100とは

チャンキーヒールパンプス

チャンキーヒールパンプス

パリで覚えたこと

アシャの23歳の誕生日。僕らはハーレムのレストラン「アビシニア」に夕食を食べに出かけた。

その日のアシャは、シャツドレスにお気に入りのパンプスをはいていた。

これまでは服から靴までカジュアル志向な着こなしのアシャだった。けれども、パリ在住をきっかけに、いつものカジュアルさにエレガンスなテイストを取り込むようになった。

一番の変化は、カジュアルなコーディネートであっても、いつもパンプスをはくようになったことだ。

「パリで覚えたことだけど、女性にとって座り方や立ち方はとっても大事。そのために私が覚えたのはパンプスをはくこと。いまさらだけど、パンプスはどんなスタイリングも合うってことを発見したの。これまで私にとってパンプスって、特別なものだったけど、パリでは日常靴なのよ」

アシャにとってパンプスは、小さなカルチャーショックだったという。

「アビシニア」は、座卓のような低い椅子に座って、丸いトレーを囲んで食べる、僕らがお気に入りエチオピア料理のレストランだ。ナイフもフォークもなく、インジェラという白いクレープのようなパンをちぎって、鶏肉のシチューやスパイシーな料理を包んで、手で食べるスタイルが人気。

「誕生日おめでとう。アシャ。結婚して初めての誕生日がこんなふうに質素でごめん。結婚式もまだ挙げれなくて……」

僕はアシャに小さな箱を手渡した。

「いいのよ。そんなこと。気にしないでね。プレゼント? 嬉しいわ。でも、無理しないでね。大丈夫?」

アシャは喜びと心配が混ざった表情で僕の肩を抱き、「開けていい?」と言った。

「うん。気に入ってくれるといいんだけど……」

箱を開けてプレゼントを見たアシャは、あまりに驚いたのか、口に手を当てたまま僕の目を見つめた。

「え?これどうしたの?!」

アシャは箱から指輪をそっと取り出して手の平にのせた。

「結婚指輪としてもらってほしい」と僕は言った。その指輪は、僕とアシャがお気に入りのソーホーのアンティークショップに非売品として、ずっと飾られていたものだった。以前から、この指輪をアシャが憧れていたのを僕は知っていた。

「絶対に売らないとあの店主が言ってたよね。どうやって手にいれたの?」

パリで覚えたこと ストーリーイメージ

「このターコイズの指輪を結婚した妻にプレゼントしたいとお願いしたんだ。もちろん断られたよ。でも、僕は店主が必死になって探しているものを知っていたから、それと交換してもらえるように頼んだんだ」

「店主は何を必死に探していたの?」とアシャは聞いた。

僕はアシャの左手の薬指に指輪を通してみた。サイズはぴったりだった。

チャンキーヒールパンプス

生まれ変わったパンプス

美しい脚姿と快適なはき心地にこだわったパンプスです。あらゆる人の足型に合うパンプスを目指し、木型、パターン、インソールのアップデートを重ね、フィッティングと修正を何度も繰り返して生まれ変わりました。シルエットはきれいなポインテッドトゥ、はき口のラインを見直して甲の収まりとはき心地をアップ。

インソールには足裏にフィットするアーチクッションを採用して防菌防臭機能をプラス。さらに靴擦れしやすいかかとのはき口部分にもやわらかクッションを追加しました。

チャンキーヒールパンプス
チャンキーヒールパンプス

インソールには足裏にフィットするアーチクッションを採用して防菌防臭機能をプラス。さらに靴擦れしやすいかかとのはき口部分にもやわらかクッションを追加しました。

チャンキーヒールパンプス

パンプスの奇跡

薬指にはめたターコイズの指輪をじっと見つめながらアシャは目をつむった。そしてこう呟いた。

「ほんとうに嬉しい……。どんなに高級な結婚指輪よりも、この指輪は私にとっては価値があるのよ。売るために作ったものではなく、きっとお守りとして作られたものでしょ。この緑がかったターコイズはもう採掘できないものだから、ネイティブアメリカンにとっては宝ものよ」

僕はアシャが心から喜んでくれたことに、ほっと安堵をした。自分は物で愛情表現するようなタイプではないけれど、僕はどうしてもアシャが欲しいものをプレゼントしたかった。一度は迷いながらも。

「で、どうやってこれを?」とアシャは聞いた。

「店主に聞いたんだ。この指輪は何となら交換してくれるのかって。そうしたら、『Hat Mine』という種類のターコイズだったら交換してやるって言うんだ。『Hat Mine』は『ラベンダーブルー』とも言われる、ターコイズの中でも最も価値の高い石で、これまで帽子一杯分しか採掘されていないことで知られているもの。それなら一粒で交換してやるってね」

