100とは

ライトウールブレンドフーデットコート

ライトウールブレンドフーデットコート

アシャの願い

パリで服作りを学ぶことをすすめた老婦人の名前はレネーさんといった。

「年老いた自分があなたに言えることがひとつあるの。二十代のあなたに必要なのは出会い。この十年間にどれだけたくさんの出会いをするのか。それが大事。もっとたくさんの知らないことやわからないこと、広い世界と出会うこと。そのためには自由であることね。何かに縛られたらだめだし、自分で縛ってもだめよ」

レネーさんはアシャにこう語った。

「私は、亡くなってしまった自分の娘に、してあげたかったことをしてあげられなかった。私はあなたを自分の娘と思って、もしあなたに夢があるのであれば、できるだけのサポートをしてあげたい。ね、だから私の親切に遠慮しないで。今という時間を、あなたが描いている未来に使ってもらいたいの。そのためにぜひパリで服作りを学んでもらいたいのよ」

アシャは、そんなレネーさんの誘いを喜んで受け入れたいと思った。パリはアシャにとっていつか行ってみたい憧れの街でもあった。

「私、フランス語が話せないけど大丈夫かしら……」

「なに言ってんの。フランス語が話せなければ話せるように学べばいいの。できないことを理由にしてはだめ。それよりも、あなたがパリに行きたいか。行きたくないか。それだけよ。その決断よ。新しい出会いにはいつも不安がつきまとうわ。でも不安を考えたらきりがないのよ」

まるでほんとうのお母さんのようなレネーさんの言葉がアシャには嬉しかった。

「パリに行きたい。パリで服作りを学びたい」。実をいうとアシャは、レネーさんからパリ行きを誘われた時から、素直にこう思っていた。
けれども、パリに行くことになったら、僕との関係をどうしたらよいのか。それだけがアシャを悩ませていた。

セントラルパークでは、黄色い落ち葉が小道を埋め尽くし、美しいニューヨークの秋を彩っていた。僕とアシャは落ち葉を踏みしめながら歩いた。

アシャの願い ストーリーイメージ

「しあわせとは、好きな人と一緒に落ち葉を踏みしめて歩くことって、あなたがくれたスヌーピーの本に書いてあったわ。こうして手をつないで歩いているとほんとうにそう思えるわ」

「うん、そうだね。このサクサクした落ち葉の感触が気持ちよくて、ずっと歩いていたい気分だね」

「ねえ、私にコートを選んでくれない?」
 突然アシャがこういったので僕は驚いた。なぜなら、これまで一度もアシャは僕に何かをねだったことはなかったからだ。

「あなたにあったかいコートを選んでもらいたいの」

アシャはもう一度僕にいった。

ライトウールブレンドフーデットコート

あたたかくて軽いウール

しっかりとしたウールの見た目ながら、軽やかな着心地が魅力のライトウールブレンドコートです。

軽さを追求する生地開発の際に悩まされたのはピリング(毛玉)でした。何度も試行錯誤を重ね、ピリングのない、滑らかで上質な表情のオリジナル生地が完成しました。

ライトウールブレンドフーデットコート
ライトウールブレンドフーデットコート

軽さを追求する生地開発の際に悩まされたのはピリング(毛玉)でした。何度も試行錯誤を重ね、ピリングのない、滑らかで上質な表情のオリジナル生地が完成しました。

ライトウールブレンドフーデットコート

ふたりの約束

秋の冷たい風がひゅうと吹いて、セントラルパークの落ち葉を舞い上がらせた。

「パリの冬は寒そうだから……」

アシャがぽつりとつぶやいた。

僕は「そうだよね。アシャはパリに行くべきだし、それがいちばんいい。それがアシャの夢だから」と心の中で思った。

少しばかり黙って歩いてから、「うん、いいよ。コートを選ぼう……」と僕は答えた。

「あったかいのがいいわ。軽いウールで、フードがついているのがいい。深いポケットがあって、色はそうね……水色とか、グレーもいいかも。中にあったかいニットを着て、マフラーをして、雪の日もそれを着て歩くの。パリで…」

アシャは涙ぐんでいた。言葉のひとつひとつを精一杯の元気で、僕に伝えようとしていた。

「パリであなたの大好物のおいしいクッキーを見つけて送るね。ニューヨークのクッキーよりも、おいしいのがきっとたくさんあるわ。あと、本屋さんであなたが好きそうな写真集とか見つけたら送る。パリにはすてきな古本屋さんがたくさんありそうだから。手紙はたくさん書くわ。あとフランスのジャムとかはちみつも……」

