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「Displacement Film Fund(難民映画基金)」第2弾始動。カンヌ国際映画祭で響き合う、移動と喪失、そして居場所をめぐる物語。

Jul 02, 2026
LifeWear

フランス、カンヌ国際映画祭が開催中の2026年5月18日(現地時間)、「Displacement Film Fund(難民映画基金、以下DFF)」第2弾の選出者たちが集まりました。今回発表された第2弾の作品は、約半年後、2027年のロッテルダム国際映画祭(以下IFFR)で上映が予定されています。それぞれ異なる国と記憶を背負った映画作家たちが顔を揃えたこの日、DFF共同設立者・代表で俳優、プロデューサーのケイト・ブランシェット氏はこう切り出します。「みなさんの提出作品とアイデアは、ただただ刺激的です。完成した作品を観客に届けられる日が待ちきれない。だからみなさん、1月までに仕上げてくださいね(笑)」。

DFFは、映画業界のクリエイターやビジネスリーダー、慈善活動家らによる支援のもと、2025年に設立された、避難を余儀なくされた映画作家、または避難民としての経験を描いた実績のある映画作家の活動を支援し、短編制作のための資金提供を行っており、選出された監督には、それぞれ10万ユーロの制作助成金が授与されます。創設パートナーにはマスターマインド、ユニクロ、ドルーム・エン・ダード、タメール・ファミリー財団、アマホロ連合。メジャーパートナーとしてSPロヒア財団が名を連ね、ロッテルダム国際映画祭(IFFR)はヒューバート・バルス基金を通じてマネージングパートナーを務めています。


Photo: Hoda Davaine/Getty Images


会見には、ブランシェット氏、IFFRマネージング・ディレクターのクレア・スチュワート氏、そして第2弾の選出者たちが登壇。ドキュメンタリーの巨匠リティ・パン氏をのぞき、アンマリー・ジャシル氏、バオ・グエン氏、モハメド・アメル氏、アクオル・デ・マビオル氏の4名が壇上に並びました。

冒頭、スチュワート氏は、2025年に設立した第1弾の成果を報告。マリナ・エル・ゴルバチ氏、モ・ハラウェ氏、ハサン・カッタン氏、モハマド・ラスロフ氏、シャフルバヌ・サダト氏による5作の短編が、2026年1月のIFFRで世界初上映され、英ガーディアン紙で5つ星を獲得するなど高い評価を受けたことを明かしました。さらに、アカデミー賞の選考基準を満たすことにもつながるニューヨークのフィルム・フォーラムでの劇場公開、そして今年10月に開催される東京国際映画祭での上映決定も発表されました。

短編という自由な表現の実験場で
DFFが重視しているのは、避難を余儀なくされた人の経験そのものを“テーマ化”することではなく、映画作家たちが活動を続け、あらゆるジャンルの映画を通じて対話とつながりを生み出せるような環境を支援すること。


Photo: Hoda Davaine/Getty Images


ブランシェット氏はUNHCRの親善大使を務めてきた10年間で、当時約6,000万人だった世界の避難民・国内避難民の数は、現在では1億1700万人以上にまで増加していることを指摘。「私の役割は、その圧倒的な数字に対して、“人間の顔”を与えることだと感じていた」と言いながら、ディスプレイスメントの問題が、社会が自らを語る物語のなかで、いまだ十分に語られていないこと、そして映画や物語の中心ではなく、背景として扱われ続けてきたことへの違和感を明かします。
「移動や避難を経験しても、その人が配管工であり、建築家であり、映画監督であるという事実が変わるわけではありません。ただ、キャリアが中断され、語られるべき物語が失われてしまう」

そうした問題意識から、2023年末のグローバル難民フォーラムで、ディスプレイスされたアーティストたちの物語を支援し、映画業界のメインストリームへ押し上げるための枠組みをつくろうと誓い合ったと振り返ります。その後、ロンドン映画祭でIFFRマネージング・ディレクターのスチュワート氏と再会したことをきっかけに、DFFは急速に具体化していきました。

またブランシェット氏は、今年IFFRで上映された第1弾作品の観客の熱狂的な反響にも触れ、「興味深かったのは、それぞれの映画が映画作品として独立した素晴らしい価値を持っていた一方で、それらをひとつの「コホート=集団」として同時に見た時、そこに予想以上の特別な力が宿っていたということです」と話します。

