静かでやさしくてあたたかく、胸の深いところに染み入るようだった。

一通り読み終えると、「はい、今日はここまで。また明日。おわり」と、あの頃と同じ終わり方で、母は本を閉じた。

母は『星の王子さま』を、大切そうにいつまでも手でさすっていた。

母の『星の王子さま』 ストーリーイメージ

そんな話を僕は歩きながらアシャにはなした。

「はなしてくれてありがとう。すてきなお母さんね。私の母もよく絵本を読んでくれたわ……」とアシャはいった。

「お母さんに会いたいな……」

アシャは僕とつないだ手を、ニットコートのポケットに入れて歩いた。

ツイードニットコート(長袖)

万能アウターとして

ノーカラーのロングジャケットのデザインながら、アームホールや袖幅の分量、丈感を削ったすっきりとしたシルエットは、幅広い着こなしを可能にします。

タートルネックと合わせてクラシックに、ボタンを閉じずにラフでカジュアルに、ウルトラライトダウンをインナーに着て冬のレイヤードスタイルもお楽しみいただけます。また、ストールやスヌードで首元に変化をつけたり、スカート、パンツの組み合わせでも異なる雰囲気に。ワントーンコーディネートでニットの素材感を楽しむのもおすすめです。

ツイードニットコート(長袖)
ツイードニットコート(長袖)

タートルネックと合わせてクラシックに、ボタンを閉じずにラフでカジュアルに、ウルトラライトダウンをインナーに着て冬のレイヤードスタイルもお楽しみいただけます。また、ストールやスヌードで首元に変化をつけたり、スカート、パンツの組み合わせでも異なる雰囲気に。ワントーンコーディネートでニットの素材感を楽しむのもおすすめです。

新しくてなつかしい、
そんな心地よさがうれしい、
うるわしのコート。

松浦弥太郎
ツイードニットコート(長袖)
063 WOMENツイード
ニットコート
(長袖)
閉じる

LifeWear Story 100とは。

ユニクロには、
流行に左右されず、
けれども、決して古びることのない、
長い間、作り続けている普通の服がある。
品揃えの中では、
とても地味で目立たない存在である。
コマーシャルにもあまり出てこない。

それらは、ユニクロが、
もっと快適に、もっと丈夫に、
もっと上質であることを、
長年、愛情を込めて追求したものだ。

それらは、ユニクロの人格と姿勢が、
目に見えるかたちになったものであり、
丹精に育てているものだ。

昨日よりも今日を、今日よりも明日と。

手にとり、着てみると、
あたかも友だちのように、
その服は、私たちに、
こう問いかけてくる。

豊かで、上質な暮らしとは、
どんな暮らしなのか?
どんなふうに今日を過ごすのか?
あなたにとってのしあわせとは何か?と。

そんな服が、今までこの世界に、
あっただろうかと驚く自分がいる。

ユニクロのプリンシプル(きほん)とは何か?
ユニクロは、なぜ服を、
LifeWearと呼んでいるのだろう?
LifeWearとは、どんな服なのだろう?

ここでは、LifeWearの、
根っこを見る、知る、伝える。
そして、LifeWearと、自分にまつわる、
ストーリーを書いていきたい。

LifeWear Story 100は、
LifeWearと僕の、旅の物語になるだろう。

松浦弥太郎

松浦弥太郎
松浦弥太郎

エッセイスト、編集者。1965年東京生まれ。
2005年から15年3月まで、約9年間、創業者大橋鎭子のもとで『暮しの手帖』の編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。現在は(株)おいしい健康の取締役に就任。数々のメディアで、高い審美眼による豊かで上質な暮らし提案に努めている。新聞、雑誌の連載の他、著書多数。ベストセラーに「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」他多数。NHKラジオ第一「かれんスタイル」のパーソナリティとしても活躍。

閉じる閉じる