100とは

フランネルチェックシャツ

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部屋探し

約束通りに、次の日の夕方、セスに電話をした。

「グットニュースがあるよ! 西74丁目のアパートの持ち主に連絡したら、借り手はまだ見つかってないらしいんだ。貸してくれる期間は一カ月。家賃は500ドル。まあまあ、いいかも!」セスは声を高めて言った。

「ありがとう、セス。持ち主はどんな人なんだろう?」

「うん、ジャズピアニストの女性で、どうやら近くの『バードランド』というジャズクラブで演奏しているらしいんだ。そこでひとつ相談なんだけど、ワンルームの部屋に大きなグランドピアノが置かれているんだ。それでも良ければって話なんだけど。一度見に行ってみよう」

セスは、二日後に、部屋を内見する約束をとりつけてくれた。

僕らは、72丁目の地下鉄の駅の入り口で待ち合わせをした。ブロードウェイに面した72丁目の駅舎は、レンガ作りの小屋のような建物で、110年の歴史があるランドマークだ。

このあたりはアッパーウエストサイドと呼ばれるエリアで、治安もよく、緑が多く、とにかく街がきれいだった。ボザール様式で有名な「アンソニア・コンドミニアム」といった、ニューヨークで最初に空調設備を備えた高級マンションや、立派な邸宅が、道沿いに並んでいた。

セスは僕と会うなり、「よし、あそこのホットドッグを買って食べよう。大好きなんだ」と駅からすぐの場所にある「GRAY’S PAPAYA」というホットドッグ屋に駆け込んで、おすすめのホットドッグを、僕の分まで買ってくれた。ホットドッグは、玉ねぎがたっぷりで、チーズがトッピングされて、チリソースがあふれんばかりに載っていた。

部屋探し ストーリーイメージ

「この組み合わせが最高においしいんだ」と言って、セスはホットドッグを僕に手渡した。

「ストロベリーフィールドに近いよね」と僕が言うと、「うん、すぐそこだよ。トーコさんの家もすぐ近くだよ」と、チリソースを口のまわりにたくさんつけながらセスは言った。

貸し出されているアパートは、駅からほんの数分の距離だった。なんてことのない雑居ビルで、入り口奥のエレベーターの前には、小さなデスクがあり、そこに門番のように男性が座っていた。

セスが、部屋の持ち主と約束があることを門番の男性に告げると、「勝手に行きな」という素振りで僕らを通してくれた。

部屋は四階の一番奥だった。狭い廊下には古びたカーペットが敷かれ、廊下に面したドアは、すべてが白いペンキで厚ぼったく塗られていた。

「ここだ」セスがドアをノックすると、部屋から女性の声が聞こえ、少し待つと、ガチャリ、ガチャリ、ガチャリと鍵を開ける音のあとにドアが開いた。ドアには鍵が3つもついていた。

フランネルチェックシャツ

種類豊富なデザイン

圧倒的なバリエーションが自慢のフランネルシャツ。約1,000パターン以上の色柄候補の中からトレンドとベーシックをバランスよく選びました。衿の形は2種類。ボタンダウンはヨーロピアンテイストの色柄を採用して上品な印象に。タックインしても収まりがいいように着丈を1cm長めに設定しています。

レギュラーカラーはラフに羽織って楽しめる、アメカジなチェック柄を中心に構成。両タイプとも身頃と袖周りをすっきりさせたシルエットが特徴です。

フランネルチェックシャツ
フランネルチェックシャツ

レギュラーカラーはラフに羽織って楽しめる、アメカジなチェック柄を中心に構成。両タイプとも身頃と袖周りをすっきりさせたシルエットが特徴です。

フランネルチェックシャツ

ピアノのある部屋

「はじめまして、ケイトです。どうぞ中に入ってください」

女性は三十代半ばで、ふわふわにカールした長い髪がよく似合う、とても気さくでやさしい雰囲気だった。

僕とセスは彼女に挨拶をし、部屋に入った。その途端、セスは結んだ口を横に伸ばして、僕の目を見た。僕も目を丸くして、セスの目を見つめた。

「えーと、彼は英語が話せるのかしら?」と、僕を見つめながら彼女が言った。

「少しなら話せます。何を言っているかは大体理解できています」とセスが答えると、「あら、それならいいわ。日本人はきれい好きだから部屋を貸しても安心ね」と女性は言った。

「ケイトです。よろしく」と、もう一度、彼女は僕に握手を求めた。

「お貸しするには、ひとつ条件があるの。それは毎週、水曜日と金曜日の3時から6時までは、ピアノ教室をここでしているので、その時間だけは、部屋から出ていてもらいたいの」

