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TODAY'S PICK UP

浮世絵を求めてボストン美術館へ

Apr 07, 2026
UT
ユニクロは2017年にボストン美術館とパートナーシップを結んで以来、日本美術に着想を得た多彩なコレクションを発表してきた。なかでも、同館が世界屈指のコレクションを有する「浮世絵」にフォーカスしたシリーズは高い人気を誇る。今季は「ブルー」と「アニマル」をテーマに、新たなTシャツが登場。

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冨嶽三十六景神奈川沖浪裏(浮世絵ブルー)
(ふがくさんじゅうろっけいかながわおきなみうら)


今季は「ブルー」と「アニマル」をテーマに、新たなTシャツが登場。1870年創立のボストン美術館は、1909年に現在の地へ移転。建築家ガイ・ローウェールが設計したボザール様式のファサードの建物には、先史時代から現代までの50万点以上の作品が収蔵されている。こちらは葛飾北斎を代表する「冨嶽三十六景」シリーズの中でも〈The Great Wave〉として世界に知られる名作のひとつ。


東海道五拾三次大尾 京師(浮世絵ブルー)
(とうかいどうごじゅうさんつぎたいび けいし)


一図につき複数の版を所蔵するボストン美術館の浮世絵コレクション。歌川広重の風景画は、プルシアンブルー(ベロ藍)の微妙なグラデーションが特に強い印象を残す。広重の「京都 三条大橋」(『東海道五拾三次』より)が、美術館正面玄関を入り見上げた先に広がる、ジョン・シンガー・サージェントの壁画の青と、静かに響き合う。


猫鼠合戦(浮世絵アニマル)
(ねこねずみかっせん)


犬の張り子に乗った鼠の大将が軍勢を率いて登場。「進め!」の合図で進軍するも、形勢不利となった猫たちは、あわてて退散する。その一場面を浮世絵版画で表現した、月岡芳年(つきおか・よしとし)の作品。正面玄関の裏手から臨むネオクラシカル様式の壮麗な建築も圧巻だ。


天竺渡大象之図(浮世絵アニマル)
(てんじくわたり だいぞうのず)


動物を描いた浮世絵師として名高い一龍斎芳豊(歌川芳豊)(いちりゅうさい・よしとよ/うたがわ・よしとよ)による作品。当時の日本では珍しかった象を、荒々しさと愛嬌を併せ持つ姿で生き生きと描き出している。現代建築の巨匠ノーマン・フォスター設計の新館の光溢れるモダンな空間に、時代を超えた視点が交差する。

ボストン美術館 浮世絵コレクションの舞台裏



ボストン美術館に収蔵される7枚の『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』(葛飾北斎)の中で一番状態の良い一枚を特別に閲覧。


江戸時代、庶民の文化として親しまれた浮世絵。19世紀に海を越えて世界へと広まり、多くの美術愛好家によって収集された。ボストン美術館の浮世絵コレクションは、質・量ともに世界トップクラス。学芸員、保存修復家、研究者など、浮世絵に携わるプロフェッショナルの案内のもと、館内の舞台裏へ。貴重な作品群とともに、知られざる「色」の物語を読み解く。

浮世絵ブルーの秘密


「そもそも『冨嶽三十六景』はすべて青だったことを、ご存じでしょうか?」。ベッティーナ・バー記念保存修復師名誉職のジョーン・ライトさんは、そう説明しながら葛飾北斎の版画作品を保管箱から出してくれた。「のちに時間を掛けて多彩な『冨嶽三十六景』シリーズが生まれてくるわけですが、北斎にとっても、同時代のほかの作家たちにとっても、ブルーという色は作風にとても重要な転機となりました。同じ絵図でも並べてみると、青と多色刷りではまったく違ったムードを醸し出していると思いませんか。例えば、北斎の『甲州石班澤(こうしゅうかじかざわ)』。青い風景は早朝を連想させ、大気に霧が満ちた静けさを感じさせます。一方で多色刷りの作品はどちらかというと午後の雰囲気。見る人次第ですが、色のもたらす効果がいかに大きいかがうかがえます」藍摺絵(あいずりえ)として知られている、幾重もの青を駆使したいわばモノトーン・ブルーの作品は、どこかモダンなデザイン性を持ち合わせる。この青の世界を団扇絵(うちわえ)で最初に取り入れたのは、北斎と同時期に活躍した渓斎英泉(けいさいえいせん)であるとジョーンさんは言及する。「艶やかな模様の着物を着た遊女を描写した英泉の『美人画』シリーズが、青の旋風を引き起こしたのです。北斎も感銘を受けたのでしょうね。青のパレットを風景に展開した藍摺絵の『冨嶽三十六景』が間もなく世に登場します」

