100とは

特別編

特別編

旅で着る服

ノートの白いページに「旅」と書く。

そして、自分で書いた「旅」という文字をじっと見つめる。そうすると、「旅」という文字の中に、見えてくるもの、聞こえてくるもの、感じるものがある。

大きな空、広い景色、街の音、人の声、あの匂い、あの色、あのぬくもり、あの人のこと、いつかの記憶。

「旅」という文字を書くと、ゆっくりと扉が開くのがわかる。旅の扉だ。

いつだって、そうやって僕の旅ははじまる。さあ、今日はどちらに歩こうか。街のほうか、それとも海のほうか、この道をまっすぐ行こうか。山に登ろうか。そこには何があるんだろう。地図は持たない。そう、地図は自分で作るんだ。それが旅。

旅の支度くらい楽しいものはない。思い切りわがままになれるからだ。いわばとびきり自由ってこと。自分がいちばんリラックスできるように、どうすればいいのか。それを考えながら、あれやこれやと揃えていく。わくわくする。うれしくなっていく。旅の醍醐味だ。

旅の服について考えよう。

無くてはならないのは、肌さわりのよいコットンのTシャツ。たとえば、その上に、肉厚で、少したっぷりしたサイズの、カットソー的なTシャツを着る。要するにTシャツの重ね着だ。これが僕のいつもの旅の装いになっている。

旅で着る服 ストーリーイメージ

Tシャツ一枚だと、カジュアル過ぎるけれど、その上にしっかりした素材のTシャツを重ねると、ほんの少しだけフォーマルになる。

場合によってはジャケットを羽織ってもいいだろう。とにかく、Tシャツを二枚着るというのは、僕なりの旅の身だしなみである。襟元が二重になっていると、不思議と安心するのは僕だけだろうか。

色の組み合わせも楽しい。ブラックのTシャツのインナーをグレーにしているけれど、この組み合わせはかなりの定番。旅でなくとも、こんなスタイルで過ごすことが多い。

ブラックの代わりにネイビーでもいい。ホワイトのTシャツのインナーに、グレーというのも気に入っている。そうそう、リラックスできるのが基本だから、上に着るTシャツはワンサイズ大きめがいい。

Tシャツの袖を無造作に折って、袖からインナーの色を見せる時もある。

ボトムスはチノパンが絶対いい。Tシャツに合わせて、ゆったりとしたサイズを選ぶ。裾はロールアップして足首を軽やかにすると、ビンテージチノの絶妙なフォルムが、さらに際立ってスタイリッシュに。