さらに、DFFが短編映画という形式を採用している理由については、「映画監督に完全な実験の自由を与える場所だから」と解説。「そこには最も野心的な技術的・視覚的・物語的な発明が詰まっているこの形式への個人的な愛情が、改めて呼び覚まされました」と、第2弾の選出者たちへ強い期待を寄せました。

第2弾選出者5人が語る新たな物語
DFFから授与される助成をもとに、新たな短編制作に挑む5人の映画作家たち。会見では、それぞれが現在構想している作品や、その原点にある個人的な記憶、歴史、経験について、個人的な思いがカンヌで登壇した4人から語られました。

手がけた長編全4作品がアカデミー賞パレスチナ代表に選ばれている、脚本家、プロデューサーでもある映画作家のジャシル氏は、10年を費やした『パレスチナ36』(25)とは対照的に、自身が暮らす街であり、1948年に住民の95%が追放された歴史を持つハイファという都市の今を、小さなチームで自由に探求することを報告。「制約のない自由こそが最高の挑戦」と言い切る彼女は、会見の朝、同じパレスチナ系のアメル氏とカンヌの海を見つめた時間を「パレスチナ的瞬間」と振り返ります。
「地中海は、長い間切り離されてきた私たちの海でもあるんです。初めてカンヌに来たとき、15年間海を見ていなかったパレスチナ人チームが、映画祭の間ずっと海だけを見つめていたことを思い出しました」


Photo: Hoda Davaine/Getty Images


Netflixのエミー賞ノミネートドキュメンタリー作品『名もなきジャーナリスト: 「あの少女」を撮ったのは誰なのか』(25)や『BTS: The Return』(26)などで知られるベトナム系アメリカ人映画作家のグエン氏は、6度目の挑戦でようやくベトナムから脱出し、2週間の船旅と難民キャンプを経てアメリカへたどり着いた両親について話します。清掃員として働いていた父が夜遅く帰宅すると、建築の図面を描いていた記憶、「ベトナムを離れなかったら建築家だったろう」と続けます。家族の犠牲に報いなければならないと考え、弁護士になることを志していたグエン氏は、映画の道へ。「新作は、恥と、自分が残していく人生、そして子どもや次世代に残したい人生についての物語になります。新しい故郷に適応しようとしているからこそ、こうした感情を長い間、黙って抱え込んでしまうのです」

Netflixの半自伝ドラマシリーズ『Mo /モー』(22-)のクリエイター・主演としても知られるパレスチナ系アメリカ人のコメディアン、脚本家、演出家のアメル氏は、「ユーモアはいつも防衛反応だった」と回想しながら、湾岸戦争でクウェートからアメリカへ逃れ、20年以上無国籍のまま、移民という過酷な状況でサバイバルした幼少期について触れます。
「難民や亡命者という言葉には、ニュースで見るボートに乗った人々といった記号のようなイメージしか与えられません。そこには本当の顔もなければ、背景もない。全く人間味がないのです」


Photo: Hoda Davaine/Getty Images


ベルリン国際映画祭に選出され、第18回難民映画祭でも上映されたドキュメンタリー『南スーダンで生きる ~ある家族の物語~』(22)を監督した、キューバで生まれ、ケニアで育った南スーダン人のマビオル氏は、妹とともに戦争勃発直前のスーダンを脱出した記憶をもとに短編制作を予定。「自分たちの経験を代表的な物語にしたいわけではない」と前置きしながら、「今起きている危機について、人々がもっと話し合うきっかけになれば」と続け、テーマの一つとなる母性に関してもこう触れます。
「歴史の管理者であり、物を作り、家族のアーカイブのような存在である母親という存在に強く惹かれています。また、戦争がどのようにして巨大な崩壊を引き起こすかということも探求していきたい」

出身地ではなく、映画監督としての本質が選考基準


写真左から、モハメド・アメル氏、アクオル・デ・マビオル氏、バオ・グエン氏、アンマリー・ジャシル氏。リティ・パン氏はカンヌでは不在。Photo: Greg Williams


