100とは

スウェットパンツ

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父の言葉

父から手紙が届いた。

手紙の書き出しには、「特に急いで伝えたいことがあるわけではないので、びっくりしないでほしい」とあった。

きっと自分なりに何かをしているのだろう。何をしているのかを聞いたとしても、わからないので聞かないが、父親として、ひとつだけアドバイスしたいことがある。

お金が無いだろう。明日の一食のために、もしくは今日の一食のためにお金を稼ぐ日々かもしれない。生きていくつらさと苦しさを、噛み締めている様子が目に浮かんでくる。君くらいの歳のとき、父もそうだった。ましてや外国だ。寂しさが募るだろう。

君がそこで生きていくために今していることが、どんなにつまらないことであっても、自分のビジョンが何かを考え続けてもらいたい。ビジョンとは夢であり、描く未来であり、展望のことだ。そうすると、いくつも思いつくことがあるだろう。けれども、そこに落とし穴がある。

そのビジョンを紙に書いて、じっと見つめてほしい。小さいんだ、きっと。そのビジョンが。

夢は大きく、という言葉は陳腐かもしれないが、下手するとビジョンは、自分一人のためになりがちなんだ。そんな自分一人のためだけのビジョンは何の役にも立たないので捨てたほうがいい。

もっと大きなビジョンを考えるんだ。自分を点にして、その半径を広げて広げて、もっと広げて、どこまでも広げてみて、そういう大きくて広い世界に向けて、こうしたいという夢、望む未来、こうありたい展望を考え抜いて、見つけ出してほしい。

悩んだ時のヒントは、もし絶対に叶えられることができる魔法を、一度だけ使えるならば、どんなことを叶えるのか。そう考えてみればいい。

それは人に言うと、そんなの無理だ、とか、ばかじゃないかと言われるようなことかもしれないが、気にせずに本気で、そのビジョンを実現しようと思い続ける。

つまらないことをしながら歯を食いしばっているかもしれない。けれども、毎日、それは自分のビジョンに向かっている一歩であるかを確かめてほしい。要するに、何をしてもいいが、自分のビジョンを抱きしめて日々を歩んでほしいということだ。

父の言葉 ストーリーイメージ

お前は何をしているんだ?と聞かれた時、悩まず胸を張って、自分のビジョンを答えられる人であってほしい。これが父の願いであり、人生の先輩としてのアドバイスだ。

そして最後にもう一言。ビジョンは、毎日、ほんとうにそれでいいのかと問い続けるのが大事。一度考えたからそれでいいと思ったらダメ。毎日毎日、それがほんとうに自分のビジョンでいいのかと問い続け、今日はそのための一日であるかと考えること。

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ルームウェアを超える

ルームウェアはもちろん、ファッションとして街でも着られるスウェットパンツをつくりました。素材にはしっかり目の詰まった薄手の天竺生地と、メリハリある起毛が魅力の裏毛生地を使用。

コットンにポリエステル糸を混ぜて強度をあげることで、ヒザ部分の抜けを防止。ウエストのヒモ穴には金属のハトメを、ゴム部分に二本針ステッチを施すことでヴィンテージのような表情に。仕上げに洗いをかけることで、柔らかくてハリのある風合いを実現しました。

スウェットパンツ
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コットンにポリエステル糸を混ぜて強度をあげることで、ヒザ部分の抜けを防止。ウエストのヒモ穴には金属のハトメを、ゴム部分に二本針ステッチを施すことでヴィンテージのような表情に。仕上げに洗いをかけることで、柔らかくてハリのある風合いを実現しました。

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ビジョンと生きる

手紙の最後に「お母さんから聞いた、アメリカで使える君の銀行口座に、お金を送金しました」と書いてあった……。

僕はなんだか、狭い部屋に一人ではいられない気持ちになって、父が書いた便箋をていねいに封筒にしまい、それを大切に上着のポケットに入れて外に出た。

今僕は、マンハッタンという大都会の中にぽつんと一人でいるけれど、ビジョンは大きく、と考えたら、この世界すべてを愛情いっぱいの気持ちで、大きく包み込むような、なんとも言えない一体感というか、一人だけど一人ではないというあったかい心地で胸がいっぱいになった。

どんどん歩いた僕は、セントラルパークのベセスダ・テラスに着き、ここに来るといつも座る場所に腰を下ろした。

そして、ポケットから父からの手紙を出し、便箋を広げ、もう一度、父の書いた一字一句に目を落とした。

手紙を読んでいる途中、僕は何度も空を見上げて、胸の奥から湧いてくる熱い感情を我慢した。読み終えた時、「フーッ」と小さく息を吐き、精一杯の気持ちで便箋を折りたたみ、ふたつの手の平ではさんで、拝むような姿勢で下を向いた。

