100とは

特別編

特別編

明日も着る服

朝は5時に起きる。

カーテンを開けて、シーツのシワを直し、ベッドを整える。起きたばかりだから、頭はまだ、ぼんやりとしている。

整然ときれいになったベッドを見ると、ふともう一度横になりたい気持ちが浮かぶけれど、そうしたことは一度もない。

寝間着を脱いで、熱いシャワーを浴び、顔を剃る。歯磨きをして、鏡に写った自分の顔をしげしげと見る。顔にはその日の調子がよく現れる。いわば健康チェック。

服を着ると、心のどこかのスイッチがカチッと入って、今日という一日がはじまる。窓を開けて、朝の空気を胸いっぱいに吸い込む。空を仰いで背伸びをする。さあ、今日をはじめよう、と気合を入れる。

小さい頃のことだ。「明日の用意をちゃんとしてから寝なさい」と母に言われて、僕は育った。明日の用意とは何か。それは明日着る服のこと。

だから、毎日、明日着る、シャツとパンツ、ニットなどを選び、きれいに畳んで、枕元に置いてから寝るのが習慣だった。

母の言うとおりにすると、あわただしい朝の時間に、その日に着る服に悩むことなく、すぐに着替えができて、とてもよかった。おかげで、一日をすっと始めることができた。しかも、不思議なことに、枕元に服を置いて寝ると、安心するのか、よく眠ることができた。

その習慣は今でも身についている。枕元ではないが、明日着る服はすでに決まっていて、きれいに畳まれて、クローゼットに置いてある。

明日も着る服 ストーリーイメージ

僕には、気に入って、これと決めた服を毎日のように着てしまうおかしなクセがある。いや、着てしまうというよりも、一度、気に入ると、毎日着たいがために、同じ服を何枚も買って、そればかりを着るようになる。

もっと言うと、気に入った服とその組み合わせが見つかったら、その服と組み合わせを、まるで決められたユニフォームのように、ずっと着続けられるのが、とても嬉しい。

こうすることによって、明日どうしよう、明日何を着よう、と選んだり、悩まなくてよいのは本当に楽なのだ。

今は、こんな服の組み合わせを、毎日、着続けている。

ブルーストライプのボタンダウンシャツ。それに、ネイビーのクルーネックセーター。リジッドのジーンズ。すべてユニクロである。

この三つの服が、明日の身支度として、毎日クローゼットに置かれている。

おしゃれには、いろいろな服を着るという楽しさがあるけれど、本当に気に入った服を、そればかり毎日着続けるという嬉しさもある。最近しみじみとそう思っている。

今までいろいろな服を着てきた中で、そんな服と、その組み合わせが、今、なぜそんなに好きなのか。

少し書いてみようと思う。

特別編

大好きな
組み合わせ

ネイビーにブルーストライプという組み合わせが大好きで、ニットの襟元や袖口から、ちらりと見えるストライプのシャツ生地に惚れぼれする。一年中この組み合わせのコーディネートをしていたい。

特別編

大好きな
組み合わせ

特別編

ネイビーにブルーストライプという組み合わせが大好きで、ニットの襟元や袖口から、ちらりと見えるストライプのシャツ生地に惚れぼれする。一年中この組み合わせのコーディネートをしていたい。

同じものを
揃える

毎日着たいから、お気に入りのボタンダウンシャツは五枚揃えている。毎週日曜日の午後に、一週間分のアイロンをかけるのが楽しみ。きれいに畳んで、重ねた佇まいにしあわせを感じる。

特別編

同じものを
揃える

特別編

毎日着たいから、お気に入りのボタンダウンシャツは五枚揃えている。毎週日曜日の午後に、一週間分のアイロンをかけるのが楽しみ。きれいに畳んで、重ねた佇まいにしあわせを感じる。

デニムの
マイルール

デニムはいつもワンサイズ上を選び、サイズの合ったベルトをつける。腰の位置は決して下げない。だからこそ裾を短めにロールアップして、カジュアルだけど、きちんとした身だしなみを心がける。

