薬指にはめたターコイズの指輪をじっと見つめながらアシャは目をつむった。そしてこう呟いた。
「ほんとうに嬉しい……。どんなに高級な結婚指輪よりも、この指輪は私にとっては価値があるのよ。売るために作ったものではなく、きっとお守りとして作られたものでしょ。この緑がかったターコイズはもう採掘できないものだから、ネイティブアメリカンにとっては宝ものよ」
僕はアシャが心から喜んでくれたことに、ほっと安堵をした。自分は物で愛情表現するようなタイプではないけれど、僕はどうしてもアシャが欲しいものをプレゼントしたかった。一度は迷いながらも。
「で、どうやってこれを?」とアシャは聞いた。
「店主に聞いたんだ。この指輪は何となら交換してくれるのかって。そうしたら、『Hat Mine』という種類のターコイズだったら交換してやるって言うんだ。『Hat Mine』は『ラベンダーブルー』とも言われる、ターコイズの中でも最も価値の高い石で、これまで帽子一杯分しか採掘されていないことで知られているもの。それなら一粒で交換してやるってね」
「そんな希少な石を見つけたの?まさか持ってたわけではないよね?」
「トーコさんを覚えてるよね。以前アシャに服をプレゼントしてくれた人」
「当然よ。忘れるわけないわ。私はトーコさん大好きだもの」

「実はこの前、トーコさんにアシャとの結婚を報告しに行ったんだ。そうしたら、すごく喜んでくれてね。その時に小さな革袋に入った小石をもらったんだ。それは、ずっと昔のトーコさんがニューメキシコを訪れた時に、ネイティブアメリカンから、あることのお礼でもらったらしく、その時、この石はいつか必ずあなたのところにやってくる、この石を必要としている人に贈るようにと言われたらしいんだ。『黒い髪の男』と言われたんだって。トーコさんは、今日がその時だと思ったんだって」
「そして、『これは私からでもあるけれど、それ以上の何か特別な運命のようなものから、あなたたちへのプレゼントよ』と言って、僕に革袋を渡したんだ。店主から『Hat Mine』と言われた時、僕ははっと思って、持っていた革袋から石を出してみたんだ。そうしたら、他のターコイズに比べて、はるかに濃いブルーの2粒の石を見つけた。それが『Hat Mine』だと僕はすぐにわかったんだ」
「なんだかおとぎ話みたい……。でも、すごいわ。ずっと前からこの指輪が私のところにやってくるのが予言されていたみたい……。この指輪にも何かストーリーがあるような気がするわ」
「パンプスはいててよかったわ!パリの知り合いの女性が言ってたんだけど、『いつだってパンプスが奇跡を起こす』という言い伝えがあるらしいわ。そのくらい女性にとってパンプスはラッキーアイテムなんだって」
満面の笑顔でそう話すアシャを見ながら、僕は「Hat Mine」がもう一粒残っているのが気になって仕方がなかった。