目から涙がポタポタと落ちた。溢れた涙が頬をつたって首にまで流れた。僕はもう我慢できなくなって、便箋を持った手を震わせてワンワンと泣き続けた。

一体僕は何をやっているのだろう。好き勝手にアメリカにやってきて、自分なりに一所懸命なつもりであるけれど、父や母のことをおざなりにして、こんな外国で何をやっているのだろう。なんて親不孝ものなんだろう。目先のことや、自分のことばかりを考えて、一体何をやっているんだろう。そんな大馬鹿ものの僕は、自分が情けなくなって、地面を拳で何度も叩いた。

ビジョンと生きる ストーリーイメージ

「大丈夫ですか?」

そんなふうに泣きじゃくる僕を見て、一人の女性が声をかけてきた。僕は大きく深呼吸してから、「大丈夫です。ありがとう」と答えた。

女性は少しの間、僕の側に立っていたかと思うと、すっと近寄り、僕の肩に手を置いて、「泣きたいときはたくさん泣くといいわ。けれども、自分の身体を傷つけてはダメ。ほら、拳を開いて」と言って、傷ついた僕の手を握って、「手は人とつなぐためにあるのよ。地面を叩くものではないの」と言った。そして、「明日になれば、すべてが新しくなるわ」と言って立ち去っていった。

明日になればすべてが新しくなる。僕はその言葉に救われたような気持ちになった。そうだ、新しく生きよう。

僕は立ち上がって、穿いていたお気に入りのスウェットパンツのお尻をパンパンと払って、ついていた砂を落とした。

もう一度、ビジョンをしっかり考えよう。僕だけのビジョンを見つけよう。そして、ビジョンと生きよう。

お父さん、お父さん、と僕はつぶやいた。

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アクティブウェアとして

リラックスした着心地と動きやすさはそのままに、シルエットはヒザ下から細身になるテーパード仕様。股ぐりのもたつきや、サイドポケットの内側のふくらみをなくすことで、よりすっきりと着こなしていただける設計にしました。

また、展開する色ごとに加工法を研究し、ベストな発色にこだわりました。スポーティなスタイルはもちろん、シャツやニットとミックスしたり、飛行機など旅するときの移動着にもおすすめしたい自信作です。

スウェットパンツ
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また、展開する色ごとに加工法を研究し、ベストな発色にこだわりました。スポーティなスタイルはもちろん、シャツやニットとミックスしたり、飛行機など旅するときの移動着にもおすすめしたい自信作です。

くつろげるし、
おしゃれもできる、
そうそう、旅にもいい、
新しいスウェットパンツ。

松浦弥太郎
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027 MENスウェットパンツ
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LifeWear Story 100とは。

ユニクロには、
流行に左右されず、
けれども、決して古びることのない、
長い間、作り続けている普通の服がある。
品揃えの中では、
とても地味で目立たない存在である。
コマーシャルにもあまり出てこない。

それらは、ユニクロが、
もっと快適に、もっと丈夫に、
もっと上質であることを、
長年、愛情を込めて追求したものだ。

それらは、ユニクロの人格と姿勢が、
目に見えるかたちになったものであり、
丹精に育てているものだ。

昨日よりも今日を、今日よりも明日と。

手にとり、着てみると、
あたかも友だちのように、
その服は、私たちに、
こう問いかけてくる。

豊かで、上質な暮らしとは、
どんな暮らしなのか?
どんなふうに今日を過ごすのか?
あなたにとってのしあわせとは何か?と。

そんな服が、今までこの世界に、
あっただろうかと驚く自分がいる。

ユニクロのプリンシプル(きほん)とは何か?
ユニクロは、なぜ服を、
LifeWearと呼んでいるのだろう?
LifeWearとは、どんな服なのだろう?

ここでは、LifeWearの、
根っこを見る、知る、伝える。
そして、LifeWearと、自分にまつわる、
ストーリーを書いていきたい。

LifeWear Story 100は、
LifeWearと僕の、旅の物語になるだろう。

松浦弥太郎

松浦弥太郎
松浦弥太郎

エッセイスト、編集者。1965年東京生まれ。
2005年から15年3月まで、約9年間、創業者大橋鎭子のもとで『暮しの手帖』の編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。現在は(株)おいしい健康の取締役に就任。数々のメディアで、高い審美眼による豊かで上質な暮らし提案に努めている。新聞、雑誌の連載の他、著書多数。ベストセラーに「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」他多数。NHKラジオ第一「かれんスタイル」のパーソナリティとしても活躍。

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