100とは

ベリーショートソックス

ベリーショートソックス

約束をもう一度

よく晴れた日の朝、僕はエチオピアにいるアシャに国際電話をかけた。

「ごめんなさい……。ほんとうにごめんなさい……。約束が守れなくて」

電話口でアシャは何度も僕に謝った。

「ひとつも謝ることはないよ……。僕だってきっと同じようにしたと思う。何があっても、家族のことは一番に優先にするべきなんだ。辛かったのはアシャだと思う。ほんとうに大変だったね……」

「ありがとう……。私ほんとうにあなたに会いたかった。でも……」

五年近く会っていないアシャだったが、その声や息遣い、言葉はひとつも変わっていなかった。

「うん、もちろん。僕も会いたい……。久しぶりに声を聞いて、ほっと安心したよ」

「会いたいけれど、なんだか会うのが恥ずかしい気持ちもある。もしかしたら私、変わったかもしれないし。でも、話たいことがたくさんあるの。それより元気だった?仕事は順調?」

「うん、元気だし、仕事も順調だよ。心配ないよ。ありがとう」

アシャはパリで過ごした日々のことや、おかあさんや家族のこと、今の気持ちなど、そしてこれからのことを、会ってゆっくりと話したいと言った。

「いちばん話したいのは家族のこと」とアシャは言い、それは先日亡くなったおかあさんが、病床でアシャに語った、これまで隠されていた家族の物語だという。

「ニューヨークにはいつ来れるの?」と聞くと、「二週間後には行けると思うわ」とアシャは答えた。

「ニューヨークに着いたら、私買いたいものがあるの。ソックス……」

「だって、エチオピアには、私が気にいるソックスがないんだもん。私、ソックスは、地元で買えばいいやと思って、パリに全部置いてきちゃった……」

約束をもう一度 ストーリーイメージ

僕は、アシャがいつもおろしたてのようにきれいなソックスをはいていたことを思い出した。アシャは白いソックスが大好きだった。

ある日、そのことをたずねると、「女の子なんだから、いつもきれいなソックスをはきなさい」と、小さい頃からおかあさんによく言われていたらしい。だからか、アシャは、いつもソックスをていねいに洗濯して、まっさらなようにきれいであることに気を使っていた。

「新品のソックスをはいた日って、気持ちが上がるよね!」ともよく言っていた。

「ニューヨークで、くるぶしが見える短くて白いソックスをたくさん買うわ」

「でも、一番は、早くあなたに会いたい」とアシャは言った。

ベリーショートソックス

進化する定番

ソックスの踵が脱げて、手ではき直すことのストレスをなくすことを徹底的に追求したベリーショートソックスです。踵の滑り止めを新しい素材に変更し、粘着力をアップ。これまでの3本ラインの形状からまとまったテープ状にしました。

踵はパワーの強い裏糸を使用し、さらに立体設計で丸みを持たせ、大きく包み込みます。甲の部分にはズレ防止サポートを、足底の編み地の収縮性を上げ、つま先の編み地を増やしてつっぱり感を軽減しました。

ベリーショートソックス
ベリーショートソックス

踵はパワーの強い裏糸を使用し、さらに立体設計で丸みを持たせ、大きく包み込みます。甲の部分にはズレ防止サポートを、足底の編み地の収縮性を上げ、つま先の編み地を増やしてつっぱり感を軽減しました。

ベリーショートソックス

憧れの白いソックス

アシャとソックスの話をして、僕は子どもの頃の、ある出来事を思い出した。

小学校の入学式のことだ。僕はその日のために、新しい服とソックス、そして靴を両親に買ってもらった。

それまで買ってもらっていたソックスは、色や柄がついているものばかりだった。子どもは汚すのが当たり前、と言われていたから、選択肢に白なんてなかったのだ。

僕にとって白いソックスは憧れだった。だからか、入学式の朝、僕は白いソックスがはきたくていつもより早く起きた。

白いソックスはきらきらとまぶしく見えた。
僕はソックスに足をいれ、入学式用の紺色のショートパンツをはいた。上は白いクルーネックのニットを着て、その上にパンツとセットアップのジャケットを羽織った。

鏡に自分を映してみると、白いソックスのせいか、なんだか自分が別人のように見えた。
「かっこいい……。テレビに出てくる子どものようだ」とつぶやいた。

僕はそんな自分を誰かに見せびらかしたくて、家の外に出ると、隣近所の友だちやその兄弟が道端で遊んでいた。

「なんか、すごいじゃん。いつもと違うじゃん。白いソックスなんてはいちゃって」と僕の姿を見た友だちはからかうように言った。

「入学式だから白いソックスなんだよ」と言い返すと、「それは嘘だ。黒いソックスでもいいんだよ」と友だちは言い返してきた。そして僕の買ったばかりのソックスのリブの部分を指で思い切りひっぱった。