旅で着る服の組み合わせは、いつもの服よりもすてきに思えるのはなぜだろう。

さあ、早起きして朝食を食べに行こう。旅先のあの店で、熱いコーヒーと一緒に、とびきりおいしいエッグベネディクトを食べるんだ。

僕はこんな感じがすごく気に入っている。

特別編

ポケットに
文庫本を

チノパンのポケットに入るから、文庫本をいつも旅には持っていく。どこを読んでも、何度読んでも飽きない大好きなヘミングウェイやO.ヘンリーを。

特別編

ポケットに
文庫本を

特別編

チノパンのポケットに入るから、文庫本をいつも旅には持っていく。どこを読んでも、何度読んでも飽きない大好きなヘミングウェイやO.ヘンリーを。

ネックを
ピシッと

Tシャツの二枚重ねが好きな理由は、ネックが二重になることで、少しピシッとすること。こうすると、Tシャツでもルーズに見えない。

特別編

ネックを
ピシッと

特別編

Tシャツの二枚重ねが好きな理由は、ネックが二重になることで、少しピシッとすること。こうすると、Tシャツでもルーズに見えない。

朝は
お茶を飲む

お湯さえあればおいしく淹れられるから、部屋ではハーブティや紅茶を飲むことが多い。お気に入りのマグカップも持っていくとどこでもわが家。

特別編

朝は
お茶を飲む

特別編

お湯さえあればおいしく淹れられるから、部屋ではハーブティや紅茶を飲むことが多い。お気に入りのマグカップも持っていくとどこでもわが家。

だらしなく
しない

ワンサイズ大きめのチノパンは、ベルトをしっかり締めて、ウエストの位置を下げないように気をつける。カジュアルでも、だらしなくならないように。

特別編

だらしなく
しない

特別編

ワンサイズ大きめのチノパンは、ベルトをしっかり締めて、ウエストの位置を下げないように気をつける。カジュアルでも、だらしなくならないように。

特別編

はじめての旅

はじめて旅したのはいつだろうか。そう思ったら、いつかの光景が目に浮かんできた。

僕は小学二年生だった。当時、飼っていたジョンという名の柴犬と一緒に、僕は知らない街に立っていた。夕暮れだった。

ある日曜日の午後。僕は暮らしていた街のはずれにあった、一人で渡ったことのない広い大通りの向こう側の街を冒険してみようと思い立った。

いつも車や大きなトラックが走っているこの道の向こうには何があるんだろう。もしかしたら、とっても楽しい公園や遊び場があったり、すてきなおもちゃ屋があったり、おもしろいものを売っているお店があるのかもしれない。それを見つけて、友だちに教えてあげよう。あとは、一人で遠くに行けることを、お父さんお母さんにほめてもらおうと思ったのだ。

とはいえ、一人では心細かった。僕は大好きだったジョンを連れていこうと思った。

大通りを渡るために信号待ちした時、ドキドキした。向こう側に行ったら帰ってこれるのだろうか。そう思ったら怖くもなった。信号が青になった時、「行こう、ジョン」と声をかけて、僕とジョンは勇気を振り絞って、大通りの横断歩道を駆け抜けた。

僕とジョンは知らない街をどんどん歩いた。帰る時の目印を見つけながら、まっすぐに歩いた。すると見たことのない商店街があり、たくさんの人で賑わっていた。僕とジョンは、人混みをかけわけるようにして歩いた。どこまでも歩くと商店街の端っこに着き、人混みは無くなっていた。

ジョンがハアハアと口を開けて喉が乾いたようだったので、文房具屋の前にいたおばさんに「すみません、水をくれませんか」と言うと、「ぼうや、水飲みたいの?」と言って、店の中からコップ一杯の水を持ってきてくれた。僕がそれをジョンに飲ませると「犬にコップを使っちゃダメよ」とおばさんが怒鳴った。僕は「すみません、ありがとうございました」と言ってコップを返し、店を後にした。

知らない街には、知らないことばかりで、僕とジョンはキョロキョロしながら歩いた。とても楽しかった。

一時間くらい歩いただろうか、僕はさすがに疲れて、「ジョン、帰ろうか」と声をかけた。そして来た道を戻った。まっすぐ歩いてきたから、まっすぐ戻れば帰れる。そう思った。

しかし、歩けど歩けど、目印にしていた場所を見つけることが出来なかった。日は暮れて夕方になっていた。僕とジョンは道に迷ったのだ。もう家に帰れないかもしれないと思ったら僕は急に悲しくなった。座り込んでジョンを抱きしめた。

「あなたどこの子?」と声をかけてくれたおばあさんがいた。僕は自分の名前と学校名を言い、大通りの向こうから来たことを話した。家の電話番号を聞かれたのでそれを言うと、おばあさんは電話をかけてくれた。 「すぐにおかあさんが迎えに来るから大丈夫よ」とおばあさんは言って、僕とジョンにお菓子をくれた。

はじめての旅 ストーリーイメージ

待っていると、エプロン姿の母が走ってやってきた。母は「何をしにこんな遠くに来てるの?」と僕に聞いた。「こっちに何があるか知りたかっただけだよ」と言って僕は泣いた。ジョンは僕の手の甲をなめてくれた。