葛飾北斎が表現した壮大な青


今回のUTコレクションの主役はこの「浮世絵ブルー」。ボストン美術館にも収蔵されている、世界一の浮世絵傑作として愛される北斎の『神奈川沖浪裏』〈The Great Wave〉にとっても、青は最も重要な表現となる色。白波の影、波の質感、背景の富士の山肌に、船乗りたちの着物の青。観察すると実に巧みに多彩な青のトーンが起用されているのがわかる。「当美術館には7点の『神奈川沖浪裏』が収蔵されています。なかでも一番状態の良い作品を今日は特別に出してきました」。熱のこもった語勢で説明してくれたのは、日本版画に特化した学芸員のサラ・トンプソンさん。「日本国外では世界一の浮世絵コレクションを持つことで知られる、当館の収蔵点数は5万点を超えています。その膨大な作品をカタログ化し、そこから企画展をキュレーションしていく中で、保存修復師との密な連携は欠かせません。さらにジョーンは修復仕事の傍ら、個人的な興味から1999年に、浮世絵に使われる色素を研究する〈浮世絵色素研究(Colorant Research)〉を立ち上げました。それだけ色にこだわる彼女の視点から、浮世絵におけるブルーを検証していきましょう」


学芸員のサラ・トンプソンさん。日本版画の展示カタログを何冊も執筆しているスペシャリスト。



浮世絵を変えた青の変遷


「1805年頃の刷物を見ると、露草の花びらから採取した青花と藍による2種類の青が使われていたことがわかります。水溶性のある青花のブルーは儚く、不意に湿気や水分にさらされると緑っぽい黄色に褪せてしまいます。友禅染めではその性質を利用して、下絵を描くのに使われていたとか。一方、藍のブルーには渋みが含まれ、時間の経過とともにグレーがかったグリーンのような色になることも。それでも摺師の技量で薄付し、明るいトーンに仕上げることも可能でした。青花の青は紫がかっていますが(青花と紅花を調合してしかできない特殊な紫は、長く職人に好まれ続けたという)、よく見ると版の端の方に黄色がかった青味を特定できることもあります。
やがて1820年頃になると、高価なプルシアンブルー(発祥の地ベルリンにちなんでベルリン藍、ベロ藍とも呼ばれる)がアジアでも生産されるようになります。これまで手の届かなかったこの青が、庶民の美術であった版画に見合う廉価な素材となったのでしょう。もともと18世紀にドイツで開発された化学的に調合された鮮やかなこの顔料は、先に油絵に影響を及ぼしましたが、浮世絵にもブルーの大流行をもたらすことになりました」
安定した透明感を可能にしたプルシアンブルーの導入で、水面や空のトーンによる表現が一気に花開いていったのだろう。北斎の大波も、このブルーなしには存在していなかったといっても過言ではないかもしれない。「優れた藍摺絵は粒子の細かい白黒写真をも彷彿とさせます。陰影が本当に見事で、とても叙情的なブルーだと思いませんか」

