「アシャが好きな人のタイプってどんな人?」
「私はとてもかんたんでシンプル。なによりも家族を大事にしている人が好き。どんなに才能があったり、どんなにかっこよかったり、どんなに社会的地位が高くても、家族を大事にしていない人って、どうしても好きになれない。すてきに見えても、家族をないがしろにしている人ってだめね。あなたはどんな女性がタイプなの?」
「なんだか、嘘っぽく聞こえるかもしれないけれど、アシャと一緒だよ。僕も家族を大事にしている人が好き。家族愛って言うのかな。家族を大事にするって、他人に対する思いやりや気遣い、助け合いや支え合いのきほんだと思うんだ。家族は小さな社会だからね」
「ほんとそう。私たち好きなことが一緒ね。私はあなたが家族を大事にしていることがすぐにわかったわ。だから、もっとあなたのことが知りたいと思ったの。そうそう、あなたの夢は何?」
「僕の夢は……。日本語に『親孝行』という言葉がある。要するに、両親を助け、両親をいたわり、両親を安心させ、両親を喜ばせることなんだけど、その『親孝行』が夢。これって、簡単そうでとっても難しい。今みたいに日本を離れていると『親孝行』はできないし、近くにいたとしても、何かしてあげられるかというと、未熟な自分には、まだそんなにちからもないし。僕の家は裕福ではなく、経済的にとても苦労をしながら、両親は僕を育ててくれたんだ。だから、仕事を頑張って、たくさんお金を稼いで、早く両親を楽にさせてあげたい。自分自身のやりたいことはいくらでもあるけれど、それはすべて『親孝行』のためなんだ。お金が欲しい。なぜなら、『親孝行』したいから」
「うん。よくわかる。私も似てる。ほんとに私たちって似たもの同士ね。でもね、お金が無ければ『親孝行』できないかというと、そうではないと思うわ。お金が無くても『親孝行』できることはある。あなたが家族を大事にして、『親孝行』したいと思っていること自体がすでに『親孝行』だと私は思うし」
寝転がっていたアシャは体を起こして、そう言った。そして、にっこり笑って、僕の目を見つめた。

「ねえ、二人で写真を撮ろうよ。その写真を私たち家族に送ろうよ。それって立派な『親孝行』じゃない? きっと喜ぶわ。私たちの両親は、私たちがニューヨークでどんなふうにしているかいつも心配してるからね。私は今この人と一緒にいるって知らせるのは、きっと喜んでくれるわ。カメラ持ってきてる?」
「うん、バッグの中にあるよ。でも、どうやって撮ろうか?」
バッグからカメラを取り出すと、アシャは少し離れたところに座っていた女性に声をかけて、私たちのためにシャッターを押してもらうように頼んだ。
アシャは僕の首に手をまわして、頬と頬をくっつけた。
「もっと近くに寄ってください。アップで撮りたいんです。もっともっと」と頼んだ女性に言った。そして、自分で「はい、チーズ」と言って、女性にシャッターを押してもらった。
夏の午後、僕らはセントラルパークのベルヴェデーレ・キャッスルを背景にして、五枚ほど写真を撮ってもらった。