100とは

ネオレザーライダースジャケット

ネオレザーライダースジャケット

毎朝会う人

「ニューヨークで何をしているの?」

そんなふうによく人に聞かれた。

ファッションを学んでいる。写真を撮っている。絵を描いている。料理の修行をしている。ビジネスをしている。みんながこんなふうに答える中で、僕は一人黙っていた。

圧倒されている。

街にも、人にも、流れる時間にも、耳に入る音にも、多種多様な匂いにも、道に溢れるゴミすらにも、圧倒されている自分がいた。

勝たないといけない。

毎朝、空にそびえる高層ビルの先端を見上げるたびに、そう自分に語りかけていた。

では、何で勝つのか。

その答えを何一つ思いつかない自分が、ニューヨークという大都会に一人でポツンといるのが不思議な気分だった。そんなつもりでニューヨークに来たわけではないのに、と。

僕は毎朝、一冊の本を持って、セントラルパークを訪れた。そして、涙のしずくのかたちをしたストロベリーフィールドの草むらに座って、日が暮れるまで本を読んだ。僕はこの場所がとても気に入っていた。

読んだのはアンデルセンの「即興詩人」だった。イタリアを舞台にした旅と青春の物語だ。主人公アントニオの心模様とまなざし。生きるとは何か。少女との恋。あせることはない、時がくればなるようになる。美しき今日。そこに書かれた言葉の渦に僕は溺れていった。そう言葉だ。自分なら今をどう言葉にするのか。草むらに寝転がりながら、そんなことを自問自答しながら読んだ。

ストロベリーフィールドの入り口には、ボンベイのモザイクデザインが施された、イマジンと描かれた大理石のモザイクが、ベンチに囲まれた広場のアスファルトにはめ込まれている。

毎朝会う人 ストーリーイメージ

ストロベリーフィールドのベンチに、毎朝、同じ時間に訪れ、鳩やリスにえさを与えている、杖を持った八十歳くらいの年老いた女性がいた。その女性は、毎朝、会うたびに、僕に小さな声で「おはようございます」と声をかけてくれた。

女性が着ている服はいつも同じだった。いくつもの色のあせたワッペンが縫い付けられ、革がすりきれるほど着古したライダースジャケットに真っ赤なスカートをはいていた。

女性は鳩とリスにえさをあげ終わると、しばらくそこで本を読み、持ってきているポットからあたたかい飲み物を飲み、ぼんやりと過ごし、昼に近くなると、ゆっくりと立ち上がり、ストロベリーフィールドから去っていった。

僕は、朝のあいさつを交わせる人が一人でもいるということが、どんなにしあわせなことなのかと思い、その女性と会うことが、ささやかな日々の喜びと感じていた。

そんな朝の日々がしばらく続いていたある日、女性が僕にこう話しかけてきた。

「あなた、何をしているの?」と。

ネオレザーライダースジャケット

「ネオ」レザーの誕生

鈍い光沢を放つマットな質感、表面の細かなシワ模様。理想とするリアルレザー特有の表情を求めて幾度もの試作をくり返し、あたらしいネオレザー生地を開発しました。

表地に現れる不自然なシワをできるだけ無くし、柔らかく軽やかなこれまでのネオレザーに足りなかったハリ感は、本来あまり使用されることのない極薄いシート中綿を内側に採用することで解消され、同時に防寒性も兼備。アウターとしての安心と存在感が生まれました。

ネオレザーライダースジャケット
ネオレザーライダースジャケット

表地に現れる不自然なシワをできるだけ無くし、柔らかく軽やかなこれまでのネオレザーに足りなかったハリ感は、本来あまり使用されることのない極薄いシート中綿を内側に採用することで解消され、同時に防寒性も兼備。アウターとしての安心と存在感が生まれました。

ネオレザーライダースジャケット

ストロベリーフィールドにて

「よかったら、隣に座りませんか?」こう言って、女性はベンチの隣のスペースを手でさすった。

「今朝はいつもより肌寒いですね……」僕はそう答えて、女性の横に静かに座った。

「声をかけてしまってごめんなさいね。私は毎朝たくさんの人と会うけれど、ずっとあなたのことが気になっていたの。あなたは一体何をしているのか、もしよかったら聞かせてくれませんか? 日本人ですよね」と女性は言ってから、自分の名前を僕に告げた。

「はい、日本人です。びっくりしました。人にお話できるようなことは何もしていません。だから、毎朝ここに来て、ずっと本を読んでいるんです」と僕は答えた。

「一日、ここで本を読んでいるの?」

「はい、そこの草むらで、日が暮れるまで本を読んでいます」僕がそう答えると、女性はびっくりした顔をしてから、とっても嬉しそうにこう言った。

「なんてすばらしいことをしているんでしょう。あなた、それはすばらしいことよ。これだけ世の中がせわしなくしている中で、一日中、本を読んでいるなんて。それであなた、それで楽しい?」と女性は言った。

