ペギーの家は、イーストヴィレッジの格式高いアパートの三階だった。築年数を聞くと100年だと言う。ペギーの仕事は、インテリアデザイナーで、主にニューヨークのレストランやカフェの内装を手がけているらしい。
窓が大きく、天井が高く、広々とした部屋には、古い北欧デザインの椅子やソファ、家具で統一されていて、とても洗練されていた。
「彼の荷物はここにあるの。ちょっと手伝ってもらっていいかしら」と言って、ペギーは納戸のような小さな部屋の扉を開けた。
そこにはダンボールに入った荷物が整然と積み重なって置かれていた。「『BOOKS』とペンで書かれた箱をここから出してみましょう」とペギーは言った。
「BOOKS」と書かれた箱は、十数個あった。僕らはそのひとつひとつをていねいにリビングに運び出し、「Ballet」を手分けして探す作業に入った。
箱を開けると、その中は、ほとんどがバレエやダンス、演劇のパンフレットばかりだった。
「これらすべて、彼が観てきた舞台芸術の軌跡なのね……」とペギーは言った。
「ここにあるのは四十年代から六十年代の様々な舞台芸術のパンフレットだけど、この時代のパンフレットは、ただのパンフレットではなく、当時のアーティストの手による、アートブックの域に達するものばかりなんだ。見てごらん、これはコクトーのイラストがリトグラフで刷られている。これはファッションイラストの巨匠クリスチャン・ベラールだし、これも画家のヴェルテスだし、これはマチスの絵だ。もしこれらを売ったら、大変な額になりそうだ……」ジャックは興奮しながら僕らに話した。
確かに、これらはパンフレットとは言え、紙質から印刷、デザインまでが、単なる印刷物ではなく、アーティストによる作品ポートフォリオのようだった。
ジャックいわく、コレクターが見たら、引っくり返って驚くお宝ばかりらしい。
「ねえ、これじゃないかしら……」とペギーは、ある箱を開けて言った。
僕とジャックは手を止めて、ペギーが手にした箱のところに転がるようにして移った。
箱の中を見ると、固い紙のブックケースに収まった、小さくて薄い写真集が、びっしりと詰まっていた。その冊数は、おそらく三十冊くらいだろう。

ジャックが、中からそっと一冊を取り出すと、ブックケースには大きく「Ballet」とタイトルが印刷されていた。
「すごい……。これ全部『Ballet』だ。しかも新刊の状態のまま保管されている…」呆然としたジャックは、声にならないような声で言った。
ペギーがその箱の中にあった一通の封筒から便箋を出して開いた。
「これ、そのブロドヴィッチという人から彼にあてた手紙だわ。この写真集の刊行に協力してくれてありがとう、という内容ね…。あ、白黒のピンぼけ写真が何枚か入ってるわ」とペギーは言った。その写真は、写真集の原稿になったブロドヴィッチによるオリジナルプリントであることに違いなかった。
「シャツと花束」のジンクスは確かだった。
「だめだ……。こんなことってあるのか。見なかったことにしたい……」と、ジャックは言って立ち上がり、その場を離れ、窓辺へと歩いた。