色のオリジンをたどる


色素研究をライフワーク的に立ち上げたジョーンさんにとっても、青はとても深い意味を持つ色であることが伝わってくる。「保存修復師の仕事は担当コレクションの管理にまつわることすべて。保管環境を常に向上させ、企画展や巡回展ごとに特定の作品の修復に取り組みます。でも私個人の関心は色にありました。大学院ではイタリアのキアロスクーロ(明暗の意)やフランスのメゾチント(版画の凹版技法のひとつ)など、陰影にまつわる分野を勉強しましたが、日本版画のエレガントな技法にも興味がありました。ボストン美術館ではアジア美術全般を担当するようになり、浮世絵作品に触れるうちに、その華麗な色はどのようにして何から作られているのだろう?と自然と思い巡らすようになったのです」。それからジョーンさんは、日本に行く機会があるたびに、版画染料を持ち帰り、化学専攻の大学生インターンたちと一緒に分析とサンプル再生に取り組んだりもした。しし、さまざまな文献を手に取っても、膨大なコレクションを前に、探究心は深まるばかりだったという。「浮世絵の色素に関する化学的な分析は、ほぼ皆無だと言っていいでしょう。だから自分で解明していくしか知る方法がなかったのです」。残業も週末出勤もいとわず、情熱を注ぎ込んだジョーンさんは最近、定年退職を迎えた。もともと大学院研修生として肩を並べたミチコ・アダチさんが現在はベッティーナ・バー記念准保存修復師としてジョーンさんの志を継ぎ、色素研究にも日々邁進している。
早朝に咲く青花を採取し、花びらの鮮やかな青が酸化して変色する前に水で揉み、それを和紙に幾重にも塗り閉じ込める。なんとも詩的な作法で採取される青花の栽培は、細々ながら今日も続いている。「色をより深く理解するために、そういった生産者や職人さんを訪ねるのも、色素研究の大切な一環なのです」とミチコさん。


左上:歌川国貞『藍摺遊女(あいずりゆうじょ)』シリーズを前に、修復師のジョーン・ライトさん。左下:(上から)青花、藍、プルシアンブルーの青色サンプル。右上:北斎の波の構図を並べると、大波の鮮やかなプルシアンブルーと青花のグレーがかったブルーの違いは歴然。右下:現在、保存修復と色素研究を率いるミチコ・アダチさん



浮世絵を継承するという使命




浮世絵を支える守り人


今回、案内してくれた浮世絵のプロフェッショナルは、(写真左から)研究科学者のミシェル・デリックさん、保存修復師のミチコ・アダチさん、学芸員のサラ・トンプソンさん、浮世絵色素研究の創設者ジョーン・ライトさん。ミシェルさんとジョーンさんは美術館を定年退職された現在も研究に携わっている。こうした個人の熱意によって世界に誇る浮世絵コレクションは守られているのだ。近年ではアムステルダム国立美術館(Rijksmuseum)の色素研究の設立も指南した。また、ミシェルさんが創設したボストン美術館のオンラインデータベース「CAMEO」は1999年より一般の人々とリサーチャーに向け無料公開され、〈Ukiyo-e Print Colorant Database〉のほか、〈Materials Database〉などもここに共有されている。

色の研究から表現の奥深さを発見


ボストン美術館では、作品を囲みながら修復師と分析科学者の間で交わされる会話を大切にしている。そのため、館内に科学リサーチラボが併設されている。共同で色の研究分析を進めていく中で、いくつもの新しい発見があったという。一例として、ジョーンさんは、錦絵と呼ばれる多色刷りの創始者、鈴木春信(すずきはるのぶ)の数冊からなるシリーズ絵本『吉原美人合絵本青楼美人合(よしわらびじんあわせえほんせいろうびじんあわせ)』を見せてくれた。「この絵本は初期の色を研究するのにもってこいの作品で、色の遊び場であると私たちは考えます。限られた鉱物や植物を原料とした色素は、季節の移り変わりに合わせたさまざまな調合により、色を変えることで四季の躍動感を生き生きと表現しています。春には緑やピンクが使われ、冬になれば青やより暗い色が主となります。目視で藍と仮定した青には煤(すす)のようなグレーの色があわさっていることが判明し、驚きました。さらに、研究を進めていく中でわかったのは、同じ赤やピンクの表現でも、一冊目には、高価な素材であったにもかかわらず紅花だけが使われていました。それに続く絵本では、主に茜を原料とし、最後の一冊になると、また紅花だけが使われています。春に始まり春に終わる。桜の特別なピンクは紅花でしか表現できないものだったのでしょう」とジョーンさんは思いを馳せる。
続いてミチコさんがこう語る。「藍と茜は古くから世界的に使われてきた染料ですが、ジョーンと私が研究を始めた当初、明治時代の文献にはピンクと赤はすべて紅花だと記されていたそうです。でも研究によって、実際には茜を使っていたことがわかりました」。文献と言っても江戸時代の摺師が記した色素のレシピが残されているわけではない。ボストン美術館の裏舞台では、こんな地道な研究が今日も続いているのだ。


