僕はジャックに、本を探す仕事には、何が必要なのかと聞いた。
すると、ジャックは「かんたんだよ!」と言い、「あ、でも、かんたんだけど、なかなかむつかしい」と答えた。
ジャックは部屋の隅にあった椅子を持ってきて、そこに座り、僕にも椅子に座るのをすすめて話しはじめた。
「そうだね。とにかく熟知することかな。まず、マンハッタン中の古書店を熟知すること。これが基本。それぞれの古書店が、何を専門にしているか、そこにはどんな客がいるのか。店にある一番希少な本は何か。儲かっているのか、儲かっていないのかなど。そして、君自身が専門とするジャンルの、本の歴史に熟知し、希少本の数々、それらの市場価格、それぞれの本を手にとって、なぜ価値が高いのかを知り尽くして熟知すること。大切なのはこれだけ。今、僕が言ったようなことを徹底的に学んで、誰よりも詳しくなることだね。そうすれば、君もすぐにプロのブックハンターになれる」とジャックは言った。
「とにかく熟知。熟知に勝るものはないんだ」とジャックは話し続けた。
そこで熟知した様々なことを、常にアップデートしていくことも大切で、とにかく必要な新しい情報をどれだけたくさん集められるのか、どうやって自然と自分に新しい情報が集まるような人間関係と仕組みを作っていくのか。そのためには、毎日のようにマンハッタン中の古書店を歩きまわって、人とふれあい、たくさんの本棚を見尽くすことだと、ジャックは言った。

「とにかく一番詳しい人になればいい。そうすれば、みんな君を頼りにする。顧客もすぐに君の噂を聞きつけて、自分のリストを渡してくるし、古書店も情報を流すようになる」と。
自分がこれと決めたジャンルなり対象について、とにかく熟知し、一番詳しくなれば、自分の顧客を喜ばせるために、何をどうしたらいいのかがよくわかる、とジャックは話してくれた。
「あとは、一番詳しくなったら、矛盾しているようだけど、自分よりも、さらに詳しい人を探すのさ。不思議なもので、一番詳しくなると、必ず自分よりも詳しい人がいるってことに気づくんだ。上には上がいるってことだね。そして、その自分よりも詳しい人に会って、自分に足りないこと、次に学ぶべきことは何かを教えてもらうんだ。もしくは、それを感じ取るんだ」
「週に三回ほど、僕と一緒に古書店をまわろう。何をどんなふうに見て、何を集めていくのか、少しずつ教えていくよ」とジャックは言った。
「ジャック、ありがとう。ところで、『A GOLD BOOK』だけど、僕よりも欲しい人に売ろうと思うんだ」と僕は言った。
すると、「やっぱり君は素質があるな。いくらで売るのかは君の自由さ。ブックハンターである僕らがしてはいけないことは、本を所有すること。僕らの目的は、自分を喜ばせるためではなく、あくまでも顧客を喜ばせることだからね」
ジャックは「これからよろしく」と言って、笑みを浮かべて僕の手を握った。僕もジャックの手を握り返した。