100とは

スリムフィットノータックチノ

スリムフィットノータックチノ

はじめての客

僕は、アップタウンイーストのビルの一室にある、希少本専門の古書店を訪れた。そこは冬だというのに、本を傷めるからという理由で暖房をつけず、客は、ブランケットやダウンジャケットを店から借りて暖をとり、お目当ての本を手にし、思い思いに至福の時を味わっていた。

オーナー兼店主である、小柄な女性は、何かを聞かれない限り、客に話しかけることはなく、デスクの上に山のように積まれた本の品定めを黙々としていた。

客のほとんどは四十歳から六十歳くらい。皆、身なりがきちんとしている。職業は、医者、弁護士、経営者といった感じだろうか。その中に一人だけ、べっ甲の丸メガネをかけた、いかにもクリエイティブな仕事をしていそうな男性がいた。彼はソファに座って、一冊の写真集をじっくりと見ていた。

彼はどんな写真集を見ているのだろう。僕は本を探すふりをしながら、彼に近づき、彼が手にしている写真集をさりげなく見ると、タイトルは「Day of Paris」写真家の名はアンドレ・ケルテスと書いてあった。

僕の視線に気づいた彼は、僕を見て、にこっと笑って「やあ」という表情を浮かべた。僕も右手を少しだけ上げて、「やあ」という返事をした。隣の椅子が空いていたので、「隣に座ってもいいですか?」と言うと、「もちろん、どうぞ」と彼は言った。

「今日、初めて来たんです。勝手がわからなくて……」と話しかけると、「この店にルールはないですよ。帰る時に一言『また来るよ』と彼女に言えばいいだけさ。黙って帰ると、二度と入れてくれない」と、彼は笑って言った。

「教えてくれてありがとう。今、あなたが見ているその写真集は珍しいのですか?」と僕は聞いた。

「希少本として有名な一冊です。これはアンドレ・ケルテスが、1945年に出版した最初の写真集です。彼がフランスからアメリカに移住する時、長年、撮りためてきたパリのスナップの中から、ほんの一部だけを、宝もののようにしてアメリカに持ってきた。それを友人だった、ハーパース・バザーのアートディレクターのアレクセイ・ブロドヴィッチに見せると、ブロドヴィッチは、彼が撮ったパリの描写に感動し、写真集のディレクションを名乗り出た。そうやって生まれた一冊なんです。値段は……2500ドル」

古き良きパリの魅力をこんなにつぶさに見つめて、まさに街を愛するように切り撮った写真は他にはない、と彼は言った。

はじめての客 ストーリーイメージ

僕は再びアレクセイ・ブロドヴィッチという名を耳にして内心驚いた。

「あなたは写真集を集めているんですか?」と聞くと、「私はファッションの仕事をしていて、写真が大好きなんです。長年、希少な写真集とアートブックのコレクションをしています」と彼は答え、「そんなあなたは何を集めているんですか?」と僕に聞いた。

「誰かのために、本を探す仕事をしています。いわば、フリーのブックハンターです。けれども、始めたばかりでまだ何も知りません。今はこうしていろいろな古書店を見て回って学んでいるところなんです」と僕は答えた。

「なるほど。こんなふうに古書店で話しかけてくるのは、大概、ブックハンターか、ディーラーだったりするけど、皆、素性を隠すんです。けれども、君は正直に自分が何者であるかを話してくれた。ありがとう。僕の名はケンだ。よろしく。それなら君は私のためにも本を探してくれるのかな?」と彼は言った。

スリムフィットノータックチノ

上質と上品さを宿す

カジュアルの代表として知られるチノ素材ですが、ユニクロのスリムフィットチノは生地を高密度できめ細やかに織り、表面に起毛を加えることで上質な質感に仕上げています。また伸長率を20%加えることで抜群の穿きやすさも実現。

フロント脇ポケットには、スーツなどに用いられるAMFステッチ(手縫い風の縫い)を用い、さらにポケットに手を入れた後もポケット口が開かないように内側に補強布を当てるなど細部にも上品さを宿しています。

スリムフィットノータックチノ
スリムフィットノータックチノ

フロント脇ポケットには、スーツなどに用いられるAMFステッチ(手縫い風の縫い)を用い、さらにポケットに手を入れた後もポケット口が開かないように内側に補強布を当てるなど細部にも上品さを宿しています。

スリムフィットノータックチノ

仕事の第一とは

「もちろんです!あなたが今、探している本を教えていただければ」と僕は答えた。

「私が探しているのは、ブロドヴィッチの写真集『Ballet』です。1945年に刊行されたもので、撮影当時1930年代のバレエ芸術は、世界中のアーティストの才能が花開く世界だった。そんなバレエの舞台をブロドヴィッチが撮影し、自分でブックデザインした希少本です。ぜひ探していただきたい」とケンは言った。

「わかりました。見つけたら幾らで買っていただけますか?」と聞くと、「カバーケース付きで7000ドルで買いましょう。現金で支払います。ぜひ探してください。何かあればいつでもここに電話してくださいね」とケンは僕に名刺を渡して、握手を求めた。

当然ながら、ケンは「Ballet」を、他のブックハンターにも注文しているだろう。「誰よりも早く、安く、コンディションよく、この本を探そう」この瞬間に、僕はニューヨーク中のブックハンターとのレースに参加したような気持ちになった。