質疑応答では、DFFの選考基準に対する質問も投げられました。ブランシェット氏は、同基金の支援対象となるのは、「直接の避難経験者だけではなく、親や祖父母の経験を通じてトラウマを引き継いだ第2・第3世代、この問題に向き合ってきた実績のある映画作家も含まれる」と説明。

第二期の映画作家は、指名委員会(ジャーナリスト・ドキュメンタリー制作者のワアド・アル=カティーブ氏、映画監督・脚本家のアグニェシュカ・ホランド氏、UNHCRサポーターのキー・ホイ・クァン氏、ヒューバート・バルス基金責任者のタマラ・タティシュヴィリ氏、IFFRマネージング・ディレクターのスチュワート氏、そしてDFFパートナーが参加)と、ブランシェット氏が委員長を務める選考委員会(映画監督ヨナス・ポヘール・ラスムセン氏、IFFRフェスティバル・ディレクターのヴァンヤ・カルジェルチッチ氏、映画・舞台プロデューサーのバーバラ・ブロッコリ氏、教育者・活動家で難民でもあるアイシャ・クラム氏、そしてDFF第1弾の映画作家ハラウェ氏で構成)という初年度に策定された二段階の厳格なプロセスを経て選抜されています。

ブランシェットは、「この基金の目的は映画製作者を国籍で分類することではない」と付け加えます。
「彼らの作品は必ずしも出身地に基づいているわけではありません。重要なのは映画作家としての質であり、そのことを、本当に忘れてはならないと思います。昨年のパイロット版では、ウクライナ、アフガニスタン、ソマリア、シリア、そしてイランの映画製作者が参加しました。パレスチナからの参加者はいませんでした。ただ結果的にそうなっただけのことです。

スチュワート氏もまた、「活動がしばしば中断を余儀なくされる、確立された映画監督を支援すること、そしてコホート内で多様なストーリーテリングが生まれるようにすること」が選考の要であると補足。また、「今この瞬間に何ができるのか。どう行動するのか。その問いに対する私たちなりの答えのひとつが、DFFのマネージング・パートナーを務めることです」と話し、取り組みに関わる意義を強調しました。


Photo: Hoda Davaine/Getty Images


ホーム、アイデンティティ、そして「見られること」をめぐる構造
質疑応答は、「家」や「帰属感」、そしてアイデンティティの問題へと広がっていきます。
アメル氏は、無国籍のまま育ち、長い年月を経てアメリカ市民権を得た経験を振り返ります。「帰属感や“家”と感じられる場所を持つこと。それは誰もが求めていることです。世界のどこにいても、受け入れられたいと思う。アメリカ市民権を得た今も、心には大きな穴がある。その喪失感こそが私の芸術を形づくっています」

続いてマビオル氏は、「完全に家を感じられないまま生きることと和解するとはどういうことか。それが問いです」と提示します。一方で、グエン氏は「常に失われた家を探し続けるのではなく、今、目の前に一緒にいる人たちの中に家を見出すことができる」と語り、避難や強制移動によって生まれた感覚を、新たなつながりへと開いていく視点を見せていました。

議論は、表現者が背負わされる政治的ラベルにも及んでいきます。ジャシル氏は、ジャーナリストから「政治的ではない映画を作ることはできるか」としばしば問われることに触れながら、そうした区分そのものに疑問を投げかけ、 「自分たちは心にある、自分が生きている世界のストーリーを語っているだけ」と話します。
さらにアメル氏は、表現者が背負わされる政治的なレッテルに対する自身の率直な見解を述べます。「自分の存在が政治的なものになってしまうこと、ただ自分らしくあることさえも政治化されてしまうことは、本当に辛いことです。私はそれを受け入れることを拒否します。相手を一人の人間として見て、対話を開かれたかたちで行う。それこそが芸術の美しさだと思う。自分の存在が批評されるのではなく、作品そのもので批評されたいんです」