僕とジョンは、迎えにきてくれた母と一緒に家に帰った。

そこに何があるのか知りたかった。ただそれだけで僕は歩いた。怖かったけれど楽しかった。はじめての旅だった。

特別編

友だち作りに

旅先では時間がたっぷりある。トランプがあれば、一人遊びはいくらでもできるし、誰かと一緒に楽しむこともできる。知恵の輪ひとつで友だちも作れる。

特別編

友だち作りに

特別編

旅先では時間がたっぷりある。トランプがあれば、一人遊びはいくらでもできるし、誰かと一緒に楽しむこともできる。知恵の輪ひとつで友だちも作れる。

後ろは
こんな感じ

重ね着をしたTシャツのインナーが、後ろ姿で、こんなふうにブラックのTシャツからグレーがさりげなくちらっと見えるのがいいのです。

特別編

後ろは
こんな感じ

特別編

重ね着をしたTシャツのインナーが、後ろ姿で、こんなふうにブラックのTシャツからグレーがさりげなくちらっと見えるのがいいのです。

忘れたくないから

カメラとノートはどこに行っても一緒です。写真を撮れない場所では、ノートにその時の様子を、絵を描くように書き記す。旅とは思い出作りでもあるから。

特別編

忘れたくないから

特別編

カメラとノートはどこに行っても一緒です。写真を撮れない場所では、ノートにその時の様子を、絵を描くように書き記す。旅とは思い出作りでもあるから。

足元は
すっきりと

裾を短めにロールアップしたチノパンには、上質な革靴を合わせる。足首をすっきり見せたいから、裸足でも良いし、ショートソックスでも良し。

特別編

足元は
すっきりと

特別編

裾を短めにロールアップしたチノパンには、上質な革靴を合わせる。足首をすっきり見せたいから、裸足でも良いし、ショートソックスでも良し。

ずっと旅を続けてきて、
見つけた旅のスタイルは、
普段の定番にもなっている。

松浦弥太郎
039
特別編
上から時計回りに
クルーネックT(半袖)
スーピマコットンクルーネックT(半袖)
ヴィンテージレギュラーフィットチノ
イタリアンサドルレザーベルト
パイルベリーショートソックス
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LifeWear Story 100とは。

ユニクロには、
流行に左右されず、
けれども、決して古びることのない、
長い間、作り続けている普通の服がある。
品揃えの中では、
とても地味で目立たない存在である。
コマーシャルにもあまり出てこない。

それらは、ユニクロが、
もっと快適に、もっと丈夫に、
もっと上質であることを、
長年、愛情を込めて追求したものだ。

それらは、ユニクロの人格と姿勢が、
目に見えるかたちになったものであり、
丹精に育てているものだ。

昨日よりも今日を、今日よりも明日と。

手にとり、着てみると、
あたかも友だちのように、
その服は、私たちに、
こう問いかけてくる。

豊かで、上質な暮らしとは、
どんな暮らしなのか?
どんなふうに今日を過ごすのか?
あなたにとってのしあわせとは何か?と。

そんな服が、今までこの世界に、
あっただろうかと驚く自分がいる。

ユニクロのプリンシプル(きほん)とは何か?
ユニクロは、なぜ服を、
LifeWearと呼んでいるのだろう?
LifeWearとは、どんな服なのだろう?

ここでは、LifeWearの、
根っこを見る、知る、伝える。
そして、LifeWearと、自分にまつわる、
ストーリーを書いていきたい。

LifeWear Story 100は、
LifeWearと僕の、旅の物語になるだろう。

松浦弥太郎

松浦弥太郎
松浦弥太郎

エッセイスト、編集者。1965年東京生まれ。
2005年から15年3月まで、約9年間、創業者大橋鎭子のもとで『暮しの手帖』の編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。現在は(株)おいしい健康の取締役に就任。数々のメディアで、高い審美眼による豊かで上質な暮らし提案に努めている。新聞、雑誌の連載の他、著書多数。ベストセラーに「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」他多数。NHKラジオ第一「かれんスタイル」のパーソナリティとしても活躍。

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