「そんな希少な石を見つけたの?まさか持ってたわけではないよね?」

「トーコさんを覚えてるよね。以前アシャに服をプレゼントしてくれた人」

「当然よ。忘れるわけないわ。私はトーコさん大好きだもの」

パンプスの奇跡 ストーリーイメージ

「実はこの前、トーコさんにアシャとの結婚を報告しに行ったんだ。そうしたら、すごく喜んでくれてね。その時に小さな革袋に入った小石をもらったんだ。それは、ずっと昔のトーコさんがニューメキシコを訪れた時に、ネイティブアメリカンから、あることのお礼でもらったらしく、その時、この石はいつか必ずあなたのところにやってくる、この石を必要としている人に贈るようにと言われたらしいんだ。『黒い髪の男』と言われたんだって。トーコさんは、今日がその時だと思ったんだって」

「そして、『これは私からでもあるけれど、それ以上の何か特別な運命のようなものから、あなたたちへのプレゼントよ』と言って、僕に革袋を渡したんだ。店主から『Hat Mine』と言われた時、僕ははっと思って、持っていた革袋から石を出してみたんだ。そうしたら、他のターコイズに比べて、はるかに濃いブルーの2粒の石を見つけた。それが『Hat Mine』だと僕はすぐにわかったんだ」

「なんだかおとぎ話みたい……。でも、すごいわ。ずっと前からこの指輪が私のところにやってくるのが予言されていたみたい……。この指輪にも何かストーリーがあるような気がするわ」

「パンプスはいててよかったわ!パリの知り合いの女性が言ってたんだけど、『いつだってパンプスが奇跡を起こす』という言い伝えがあるらしいわ。そのくらい女性にとってパンプスはラッキーアイテムなんだって」

満面の笑顔でそう話すアシャを見ながら、僕は「Hat Mine」がもう一粒残っているのが気になって仕方がなかった。

チャンキーヒールパンプス

万能パンプス

素材は高見えするマイクロファイバースウェードを使用した弱撥水仕様。本物の革靴と比べても見劣りしないクオリティが自慢です。トレンドを超えて普遍的に支持されるポインテッドトゥチャンキーヒールは、ジャケットにパンツスタイルなどの仕事着と合わせても、スキニーパンツやボリュームスカート、ワイドパンツなどカジュアルなオフ仕様の着こなしにも幅広く活躍してくれます。

屈曲性とグリップ性にすぐれたアウトソールを使用しているので、上品ルックスでもアクティブに使えるLifeWearです。

チャンキーヒールパンプス
チャンキーヒールパンプス

屈曲性とグリップ性にすぐれたアウトソールを使用しているので、上品ルックスでもアクティブに使えるLifeWearです。

パンプスをはくと、
奇跡が起きるって、
信じている私がいる。

松浦弥太郎
087 WOMENポインテッド
フラットシューズ
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LifeWear Story 100とは。

ユニクロには、
流行に左右されず、
けれども、決して古びることのない、
長い間、作り続けている普通の服がある。
品揃えの中では、
とても地味で目立たない存在である。
コマーシャルにもあまり出てこない。

それらは、ユニクロが、
もっと快適に、もっと丈夫に、
もっと上質であることを、
長年、愛情を込めて追求したものだ。

それらは、ユニクロの人格と姿勢が、
目に見えるかたちになったものであり、
丹精に育てているものだ。

昨日よりも今日を、今日よりも明日と。

手にとり、着てみると、
あたかも友だちのように、
その服は、私たちに、
こう問いかけてくる。

豊かで、上質な暮らしとは、
どんな暮らしなのか?
どんなふうに今日を過ごすのか?
あなたにとってのしあわせとは何か?と。

そんな服が、今までこの世界に、
あっただろうかと驚く自分がいる。

ユニクロのプリンシプル(きほん)とは何か?
ユニクロは、なぜ服を、
LifeWearと呼んでいるのだろう?
LifeWearとは、どんな服なのだろう?

ここでは、LifeWearの、
根っこを見る、知る、伝える。
そして、LifeWearと、自分にまつわる、
ストーリーを書いていきたい。

LifeWear Story 100は、
LifeWearと僕の、旅の物語になるだろう。

松浦弥太郎

松浦弥太郎
松浦弥太郎

エッセイスト、編集者。1965年東京生まれ。
2005年から15年3月まで、約9年間、創業者大橋鎭子のもとで『暮しの手帖』の編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。現在は(株)おいしい健康の取締役に就任。数々のメディアで、高い審美眼による豊かで上質な暮らし提案に努めている。新聞、雑誌の連載の他、著書多数。ベストセラーに「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」他多数。NHKラジオ第一「かれんスタイル」のパーソナリティとしても活躍。

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