「ちょっと教えていただいてよろしいでしょうか?」
ペギーさんに僕はこう話しかけた。
「インテリアコーディネートで心がけていることは、どんなことでしょうか? たとえば、この部屋は、北欧デザインの家具がありながら、中国のアンティークや、現代アートの作品なども飾られていますが、とてもバランスがよく感じるんです。どうしたらこんなふうに居心地よく、すてきなインテリアを作れるのでしょうか?」
「そうね……。大切なのはバランス。かんたんなようで難しいことのひとつだけど、たとえば、食器、家具、調度品、置物、アートなど、そういったものすべてを同じランクのもので揃えることね。テイストが違っていても、ランクが揃っていると不思議とバランスが整うのよ。中ランクの上であれば、中ランクの上のもので揃える。特上ランクのものをひとつ置いたり、逆に下ランクのものを使ったりするから、バランスが崩れてしまうのよね。とにかく、同じランクで揃えること。それがコーディネートのコツよ」
ペギーさんはコーヒーを淹れてくれながら、こんなふうに教えてくれた。
「このコーヒーポットも、あなたが座っているソファも、このマグカップも、同じランクのもの。だから、とても自然に馴染んでいるのよ」とペギーさんは言った。
「そうすると、先程話してくれた本のコーディネートも、クライアントが、新しい家をどんなランクのインテリアで揃えるのかをわかっていないと出来ない仕事ですね」
「その通り。よく気がついてくれたわね。クライアントは、私のこの家がとても気に入ってくれて、インテリアコーディネートを依頼してくれたのよ。だから、このインテリアのランクと世界観に合わせて欲しいの。この家は、手仕事が優れた北欧モダンの家具を中心に揃えているけれど、先日あなたたちが話題にしていた50年代のフィン・ユールの椅子がランクの基準。そう思ってくれたら間違いないわ」とペギーさんは言った。
ペギーさんは、フィン・ユールのNO.45という、世界一肘掛けが美しいと言われる椅子一脚を、家の真ん中にぽつんと置き、この椅子に合うテーブル、この椅子に合うラグ、この椅子に合う食器……というように合うものを少しずつ揃えていったという。そして、今でも何か新しい家具や調度品を買う時は、この椅子に合うかどうかで判断しているともいう。

たった一脚の椅子からインテリアを考える。なんてすてきな方法だろうと思った。
「今、私が着ているルームウェアにしても同じように選んだものなのよ。いいでしょ、これも」とペギーさんは言ってクスクスと笑った。
なるほど。それならば、まずはフィン・ユールのNO.45という椅子に合う本とは何か。その一冊から本のコーディネートを始めてみよう。
バランスが大切。それはたったひとつの基準から生まれるもの。
こんなふうに、ペギーさんは、コーディネートだけでなく、これからの人生においても役に立つ、とても大事なことを僕に教えてくれた。