「ブロドヴィッチの『Ballet』の共著者であるEdwin Denbyに会いに行こう。そして、ブロドヴィッチとの思い出や、『Ballet』にまつわる当時の話を聞かせてもらおう」。僕はすぐにジャックに電話をして、こう話した。
「わかった。どこに住んでいるか調べてみよう。80歳ならまだ元気なはず。しかし、よくそんなことを思いついたな」と、ジャックは笑いながら、僕の思いつきを感心してくれた。
もしかしたら「Ballet」を余分に持っているかもしれない。著者の一人なら、きっと当時の状態で保管しているから、きっとコンディションはいいはずだ。僕はそんな下心を抱いていた。
ニューヨーク中のコレクターやブックハンターが必死になって探して見つからない本だ。同じように探しても見つかるはずがない。それなら、違う方法で、違う思考で探す。その手がかりは、ジャックが言ったように、本の中に確かにあった。僕はEdwin Denbyという人物に会えば、必ず何か突破口が開けると確信を持った。
「今、彼はメイン州のシアーズモントという田舎に暮らしているらしい。自宅の電話番号を、ニューヨーク・タイムズの知り合いの記者に調べてもらっているから、きっとすぐにわかるだろう。ちょっとした小旅行になりそうだ。季節が変わって、少し暖かくなってから行こう」それから数日後、いろいろと調べてくれたジャックは僕にこう話した。
それからというもの、ジャックと一緒に古書店巡りをしていると、それまで名前すら知らなかったEdwin Denbyのダンス評論集や詩集といった著作を、ちょくちょく見つけるようになり、僕は本人に会う時のために買い集めるようになった。
ある古書店でのことだ。「The Complete book of poem」という詩集を買った時、そこの店主に「この詩人の娘が近所に住んでいて、ここによく来てくれるんだ」と、突然言われ、僕とジャックは驚いた。ジャックは「もし今度、その方が店に来たら、ここに電話してほしいと伝えてください」と。店主に自分の電話番号を書いたメモを渡した。
「こんなことってあるんだなあ……」ジャックは目を丸くして僕の顔を見た。

冬の終わりのニューヨークは、ぽかぽかと暖かい陽射しが気持ちよく、日によってはTシャツ一枚でも平気だった。
「Tシャツって、アメリカが生んだ偉大な発明のひとつ。船に乗る海兵のために作られた白い肌着だったが、いつしか彼らが、勇敢さとたくましさを誇示するための普段着として愛用するようになり、男にとっての憧れの服として人気となったんだ」と、ジャックは言った。
「Tシャツが似合う男になりたいって、世界共通の男の憧れだよね」と僕が言うと、「優秀よりも勇敢であれ、と、父親によく言われたけど、それってTシャツが似合う男になれってことかもな」と、ジャックは笑って言った。