「ねえ、今日はどんなランチを作ってきてくれたの?」
僕は持ってきたトートバッグから、ラップで包んだおにぎりを出し、おかずの鳥からあげと卵焼き、ウインナー炒めを詰めた容器のふたを開けた。
「これは我が家の味というのかな。休日になると、今日みたいに家族全員で公園に出かけて、このお弁当を広げてピクニックをするのが僕は大好きだったんだ」
「わー。おいしそう。このご飯を丸めたものを食べるのはじめてだわ。黒いのは何?」
「黒いのは海苔。海藻を紙のように平らにしたもので、日本料理を代表する食べ物。丸めたご飯は手で食べるんだけど、そのままでは指にご飯粒がくっつくから、海苔で包んで食べるんだ」
アシャは早速おにぎりを頬張った。
「おいしい! 中に何か入ってる!」
「そう。中に好みの具を入れるのがおにぎり。今日は梅干しを入れてきた」
「梅干し知ってる! 前に日本人の友だちから教えてもらったわ。すっぱいけど大好きよ」
アシャはおにぎりを子供のようにむしゃむしゃと食べた。
「おかずも母の味だよ。どうかな?」
「うん、鳥のフライは最高。卵焼きも甘くておいしい。ウインナーはトマトケチャップで炒めるのね。どれもおいしいし楽しい!」
アシャは足を伸ばしてくつろぎながら、何度も「楽しい!」「しあわせ!」と言葉にした。
「私のお弁当も食べてみて」
アシャは茶色い紙袋から、いくつもの容器を出して僕に言った。
「これはインジェラという薄いパン。ワットというカレーみたいな具を、このインジェラに載せて食べるの。これもおにぎりと同じように手で食べるのよ」
僕はインジェラを食べやすい大きさにちぎって、その上に野菜と肉を煮込んだワットをのせて食べた。
「おいしいね! これカレーみたい。インジェラは酸っぱいパンなんだ。この味も好き。アシャが焼いたの?」
「そうよ。インジェラはかんたんに焼ける。いろんな種類のワットを作ってきたからもっと食べて」
アシャは僕のためのインジェラをちぎって、その上にワットをのせて、「次はこれ」というように目の前に置いていった。豆や肉を煮たのや、野菜サラダがあったりと、多彩なワットが楽しかった。
「エチオピアでもこんなお弁当をピクニックに持っていくの?」
「うんそうね。考えてみたら、ワットはおにぎりの具と同じね。あと、食後にコーヒーを飲むの。一杯目はそのままで、二杯目に砂糖を入れて、三杯目はバターとスパイスを入れて楽しむの。今度あなたのためにコーヒーを淹れてあげる。父が淹れるコーヒーはほんとにおいしいの。我が家の秘伝なのよ」
アシャは隣に座って、僕のひざの上に手を置いて話し続けた。
「あなたってショートパンツ似合うわね。私の父もショートパンツを一年中はいていたわ」
突然アシャは僕の膝を枕にして寝転んだ。
「これもエチオピア流。夫婦やカップルはこうするの」
彼女のカールしたやわらかい髪を指で触ると、アシャは目をつむってくつろいだ。