左:1999年に始まった浮世絵の色素研究の一環に、草木や鉱物を使っての素材再生がある。中央:最初に多色刷りを導入したとされる鈴木春信の『絵本青楼美人合』 右:館内併設の科学リサーチラボの分析技術のひとつ、ファイバーオプティックス反射分光法



ボストン美術館の浮世絵の見どころ


浮世絵の中の動物たち


浮世絵には、その時代の風情や街風景ともに人々の暮らしやその心を捉えた非日常の出来事などが各々の絵師の流儀で描き出されている。そこには動物の姿もある。身近な動物から、当時は珍しかった象のような異国の動物まで、擬人化されたり、愛嬌たっぷりに描かれたり、絵師の想像力を掻き立てていたようだ。例えば、猫。UTコレクションにも登場する月岡芳年(つきおかよしとし)の『猫鼠合戦(ねこねずみかっせん)』は生来のライバルである猫と鼠の立場が逆転して、鼠が優勢となった戦図である。このユーモア溢れる描写の中で鼠たちは凛々しく躍動し、知恵と数で猫をやり込めて下剋上を成し遂げる。その鼠が犬の張り子に乗って猫を脅しているクライマックスのシーンがTシャツに表現された。また、歌川国芳(うたがわくによし)の『猫飼好五十三疋(みゃうかいこうごじゅうさんびき)』は、題に、〈其地口(ままじぐち)〉と前置きがあるように(地口は洒落のこと)、東海道の53の宿場の名前を猫の仕草で語呂合わせした、実に微笑ましい作品。学芸員のサラさんによると、国芳の斬新なスタイルはアニメとも比較され、今とても注目されているのだという。「これは近年コレクションに加わったばかりで、まだ美術館に展示もされていない作品です。猫好きとされている国芳は、生涯を通してたくさんの猫を作品の中に描きましたが、ボストン美術館のコレクションにはそれ程数がなかったという事実があります。当美術館の浮世絵コレクションの6割はウィリアム・スタージス・ビゲローからの寄贈品なのですが、彼は犬派だったのかもしれませんね」


左:月岡芳年『猫鼠合戦』より。右:歌川国芳『猫飼好五十三疋』



コレクションの立役者、ビゲロー


ボストン美術館の浮世絵コレクションには200以上のコレクターからの寄贈品が収蔵されている。ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)といった世界屈指の大学施設が隣接するボストンの土地柄もあるのだろうが、この美術館には独自の磁場が感じられる。
ハーバード大学卒の医師で日本美術の研究家であったウィリアム・スタージス・ビゲローは、明治時代に日本で暮らし、帰国後はボストン美術館の理事を35年間務めた。浮世絵もさることながら、ビゲローが寄贈した日本美術品は7万5千点にも及び、このコレクションの存在がボストン美術館を世界でも随一の日本美術の守り手として有名にした。またビゲローは、以前から交流のあった美術史家の岡倉天心をボストン美術館の日本美術品の監修に迎えたという逸話もある。今年はビゲロー没後100年。それにちなんでビゲロー・コレクションの企画展示に取り組んでいるところだという。
世界に類を見ないボストン美術館の浮世絵コレクション。その豊かな作品群には、約6カ月ごとに開催される企画展を通して触れることができる。最も多く所蔵する江戸時代の作品には、主に植物ベースの色が使われているため、とりわけ環境からの影響に繊細だ。美術館にはコレクションの保存を念頭に設置された、特別照明の浮世絵専門の展示室があるが、会期が終わると、それらの作品は最低5年は収蔵庫に大切に保管されるのだという。通常の展示企画よりも早い頻度だが、その分多様な観点からキュレーションに取り組めるとサラさんは語る。「テーマを起点に選り分けた作品を検討していくプロセスを通して、毎回新たな発見をしています」


ボストン美術館
Museum of Fine Arts, Boston
Address: 465 Huntington Avenue, Boston, MA 02115, U.S.A.
Hours: 10am-5pm (Sat-Mon, Wed), 10am-10pm (Thu-Fri)
Closed: Tue, Jan 1, Patriots’ Day (3rd Mon in Apr), Jul 4, Thanksgiving (4th Thu in Nov), Dec 25
HP: https://www.mfa.org/

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浮世絵ブルー UT
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浮世絵アニマル UT

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