北欧でもっとも<br>愛されるブランドに。

北欧でもっとも
愛されるブランドに。

ストックホルム1号店を
提案したニコリーナ・ジョンストンさんは
右ウィングのサッカー選手でした。

October 2023 No.25

The Power of Clothing

スウェーデンでユニクロが愛され支持されるため、私にできること。

2018年、ストックホルムにユニクロ1号店がオープン。
スウェーデンへの出店を、社内コンベンションで提案したのが現・スカンジナビア最高執行責任者ニコリーナ・ジョンストンさん。
服づくりのお客様中心主義と、環境への配慮の透明性が、ユニクロを北欧でもっとも愛されるブランドにするだろう、と考えています。

Portrait photographs by Thomas Degner

私の祖父はフィンランドに生まれましたが、国連で働きはじめてからは、人生の長い時間をニューヨークで過ごしました。祖父の娘である私の母は、アメリカ人と出会って結婚。私自身はスウェーデンに生まれ、育ちました。私の深い根っこには、北欧の文化がありますが、アメリカ文化の影響も強く受けていますし、パリのユニクロ グローバル旗艦店で店長として働いていた際には、人や文化の多様性を実感し、学んできました。さまざまな考えかたに接するのは、人生にとっても仕事にとっても貴重な経験です。常識だと思っていたことが、思い込みに過ぎなかったと気がつくきっかけにも、なってくれますから。

スウェーデンに1号店をオープンする

私の祖父はフィンランドに生まれましたが、国連で働きはじめてからは、人生の長い時間をニューヨークで過ごしました。祖父の娘である私の母は、アメリカ人と出会って結婚。私自身はスウェーデンに生まれ、育ちました。

私の深い根っこには、北欧の文化がありますが、アメリカ文化の影響も強く受けていますし、パリのユニクロ グローバル旗艦店で店長として働いていた際には、人や文化の多様性を実感し、学んできました。さまざまな考えかたに接するのは、人生にとっても仕事にとっても貴重な経験です。常識だと思っていたことが、思い込みに過ぎなかったと気がつくきっかけにも、なってくれますから。

スウェーデンに1号店をオープンする

スウェーデンに出店することを思い切って提案したのは、ユニクロの服がスウェーデン人が求めるものに重なると確信したからです。服の素材について、服の裏側の表示ラベルをしっかり確認してから買うのはスウェーデンで当たり前ですし、高品質であるかどうかへのこだわりも強い。ユニクロがLifeWearにこめた思いや哲学は必ず伝わり、歓迎されるはずだと考えていました。

ストックホルムの王立公園に隣接する1号店は、スウェーデンのモダニズム建築を代表する建築家であり都市計画家でもあったスヴェン・マルケリウスが、1969年に設計したビルをリノベーションしたものです。マルケリウスはニューヨークの国連本部の設計に、ル・コルビュジェ、オスカー・ニーマイヤーらとともにデザイン顧問委員会委員として参画しています。機能主義的な空間設計には、LifeWearの本質にも通じる現代的な普遍性が漂っています。

オープン前日のイベントには母や私の兄弟も来てくれました。母は私の帰国をたいへん喜んで、しかも素晴らしい店内の様子に感極まったのか、その場にいらした柳井社長にいきなり近づいてハグしたんです。びっくりされたと思いますが、すぐに「いっしょに写真を撮りましょう」と笑顔で柳井さんが声をかけてくださって。そのときの記念写真は今、祖父の携帯の待ち受け画面になっています。

オープン後まもなく、私の予測が外れたこともありました。冬が寒いスウェーデンだからヒートテックが飛ぶように売れると思い込んでいたのです。ところがそうではなかった。スウェーデンは、住宅もビルも交通手段も、暖房が徹底していますから、インナーウェアの保温性はさほど求められていなかったんですね。戸外ではくヒートテックレギンスは大好評でしたが。予測が外れると、次はどのようにアプローチしようか、と頭が活発に働きはじめます。失敗もいい刺激になります。