「ちなみにこの店に在庫はありません。ウォンツリストがおそらく10人以上連なっているので、入荷してもすぐに売られるので店には並ばないでしょう。私もそのうちの一人ですが」とケンは笑った。

ということは、「Bellet」は、ニューヨーク中の古書店を探し回っても、よほどの奇跡が起きない限り見つからないということだ。そんな希少本を、百戦錬磨のブックハンターを出し抜いて、どうやって見つけたらいいのだろう。「必ず見つけます!」と豪語しておきながら、僕は頭を抱えてしまった。

そうか、売っている場所がないのであれば、持っている人を探せばいい。僕はそう思った。

僕はジャックに電話し、「Ballet」探索を始める経緯を話し、相談をした。

「大事なことは、まずは君が『Ballet』がどんな本なのかを、その目で見て、熟知しなければならない。いいかい、本を探すヒントは、いつだって、その本の中にあるんだ。まずは実物を手にすることからスタートだね」とジャックは言った。

仕事の第一とは ストーリーイメージ

「そんな希少本はどこに行けば手にできるのだろうか?」と言うと、「それは自分で考えるべきだ。人を頼ってはいけない。どんなことでも、まずは自分で考える。まずは自分で研究する。そして行動に移す。それの繰り返しだよ。がんばれ」と、ジャックは言って僕を励ました。

まずは自分で考える。本を探すヒントは、いつだって本の中にある。僕はまたひとつジャックから大切なことを教えてもらった。ありがとう、ジャック。

「あ、そうだ、アドバイスをもうひとつ。いいかい、7000ドルの本を扱うならば、高級品でなくてもいいので、それなりの身なりをしないと誰にも信用されない。プレスされた清潔なシャツと、きちんとしたパンツを身に着けないと、見た目という身なりで損をすることになるから気をつけたほうがいい」とジャックは僕に言った。

次の日の朝、僕は、洗いたてのシャツにアイロンをていねいにかけた。細身のチノパンツに足を入れると、よし、と気合が入った。

仕事の第一は身だしなみを整えること。これを肝に命じよう。

さあ、今日から僕の仕事がはじまる。

スリムフィットノータックチノ

シルエットの追求

英国に起源をもつトラウザーパンツのパターンを用いることで、ひざ下から裾にかけて、もたつきのない、すっきりきれいなスリムフィットのシルエットが完成しました。

ウォッシュ加工にもこだわることで生地にしなやかさが生まれ、パンツを穿いた時の落ち感がより全体のフォルムを引き立たせてくれます。ビジネスシーンの新たなスタンダードとして、清潔感のあるカジュアルスタイルのベースとして、オンにもオフにも活躍してくれる万能パンツです。

スリムフィットノータックチノ
スリムフィットノータックチノ

ウォッシュ加工にもこだわることで生地にしなやかさが生まれ、パンツを穿いた時の落ち感がより全体のフォルムを引き立たせてくれます。ビジネスシーンの新たなスタンダードとして、清潔感のあるカジュアルスタイルのベースとして、オンにもオフにも活躍してくれる万能パンツです。

万能なのは、
スリムフィットだから。
どんな着こなしにも
合わせやすい。

松浦弥太郎
スリムフィットノータックチノ
025 MENスリムフィットノータックチノ
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LifeWear Story 100とは。

ユニクロには、
流行に左右されず、
けれども、決して古びることのない、
長い間、作り続けている普通の服がある。
品揃えの中では、
とても地味で目立たない存在である。
コマーシャルにもあまり出てこない。

それらは、ユニクロが、
もっと快適に、もっと丈夫に、
もっと上質であることを、
長年、愛情を込めて追求したものだ。

それらは、ユニクロの人格と姿勢が、
目に見えるかたちになったものであり、
丹精に育てているものだ。

昨日よりも今日を、今日よりも明日と。

手にとり、着てみると、
あたかも友だちのように、
その服は、私たちに、
こう問いかけてくる。

豊かで、上質な暮らしとは、
どんな暮らしなのか?
どんなふうに今日を過ごすのか?
あなたにとってのしあわせとは何か?と。

そんな服が、今までこの世界に、
あっただろうかと驚く自分がいる。

ユニクロのプリンシプル(きほん)とは何か?
ユニクロは、なぜ服を、
LifeWearと呼んでいるのだろう?
LifeWearとは、どんな服なのだろう?

ここでは、LifeWearの、
根っこを見る、知る、伝える。
そして、LifeWearと、自分にまつわる、
ストーリーを書いていきたい。

LifeWear Story 100は、
LifeWearと僕の、旅の物語になるだろう。

松浦弥太郎

松浦弥太郎
松浦弥太郎

エッセイスト、編集者。1965年東京生まれ。
2005年から15年3月まで、約9年間、創業者大橋鎭子のもとで『暮しの手帖』の編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。現在は(株)おいしい健康の取締役に就任。数々のメディアで、高い審美眼による豊かで上質な暮らし提案に努めている。新聞、雑誌の連載の他、著書多数。ベストセラーに「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」他多数。NHKラジオ第一「かれんスタイル」のパーソナリティとしても活躍。

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