アシャは泣きながら僕にいった。僕はそんなアシャを両手で抱きしめた。僕の胸に顔をうずめたアシャは「わたしパリに行く……」「ごめんね……」といった。そして、わんわんと泣きじゃくった。僕はアシャをぎゅっと抱きしめることしかできなかった。

ふたりの約束 ストーリーイメージ

僕とアシャは、コーヒーとクッキーという、いたってシンプルな朝食で、次の日の朝を迎えた。

「ねえ、私たちの関係をどうするか、私考えたの……。私はあなたを愛してる。別れたくない。私はパリへ行くけど、あなたと別れたくないの。何言っているのかわからないだろうけど、別れたくないなら、別れなくていいと思うの。あなたはどう思う?」

「僕はアシャがそばにいなくなって、自分がどう思うのかまだわからない。僕もアシャを愛している。別れたくない。アシャの言っていることはわかるよ。別れたくないなら別れなくていい。僕もそう思う。けれども、お互いを縛るのはよそう。変に気を使うのもよそう。だから、約束をしよう。嘘を言わないこと。いつも気持ちを伝えよう。このふたつを守ろう」

「うん、そうね。ありがとう……」

アシャはコーヒーに浸したクッキーを一口食べて、テーブルの上に置いていた僕の手を握った。

「私がんばるわ。パリで」

アシャはもう泣いたりしなかった。

ライトウールブレンドフーデットコート

秋冬の主役に

定番デザインながらも、ドロップショルダー、コクーンシルエットでトレンド感をプラス。丈夫で高品質なボタン、裏地もついた本格仕様のコートです。タートルニットやスキニーパンツ、ロングスカートなどでカジュアルに、薄手のニットやシャツにストレートパンツでクリーンに、幅広いスタイルに対応してくれます。

秋の肌寒い時期はさらりと羽織って、本格的な冬はインナーダウンと組み合わせて。これからの季節の主役としておすすめしたい1着です。

ライトウールブレンドフーデットコート
ライトウールブレンドフーデットコート

秋の肌寒い時期はさらりと羽織って、本格的な冬はインナーダウンと組み合わせて。これからの季節の主役としておすすめしたい1着です。

愛されている。
そう思えるあたたかさと、
肌ざわりが嬉しい。

松浦弥太郎
ライトウールブレンドフーデットコート
067 WOMENライトウール
ブレンド
フーデットコート
閉じる

LifeWear Story 100とは。

ユニクロには、
流行に左右されず、
けれども、決して古びることのない、
長い間、作り続けている普通の服がある。
品揃えの中では、
とても地味で目立たない存在である。
コマーシャルにもあまり出てこない。

それらは、ユニクロが、
もっと快適に、もっと丈夫に、
もっと上質であることを、
長年、愛情を込めて追求したものだ。

それらは、ユニクロの人格と姿勢が、
目に見えるかたちになったものであり、
丹精に育てているものだ。

昨日よりも今日を、今日よりも明日と。

手にとり、着てみると、
あたかも友だちのように、
その服は、私たちに、
こう問いかけてくる。

豊かで、上質な暮らしとは、
どんな暮らしなのか?
どんなふうに今日を過ごすのか?
あなたにとってのしあわせとは何か?と。

そんな服が、今までこの世界に、
あっただろうかと驚く自分がいる。

ユニクロのプリンシプル(きほん)とは何か?
ユニクロは、なぜ服を、
LifeWearと呼んでいるのだろう?
LifeWearとは、どんな服なのだろう?

ここでは、LifeWearの、
根っこを見る、知る、伝える。
そして、LifeWearと、自分にまつわる、
ストーリーを書いていきたい。

LifeWear Story 100は、
LifeWearと僕の、旅の物語になるだろう。

松浦弥太郎

松浦弥太郎
松浦弥太郎

エッセイスト、編集者。1965年東京生まれ。
2005年から15年3月まで、約9年間、創業者大橋鎭子のもとで『暮しの手帖』の編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。現在は(株)おいしい健康の取締役に就任。数々のメディアで、高い審美眼による豊かで上質な暮らし提案に努めている。新聞、雑誌の連載の他、著書多数。ベストセラーに「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」他多数。NHKラジオ第一「かれんスタイル」のパーソナリティとしても活躍。

閉じる閉じる