Photo: Hoda Davaine/Getty Images


菌糸のように広がる連帯
また会場からは、「難民や移住者の物語を伝えることへの風当たりが強まるなかで、どう乗り越えるべきか」という切実な問いも投げかけられました。アメル氏は自身の経験から、「ただ自分のものづくりに集中し、あきらめずに仕事の質を高め続けることだけが次の扉を開く。オンラインのコメントという大きなノイズに振り回されてはいけない」と訴えます。ジャシル氏もまた、「誰も、自分がどう見えるべきかという他者の期待によって、カテゴリーの中に押し込められたくはない。だから私たちは、その枠の中にとどまらない」と語りました。

最後に、スチュワート氏はパートナーたちが物語の価値を認めて支えようとしている点に触れながら、「ケイトがまとめあげた、個人や慈善家財団、そしてユニクロの企業支援が集まった、とてもユニークな協働です。これは映画業界におけるこれまでとは違うビジネスのあり方であり、そこに希望を感じています」と述べました。

加えてブランシェット氏は、この逆風の時代において基金が持つ連帯の仕組みを、地中で目に見えない根のようなネットワークを広げて互いを支え合う「マイセリウム(菌糸体)」というメタファーになぞらえて表現。「重要な活動を続けている団体は数多くあります。苦境に立たされ、疲れ果てながらも、依然として不可欠な活動を続けている小さなグループが連帯することで、互いに支え合うことができる」と指摘しました。

避難を経験した当事者も含む、世界中のメディア関係者の強い関心が注がれる会見は、ブランシェット氏の力強い言葉で幕を閉じました。
「ジャーナリストと、プロパガンダを行う人々の間には大きな違いがあります。小さなグループが団結すれば力は増していく。それこそが、菌糸体のような働き方なのです」


難民映画基金(DFF)の創設パートナー、第二弾に選出された監督、関係者との集合写真。左端がユニクロの柳井康治。Photo: Greg Williams


移民、国境、アイデンティティをめぐる政治的な排除の空気が強まる時代のなかで、映画という表現を通して、人間の経験の複雑さを複雑なままで観る者と関係させるDFF第2弾。カンヌに集った映画作家たちは、答えの出ない問いを抱えながら、記憶、喪失、そして回復力について話し合いました。個々の声が地中でつながり合うように、国境や歴史、世代を超え、DFF第2弾の輪はまた世界へ広がっていきます。

難民映画基金について詳しくはこちら
https://www.uniqlo.com/jp/ja/special-feature/sustainability/displacement-film-fund



フランス、カンヌ国際映画祭が開催中の2026年5月18日(現地時間)、「Displacement Film Fund(難民映画基金、以下DFF)」第2弾の選出者たちが集まりました。今回発表された第2弾の作品は、約半年後、2027年のロッテルダム国際映画祭(以下IFFR)で上映が予定されています。それぞれ異なる国と記憶を背負った映画作家たちが顔を揃えたこの日、DFF共同設立者・代表で俳優、プロデューサーのケイト・ブランシェット氏はこう切り出します。「みなさんの提出作品とアイデアは、ただただ刺激的です。完成した作品を観客に届けられる日が待ちきれない。だからみなさん、1月までに仕上げてくださいね(笑)」。

DFFは、映画業界のクリエイターやビジネスリーダー、慈善活動家らによる支援のもと、2025年に設立された、避難を余儀なくされた映画作家、または避難民としての経験を描いた実績のある映画作家の活動を支援し、短編制作のための資金提供を行っており、選出された監督には、それぞれ10万ユーロの制作助成金が授与されます。創設パートナーにはマスターマインド、ユニクロ、ドルーム・エン・ダード、タメール・ファミリー財団、アマホロ連合。メジャーパートナーとしてSPロヒア財団が名を連ね、ロッテルダム国際映画祭(IFFR)はヒューバート・バルス基金を通じてマネージングパートナーを務めています。


Photo: Hoda Davaine/Getty Images



会見には、ブランシェット氏、IFFRマネージング・ディレクターのクレア・スチュワート氏、そして第2弾の選出者たちが登壇。ドキュメンタリーの巨匠リティ・パン氏をのぞき、アンマリー・ジャシル氏、バオ・グエン氏、モハメド・アメル氏、アクオル・デ・マビオル氏の4名が壇上に並びました。

