アシャとの会話をきっかけに、僕は自分の家族のことを思い出していた。
実を言うと、家族のことを思うと、さみしくなるから、できるだけ考えないようにしていた自分がいた。両親とはしばらく連絡もとっていなかった。
僕と違ってアシャは、事あるごとに、遠く離れて暮らす自分の家族を思い出し、電話で話したり、手紙をやりとりしたり、そんなふうに、そばには居ないけれども、いつも家族と一緒にいる生活が、彼女のすべてを支えていた。
僕はそんなアシャがすてきに思えたし、うらやましかった。
ある時、「僕はしっかりと自立したいんだ」とアシャに言ったとき、「何から自立したいの?」と聞かれてドキッとした。
「たとえば、家族から……」と答えると、「どうして家族から自立する必要があるの? 家族はみんなでひとつよ。ずっと助け合うし、ずっと支え合うし、ずっと愛し合うのが家族よ。自立なんて違うと思う。逆に、あなたはもっと自分の家族を愛したほうがいい。どうしてあなたは自分の家族のことをたくさん話したがらないの? 家族はあなたの一部でしょ。大好きでしょ? 愛しているでしょ? 自分のことを誰かに知ってもらいたければ、家族のことをもっと話さないと、あなたがどういう人だかわからないわ。私があなたという人を好きになるということは、私はあなたの家族も好きになるということよ」
アシャの言うことはもっともだった。家族から自立するなんて、なんだかおかしな考え方だと思った。でも、そんなおかしな考えをしていた自分がいたのも本当だった。
「自立は大切なことだと思う。けれども、自立というのは、あくまでも、この社会と自分のひとつの関係性であって、家族に対するものではないわ。人が人として生きていくためには家族という大切な存在が、家族それぞれの帰る場所であり、愛するものであり、守るものであり、もっとも感謝するべきものよ。何度も言うけれど、私はあなた一人を愛しているのではなく、あなたというあなたの家族も愛しているのよ。だから、私はあなたからも、私という家族を愛してもらいたいから、いつも私の家族のことをあなたに知ってもらいたくて、いろいろと話しているつもり。わかる?」
こういう時、いつもアシャは、僕とまっすぐに向き合って、僕の両手を持って、しっかりと目を見て話した。
「だから、あなたはあなたの家族にもっと頼ってもいい。甘えてもいい。家族それぞれがそうやって助けあって生きていくのよ。私はニューヨークに来て、ずっと一人だけど、自分のことすべてを、いつも家族と分かち合うようにしているの。あなたのことだってみんな知ってるのよ。だからこそ、こうやって一人で暮らしていけるし、仕事もできるし、夢を追うこともできるのよ……」

アシャは窓の外をぼんやりと見た。そしてこう言った。
「あなたは私と家族になりたいと思ったことある?」と。