買い物リストには、レタス、ベビーリーフ、ルッコラ、クレソン、ディル、イタリアンパセリ、ラディッシュ、トマト、レモン、バルサミコ、オリーブオイルと書いてあった。
「作り方はかんたんよ。まず葉野菜をよく洗って、一枚一枚ていねいに水気を拭いて、食べやすい大きさに手でちぎる。ハーブは葉の部分だけを使う。ラディッシュは切らずに、庖丁の腹でつぶして割る。そして、自分が食べたい量だけをお皿に盛りつけるの。そうしたら、それを大きめのボウルに移して、オリーブオイルとバルサミコを2:1の割合でかけて、レモンをぎゅっと絞る。塩と黒コショーをお好みで加えて、手でよく和えるの。手を使うことが大事。そうしたら、さっきのお皿に盛りつけたら出来上がり。簡単でしょ。ゆで玉子やベーコンをトッピングしてもおいしいわよ。そこに並んでいるサラダはそうやって作ってるのよ」と言って女性は笑った。
女性はデリカテッセン売り場のショーケースに入った皿から、サラダを少しつまんで僕の手の平に載せた。「この味を目安にして、あとはあなたが好きなように作ったらいいわ」と言った。
「ありがとう。早速作ってみます!」僕はリスト通りに買い物をして帰った。
今日のチャレンジは料理。たった1時間のチャレンジだけど、とってもシンプルでおいしいサラダが出来上がった。
ニューヨークに来て、はじめて自分で料理をした僕は、料理ってこんなに楽しくて、自分で作ってみるとおいしさが格別であることを、あらためて知ることができた。
次の日、スーパーマーケットに行き、料理が楽しくて、おいしかったことを売り場にいた女性に伝えると、「何が楽しかった?」と聞いた。「手で野菜をドレッシングで和えるときが楽しかったです」と答えると、「その通りね! 料理で大切なのは、手を使って、まごころをこめて作ることなのよ。あ、そうそう、言い忘れたけど、料理は塩よ。おいしい塩を使えば、どんな食材もおいしくなるの。塩だけは贅沢しても損はないわ」と女性は言った。
それからの僕はサラダ作りに夢中になった。野菜やハーブをいろいろと試してみたり、ドレッシングに工夫をしてみたり、もちろん塩をしっかり選んでみたりと。
料理とは、親切とまごころと工夫。これだと思った。
作れば作るほどにサラダはおいしくなった。そうすると、次にこんなチャレンジをしたくなった。自分で作ったおいしい料理を誰かに食べさせたいと思ったのだ。今の僕にはサラダしか作れないけれど、あとはパンとワインがあれば充分にもてなしができるだろう。

僕はニューヨークで、日頃から僕を助けてくれているセス、ジャック、ケン、トーコさんの四人を、狭いわが家に招待して、サラダパーティを開くことにした。
1時間という、ほんの小さなチャレンジが、大好きな人たちとおいしさや楽しさを分かち合えるような、大きな喜びとなった。
しあわせとは、いつだってチャレンジの先にある。そう実感した。