冒頭、スチュワート氏は、2025年に設立した第1弾の成果を報告。マリナ・エル・ゴルバチ氏、モ・ハラウェ氏、ハサン・カッタン氏、モハマド・ラスロフ氏、シャフルバヌ・サダト氏による5作の短編が、2026年1月のIFFRで世界初上映され、英ガーディアン紙で5つ星を獲得するなど高い評価を受けたことを明かしました。さらに、アカデミー賞の選考基準を満たすことにもつながるニューヨークのフィルム・フォーラムでの劇場公開、そして今年10月に開催される東京国際映画祭での上映決定も発表されました。

短編という自由な表現の実験場で
DFFが重視しているのは、避難を余儀なくされた人の経験そのものを“テーマ化”することではなく、映画作家たちが活動を続け、あらゆるジャンルの映画を通じて対話とつながりを生み出せるような環境を支援すること。


Photo: Hoda Davaine/Getty Images



ブランシェット氏はUNHCRの親善大使を務めてきた10年間で、当時約6,000万人だった世界の避難民・国内避難民の数は、現在では1億1700万人以上にまで増加していることを指摘。「私の役割は、その圧倒的な数字に対して、“人間の顔”を与えることだと感じていた」と言いながら、ディスプレイスメントの問題が、社会が自らを語る物語のなかで、いまだ十分に語られていないこと、そして映画や物語の中心ではなく、背景として扱われ続けてきたことへの違和感を明かします。
「移動や避難を経験しても、その人が配管工であり、建築家であり、映画監督であるという事実が変わるわけではありません。ただ、キャリアが中断され、語られるべき物語が失われてしまう」

そうした問題意識から、2023年末のグローバル難民フォーラムで、ディスプレイスされたアーティストたちの物語を支援し、映画業界のメインストリームへ押し上げるための枠組みをつくろうと誓い合ったと振り返ります。その後、ロンドン映画祭でIFFRマネージング・ディレクターのスチュワート氏と再会したことをきっかけに、DFFは急速に具体化していきました。

またブランシェット氏は、今年IFFRで上映された第1弾作品の観客の熱狂的な反響にも触れ、「興味深かったのは、それぞれの映画が映画作品として独立した素晴らしい価値を持っていた一方で、それらをひとつの「コホート=集団」として同時に見た時、そこに予想以上の特別な力が宿っていたということです」と話します。

さらに、DFFが短編映画という形式を採用している理由については、「映画監督に完全な実験の自由を与える場所だから」と解説。「そこには最も野心的な技術的・視覚的・物語的な発明が詰まっているこの形式への個人的な愛情が、改めて呼び覚まされました」と、第2弾の選出者たちへ強い期待を寄せました。

第2弾選出者5人が語る新たな物語
DFFから授与される助成をもとに、新たな短編制作に挑む5人の映画作家たち。会見では、それぞれが現在構想している作品や、その原点にある個人的な記憶、歴史、経験について、個人的な思いがカンヌで登壇した4人から語られました。

手がけた長編全4作品がアカデミー賞パレスチナ代表に選ばれている、脚本家、プロデューサーでもある映画作家のジャシル氏は、10年を費やした『パレスチナ36』(25)とは対照的に、自身が暮らす街であり、1948年に住民の95%が追放された歴史を持つハイファという都市の今を、小さなチームで自由に探求することを報告。「制約のない自由こそが最高の挑戦」と言い切る彼女は、会見の朝、同じパレスチナ系のアメル氏とカンヌの海を見つめた時間を「パレスチナ的瞬間」と振り返ります。
「地中海は、長い間切り離されてきた私たちの海でもあるんです。初めてカンヌに来たとき、15年間海を見ていなかったパレスチナ人チームが、映画祭の間ずっと海だけを見つめていたことを思い出しました」


Photo: Hoda Davaine/Getty Images



Netflixのエミー賞ノミネートドキュメンタリー作品『名もなきジャーナリスト: 「あの少女」を撮ったのは誰なのか』(25)や『BTS: The Return』(26)などで知られるベトナム系アメリカ人映画作家のグエン氏は、6度目の挑戦でようやくベトナムから脱出し、2週間の船旅と難民キャンプを経てアメリカへたどり着いた両親について話します。清掃員として働いていた父が夜遅く帰宅すると、建築の図面を描いていた記憶、「ベトナムを離れなかったら建築家だったろう」と続けます。家族の犠牲に報いなければならないと考え、弁護士になることを志していたグエン氏は、映画の道へ。「新作は、恥と、自分が残していく人生、そして子どもや次世代に残したい人生についての物語になります。新しい故郷に適応しようとしているからこそ、こうした感情を長い間、黙って抱え込んでしまうのです」