RE.UNIQLO STUDIOでは日本の伝統的な刺繍「刺し子」も対応。<br>

RE.UNIQLO STUDIOでは日本の伝統的な刺繍「刺し子」も対応。

半世紀以上前に建てられたビルをリノベーションした「クングストラッドゴーダン」店。

半世紀以上前に建てられたビルをリノベーションした「クングストラッドゴーダン」店。

お客様中心主義の新しい提案

ストックホルムの1号店がオープンした翌年に、スウェーデンのオリンピック・パラリンピックチームとのパートナーシップが始まりました。高品質な素材を使ったウェアの、美しく機能的なデザインの完成度を上げるため、選手のフィッティングを繰り返す現場に何度も立ち会いました。

お客様の感想や、商品に望む具体的なことを参考に、デザインを改良したり次の商品のヒントにする──品質やデザインの洗練はフィードバックがあってこそです。私たちが常にお客様中心主義であることの、象徴的な場面だと思いながら立ち会っていました。来年も、ユニクロの公式ウェアを着た選手たちが活躍してくれるでしょう。とても楽しみにしています。

服の役割はさまざまです。身体能力の発揮ばかりでなく、防寒など身体の保護、社会参加や自己表現のため……ユニクロのLifeWearは、服の根源的な目的に応えるものです。トレンドを追う一年限りのファッションよりも、10年経っても着続けたい、と思ってもらえる息の長い服づくりが私たちの目指すものです。

服を手作業で補修したり、お洒落な加工をプラスして楽しんでいただく「RE.UNIQLO STUDIO」がスウェーデンの店でもまもなく始まりますが、祖父の時代には家庭で普通にやっていたかもしれませんね。古くて新しいことだと思います。

「RE.UNIQLO STUDIO」は、お客様ご自身が愛用する服を、可能な限り長く着ていただくための新しい提案です。お客様中心主義そのものでありながら、同時に、資源を貴重なものとして、長く使っていただき、環境にかかる負荷を減らすことにもつながる試みだと思っています。

LifeWear「服」の
新たな産業を目指して

地球の未来を考えた服づくりとは、何だろう?

LifeWear「服」の新たな産業を目指して
SWIPE

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安心していただくための透明性

長年愛用された服を無駄にしない仕組みは、これまでもお客様のご協力で回収した服で行われてきました。世界各地での難民支援や、リサイクル素材としても活用されています。ダウンジャケットは、新しいテクノロジーでリサイクルダウンジャケットに生まれ変わるようになりました。さまざまな方法で服や服の素材を循環させたい、という考えかたが、LifeWearの根幹にあります。

服をつくり、販売するときの、工場や店舗でのCO₂の排出量や水の使用量、廃棄物を減らすことにも取り組んでいます。そのためにどのような新しい技術を採用し、どのような効果が生まれているのか。こうしたことをわかりやすく、具体的に、透明性をもって伝えてゆくことが大事だと思っています。透明性があってこそ、企業は信頼されるでしょう。環境と向き合うブランドのつくる服、と具体的に理解した上で、安心して身につけたいと考えるお客様は、これからもっと増えてゆくのではと考えています。

ニコリーナ・ジョンストン

ニコリーナ・ジョンストン

スウェーデン・ウプサラ生まれ。2014年、「ユニクロ・マネージャー・キャンディデート(UMC)」(経営者候補)として入社。2016年、グローバル旗艦店「ユニクロ パリ オペラ店」の店長に。2020年、ユニクロ・スカンジナビアのCOOに就任。

右ウィングでゴールをアシスト

学生時代に優れたサッカー選手として活躍した母の影響もあって、私も子どもの頃からサッカーに夢中でした。私は右ウィングで、右サイドを駆け上がって、ゴールをアシストするパスを出すのが得意でした。やがてチームのリーダーに選ばれるようになりました。人を監督・指導したり、いいプレーを引き出すのは自分の性にも合っていたと思います。残念ながらプロの選手にはなれませんでしたけれど。

