「それは売り物かい?それとも君のコレクションかい?」
ケンはハンバーガーを皿に置き、コカコーラを一口飲んで、紙ナプキンで口を拭いてからこう言った。
「はい。売り物です」
「コンディションを見てみたいな」
「いつでもお見せしますよ。よかったら今日にでも」と僕は答えた。
「オーケー。その『A GOLD BOOK』がコンディションの良いものであるとしよう。君はいくらで売ろうと考えているんだい?」
「あ、ひとつ言い忘れてました。僕の『A GOLD BOOK』には、ある人の献呈署名が入っているんです」
「まさか、ウォーホル本人ではないだろうな。それだったら大変なことだ」とケンは言った。
「違います。実はブロドヴィッチが、当時付き合っていた女性に向けた献呈署名なんです」
「『A GOLD BOOK』は、ウォーホルによる手製本だ。それを若かりし頃のウォーホル本人が、ブロドヴィッチに手渡し、それをブロドヴィッチが当時付き合っていた女性にプレゼントしたってことかい? その本を君が持っているってことか……。ブロドヴィッチの家は、火事に何度も見舞われて、所蔵していた希少な本のほとんどが焼けて残っていないんだ。なんてこった…」

ケンは、両手で髪の毛をかきむしって、何度もためいきをついた。そして、冷静さを取り戻しながら、こう言った。
「その本のことを、誰か他の人に話したかい?」
「ジャックは知ってますよ。見つけた時に一緒にいましたから。他は誰も知らないはずです」と僕は答えた。
「オーケー。オーケー。で、それを君は幾らで売ろうとしているんだい」とケンは小さな声で言った。
ケンが、取引交渉に入ってきたのがわかったので、「適正に評価された金額で売ろうと思っています」と答えた。
ケンはしばらく黙って、うなずきながら考えに耽ってからこう言った。
「それなら、まずは信用のおけるオークション会社に査定をしてもらうのがいいだろう。私が懇意にしている人物がいるから、彼にお願いしよう。通常なら、査定にお金がかかるけれど、私が頼めば、証明書は発行されないが、無料で行ってくれる。そうしよう。それが一番いい」
僕は、自分の「A GOLD BOOK」が果たしてどんな評価額になるのか知りたかったし、本の査定という経験も勉強になると思ったので、ケンの提案を受け入れた。
ケンは、午後の仕事をすべてキャンセルして、僕のアパートまで行き、そこで本を受け取り、そのまま査定に出したいと言った。
僕らはグリニッジビレッジからアップタウンウエストのアパートまでタクシーで移動した。ケンにはアパートのロビーで待ってもらった。
ウォーホルの「A GOLD BOOK」を手渡すと、ケンは「なんてきれいなんだ…こんな状態のものは見たことがない…」と声を詰まらせ、献呈署名のページを見て「ブロドヴィッチのサインに違いない…」と言った。
「夜には査定が終わるだろうから、わかったらすぐに電話する」と言い、ケンは「A GOLD BOOK」を大事そうにバッグに入れて、タクシーに乗って去っていった。