100とは

トランクス

トランクス

頑張りすぎた

ある日、朝、目を覚まして起き上がろうとした時、身体にちからがはいらないことがわかった。おかしいと思って、腕や足を動かそうとしたけれど、ままならず、ベッドの上でゆっくりと寝返りを打つのが精一杯だった。

ゆっくりと深呼吸して、自分に何が起きたのか冷静になって考えた。

ここ最近、夜、寝ようとすると、疲れているせいかすぐに眠りにつくのだが、一時間くらいで目が覚めてしまい、再び寝ても、また一時間くらいで起きてしまうことを繰り返すのが習慣になっていた。

そのせいか、日中もぼうっとしてしまうことが多く、やらなくてはいけない仕事があっても、なかなか手がつけられなくて、自分自身の暮らしと仕事から、気持ちが遠のいて離れている感覚といおうか、自分のことなのに、自分のことと思えない心境に陥っていた。

たとえるならば、自転車のチェーンがギアから外れてしまって、空回りというか、それまで噛み合っていたものが、するっと外れてしまって、自分の気持ちや行動がどこにも引っかからないという状態で、しかも、どこかに手を伸ばそうとしても、どこにも手が届かないとてつもない不安に日々が包まれていた。

次第に人と会うのも苦痛になり、外出も減り、部屋でぼんやりすることが多くなり、何もしないのに、ずっしりした重みを感じる毎日が過ぎていた。

そういえば、いつ食事をしたのかな?と考えた。おそらく、何か食べているはずなのに、それすら覚えていない自分がいた。

僕の中の時間が止まってしまった。そう思った。何かひとつの部品が外れたせいで、それまでチクタクと動き続けていた時計が止まってしまった、そんな感じだ。

ニューヨークにやってきて、英語を話せないながらも一所懸命にやってきた。仕事らしきものも手にできた。友だちや知り合いもできた。ささやかながら暮らしも立てることができた。とにかく必死だった。頑張った。

それはそれで喜ばしいことであるのだが、今、身体と思考が動かなくなった自分の口から出たのは「あれ?」という言葉だった。

「なんかおかしい……」ベッドに横になったまま、天井を見つめて僕はつぶやいた。そしてこうも思った。「そうか、僕は頑張りすぎたんだ。だからすべてが止まってしまったのだ……」と。

頑張りすぎた ストーリーイメージ

そう思った途端に目から涙が溢れ出た。手を動かせないので、指で涙を拭くことすらできない。鼻から空気を「スー」と吸って「フー」と息を吐く。今、僕にできることはこれだけだった。だからそれだけを繰り返した。

そうしていたら、「なるほどなあ…。人間というのは強いようで弱いんだなあ…」

こんなふうに、僕はなんだかとても客観的に考えることが出来た。

そしてこうも思った。「そっか、これは僕という人間が頑張りすぎたんだ。はじめての経験だから、びっくりしたけど、これは当たりまえで自然なことなんだ」

ニューヨークでの暮らしに慣れて、これまでの緊張が緩んで、何か小さな部品がポンと外れたのだろう。きっとそうだ。

トランクス

穿きやすさの追求

番のこだわりは「動きやすさ」。国内外のブランド、またユニクロがこれまでにリリースしたトランクスのサンプルを試着し、階段の上り下りなどを実際に行って動きやすさを徹底的に検証。ゆとりと身幅を充分に確保したパターンを採用し、さらに両端にスリットを入れることで動きやすさに大きな違いが生まれました。

ユニクロのトランクスは、絶えずフォルムを微妙に変えています。これはお客様の声をもとに改善と進化を繰り返している証拠です。

トランクス ※ボタンの色は半透明色の為、
写真と異なって見えることがあります。

ユニクロのトランクスは、絶えずフォルムを微妙に変えています。これはお客様の声をもとに改善と進化を繰り返している証拠です。

トランクス

パンツ一丁で

時間、いや、二時間くらいが経っただろうか。僕はどうしてもトイレに行きたくなった。

この状態で、立ち上がって行けるだろうか。まずは、ゆっくりと寝返りを打って、うつぶせになり、手で身体を浮かせながら、膝を曲げるようにして、なんとか正座をしたような姿勢にもっていき、少し休憩しつつ、壁に手を伸ばし、ベッドから起き上がった。そして、手で掴めるところを探しながら、一歩一歩と足を動かし、トイレへとたどり着き、用を足すことが出来た。