スウェーデンのユニクロでは、オリンピック・パラリンピック委員会との提携で、子ども向けの「ユニクロドリームプロジェクト」というイベントを各地で行っています。小さいうちからスポーツの楽しさを経験してもらおうというイベントです。スウェーデンを代表する選手にも参加してもらい、各地で開催しています。家庭の経済的な事情によって誰もが等しくスポーツに触れられているとは言えないとわかっていましたから、アイスホッケーやスキーなど用具が必要でお金もかかる種目にも気楽に参加してもらえるよう心がけています。「ユニクロドリームプロジェクト」にはこれまで約42,200人の子どもたちと約600の学校が参加してくれました。

服の生産にかかわる環境への配慮も、LifeWearを長く活かし続ける仕組みも、子どもたちのスポーツ参加の機会の提供も、すべて私たちがいま生きている世界の、未来に向けた活動なのだ、という意味で目指す方向は同じです。ユニクロが北欧でもっとも愛されるブランドになるため、できることを進めていきたいと願っています。

トップアスリートを招いたスポーツイベントをスウェーデン各地で開催している。

トップアスリートを招いたスポーツイベントをスウェーデン各地で開催している。

新機能を取り入れた設計で<br>環境のためにできること。

新機能を取り入れた設計で
環境のためにできること。

巨大なロゴの外見から「UNIQLO LOGO STORE」と呼ばれる、群馬県の「前橋南インター店」は、子どもの遊び場、花売場、カフェ、ユニクロの服をリペア・リメイクするコーナーまで揃っています。
太陽光パネル、エアカーテン、CO₂・温度センサー、天窓、リサイクル断熱材……などの相乗効果により、従来のロードサイド店*で使われている電力の約55パーセントの削減にチャレンジしています。

*同じ群馬県内にある「ユニクロ 富岡店」が「ユニクロ 前橋南インター店」と同面積と想定した場合の年間消費電力の比較です。

Illustrations by Yoshifumi Takeda

環境に配慮しながら、
店舗の魅力を広げるには。

髙木肇子さん

髙木肇子さん

ファーストリテイリング出店開発部
シニアマネージャー

「前橋南インター店」は、店舗の三つのコーナーに置かれた赤いユニクロのロゴから、「UNIQLO LOGO STORE」と呼ばれています。お客様が買い物をされてそのまま出口に向かう、という従来のスタイルにとどまらずに、店内でさまざまな時間を楽しむことができるような、これまでにない魅力を広げられないか──そのような可能性を探りながら、「UNIQLO LOGO STORE」は誕生しました。

天気のよい日には、芝生のガーデンで過ごしていただけますし、店内のカフェスペースでは、コーヒーや地元のスイーツでおしゃべりしながら、ゆったりできます。お子様に滑り台で遊んでもらったり、絵本を読んだりできるスペース、季節を感じていただける花売場も。ユニクロの服のリペアやリメイクをご相談しながら、手作業で承るコーナー「RE.UNIQLO STUDIO」も設けました。

店舗でもっとも多くのエネルギーを消費している照明や空調の電力を大幅に削減する、環境への配慮もテーマでした。設計時には、これまでの電力*の約55パーセントを削減できると試算しています。設計を担当してくださった竹中工務店と時間をかけて検討を重ねて、さまざまな技術を導入し、これからのユニクロの新しい店舗の原型をつくりあげることができたと実感しています。

若い世代の女性店長は、環境に配慮するのが当然、と感じています。以前、店長を務めていた店舗も同じ群馬県内なので、地域から愛される店舗をめざしつつ、県外のお客様にも新鮮な驚きをお届けしたい、と考えているようです。地域のカラーも感じられる店づくりにご期待ください。