セスはどうする?という視線で僕を見た。それよりも、僕らがびっくりしたのは、狭い部屋の真ん中にグランドピアノが占拠されていて、部屋のどこにもベッドもソファもないことだった。

「ちょっと値切ってみよう……」セスは僕に耳打ちした。

「しかし、ベッドもソファも無いと不便ですね。たとえば、一カ月400ドルにしてもらうことは可能でしょうか?」と、セスは交渉をはじめた。

ニューヨーカーはどんな時でも、ごねてみたり、交渉をするのが好きだとセスから聞いていたので、僕は笑いをぐっとこらえて、二人のやりとりを見ていた。

「では、一カ月420ドルで!」二人は僕を抜きにして、勝手に交渉をまとめて握手をした。

ピアノのある部屋 ストーリーイメージ

「彼女はボーイフレンドと長年ここに住んでいたけれど、新しく付き合うことになった人の家で同棲することになった。けれど、ピアノ教室だけは続けたいので、この部屋を残しておきたいんだって」とセスは言った。

「ピアノ以外なら、ここの部屋にあるものはすべて使ってくれて結構よ。よかったら、クローゼットの中にある、男ものの服も自由に着てもいいわよ」とケイトは笑いながら言った。

クローゼットを開けてみると、男ものの服がきれいに畳まれて、几帳面に収納されていた。よく見ると、プレッピースタイルとでもいおうか、ニューヨークトラッドなワードローブが揃っている。しかも、かなりマニアックだ。

「これなんかあなたに似合うんじゃない?」ケイトはウールのシャツを広げて見せた。

フランネルチェックシャツ

使い分けのすすめ

コットン100%生地の表裏を起毛させたフランネルの特徴は、ふわりと柔らかな風合いと、ほどよい暖かさ。生地の厚みの違いで使い分けると、着こなしの楽しみが広がります。ボタンダウンは少し薄手なので、早い時期から活躍してくれます。

季節が進んだらニットやジャケットと品よく重ね着がおすすめ。厚手のレギュラーカラーは主役として1枚での着用はもちろん、ダウンベストやパーカなどカジュアルな合わせと相性抜群です。

フランネルチェックシャツ
フランネルチェックシャツ

季節が進んだらニットやジャケットと品よく重ね着がおすすめ。厚手のレギュラーカラーは主役として1枚での着用はもちろん、ダウンベストやパーカなどカジュアルな合わせと相性抜群です。

柄選びに迷ったら、
できるだけ地味な柄を選ぶ。
いたって地味な柄を、
地味に着こなすのが僕は好き。

松浦弥太郎
フランネルチェックシャツ
011 MENフランネルチェック
シャツ(長袖)
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LifeWear Story 100とは。

ユニクロには、
流行に左右されず、
けれども、決して古びることのない、
長い間、作り続けている普通の服がある。
品揃えの中では、
とても地味で目立たない存在である。
コマーシャルにもあまり出てこない。

それらは、ユニクロが、
もっと快適に、もっと丈夫に、
もっと上質であることを、
長年、愛情を込めて追求したものだ。

それらは、ユニクロの人格と姿勢が、
目に見えるかたちになったものであり、
丹精に育てているものだ。

昨日よりも今日を、今日よりも明日と。

手にとり、着てみると、
あたかも友だちのように、
その服は、私たちに、
こう問いかけてくる。

豊かで、上質な暮らしとは、
どんな暮らしなのか?
どんなふうに今日を過ごすのか?
あなたにとってのしあわせとは何か?と。

そんな服が、今までこの世界に、
あっただろうかと驚く自分がいる。

ユニクロのプリンシプル(きほん)とは何か?
ユニクロは、なぜ服を、
LifeWearと呼んでいるのだろう?
LifeWearとは、どんな服なのだろう?

ここでは、LifeWearの、
根っこを見る、知る、伝える。
そして、LifeWearと、自分にまつわる、
ストーリーを書いていきたい。

LifeWear Story 100は、
LifeWearと僕の、旅の物語になるだろう。

松浦弥太郎

松浦弥太郎
松浦弥太郎

エッセイスト、編集者。1965年東京生まれ。
2005年から15年3月まで、約9年間、創業者大橋鎭子のもとで『暮しの手帖』の編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。現在は(株)おいしい健康の取締役に就任。数々のメディアで、高い審美眼による豊かで上質な暮らし提案に努めている。新聞、雑誌の連載の他、著書多数。ベストセラーに「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」他多数。NHKラジオ第一「かれんスタイル」のパーソナリティとしても活躍。

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