飛行機は、さっきまでの揺れが嘘のようにおだやかに飛行を続けていた。
「わかります。私もよくそうやってカーディガンを畳んで枕みたいにします。落ち着きますよね」とアシャは笑った。
「そうなの。こういう薄手のカーディガンって触り心地もいいから、こうして枕にして顔を置くと安心するのよ。飛行機はほんとうに苦手だわ」とヘイリーさんは言って目をつむった。
「どうしてニューヨークへ?」ともう一度アシャに聞いた。
アシャは二人のこと、パリに学びに行ったこと、そして家族のこと、母のことを淡々と物語の読み聞かせのように話した。その間、ヘイリーさんはずっと目を閉じて、アシャの話を静かに聞いていた。
「あなたと手をつなぎながら、あなたの話を聞いていたら、子どもの頃、同じように自分の妹と、いつまでもこうしておしゃべりしていたことを思い出すわ……」とヘイリーさんは言った。
ヘイリーさんはコップの水を一口飲み、「あなたはどんな夢を持っているの?」とアシャに聞いた。
「私、たくさん夢があったんです……。ほんとうにたくさんの夢が……。たしかにそれは自分の夢でした。けれども、私、そういういろいろな願望を、夢だと思っている以上、叶わないような気がしてならないんです。なので、今は夢という言葉がどうもしっくりこないんです。絶対にそうしてみせる。夢で終わらせない。こうなればいいなと思っているだけで満足しないで、望むことは必ずできるんだと信じるようにしているんです。夢を語るなら、マイケル・ジョーダンの言葉に『Just Do it!』ってあるけれど、まさにそれ。私にとっての夢は、私のリアルな未来なんです」
アシャは自分でも何を言っているかわからなくなりながらも、これからの人生に対してこうやって歩んでいくんだという決意のような考えをヘイリーさんに話した。
「私は、とにかく自分が一番得意なことを、思い切りこの世界にぶつけたい。自分が大切な人を思い切り愛したい。照れずに、恥ずかしがらずに思い切りそうする。ただそれだけを精一杯やる」
アシャは窓から見える空の景色を見つめながら言った。

「実は私、パリでたくさんの悲しい思いをして、ニューヨークに行くのよ。悲しさの理由は、自分の夢を誰かが叶えてくれると勘違いしていた自分がいたからよ、きっと。夢があれば生きていけると思ってたの。けれども、何ひとつ思い切りできない弱い自分がいたの……」。ヘイリーさんはそう言って、枕にしたカーディガンに顔をうずめた。
アシャはヘイリーさんの手をぎゅっと握って、「Just Do it……」と呟いた。
アシャは隣に座ったヘイリーさんのいい匂いが心地よくて仕方がなかった。そして今日はじめて会った人とは思えない親しみが湧いていた。
ニューヨークに着き、別れた後も、ヘイリーさんの水色のカーディガンがいつまでも記憶に残っていた。