設計しながら、
頭の片隅にあったのは
服の機能でした。

花岡郁哉さん

花岡郁哉さん

竹中工務店東京本店設計部
アドバンスト デザイン グループ長

建物と服は、外部と内部を調整するという意味で、似たところがあります。建物は雨風や厳しい気温から人間を守ってくれますが、ヒートテックやエアリズムも着ている人間に快適さをもたらします。しかも、着ている人の体温や湿度によって機能が働くので、エネルギーを余計に使っているわけではない──こうした服の役割が、今回の設計では常に頭の片隅にありました。

「創エネ」と「省エネ」を実現する

前橋の郊外型新店舗は「地域に開かれた店」であることが大きなテーマでした。敷地は空を広く感じる場所です。外から店内の様子がよくわかり、店内から外の風景が見渡せる、開放感のある空間がふさわしいと考えました。

透明感のあるファサード(正面)の上に、深めのひさしを出すことで、昔の日本家屋の縁側のような場所も用意しました。ここでコーヒーを飲んだり、イベントを開催することも可能です。内と外を橋渡しするスポットですね。

環境に配慮するための創エネと省エネを実現する必要がありました。屋上に設置した太陽光パネルによる創エネでは、年間の電力使用量の約3分の1をまかなえる試算です。省エネには複数の対策を用意しました。外光が入りやすい設計にし、天井に天窓も設けたので、照明用電力を削減できました。
天候や季節、時間帯によって光は変化しますので、センサーを使って最適な明るさを保つ仕組みもあります。朝、昼、夕刻の光の変化を感じられ、店舗で働く人も、時間の自然な経過を感じられるはずです。

空調機器は混雑度によって変化するCO₂濃度や店内温度を感知して作動します。2カ所ある出入り口にはエアカーテンを設置して、室温の上下を最小限にとどめ、天井と壁の断熱材には、着なくなったユニクロの服を回収して細かく裁断したものが含まれるリサイクル素材を採用しました。

美意識と機能性

ユニクロの服のデザインや縫製の細部の詰めに驚くことが多いです。美意識と機能性が一体化しているんですね。店の細部も負けじと徹底的にこだわって、ミリ単位の調整を行いました。建築を学ばれている方が細部をご覧になれば、発見があると思います。

赤い巨大ロゴは佐藤可士和さんとの協働作業です。ここにはブレースという耐震構造が隠れています。ロゴは単なる飾りではなく、建物のいわば要にもなっています。

ユニクロ 前橋南インター店
SWIPE

SWIPE

❶ RE.UNIQLO STUDIO

❶ RE.UNIQLO STUDIO

ユニクロの服のリペアはもちろん、刺繍やパッチなどでリメイクも。長く着ていただくために。

❷ UNIQLO KIDS BOX

❷ UNIQLO KIDS BOX

滑り台もある子ども用スペース。クッションに座って、絵本を読むこともできます。

❸ UNIQLO FLOWER

❸ UNIQLO FLOWER

服のように暮らしを彩る花。季節の生花、鉢植えをご用意。ギフトラッピングもいたします。

❹ UNIQLO COFFEE

❹ UNIQLO COFFEE

コーヒー各種、ジュース、地元菓子店のクッキーなども。テーブルでひと息つけます。

A. エアカーテン

既存店でお客様の出入りとドアの開閉時間などを調査。自動ドアにエアカーテンを設置し、店内の気圧と外気とのバランスをコントロールすることで、ドア開放時の外気流入と、温度調節された室内空気の流出を効果的に抑制します。

B. リサイクル断熱材

着なくなったユニクロの服を回収し、細かく裁断したうえで、その素材を約30パーセント活用したリサイクル断熱材を開発しました。外壁および天井内部にこの断熱材を使用、空調にかかるエネルギー量を削減します。

