100とは

スウェットプルパーカ

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純粋なこころ

「さあ、行きましょう」。女性は、銀の持ち手がついた杖を突いて、ベンチから立ち上がった。その時、女性の背丈が、母と同じくらいだと気づき、その姿に母が重なって見えた。

「このあたりは春になると、アベリアの赤い花が咲いて、とってもきれいなのよ」。ストロベリー・フィールドを通り抜けたところにあった垣根を指差して女性は言った。

女性の名はトーコさん。父が日本人で、母がイギリス人。自分はニューヨークで生まれ育ち、日本には何度も訪れたことがあり、少しは日本語が話せると言った。「トーコさんと呼んでください」と女性は笑って言った。

トーコさんは、セントラルパークの小道をゆっくりと歩きながら、「で、それからどうしたの?」と、これまでの僕のこと、旅の経緯など、いろいろと聞いて、嬉しそうな声で「そうなのね」と繰り返して言った。

セントラルパークの中心にある広場、ベセスダ・テラスに着いた。ここには水の天使と呼ばれる大きな噴水があり、何度か訪れた大好きな場所だった。

「こっち、こっち」と、トーコさんは足早に僕の前を歩いた。そして、ある胸像の前で立ち止まった。

「こんにちは、ベートーベンさん」。

トーコさんは、石の台座をぽんぽんと手で叩いた。あなたを紹介したかったのは、こちらにいらっしゃる、ベートーベンさんよ」と言って、クスクスと笑った。

ベートーベンは、首にストールを結び、むっつりと口を一文字に結んで、下を向いていた。胸像は1884年に建造と記されてあった。

「私がベートーベンの言葉で一番好きなのは、『純粋なこころだけが、おいしいスープを作る』という言葉なの。暮らし、仕事、人づきあいで、純粋であることは、本当にむつかしいけれど、生きる上でいちばん必要なことは、純粋であること。私はいつも自分の純粋が失われそうになったら、ベートーベンさんに会いに来るの」。

トーコさんは、ベートーベンの顔を下からじっと見つめて、「そう、純粋であること……」と小さな声でつぶやいた。

純粋なこころ ストーリーイメージ

「あなたはとっても純粋な目をしていると思ったの。大丈夫、迷うことなく、もっと自分を信じていいと思う。あなたの純粋なこころをもっと育ててください。そして、もし困ったり、迷ったりしたら、ベートーベンさんに会いに来たらいいと思う」。トーコさんはそう言って僕の背中に手を置いた。

僕はベートーベンの前に立ち、胸に手を当てて自問した。「僕の純粋なこころって何だろう……」と。

トーコさんは、ポケットから小さなバッジを取り出し、「これをあなたにあげる。今日から私たちは友だちよ」と言って笑った。

バッジには赤い文字で「SMILE」と書いてあった。僕は着ていたスウェットパーカーの胸にそれをつけた。トーコさんは嬉しそうにうなずいた。

スウェットプルパーカ

完璧なフードを

太い20番手の糸を使い、密度を詰めて編み立てたスウェット生地を開発。肉厚にすることで立体感が生まれ、しっかりと包まれるような着心地に。細やかな編み目による品のよさが、着こなしの楽しみを広げてくれます。

一番のこだわりはフードの「立ち方」。立体的でうつくしく見えるように付け根部分やフード周辺のパターン試作を何度も重ねました。フードの適度なボリュームは、1枚で着ても、ジャケットと重ねても抜群の存在感を発揮します。

スウェットプルパーカ
スウェットプルパーカ

一番のこだわりはフードの「立ち方」。立体的でうつくしく見えるように付け根部分やフード周辺のパターン試作を何度も重ねました。フードの適度なボリュームは、1枚で着ても、ジャケットと重ねても抜群の存在感を発揮します。

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学びと感謝

トーコさんと別れ、宿にしているホテルへの帰り道、僕はずっと「自分の純粋なこころって何だろう」と考え続けた。

「自分の信じたことを一所懸命にやりなさい。そうすれば、きっとあなたをサポートしてくれる人がたくさん現れる。それがニューヨークよ」。トーコさんはそう言って、僕をはげましてくれた。

今日は地下鉄に乗らずに歩いて帰ろう。僕はブロードウェイをひたすらダウンタウン方向へと歩いた。

歩きながら、すれ違う人、そこに立っている人など、とにかく僕はニューヨークという街特有の、そこで暮らす多種多様な人々を見つめて、何か自分の中で悶々としている答えを見つけようとした。