Netflixの半自伝ドラマシリーズ『Mo /モー』(22-)のクリエイター・主演としても知られるパレスチナ系アメリカ人のコメディアン、脚本家、演出家のアメル氏は、「ユーモアはいつも防衛反応だった」と回想しながら、湾岸戦争でクウェートからアメリカへ逃れ、20年以上無国籍のまま、移民という過酷な状況でサバイバルした幼少期について触れます。
「難民や亡命者という言葉には、ニュースで見るボートに乗った人々といった記号のようなイメージしか与えられません。そこには本当の顔もなければ、背景もない。全く人間味がないのです」


Photo: Hoda Davaine/Getty Images



ベルリン国際映画祭に選出され、第18回難民映画祭でも上映されたドキュメンタリー『南スーダンで生きる ~ある家族の物語~』(22)を監督した、キューバで生まれ、ケニアで育った南スーダン人のマビオル氏は、妹とともに戦争勃発直前のスーダンを脱出した記憶をもとに短編制作を予定。「自分たちの経験を代表的な物語にしたいわけではない」と前置きしながら、「今起きている危機について、人々がもっと話し合うきっかけになれば」と続け、テーマの一つとなる母性に関してもこう触れます。
「歴史の管理者であり、物を作り、家族のアーカイブのような存在である母親という存在に強く惹かれています。また、戦争がどのようにして巨大な崩壊を引き起こすかということも探求していきたい」

出身地ではなく、映画監督としての本質が選考基準


写真左から、モハメド・アメル氏、アクオル・デ・マビオル氏、バオ・グエン氏、アンマリー・ジャシル氏。リティ・パン氏はカンヌでは不在。Photo: Greg Williams



質疑応答では、DFFの選考基準に対する質問も投げられました。ブランシェット氏は、同基金の支援対象となるのは、「直接の避難経験者だけではなく、親や祖父母の経験を通じてトラウマを引き継いだ第2・第3世代、この問題に向き合ってきた実績のある映画作家も含まれる」と説明。

第二期の映画作家は、指名委員会(ジャーナリスト・ドキュメンタリー制作者のワアド・アル=カティーブ氏、映画監督・脚本家のアグニェシュカ・ホランド氏、UNHCRサポーターのキー・ホイ・クァン氏、ヒューバート・バルス基金責任者のタマラ・タティシュヴィリ氏、IFFRマネージング・ディレクターのスチュワート氏、そしてDFFパートナーが参加)と、ブランシェット氏が委員長を務める選考委員会(映画監督ヨナス・ポヘール・ラスムセン氏、IFFRフェスティバル・ディレクターのヴァンヤ・カルジェルチッチ氏、映画・舞台プロデューサーのバーバラ・ブロッコリ氏、教育者・活動家で難民でもあるアイシャ・クラム氏、そしてDFF第1弾の映画作家ハラウェ氏で構成)という初年度に策定された二段階の厳格なプロセスを経て選抜されています。

ブランシェットは、「この基金の目的は映画製作者を国籍で分類することではない」と付け加えます。
「彼らの作品は必ずしも出身地に基づいているわけではありません。重要なのは映画作家としての質であり、そのことを、本当に忘れてはならないと思います。昨年のパイロット版では、ウクライナ、アフガニスタン、ソマリア、シリア、そしてイランの映画製作者が参加しました。パレスチナからの参加者はいませんでした。ただ結果的にそうなっただけのことです。

スチュワート氏もまた、「活動がしばしば中断を余儀なくされる、確立された映画監督を支援すること、そしてコホート内で多様なストーリーテリングが生まれるようにすること」が選考の要であると補足。また、「今この瞬間に何ができるのか。どう行動するのか。その問いに対する私たちなりの答えのひとつが、DFFのマネージング・パートナーを務めることです」と話し、取り組みに関わる意義を強調しました。