特別編

デニムの
マイルール

特別編

デニムはいつもワンサイズ上を選び、サイズの合ったベルトをつける。腰の位置は決して下げない。だからこそ裾を短めにロールアップして、カジュアルだけど、きちんとした身だしなみを心がける。

特別編

LifeWearとは

シャツは、毎週日曜に一週間分アイロンをかける。

持論であるが、シャツの良し悪しは、アイロンがかけやすいかどうか。アイロンをかけた時の仕上がりがどうかで大体が判断できる。

アイロンをかけていると、生地の質感と同時に、シワの伸び方やカットの妙、普段気がつかないシャツの細かな仕様やディテールが、否が応でも目に入る。

エクストラファインコットンシャツは、アイロンがけが実に楽しいシャツである。さっとかけただけで、びっくりするくらいピシッと伸びる生地で、使っている糸のきらっとした輝きと、そのステッチの美しさ、気づかいされた細かな仕様など、アイロンをかければかけるほどに感動の発見がある。

シャツのチェックポイントにボタンつけのクオリティがある。着ていくうちにボタンの糸がほつれるシャツが多々ある中で、これでもかと丈夫にボタンがつけられている。こういうこだわりも好きだ。

とにかく、シャツが好きな人が作ったシャツだとよく分かるのだ。そんなふうに、そのもののところどころに、作り手の愛情と気づかいをいちいち感じるから、毎日のように着たくなるのだろう。きっと。

LifeWearとは ストーリーイメージ

白いシャツも好きだが、僕の定番は、ブルーのストライプのボタンダウンシャツだ。ストライプの幅は太くもなく、細くもない、このくらいが上品でいい。

ボタンダウンシャツの上に、ネイビーのメリノウールセーターを着る。ブルーのストライプとネイビーという組み合わせが、ひとつも飽きることなく僕は本当に好きなのだ。

メリノウールセーターはクルーネックを選ぶ。メリノウールのうんちくは、語らずしもわかるので、あえて書かないが、着はじめて一カ月くらい経った頃の、なんとも言えない馴染み具合に驚いた。今まで質の良さに満足して着ていたメリノウールよりも上を行っている。

ボトムにはデニムを選ぶ。レギュラーフィットで、色の濃いリジットデニムをロールアップして履く。

僕は昔、いわゆるヴィンテージデニムに深く傾倒したことがある。今でも好きであることは変わらない。だから断言する。このユニクロのデニムはいい。このまま履いていたら、どこがどんなふうに色落ちしていくのだろう。それが楽しみだ、と。

こんなふうに、好きで選んだボタンダウンシャツもメリノウールセーターもデニムも、毎日のように着続けると、必ず「あっ」と何かがわかる瞬間がある。

それは、服が自分の身体の一部のように馴染む心地よさであったり、先に書いた、作り手の愛情と気づかいを感じることであったりと、これまで体験したことのない、服と自分の新しい関係性(ストーリー)の発見だ。

そう考えるのは、もしかしたら僕一人かもしれないが、それこそがLifeWearのエッセンシャルであり、「LifeWear Story 100」で僕が表現したいと思っていることだ。

今日も僕は、ブルーのストライプのボタンダウンシャツと、ネイビーのメリノウールセーターとデニムを着て、仕事を楽しみ、心地よく暮らしている。

明日着る服が決まっているのは、ほんとうに嬉しい。そして元気が出る。

特別編

バランスは大切

デニムのゆったりした腰回りには、合わせるメリノウールセーターは、あえてジャストサイズを選ぶ。ジャストなトップスとゆったりボトムスのバランス感が心地良いから。

特別編

バランスは大切

特別編

デニムのゆったりした腰回りには、合わせるメリノウールセーターは、あえてジャストサイズを選ぶ。ジャストなトップスとゆったりボトムスのバランス感が心地良いから。

動きやすいから

エクストラファインコットンシャツの肌ざわりが好きだから、インナーは着ず、あえて素肌に着る。その上にメリノウールセーターを着ると、ぴたっと身体にフィットし、きちんと見えるにもかかわらず、動きやすいのが嬉しい。

