第二次世界大戦後のアメリカ。激動のこの時代を文字のデザインによって切り開いた2人の男がいた。グラフィックデザイナーのポール・ランドとタイポグラファーのハーブ・ルバリンだ。名前にピンと来なかったとしても、その仕事を見れば「あ、あれの人か!」と合点するに違いない。今回、UTでその偉業を取り上げるに際し、2人の功績を振り返るとともに、彼らとゆかりのあるアートスクール−−ランドがシンボルマークを手掛けた東京の「TCA」と、ルバリンの母校「クーパーユニオン」の学生たちにTシャツを着てもらい、アンケートを実施した。
1914年生まれのポール・ランドは、’50年代から’60年代にかけて大活躍した“企業ロゴのレジェンド”として知られる。実際、彼が手掛けたものには、IT大手「IBM」、物流会社「UPS」、テレビネットワーク「ABC」などなど、今も現役バリバリの有名企業ロゴが数多い。「ロゴの使命は、特色があり、覚えやすく、明瞭であることだけ」とは彼が残した至言。その哲学に根ざして生み出された“企業の顔”は、シンプルながら一度見たら忘れられないエバーグリーンな輝きを放っている。
一方、ランドより4歳年下のハーブ・ルバリンは、タイポグラフィの可能性をとことんまで追求したデザイナーと言える。とりわけ注目に値するのが、編集者ラルフ・ギンズバーグによって1968年に発行された美術雑誌『AVANTGARDE』での仕事だ。毎号、エディトリアルデザインの限界に挑むかのごとく行われた、自由すぎるタイポグラフィの実験は、今見ても古さをまったく感じさせない。彼自身が生み出した誌名ロゴのフォントもインパクト抜群で、「ITC Avant Garde」という名で一般発売されると、瞬く間に人気を博したのは有名な話。意外なところでは、’83年に発売された初代のファミリーコンピューターのロゴでも使われていた。
UTでは、そんな2人の偉業を取り上げたTシャツをリリース。レトロなグラフィックデザインが注目されている今だからこそ、Tシャツを通してそのオリジンと言える2人の仕事に触れてみよう。
Iを目(eye)、Bをハチ(bee)で置き換えた遊び心溢れる「IBM」のロゴは、同社のモットーである「THINK」を表現している。絵文字を予言したかのようなデザインだ。
色とりどりの抽象化された花と、その周りを飛ぶハチが描かれたこちらは、かつてランドが顧問を務めていた「TCA」のシンボルマーク。ハチは好奇心旺盛な学生のメタファーか?
ライフスタイル誌『Better Living』のロゴ。文字を複雑に組み合わせながらも、上品さすら感じさせるこちらは、ルバリンによるタイポグラフィの真骨頂。
写真家アンソニー・ハイドの名刺やレターヘッドのために作られたロゴ。ハイドのエージェント「Li-Lian Oh」と「Anthony Hyde」のイニシャルを組み合わせたデザインが目を引く。
PROFILE
ポール・ランド|1914年、アメリカ・ニューヨーク州生まれ。数々のアートスクールで学んだ後、グラフィックアーティストとしての活動を開始。たちまち頭角を現した彼は、数々の企業ロゴを手掛けて国際的な評価を得る。‘72年、その功績が認められ、ニューヨークのアート・ディレクターズ・クラブの殿堂入りを果たした。’96年没。
PROFILE
ハーブ・ルバリン|1918年、アメリカ・ニューヨーク州生まれ。「クーパーユニオン」に入学したのをきっかけにデザインに目覚める。とりわけタイポグラフィに興味を持った彼は、卒業後もタイポグラファーとして活躍。数々の斬新なデザインで一大旋風を巻き起こす。晩年もタイポグラフィー専門誌『U&lc』で精力的に新デザインを発表し続けた。‘81年没。
PROFILE
The Cooper Union for the Advancement of Science and Art|1859年に、実業家ピーター・クーパーによってニューヨークのマンハッタンで開校した私立大学。正式名称は「科学と芸術の発展のためのクーパー・ユニオン」。「教育、最高の技術学校は、人種、宗教、性別、貧富または社会的地位とは関係なく、資格のあるものたちが受けることができ、すべてに無料で開かれているべきである」という信念を掲げており、ハーブ・ルバーリン以外にも、数々の著名人を輩出している。
PROFILE
ユン/学生|「クーパーユニオン」ではグラフィックデザインと絵画に大半の時間を費やしているというユンさん。現在、自分のデザインを使ってストーリーを伝えることに夢中になっている。「そのストーリーは、政治的なスキャンダルかもしれませんし、街で見つけた面白いオブジェかもしれません。趣向を凝らして伝えることもできますし、ストレートに伝えることもできます。重要なのは、最も強力な言語である視覚言語を使って人々に語りかけることで、それこそが私がデザインに魅力を感じる最大の理由。自由な時間には、目や脳をリフレッシュするためだけに車で移動するのが好きです」。Tシャツに関しては、「どちらもルバリンの概念的なタイポグラフィを明示しているところが素敵。私に華を添えてくれて、デザイナーになった気分にさせてくれそう」とコメントしてくれた。