「わあ、嬉しいなあ。ありがたいなあ。トイレには行けたよ」と感動する自分がいた。あたりまえのことをあたりまえに出来ることが、こんなに嬉しいことなのかと思った。

そのまま僕はグラスにミネラルウォーターを注いで飲んだ。「水ってこんなにおいしかったっけ。水のおいしさはわかるよ」

ゆっくりと僕は部屋を歩き、窓辺に置いた椅子に腰を下ろして、窓の外を見た。

太陽の光がさんさんと照りつけていた。ブロードウェイには車が走り、たくさんの人が歩いていた。その景色は平和だった。けれども、「ちょっと頑張りすぎた」自分という一人の人間が、誰も知る由もなく、窓から外を眺めている。

元気で、強くなければならない。それが正しくて、それが当たり前。それまでずっと僕はそういう概念を持っていた。病気は別として、人はいくらでも頑張れるんだと思っていた。少なくとも、身体のちからが入らなくなるなんて、自分にはありえないことだと思っていた。そして、この一見平和そうな世の中だけど、どれほど多くの人が、調子を崩して、僕と同じように、こんなふうにして部屋の窓から外を眺めているのだろうと思った。

人の営みとは、そのほとんどが目に見えるものではない。だからこそ、他人を思いやり、人の気持ちを、もっと深く理解をしようと心を働かさなくてはならない。

よく言われる、「森を見て木を見ず。葉を見て木を見ず」という言葉の意味がやっとわかった気がした。

「頑張りすぎないこと。無理をしない」これは父の言葉だ。

「こんな経験が出来てよかった……」おかげでいろいろと学ぶことができそうだ。少なくとも大事なことが何かがわかった。そして人間は意外ともろくて弱い。スーパーマンではないともわかった。

パンツ一丁で ストーリーイメージ

僕は頑張ってシャワーを浴びた。そして、買ってあった新しいトランクスを履いて、鏡の前に立った。ピカピカのトランクスだ。

「頑張りすぎない。無理をしない」という父の言葉を僕はもう一度つぶやいた。

ミネラルウォーターをもう一杯飲んだ。おいしかった。

元気が出た。もう、大丈夫と思った。パンツ一丁で背伸びをした。

トランクス

最高の上質を目指す

生地に採用しているのは、シャツに使われるオックスフォード地を軽くしたライトオックス素材。サラリとした肌触りと柔らかな風合いが特徴のコットン100%です。ウエストのゴムは、肌当たりやずり落ちにくさを感じなくなるまで何種類も試作を繰り返して選びました。

定番に加えてご用意した春夏らしい色柄展開にもご注目ください。下着であっても洋服づくりと同じクオリティを貫くこと。トランクスにはLifeWearの精神が宿っています。

トランクス
トランクス

定番に加えてご用意した春夏らしい色柄展開にもご注目ください。下着であっても洋服づくりと同じクオリティを貫くこと。トランクスにはLifeWearの精神が宿っています。

これほどの
上質さを追求した
トランクス。

松浦弥太郎
035 MENストライプ
トランクス
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LifeWear Story 100とは。

ユニクロには、
流行に左右されず、
けれども、決して古びることのない、
長い間、作り続けている普通の服がある。
品揃えの中では、
とても地味で目立たない存在である。
コマーシャルにもあまり出てこない。

それらは、ユニクロが、
もっと快適に、もっと丈夫に、
もっと上質であることを、
長年、愛情を込めて追求したものだ。

それらは、ユニクロの人格と姿勢が、
目に見えるかたちになったものであり、
丹精に育てているものだ。

昨日よりも今日を、今日よりも明日と。

手にとり、着てみると、
あたかも友だちのように、
その服は、私たちに、
こう問いかけてくる。

豊かで、上質な暮らしとは、
どんな暮らしなのか?
どんなふうに今日を過ごすのか?
あなたにとってのしあわせとは何か?と。

そんな服が、今までこの世界に、
あっただろうかと驚く自分がいる。

ユニクロのプリンシプル(きほん)とは何か?
ユニクロは、なぜ服を、
LifeWearと呼んでいるのだろう?
LifeWearとは、どんな服なのだろう?

ここでは、LifeWearの、
根っこを見る、知る、伝える。
そして、LifeWearと、自分にまつわる、
ストーリーを書いていきたい。

LifeWear Story 100は、
LifeWearと僕の、旅の物語になるだろう。

松浦弥太郎

松浦弥太郎
松浦弥太郎

エッセイスト、編集者。1965年東京生まれ。
2005年から15年3月まで、約9年間、創業者大橋鎭子のもとで『暮しの手帖』の編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。現在は(株)おいしい健康の取締役に就任。数々のメディアで、高い審美眼による豊かで上質な暮らし提案に努めている。新聞、雑誌の連載の他、著書多数。ベストセラーに「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」他多数。NHKラジオ第一「かれんスタイル」のパーソナリティとしても活躍。

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