特別編

動きやすいから

特別編

エクストラファインコットンシャツの肌ざわりが好きだから、インナーは着ず、あえて素肌に着る。その上にメリノウールセーターを着ると、ぴたっと身体にフィットし、きちんと見えるにもかかわらず、動きやすいのが嬉しい。

袖には
こだわる

シャツもニットも袖の長さを、いつも気を使っている。いちばんのおしゃれは、サイズの合った服を着ることだと思っているからだ。特に、ちょうど良い袖の長さは、手を使う仕事を邪魔しない良さがある。

特別編

袖には
こだわる

特別編

シャツもニットも袖の長さを、いつも気を使っている。いちばんのおしゃれは、サイズの合った服を着ることだと思っているからだ。特に、ちょうど良い袖の長さは、手を使う仕事を邪魔しない良さがある。

デニムには
白ソックス

ロールアップのバリエーションが楽しめるから、デニムの裾丈は、履いた時に2ロールできる長さで調整する。ボリュームのあるウイングチップには、白のスポーツソックスを合わせるのが好き。

特別編

デニムには
白ソックス

特別編

ロールアップのバリエーションが楽しめるから、デニムの裾丈は、履いた時に2ロールできる長さで調整する。ボリュームのあるウイングチップには、白のスポーツソックスを合わせるのが好き。

どうして、
いつも同じ服ばかり
着ているの?って聞いてほしい。

松浦弥太郎
020
特別編
上から時計回りに
エクストラファインコットンブロードストライプシャツ(長袖)
エクストラファインメリノクルーネックセーター(長袖)
ストレッチセルビッジスリムフィットジーンズ
イタリアンサドルレザーベルト
パイルラインソックス
閉じる

LifeWear Story 100とは。

ユニクロには、
流行に左右されず、
けれども、決して古びることのない、
長い間、作り続けている普通の服がある。
品揃えの中では、
とても地味で目立たない存在である。
コマーシャルにもあまり出てこない。

それらは、ユニクロが、
もっと快適に、もっと丈夫に、
もっと上質であることを、
長年、愛情を込めて追求したものだ。

それらは、ユニクロの人格と姿勢が、
目に見えるかたちになったものであり、
丹精に育てているものだ。

昨日よりも今日を、今日よりも明日と。

手にとり、着てみると、
あたかも友だちのように、
その服は、私たちに、
こう問いかけてくる。

豊かで、上質な暮らしとは、
どんな暮らしなのか?
どんなふうに今日を過ごすのか?
あなたにとってのしあわせとは何か?と。

そんな服が、今までこの世界に、
あっただろうかと驚く自分がいる。

ユニクロのプリンシプル(きほん)とは何か?
ユニクロは、なぜ服を、
LifeWearと呼んでいるのだろう?
LifeWearとは、どんな服なのだろう?

ここでは、LifeWearの、
根っこを見る、知る、伝える。
そして、LifeWearと、自分にまつわる、
ストーリーを書いていきたい。

LifeWear Story 100は、
LifeWearと僕の、旅の物語になるだろう。

松浦弥太郎

松浦弥太郎
松浦弥太郎

エッセイスト、編集者。1965年東京生まれ。
2005年から15年3月まで、約9年間、創業者大橋鎭子のもとで『暮しの手帖』の編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。現在は(株)おいしい健康の取締役に就任。数々のメディアで、高い審美眼による豊かで上質な暮らし提案に努めている。新聞、雑誌の連載の他、著書多数。ベストセラーに「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」他多数。NHKラジオ第一「かれんスタイル」のパーソナリティとしても活躍。

閉じる閉じる