アメリカン・クラシックともいえる、トラディショナルな服の着こなしはジャックから教わった。
「いいかい。きれいで清潔感のある服を、カジュアルに着崩すんだ。自分でアイロンをぴしっとかけたシャツを、Tシャツとショートパンツのスタイルに、ボタンを外してジャケットのように着るとかね。必ず袖はまくる……」
「どんなスタイルでも、靴には気を使うといい。靴にはその人の暮らし方が表れるんだ。クルマのホイールと一緒だよ。クルマっていうのは、ホイールがピカピカだと大事に乗っているのがわかるし、どんなクルマでもすてきに見える。ホイールが傷だらけだったりオイルで汚れていると、どんなにいいクルマでも、いいクルマに見えないんだ。それと一緒。だから靴は大事……」
「カジュアルなパンツは、とにかくロールアップするといい。足首がほんの少し見えるくらいがすっきりしていいんだ。ショートパンツでも僕はロールアップする。だから、カジュアルパンツは少し大きめのサイズを選ぶといい……」
こんなふうに僕は、ジャック直伝のアメリカン・クラシックを会得していった。
「で、どうだい? 仕事のためにしばらくポートランドに来ないかい? 暮らすところはいくらでもあるから心配しなくてもいい。一ヶ月くらいでいいと思う。アシャとニコも一緒で」
「今、ロサンゼルスやサンフランシスコのクリエーターやアーティストが、どんどんポートランドに移住しているんだ。家賃も安くて広いからね。とにかく住みやすいよ。きっと気にいると思う」
ジャックは僕ら家族をポートランドに誘った。
「これはまだ僕のアイデアだけど、希少本ルームは、店というよりも、あたかも家のリビングのようなインテリアにしたいんだ。クラシックなね。壁一面に本棚があって、大きなソファがあって、そこでは最高においしいコーヒーや紅茶があって、ゆっくりと本を楽しめるというような……一時間10ドルの入場料をもらうんだ。で、本を購入してくれた人には、本の代金から10ドルは引いてあげる、とか……」
ジャックは、いつかこんな本屋をという夢のかたちを、そこで実現させようとしていた。

「すごくいい。本を売るだけでなく、その場所での心地よい体験、時間を売るってことだね。本が買えないとしても、一時間、店の人からもてなしを受けながらセレクトされた本の品揃えを学べたり、希少な本をゆっくりと楽しむだけでも価値はあると思う。作り上げるのは、本を愛する人のためのパラダイスだね」
「うん、そのとおり。僕はインターネットで体験できない豊かな時間を生み出したいんだ。ぜひ君に手伝ってほしい。君がいないと、きっとこれは出来ないんだ」
ジャックはドーナツをもうひとつ口に放り込んで、コーヒーをごくりと飲んで僕の肩に手を回し、「やっぱりシアサッカーは気持ちいいな」と言った。
ジャックは目をキラキラと輝かせていた。