Photo: Hoda Davaine/Getty Images



ホーム、アイデンティティ、そして「見られること」をめぐる構造
質疑応答は、「家」や「帰属感」、そしてアイデンティティの問題へと広がっていきます。
アメル氏は、無国籍のまま育ち、長い年月を経てアメリカ市民権を得た経験を振り返ります。「帰属感や“家”と感じられる場所を持つこと。それは誰もが求めていることです。世界のどこにいても、受け入れられたいと思う。アメリカ市民権を得た今も、心には大きな穴がある。その喪失感こそが私の芸術を形づくっています」

続いてマビオル氏は、「完全に家を感じられないまま生きることと和解するとはどういうことか。それが問いです」と提示します。一方で、グエン氏は「常に失われた家を探し続けるのではなく、今、目の前に一緒にいる人たちの中に家を見出すことができる」と語り、避難や強制移動によって生まれた感覚を、新たなつながりへと開いていく視点を見せていました。

議論は、表現者が背負わされる政治的ラベルにも及んでいきます。ジャシル氏は、ジャーナリストから「政治的ではない映画を作ることはできるか」としばしば問われることに触れながら、そうした区分そのものに疑問を投げかけ、 「自分たちは心にある、自分が生きている世界のストーリーを語っているだけ」と話します。
さらにアメル氏は、表現者が背負わされる政治的なレッテルに対する自身の率直な見解を述べます。「自分の存在が政治的なものになってしまうこと、ただ自分らしくあることさえも政治化されてしまうことは、本当に辛いことです。私はそれを受け入れることを拒否します。相手を一人の人間として見て、対話を開かれたかたちで行う。それこそが芸術の美しさだと思う。自分の存在が批評されるのではなく、作品そのもので批評されたいんです」


Photo: Hoda Davaine/Getty Images



菌糸のように広がる連帯
また会場からは、「難民や移住者の物語を伝えることへの風当たりが強まるなかで、どう乗り越えるべきか」という切実な問いも投げかけられました。アメル氏は自身の経験から、「ただ自分のものづくりに集中し、あきらめずに仕事の質を高め続けることだけが次の扉を開く。オンラインのコメントという大きなノイズに振り回されてはいけない」と訴えます。ジャシル氏もまた、「誰も、自分がどう見えるべきかという他者の期待によって、カテゴリーの中に押し込められたくはない。だから私たちは、その枠の中にとどまらない」と語りました。

最後に、スチュワート氏はパートナーたちが物語の価値を認めて支えようとしている点に触れながら、「ケイトがまとめあげた、個人や慈善家財団、そしてユニクロの企業支援が集まった、とてもユニークな協働です。これは映画業界におけるこれまでとは違うビジネスのあり方であり、そこに希望を感じています」と述べました。

加えてブランシェット氏は、この逆風の時代において基金が持つ連帯の仕組みを、地中で目に見えない根のようなネットワークを広げて互いを支え合う「マイセリウム(菌糸体)」というメタファーになぞらえて表現。「重要な活動を続けている団体は数多くあります。苦境に立たされ、疲れ果てながらも、依然として不可欠な活動を続けている小さなグループが連帯することで、互いに支え合うことができる」と指摘しました。

避難を経験した当事者も含む、世界中のメディア関係者の強い関心が注がれる会見は、ブランシェット氏の力強い言葉で幕を閉じました。
「ジャーナリストと、プロパガンダを行う人々の間には大きな違いがあります。小さなグループが団結すれば力は増していく。それこそが、菌糸体のような働き方なのです」


難民映画基金(DFF)の創設パートナー、第二弾に選出された監督、関係者との集合写真。左端がユニクロの柳井康治。Photo: Greg Williams



移民、国境、アイデンティティをめぐる政治的な排除の空気が強まる時代のなかで、映画という表現を通して、人間の経験の複雑さを複雑なままで観る者と関係させるDFF第2弾。カンヌに集った映画作家たちは、答えの出ない問いを抱えながら、記憶、喪失、そして回復力について話し合いました。個々の声が地中でつながり合うように、国境や歴史、世代を超え、DFF第2弾の輪はまた世界へ広がっていきます。

難民映画基金について詳しくはこちら
https://www.uniqlo.com/jp/ja/special-feature/sustainability/displacement-film-fund



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