100とは

ウールチェスターコート

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今と生きる

今朝はずいぶん早く起きた。外はまだ暗かった。僕は横になったまま夜明けを待った。

毎朝、起きるたびに、今ここはどこなのかという戸惑いを感じていた。そして、今日は何をしようかと考えた。いや、一体、僕は今、ここで何をしているのかと自問しつつ、まあ、いいかと思ったりする自分がいた。

いつか読んだ、ソール・ベロウの『この日をつかめ』という一冊があった。

その本の中に、現在と生きる、という一文がある。何事も今、今を見る、今を感じる、今と向き合い、今から逃げない、すなわち、今を大切にするという生き方だ。

外が明るくなった。冬のニューヨークを過ごすために買ったコートを着て、アパートを出た。朝食を食べに行く。寒さのせいで息が白い。それも今だ。

朝のブロードウェイは、通勤する人々が川の流れのようにせわしなく歩いている。そうだ、みんな今日を必死に生きている。それも今だ。

空を見上げると、冬の薄い青空に、綿のような白い雲が浮かんでいる。それも今だ。

世の中から取り残されているような自分がいる。けれども、今に見てろ、と歯をくいしばる自分がいる。それも今だ。

そして、今、何を思うのか。今の自分がどうであろうと。そうだ、今という真実ともっと向き合おう。それが今を生きるということだから。

今から目をそむけない。明日や未来も、今この時、ここにあるのだから。

今と生きる ストーリーイメージ

コーヒーを片手に、ブロードウェイ沿いの花壇の脇のベンチに座った。

何もできなくたって、いいじゃないか。くんずほぐれつで、いいじゃないか。わからないままで、いいじゃないか。もっと、今と戦ってやろう。

戦いというのは勝ち負けではない。今としっかり向き合って逃げないということだ。

立ち上がって、コートのポケットから手を出すと、少し背が伸びたような気がした。

日本を離れて、サンフランシスコからニューヨークへと移動し、今、僕は西74丁目にいる。

今と生きる。僕はいつも自分が弱った時、困った時、悩んだ時、この言葉の意味を思い浮かべる。自分がどんな状況であろうと、今と生きるんだ、と。

ウールチェスターコート

カシミヤ混の上質

上質なドレープとぬくもりある風合いの秘密は、ウールに10%のカシミヤをブレンドしたこと。贅沢な素材であるカシミヤ混の生地は通常、表面の光沢が強くエレガントな印象が色濃くなりがちです。

ユニクロのチェスターコートは、カシミヤ特有の柔らかさと滑らかさを残しながら、ほどよい光沢を持つオリジナル生地を採用。英国の伝統服に起源をもつ品格と、あらゆるシーンで羽織れる気軽さを融合させた、LifeWearを体現する一着です。

ウールチェスターコート
ウールチェスターコート

ユニクロのチェスターコートは、カシミヤ特有の柔らかさと滑らかさを残しながら、ほどよい光沢を持つオリジナル生地を採用。英国の伝統服に起源をもつ品格と、あらゆるシーンで羽織れる気軽さを融合させた、LifeWearを体現する一着です。

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ストランド書店

12丁目のストランド書店を訪れた。

元ボーイフレンドのジャックに会いたいと、ケイトに言うと、彼は毎日ストランド書店にいる、と聞いたからだ。

僕はジャックの顔を知らないけれど、行けばきっと会える予感がしていた。

ストランドは12丁目の角に建つ、ビルの地下一階から三階までを占めた大きな古書店だ。キャッチフレーズに「蔵書を並べると8マイルもの距離になる」とあった。

店に入ると、自分のバッグを預けるカウンターがあった。店内では誰もが手ぶらになるシステムだ。本の盗難防止であろうが、本屋で手ぶらになれるのは嬉しい。僕はバッグからカメラを取り出し、肩にぶら下げて、売り場に入った。

広い店内の、どの場所にいっても客がたくさんいて、レジの前では会計を待つ人が長い行列を作っていた。老舗のストランド書店は、ニューヨーカーに愛されているのだろう。

地下のフロアに行ってみると、そこは倉庫のように殺風景で客が少なかった。僕は、フロアの片隅に、未整理のアートブックが積まれたセクションを見つけた。そこには、表紙カバーが破れたりした50年代から60年代のデザイン年鑑がどっさりとあった。しかも、アメリカ、フランス、イタリア、ドイツといった様々な国で出版されたものだ。