C. 太陽光パネル

店舗の年間消費電力の約3分の1を屋上の太陽光パネルによってまかなうことになり、これは、従来のユニクロのロードサイド店と比較*して、店舗における同消費電力の約15パーセントをまかなうことができるという試算です。

D. 天窓

店内中央の天井には天窓を設置しています。自然採光を活かしながら、明るさセンサーによる照明の自動制御も行い、照明にかかるエネルギー量の一部を削減します。5メートルの天井高と相まって、空間に開放感をもたらします。

E. CO₂・温度センサー

店内の混み具合により変化するCO₂濃度や店内温度を感知して換気ファンが作動します。また、排気する空気から熱エネルギー(温度・湿度)を取り出し、換気の質と量を最適化、店内外の熱エネルギーを効率的に利用します。

ユニクロ 前橋南インター店

住所:群馬県前橋市亀里町2008番

営業時間:10時~20時

店休日:1/1元旦のため店休

取扱商品:メンズ、ウィメンズ、キッズ、ベビー、マタニティ

アクセス:北関東自動車道「前橋南インターチェンジ」から車で約5分

世界で異なる水の事情。
課題へのアプローチを探る。

綿花の栽培、糸や生地の染色、アイロンの工程など、服づくりに水は欠かせません。
水資源の持続可能な利用のため、最新のテクノロジーの導入が進んでいます。
早期の解決が困難な地域固有の水問題には、あらたな貢献を始めました。

Illustrations by Yoshifumi Takeda

衣料品を製造する企業の大きな課題は、水の使用量の削減と汚染防止です。ユニクロは、水の使用量を減らし、汚染防止の定期的排水検査を行っている工場と取引しています。その工場のひとつ、下でご紹介する中国企業「申洲国際」のベトナム工場の話に入る前に、世界各地での水をめぐる問題についてお伝えします。

水をとりまく状況は国や地域によって千差万別です。同じ取り組みを用意しておけば万全ということはありません。自然環境、天候、治水の状況、上水道下水道の整備状況、水の利用をめぐる習慣など、地域特有の課題が潜んでいる可能性があり、地域ごとに実態を探る必要があります。さまざまな角度からのヒヤリングを実施して、個別に課題を探り当て、地域の人々と共同で対策を実施するケースもあります。

飲料水の濾過が必要な地域も

世界でも水のリスクが高いと思われる地域のひとつに、東南アジアで最長、6カ国を横断するメコン川の下流域、メコンデルタ地帯があげられます。最大の問題は、海水が川を遡上して起こる塩害です。農業にも被害が出ており、水道水にまで塩害はおよんでいます。

ユニクロが生産地域で行っている水アセスメントで、塩害の原因についての調査をさらに進めると、気候変動、海面上昇、地盤沈下など、根本的な解決のためには時間のかかる要因がいくつか重なっており、早期の解決は容易ではない、という背景が見えてきました。

ユニクロは水問題に取り組む地元NGOと協議を始め、塩害がひどくなる時期に子どもたちの飲み水の確保が難しくなっている地域を特定し、地域内の保育園、幼稚園、小学校の10カ所に、飲料水の濾過システムを導入することを決めました。緊急時には近隣住民にも開放し、利用してもらうことが可能となります。

水の問題は地域性の高い問題

世界各地で起こっている水の問題には、気候変動などの地球規模の問題が大きくかかわっています。日常的に節水を心がけることが大事だとしても、それが世界各地の水問題の解決につながるかといえば、残念ながらそうではありません。地域のさまざまな条件と直結する水の課題は、個別に実態を把握して、具体的な取り組みが可能な対策を地域の人々と探り、支援を行うことが重要であると考えています。

これからもユニクロは、取引先工場とともに、衣服の生産にかかわる水の使用量の削減や汚染防止の取り組みを継続しながら、水の深刻な問題をかかえる地域の、個別の課題にふさわしい対策を探りつづけていきます。