「はい、とても楽しいです」と答えると、「何が楽しいの?」と女性はにっこりと微笑みを浮かべながら身を乗り出して聞いてきた。

「本の中で出会ういろいろな表現にとにかく感動するんです。それは気持ちだったり、状況だったり、いろいろな様子なんですが、それを言葉というか文章というか、ひとつの表現として、その感じをこういうふうにすてきに言語化するのかと。そう思うと、この世界に存在するまだまだ言語化できていない、言葉や文章によるきらめく表現っていうのがたくさんあるんだと、わくわくするんです。そして、本を読みながら、この感じを自分ならどう表現するのかと考えるのが、とっても楽しいんです」

僕は夢中になってこう話した。すると、女性は僕の背中に手をあてて、こう言った。

ストロベリーフィールドにて ストーリーイメージ

「そうすると、あなたは一日中、言葉とか文章に感動して、自分ならどうするかって考えているのね。あなた、それがどんなにすてきなことだかわかる? 人生で一番価値のあることは、日々、心から感動することなのよ。感動はいつかあなたのクリエーティブになって、あなたを作っていくの。ここニューヨークでこれだけたくさんの人が忙しく働いて、勝ったり負けたりに夢中になってばかりで、どれだけの人が一日中、心から感動していると思う? いつかあなたの心の中が、日々の感動で満ち満ちた時、きっとあなたは何かをしたくて仕方がないようになるわ。その時は自然とやってくるの」

女性は、ポットからカップに注いだあったかいお茶を僕にすすめてくれた。そして、僕が手にしていた「即興詩人」をちらっと見た。

「あなたを紹介したい人がいるわ」と女性は言った。

ネオレザーライダースジャケット

新たなデザインバランス

レザージャケット特有のスリムフィットでありながらも、インナーを選ばないちょうど良い着丈、袖の形状に沿ったカーブや肩幅から身幅には窮屈さを感じないオリジナルシルエット。

フロント、ポケットスライダー(引き手部分)はルーツを大切に、匿名性の高いシンプルなオリジナルパーツを採用。エポレットや背中のバックルなど本来のライダースが持つ装飾などは排除しながらも、前立ての無骨さは残す。こだわり派もこれからの人も満足できるライダースの新解釈です。

ネオレザーライダースジャケット
ネオレザーライダースジャケット

フロント、ポケットスライダー(引き手部分)はルーツを大切に、匿名性の高いシンプルなオリジナルパーツを採用。エポレットや背中のバックルなど本来のライダースが持つ装飾などは排除しながらも、前立ての無骨さは残す。こだわり派もこれからの人も満足できるライダースの新解釈です。

毎日着る。とことん着る。
コーディネートなんて考えない。
するとライダースジャケットは、
自分の意志となる。

松浦弥太郎
ネオレザーライダースジャケット
008 MENネオレザーダブルライダース
ジャケット
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LifeWear Story 100とは。

ユニクロには、
流行に左右されず、
けれども、決して古びることのない、
長い間、作り続けている普通の服がある。
品揃えの中では、
とても地味で目立たない存在である。
コマーシャルにもあまり出てこない。

それらは、ユニクロが、
もっと快適に、もっと丈夫に、
もっと上質であることを、
長年、愛情を込めて追求したものだ。

それらは、ユニクロの人格と姿勢が、
目に見えるかたちになったものであり、
丹精に育てているものだ。

昨日よりも今日を、今日よりも明日と。

手にとり、着てみると、
あたかも友だちのように、
その服は、私たちに、
こう問いかけてくる。

豊かで、上質な暮らしとは、
どんな暮らしなのか?
どんなふうに今日を過ごすのか?
あなたにとってのしあわせとは何か?と。

そんな服が、今までこの世界に、
あっただろうかと驚く自分がいる。

ユニクロのプリンシプル(きほん)とは何か?
ユニクロは、なぜ服を、
LifeWearと呼んでいるのだろう?
LifeWearとは、どんな服なのだろう?

ここでは、LifeWearの、
根っこを見る、知る、伝える。
そして、LifeWearと、自分にまつわる、
ストーリーを書いていきたい。

LifeWear Story 100は、
LifeWearと僕の、旅の物語になるだろう。

松浦弥太郎

松浦弥太郎
松浦弥太郎

エッセイスト、編集者。1965年東京生まれ。
2005年から15年3月まで、約9年間、創業者大橋鎭子のもとで『暮しの手帖』の編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。現在は(株)おいしい健康の取締役に就任。数々のメディアで、高い審美眼による豊かで上質な暮らし提案に努めている。新聞、雑誌の連載の他、著書多数。ベストセラーに「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」他多数。NHKラジオ第一「かれんスタイル」のパーソナリティとしても活躍。

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