道の向こうからスエットパーカーを着た大きな身体をした男の人が、こっちに向かって歩いてきた。

不思議なことに、その時、大勢の中で、その男の人だけが、スポットライトを浴びているように僕には見えた。ずんずんと僕に向かって歩いてくる。

スエットパーカーには、グレイの文字で大きく「learn」と書いてあった。

その男の人と僕は近い距離で目と目が合った。その時、男の人は、小さく微笑んで、声を出さずに「やあ」と言い、すれ違っていった。

僕の目には、「learn」という文字が、何かの啓示のように焼きついて残った。

「learn」とは学ぶこと。何かを身につけること。もっと素直になること。

「そうだ!」。

僕は丸太で頭を叩かれたような衝撃を受けた。何をしたらよいか、何がしたいではなく、今日、今、この瞬間、何を学ぶのか、何を学びたいのか、それだけでいいのだ。そのひたむきさが純粋なこころなのだ。

ただ時を過ごしていくのではなく、今この瞬間にも、それがどんなにつらいことであろうと、何か必ず学びがある。それと向き合って、ひとつひとつしっかりと学ぼう、という姿勢が大切であり、それが一所懸命という言葉につながるのだ。

学びと感謝 ストーリーイメージ

一所懸命とは学ぶということ。そうだ、暮らし、仕事、人づき合いなど、やるとかやらないではなくて、どんなことでもすべてが学びなんだ。そう、学べばいいんだ。そのために、かぎりなく素直な気持ちで、よく見て、よく感じ、よく考え、しっかりと身につける。人生とはその繰り返しなんだ。

学びの先にあるものは感謝であろう。すべてが学びであるならば、すべてに「ありがとう」という感謝を伝えるべきで、何かをしてくれたから「ありがとう」と言うのではなく、いつでもすべてに「ありがとう」という態度が正しいのだ。

その自分らしい感謝の仕方が、これからの自分のライフスタイルを育み、自分の人生を築いていくのだろうと僕は気づいた。

ありがとう、ニューヨーク! 今、この瞬間から、僕は自分が変われることを確信できた。僕はうさぎのように、道を跳ねるようにして走った。

スウェットプルパーカ

「着る」から「洗う」まで

縫い目はすべて2本針ステッチ。縫い代がフラットになり肌あたりはなめらか。フロントのカンガルーポケットはリブを採用したクラシックなデザイン。ポケット口は裏から布を当ててさらに補強縫製して丈夫に。

ボディと袖はゆったりとしたシルエットながらも、肩の位置とパターンを見直し、動きやすさがアップ。フード紐の先端を金属チップでカバーして高級感を。フード裏のみにポリエステルコットンを採用し洗濯後の乾きやすさを考えました。

スウェットプルパーカ
スウェットプルパーカ

ボディと袖はゆったりとしたシルエットながらも、肩の位置とパターンを見直し、動きやすさがアップ。フード紐の先端を金属チップでカバーして高級感を。フード裏のみにポリエステルコットンを採用し洗濯後の乾きやすさを考えました。

きれい目スラックスに、
ジャストサイズで着るのが、
一番しっくりくる。
そんなパーカーです。

松浦弥太郎
スウェットプルパーカ
009 MENスウェットプルパーカ(長袖)
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LifeWear Story 100とは。

ユニクロには、
流行に左右されず、
けれども、決して古びることのない、
長い間、作り続けている普通の服がある。
品揃えの中では、
とても地味で目立たない存在である。
コマーシャルにもあまり出てこない。

それらは、ユニクロが、
もっと快適に、もっと丈夫に、
もっと上質であることを、
長年、愛情を込めて追求したものだ。

それらは、ユニクロの人格と姿勢が、
目に見えるかたちになったものであり、
丹精に育てているものだ。

昨日よりも今日を、今日よりも明日と。

手にとり、着てみると、
あたかも友だちのように、
その服は、私たちに、
こう問いかけてくる。

豊かで、上質な暮らしとは、
どんな暮らしなのか?
どんなふうに今日を過ごすのか?
あなたにとってのしあわせとは何か?と。

そんな服が、今までこの世界に、
あっただろうかと驚く自分がいる。

ユニクロのプリンシプル(きほん)とは何か?
ユニクロは、なぜ服を、
LifeWearと呼んでいるのだろう?
LifeWearとは、どんな服なのだろう?

ここでは、LifeWearの、
根っこを見る、知る、伝える。
そして、LifeWearと、自分にまつわる、
ストーリーを書いていきたい。

LifeWear Story 100は、
LifeWearと僕の、旅の物語になるだろう。

松浦弥太郎

松浦弥太郎
松浦弥太郎

エッセイスト、編集者。1965年東京生まれ。
2005年から15年3月まで、約9年間、創業者大橋鎭子のもとで『暮しの手帖』の編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。現在は(株)おいしい健康の取締役に就任。数々のメディアで、高い審美眼による豊かで上質な暮らし提案に努めている。新聞、雑誌の連載の他、著書多数。ベストセラーに「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」他多数。NHKラジオ第一「かれんスタイル」のパーソナリティとしても活躍。

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