飲料水の濾過が必要な地域も
水の問題は地域性の高い問題

ベトナムのメコンデルタ地帯で発生している塩害から飲料水を守るため、地元と提携し、学校などへ飲料水の濾過システムを導入した。

最新技術により、
工場で使う30パーセントを
再利用の水で。

何凱(ホー・カイ)さん

何凱(ホー・カイ)さん

申洲国際サステナビリティ部 部長

大学と大学院で、環境と建築を専門に学びました。なかでも水資源の利用と環境保護のテーマには強い関心がありました。水ばかりでなく地球のあらゆる資源は有限です。できるだけ負荷を少なく資源を利用するためには、最新の研究とイノベーションが必要だと考えています。

衣料品の生産を行う企業「申洲国際」に就職し、今まさにその課題に取り組んでいるところです。染色、生地の生産、縫製を行う工場では、エネルギーを使い、水を使います。環境に影響を与えないレベルにする排水処理、排水される水を再利用するための最新のテクノロジー──水の使用量を着実に減らすためのシステムを工場内に構築し、達成すべき数値を毎年引き上げて、実行しています。

水をもっとも使う工程で
できることは何か

工場の立地条件にはいくつもの要素がありますが、なかでも水資源との接続が重要です。ベトナムにある申洲国際の工場「ゲインラッキー」は、ホーチミン市の生活用水を供給している貯水ダムから用水路を経由して取水しています。ダムに溜められた水なので、工場内の施設で水道水のレベルにまで浄化してから利用しています。

水をいちばん使うのは、糸や生地を染める工程です。工場で使う水の全体量の約85パーセントにもなります。残りの約10パーセントはアイロンなどの工程で使用、残りの約5パーセントは工場内で働く人々の生活用水です。食堂やトイレ、消防設備などに使われます。こうした水の量をどうすれば減らすことができるか──これが課題でした。

工場で利用する水の30パーセントを
再利用の水で

染色の工程で使われた水は汚水になります。汚水はすべて、工場内の処理工程に向かいます。処理の段階は大きく分けて3つ。沈殿や濾過などによる物理的処理。薬剤を使って中和するなどした化学的処理。微生物などを使う生物的処理。こうした工程を経て、汚水の水質を清流の魚が生息できるA級レベルまで浄化し、安全な水に戻して排水します。

排水される水を再利用することができれば、工場への取水量を減らすことができます。これまで排水されてきた水を、より高度な技術によって飲料水レベルにまで浄化し、再び工場内で利用する──このような循環型の水利用を可能にするのが、ROシステム(逆浸透膜濾過:下図参照)と呼ばれるものです。

これはNASAのスペースシャトルでも採用されていた濾過の技術です。簡単に言えば、このシステムで尿を処理すると、飲料水としての利用が可能になります。

いまのところ、汚水が浄化処理された後の水の85~90パーセントが排水されていますが、今後はROシステムでの処理量を増やし、工場で利用する水道水の30パーセントを再利用の水でまかないたい──これを2年後の目標にしています。

工場は地域の人々に歓迎される存在であるべきです。環境への負荷を最小限にしつつ、地域の人々と成長する。そのための技術を構築することが、私の最大の喜びです。

申洲国際のベトナム工場の排水処理システム

貯水ダム

申洲国際のベトナム工場の排水処理システム

生地や糸を染めるには水が必要です。したがって工場は水資源を得られる場所に建てられます。このベトナムの工場は貯水ダムから引かれた用水路を経由して取水し、その約85パーセントを染色用水として使っています。染色の工程で出る汚水は、さまざまな方法で浄水化、義務付けられた水質基準をクリアしてから排水。さらに一部飲料水レベルに浄水化したものを再利用しています。