「伸びちゃうからやめろ」と僕は友だちを押し倒した。すると、それを見ていた友だちの兄が弟に加勢して僕を投げ飛ばした。

僕は倒れた拍子に膝をすりむいたが、それよりも白いソックスが汚れないかと気が気でなかった。ソックスを見ると、引っ張られたところが引っ張った分だけ伸びてしまっていた。

僕は、せっかく両親に買ってもらった白いソックスを、だめにした友だちに腹が立ち、飛びかかって、友だちの着ている洋服をひっぱって振り回した。

憧れの白いソックス ストーリーイメージ

すると、またしても友だちの兄が間に入り、もう一度僕を投げ飛ばした。そして、はいているソックスを引っ張って脱がして、隣の家の庭に投げ入れた。そこには犬が飼われていて、犬は僕のソックスをすぐにくわえて、庭の奥へと逃げていった。

裸足になった僕は悲しくて、泣きながら家に戻った。それを見た母は「朝から何をしてるの!」と僕を叱り、ソックスをはいていない足を見て、「ソックスはどこにやったの?」と聞いた。

僕は友だちと喧嘩して取られてしまったことが申し訳ない気持ちになって、「学校には裸足で行く!」と泣きながら言い張った。

結局、白いソックスは見つからなかったので、いつもはいている柄の入ったソックスをはいて入学式に行くことになった。

入学式の直前、家の前で母と一緒に撮った写真が今でも残っている。僕は泣いているからか目を閉じている。

ベリーショートソックス

つま先の進化

最大の進化は、フラットになったつま先です。これまではソックスを編み立てた後、つま先を縫い合わせる工程が発生していました。そのため裏側の縫い目が肌に触れ、ごろつき感が残りました。あたらしいベリーショートソックスは、同じ編み機に搭載した装置でフラットに自動縫製できる“オートリンキング”を採用。

肌あたりのストレスもなくなり、見た目もスマートに、はき心地は格段にアップしました。定番だからこそこだわりを盛り込んで常にアップデートを繰り返す。LifeWearの精神が宿っています。

ベリーショートソックス

肌あたりのストレスもなくなり、見た目もスマートに、はき心地は格段にアップしました。定番だからこそこだわりを盛り込んで常にアップデートを繰り返す。LifeWearの精神が宿っています。

新しいソックスをはいた日は、
なにもかもうまくいく。
そんな私のおまじない。

松浦弥太郎
079 MENベリーショート
ソックス
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LifeWear Story 100とは。

ユニクロには、
流行に左右されず、
けれども、決して古びることのない、
長い間、作り続けている普通の服がある。
品揃えの中では、
とても地味で目立たない存在である。
コマーシャルにもあまり出てこない。

それらは、ユニクロが、
もっと快適に、もっと丈夫に、
もっと上質であることを、
長年、愛情を込めて追求したものだ。

それらは、ユニクロの人格と姿勢が、
目に見えるかたちになったものであり、
丹精に育てているものだ。

昨日よりも今日を、今日よりも明日と。

手にとり、着てみると、
あたかも友だちのように、
その服は、私たちに、
こう問いかけてくる。

豊かで、上質な暮らしとは、
どんな暮らしなのか?
どんなふうに今日を過ごすのか?
あなたにとってのしあわせとは何か?と。

そんな服が、今までこの世界に、
あっただろうかと驚く自分がいる。

ユニクロのプリンシプル(きほん)とは何か?
ユニクロは、なぜ服を、
LifeWearと呼んでいるのだろう?
LifeWearとは、どんな服なのだろう?

ここでは、LifeWearの、
根っこを見る、知る、伝える。
そして、LifeWearと、自分にまつわる、
ストーリーを書いていきたい。

LifeWear Story 100は、
LifeWearと僕の、旅の物語になるだろう。

松浦弥太郎

松浦弥太郎
松浦弥太郎

エッセイスト、編集者。1965年東京生まれ。
2005年から15年3月まで、約9年間、創業者大橋鎭子のもとで『暮しの手帖』の編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。現在は(株)おいしい健康の取締役に就任。数々のメディアで、高い審美眼による豊かで上質な暮らし提案に努めている。新聞、雑誌の連載の他、著書多数。ベストセラーに「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」他多数。NHKラジオ第一「かれんスタイル」のパーソナリティとしても活躍。

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