グラフィカルなポスターや、その時代性が描かれた広告が好きだった僕には宝の山に見えた。値段を見ると、どれも均一で5ドルだった。全部欲しいと思った。

客が少ないことをいいことに、欲しいものだけを厳選して、テーブルに積み上げていった。積み上げてみると、22冊にもなった。それだけ買っても110ドル。安いけれど、その日の手持ちのお金では足りなかった。

ストランド書店 ストーリーイメージ

一階に駆け上がり、店員に取り置きができるかと聞いた。すると、一週間なら取り置きをしてくれるとわかった。僕は店員の腕を引っ張って地下に戻り、本を運んでもらおうと思った。すると、積んでおいた本を、一冊一冊丹念に見ている、カールした金髪に、ニットキャップをかぶり、グレイのチェスターコートを着た男がいた。

「すみません、これ僕が買う本なんです」と声をかけると、その男は僕をじっと見て、「安くていい本ばかりをよく選んだな。君は本屋か?」と聞いてきた。

「本屋ではありません。欲しいと思った本を選んだだけです」と僕は答えた。男はにっこりと笑って、「昨日は、ここにこの本は無かった。きっと今ここに置かれたばかりの本だろう。そんな本に出会えた君はラッキーだな。僕もこの本は全部買いたいくらいだ。君はいい目をしてる」と言った。そんなふうに言われた僕は嬉しくなった。

「そのカメラもいいな。君は写真家かい?」と、僕が肩からぶら下げているカメラを指差して男は言った。

「いえ、知り合いから借りてます」と、僕が答えると、「そのカメラ見たことがあるな……」と男は言った。

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本格的なつくり

チェスターコートの顔はVゾーンです。第一ボタンの位置や首回りの幅、襟やラペルの太さなどを何度も微調整。スーツやジャケットとの着合わせだけでなく、パーカやタートルネック、ダウンベストなど、カジュアルに組み合わせても決まるVゾーンが自慢です。

オーダースーツなどに用いられるAMFステッチ(手縫い風の縫い目)を襟やポケットのフラップ縁に施し、ふんわりと折り返る立体感を実現。内ポケットの仕様と共に本格的なつくりで仕上げています。

ウールチェスターコート
ウールチェスターコート

オーダースーツなどに用いられるAMFステッチ(手縫い風の縫い目)を襟やポケットのフラップ縁に施し、ふんわりと折り返る立体感を実現。内ポケットの仕様と共に本格的なつくりで仕上げています。

冬の寒い日、
チェスターコートを着て、
ベンチに座ってコーヒーを飲む。
白い湯気と一緒に、
あの日の思い出が浮かび上がる。

松浦弥太郎
ウールチェスターコート
014 MENウールカシミヤチェスターコート
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LifeWear Story 100とは。

ユニクロには、
流行に左右されず、
けれども、決して古びることのない、
長い間、作り続けている普通の服がある。
品揃えの中では、
とても地味で目立たない存在である。
コマーシャルにもあまり出てこない。

それらは、ユニクロが、
もっと快適に、もっと丈夫に、
もっと上質であることを、
長年、愛情を込めて追求したものだ。

それらは、ユニクロの人格と姿勢が、
目に見えるかたちになったものであり、
丹精に育てているものだ。

昨日よりも今日を、今日よりも明日と。

手にとり、着てみると、
あたかも友だちのように、
その服は、私たちに、
こう問いかけてくる。

豊かで、上質な暮らしとは、
どんな暮らしなのか?
どんなふうに今日を過ごすのか?
あなたにとってのしあわせとは何か?と。

そんな服が、今までこの世界に、
あっただろうかと驚く自分がいる。

ユニクロのプリンシプル(きほん)とは何か?
ユニクロは、なぜ服を、
LifeWearと呼んでいるのだろう?
LifeWearとは、どんな服なのだろう?

ここでは、LifeWearの、
根っこを見る、知る、伝える。
そして、LifeWearと、自分にまつわる、
ストーリーを書いていきたい。

LifeWear Story 100は、
LifeWearと僕の、旅の物語になるだろう。

松浦弥太郎

松浦弥太郎
松浦弥太郎

エッセイスト、編集者。1965年東京生まれ。
2005年から15年3月まで、約9年間、創業者大橋鎭子のもとで『暮しの手帖』の編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。現在は(株)おいしい健康の取締役に就任。数々のメディアで、高い審美眼による豊かで上質な暮らし提案に努めている。新聞、雑誌の連載の他、著書多数。ベストセラーに「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」他多数。NHKラジオ第一「かれんスタイル」のパーソナリティとしても活躍。

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