Illustrations by Yoshifumi Takeda

貯水ダムより

1

貯水タンク

貯水ダムから引かれた水は、微細な砂を敷き詰めた貯水タンクで不純物を吸着除去し、さらに急速濾過装置を通して水道水となる。

貯水タンク

2

染色の工程

水道水の約85パーセントは染色に、約10パーセントはアイロンなどの工程に、約5パーセントは生活用水や消防用などに使用されている。

染色の工程

3

砂濾システム

染色の工程で生じた汚水は、硬い石英質の砂粒の隙間で不純物をとらえる砂濾のシステムで濾過される。粒の径は最小で約1mm。

砂濾システム

❶給水口

❷出水口

❸フィルター管

❹石英砂

❺砂利

4

UFシステム

UF膜は平膜・管状膜・中空糸膜でできており、圧力をかけた水を通すと、タンパク質、ウイルス、細菌など超微細なものが除去できる。

UFシステム

❶濃縮水

❷濾過水

❸中空糸膜(25,000本)

❹供給水

5

さらなる濾過へ

工場で使用された水の85〜90パーセントは濾過されてから排水へ。残りはRO(逆浸透)膜のシステムによる、さらなる濾過へと進む。

さらなる濾過へ

排水

6

ROシステム

水分子以外の不純物を除去できるRO膜が、バウムクーヘン状に何重にも巻かれた筒の中を水が通りぬければ、最終的な濾過が完了。

ROシステム

❶中心パイプ

❷ブラインシール

❸供給水

❹供給水

❺供給水

❻透過水流路材

❼原水流路剤

❽濃縮水

❾透過水

再利用

7

飲める基準まで

RO膜のシステムは、NASAのスペースシャトルでも採用された技術。宇宙飛行士の尿も飲料水として利用できるようになった。

飲める基準まで

申洲国際のベトナム工場の排水処理システム

生地や糸を染めるには水が必要です。したがって工場は水資源を得られる場所に建てられます。このベトナムの工場は貯水ダムから引かれた用水路を経由して取水し、その約85パーセントを染色用水として使っています。染色の工程で出る汚水は、さまざまな方法で浄水化、義務付けられた水質基準をクリアしてから排水。さらに一部飲料水レベルに浄水化したものを再利用しています。

Illustrations by Yoshifumi Takeda

貯水ダムより

1

貯水タンク

貯水ダムから引かれた水は、微細な砂を敷き詰めた貯水タンクで不純物を吸着除去し、さらに急速濾過装置を通して水道水となる。

貯水タンク
さらなる濾過へ

2

染色の工程

水道水の約85パーセントは染色に、約10パーセントはアイロンなどの工程に、約5パーセントは生活用水や消防用などに使用されている。

染色の工程

再利用

3

砂濾システム

染色の工程で生じた汚水は、硬い石英質の砂粒の隙間で不純物をとらえる砂濾のシステムで濾過される。粒の径は最小で約1mm。

砂濾システム

❶給水口

❷出水口

❸フィルター管

❹石英砂

❺砂利

4

UFシステム

UF膜は平膜・管状膜・中空糸膜でできており、圧力をかけた水を通すと、タンパク質、ウイルス、細菌など超微細なものが除去できる。

UFシステム

❶濃縮水

❷濾過水

❸中空糸膜(25,000本)

❹供給水

5

さらなる濾過へ

工場で使用された水の85〜90パーセントは濾過されてから排水へ。残りはRO(逆浸透)膜のシステムによる、さらなる濾過へと進む。

さらなる濾過へ

6

ROシステム

水分子以外の不純物を除去できるRO膜が、バウムクーヘン状に何重にも巻かれた筒の中を水が通りぬければ、最終的な濾過が完了。

ROシステム

❶中心パイプ

❷ブラインシール

❸供給水

❹供給水

❺供給水

❻透過水流路材

❼原水流路剤

❽濃縮水

❾透過水

7

飲める基準まで

RO膜のシステムは、NASAのスペースシャトルでも採用された技術。宇宙飛行士の尿も飲料水として利用できるようになった。

飲める基準まで
砂濾システム

排水

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