「優先順位をつけるって簡単そうでむつかしいんだ。とにかくまずは、自分がするべきこと、大切にしたいこと、学びたいことなど、どんなことでも書き出すことだよね。そのリストアップをして、その順番をよく考える。しかしだ、大事なのは、その順番は常に変わるってことなんだ。いや、その順番を常に疑わなくてはいけないってこと。当然ながら、状況は変化するからね」
「そして、肝に命じるべきことは、優先順位とは、何かを捨てるということでもある。それができるかどうか。なかなかむつかしいよね」とも言った。
「何をやって、何をやらないのか。それをしっかり考えることですね」と僕は言った。
「そうだ。だから、優先順位は、いつも変化するべきものなんだ。固定するべきじゃないってことさ。常に疑い、常に更新するべきこと。すなわち、今、その瞬間に、何を最優先にするべきなのかを、リストの順位の中から、瞬時に選び取って的確に判断するということだね」
「そう、やるべきことは、瞬間瞬間で変わるんだ……」その人はそう言いながら、自分で納得するように、うんうんと頷いて目をつむった。
「君と話ができてよかったよ。私もいろいろと考えの整理ができて、それこそ優先順位の手入れが出来たよ」とその人は言って、話しながらメモをとっていたノートを閉じた。
そんな出来事を思い出しながら、これから自分がブックハンターとして、学ぶべきこと、するべきこと、知るべきことなどを思いつくままに、白い紙を埋めるように書き綴った。
「一日に一人、一年で365人。希少本コレクターと知り合うこと」
僕は優先順位のトップにこう書いた。希少本コレクターが365人もいるかどうかわからないが、とにかく一日に一人と出会うことを自分の課題にした。
ブックハンターとして必要な学びは「コレクターがすべてを教えてくれるよ。とにかく、客を知れ」と、あの老紳士が教えてくれたからだ。
僕は老紳士が教えてくれたアップタウンイーストにある古書店に電話をしてアポイントをとった。そこは店を持たずにビルの一室にあった。
書いてくれた住所を頼りにその古書店に行き、入り口の呼び鈴を押すと僕を待っていたかのようにドアが開いた。二十畳ほどの部屋には、本がいくつもの山になって積み上げられていて、その隙間に置かれた椅子には、客らしき人たちが座って本を広げたり、談話をしていた。

「いらっしゃいませ」という声がした。声の主を探すと、目の前に子どものように背の低い女性が立っていて、僕はぎょっとした。
「この部屋は本のために暖房をつけていないので寒いですよ。よかったらこれを着てください」そう言って女性は、僕にふわっとしたダウンの羽織ものを手渡した。
「探しているものがあれば声をかけてください。どうぞごゆっくり」女性はそう言って、本の山に消えていった。
たしかに店の中は妙に冷えていて寒かった。とはいえ、息が白くなるほどでもなく、女性が貸してくれた薄いダウンがちょうど良かった。あとから知ったのだが、それはジャケットの下に着るインナーダウンというものだった。試しに袖を通すと、見た目のわりに暖かくて、動きやすくて、「これいいな」と僕を驚かせた。