PROFILE
リチャード/デザイナー|現在、契約デザイナーとして働くリチャードさんは、「クーパーユニオン」の卒業生だ。在学中は、特にコーディングの授業に没頭したようで、「私の中のオタクが開花したのは、初めてコーディングの授業を受けたときでした」と振り返る。最近は仕事の傍ら、「クーパーユニオン」での学びを生かし、趣味としてジェネレーティブアートワークを作ることに注力している。「境界線を押し広げ、新しい作業方法を探求すること、そして自分が作れるとは思わなかったものを作ることが大好きなんです」。そんな彼が「歴史あるデザインの服を着られるのはとても気分がいい」と語りながら着用してくれたのは、“Oh!Ah!”とプリントされた1枚。いわく「これは与える(giving)という意味を込めたロゴ。僕はその背景にあるストーリーに感動し、毎日このことを心に留めているんです」。
PROFILE
メロディー/学生|「専攻を限定するのではなく、あらゆるアートを探求できて、学際的なアーティストへと自分を育てられる環境が整っているところ」が「クーパーユニオン」の魅力だと語るジュンさん。実際、興味の幅は広く、絵画、アニメーション、グラフィックデザイン(主にロゴやアイコンデザイン)、イラストレーションに専念する他、最近はブックデザインとUI/UXデザインも学んでいる。これだけ勉学に励んでいるせいか、プライベートでは「ゆっくりした時間を楽しんで、眠ること」が一番の趣味だという。そんなジュンさんがピックアップしたのは、”Better Living”のTシャツ。「ブルーがとてもきれいだと思います。ブルーを混ぜ込んだパステルカラーのさりげないトーンは、黒の生地との相性も良く、文字を上品に仕上がっていると思いました。カジュアルウェアとして着用したいですね」。
PROFILE
グレース/学生|「『クーパーユニオン』は、学生たちにさまざまなジャンルのアートを探求する機会が与えられるので志望しました」と語るグレースさん。学校ではグラフィックデザインを学びつつ、趣味であるデジタル描画に情熱を注いでいる。卒業後についても「将来の夢は特にありませんが、もっとグラフィックデザインを学びたいです!」と意気軒昂。一方で「毎朝お茶を入れることが趣味」だという雅やかな一面もあるグレースさんは、”Better Living”のタイポグラフィのデザインがお気に入り。「Tシャツの着心地も快適ですね。敏感肌の私としては、素材が優しくていい感じ。 Tシャツって何にでも合うから好きです。ジーンズ、カーゴパンツ、ロングスカートにスニーカーを合わせたいです」と語る。
PROFILE
東京コミュニケーションアート専門学校|1988年に開校したデザインの専門学校。正式名称は「東京コミュニケーションアーツ」。企業と密に協力した「産学連携教育」を実践し、クリエーティブ業界で高く評価される数々のプロフェッショナルを輩出してきた。また、本格的で深い学びを提供するため、3年制、4年制のカリキュラムを設けているのも特徴。ロゴを手掛けたポール・ランドは、TCAと大阪のOCAの海外教育顧問も務めていた。
PROFILE
(左)鈴木里奈/クリエーティブデザイン科グラフィックデザイン専攻|ウェブデザインを学ぶべくTCAに入学したという鈴木さん。将来の夢はデザイナーで、ゆくゆくは起業も視野に入れているというしっかり者。「外国らしさが強く、日本人が興味を持つようなデザイン」だと感じたというTシャツも、「プレゼンのときにスーツの下に着たいと思っています」と語る。
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(中)執行叶愛/スーパークリエーター科デザイン&テクノロジーマスターコース|「TCA」には4年制のコースがあり、時間をかけてデザインの基礎から学習できる。そこに魅力を感じたという執行さんは、グラフィックデザインを学んでいる。ポール・ランドのロゴに「時代を感じるデザイン」というTシャツは、「ジーンズに合わせたり、スカートと合わせたり、いろんなシーンのスタイルで着ていきたい」そう。
PROFILE
(右)竹内恵理/クリエーティブデザイン科グラフィックデザイン専攻|何かをゼロから作るのが好きで、オリジナルのものをたくさん作りたい。そんな思いを胸にTCAに入学した竹内さんは、「学校のロゴがTシャツになるなんて」と驚いた様子。「でも、デザインをするときに着るといいかもしれませんね。巨匠が作ったロゴデザインを身につけたら、いいアイデアが思い浮かぶかもしれないので?(笑)」。(右)
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