日本を代表するクリエイティブ・ディレクターが、過去最大規模となる個展を開いた。美術館に佇む巨大な企業ロゴには、デザインの胆力と、コミュニケーションが育む新たな“美”があった。展示のラストには、購買体験そのものを作品とするUT STOREも作ってしまった。
2007年、六本木の星条旗通りに誕生した「国立新美術館」。都心にありながら緑に囲まれ、波のような曲線美のガラスウォールが輝く、日本で5番目の国立の美術館である。シンボルマークは、クリエイティブ・ディレクターの佐藤可士和さんがデザインしたもの。“新”という漢字ひと文字を抜き出し、「様々な新しい試み、先進的な活動を展開していく美術館」という活動方針を表現した。その国立新美術館で現在、可士和さんの大規模な展覧会が開催されている。
「国立新美術館は自分がシンボルマークをデザインしたということもあり、僕もいつかこの場所で個展ができたらなと思っていました。3年前に声をかけていただいたときは本当に嬉しかったです。“国立”を冠する美術館で展示するということは、デザインがひとつの文化として位置づけられたということで、とても光栄に感じました」
国立新美術館ではこれまでもデザイナーの三宅一生さんや、建築家の安藤忠雄さんなど、美術の枠組みにとらわれない人たちの展示を行ってきた。次なる美術表現として、可士和さんの分野である“クリエイティブディレクション”が取り上げられたのだ。「僕の仕事というのはクライアントと一緒に形作っていくものです。また成果物は戦略やコンセプトといった無形物も多い。つまり活動自体が作品なんです。どう表現すべきか、試行錯誤を繰り返しました」。アウトプットとしてデザインする作業は、仕事のある一部でしかない。クライアントの抱える問題を掘り下げ、どのように消費者やユーザーとコミュニケートすればベストかを考えるのが本懐だ。だから必然的に企業との付き合いは長くなる。ユニクロとはもう15年になるし、楽天とは17年、セブン-イレブンや日清食品とは10年……。とにかくボリュームが多い。ひとまず自身の過去の仕事を整理し、展示のストーリーを組み立てていった。最初に決まったのが、企業ロゴに焦点を当てた「THE LOGO」だ。
「僕の中でロゴとはコミュニケーションの要であり、とても大切なもの。普段は日常に溶け込んでいる企業ロゴの存在感をあらためて味わってもらおうと、ブランドのロゴを巨大化し、ダイナミックに設置したインスタレーションで構成しました。企業ごとに表現を変え、ユニクロは一辺が3.5mの油絵に。見覚えある巨大なロゴを眺めていると、凝縮された街を俯瞰するような、不思議な感覚が生まれます」

約2年半にわたる制作風景の一部。会場と同じ天井高約5mの壁を設置してシミュレーションをしたそうだ。
ロゴや記号への偏愛は子供の頃から始まっていたのだと言い、その片鱗が窺えるのが、会場の冒頭に掲示される「宇宙」というタイトルのコラージュ。なんと9歳のときに作ったものらしい。「まさに僕の感覚の原点です。小さい頃から記号的な抽象画を描いていて、同様にロゴやアイコンが大好きでした。友達は流行のスニーカーに夢中だったけど、僕はスニーカーに描かれているロゴが欲しかった。教科書の表紙にロゴを一生懸命模写していました(笑)」
展示のラストを飾るのは、「UT STORE @ THENATIONAL ART CENTER, TOKYO」だ。ここでは可士和さんがこの展覧会のためにデザインした27種類のUTを購入でき、“Tシャツを買う”という購買体験そのものが作品となるという実験的展示になっている。Tシャツは新たに制作した専用パッケージ入りで、全種揃えたい人には、展覧会のキービジュアル「LINES」が描かれたコンプリートボックスも用意。ボディのデザインは、アニメやゲーム、浮世絵といったメイドインジャパンテイストのものも多いのだが、その背景には、2007年にNYのソーホー店オープン時に企画した『ジャパニーズ ポップ カルチャー プロジェクト』があった。日本人アーティストがデザインしたTシャツが大きな話題となったプロジェクトだ。
そのジャパニーズポップカルチャープロジェクトのコンセプトからUTが生まれたのです」。Tシャツの作品のセレクトには可士和さんの思い出も投影されている。模写に励んだ『デビルマン』。ガラモンに胸打たれた『ウルトラQ』。同時代を生きたバスキア。デザインにも繋がりを持たせていて、『おそ松くん』の6つ子が並ぶ姿は、アンディ・ウォーホルが手掛けた「モナ・リザ」を重ね合わせた。
展覧会を作り終えた今、今後の展望を聞くと、「巡回展ですね」と一言。世界が落ち着いた頃には、どこかの国に日本企業の巨大ロゴがそびえ立つ日が来るに違いない。そしてまだまだ夢は尽きない。「パブリックシンボルを作ってみたいですね。東京タワーのように誰もがわかるもの。あと、空中がメディアになると思っているんです。次は空です」。約30年という可士和さんの活動の軌跡を追いかけることは、現代日本のデザインの轍を辿る行為ともいえる。未来がどんな道筋を描くかはわからない。でも、可士和さんはもう、大空へと一歩踏み出している。
○佐藤可士和展 『国立新美術館』 東京都港区六本木7-22-2 Tel: 03-5777-8600 10:00 ~ 18:00(入場は閉館の30分前まで) 火休 ※5月4日(火・祝)は開館
5月10日まで開催。大人¥1,700※事前予約制。kashiwasato2020.com
PROFILE
さとう・かしわ|1965年、東京都生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒。株式会社博報堂を経て2000年に独立。同年「SAMURAI」を設立。ブランド戦略のトータルプロデューサーとして数々のリーディングカンパニーと協業。2006年にユニクロのCIを作成した。
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