100とは

カシミヤクルーネックセーター

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「ニューヨーカーのセス」

セスは、僕より四歳上のフリーで働くジャーナリスト。レストランビジネスをしているトーコさんの会社で、以前働いていた青年だった。

「本好きなあなたと、きっと気が合うと思うわ」。そう言って、トーコさんは、僕らを引き合わせてくれた。

セスのアパートは、38丁目のレキシントン・アベニューにあった。住所を教えてもらい、訪ねてみた。そこは六階建ての古い建物だが、とても清潔感があり、入り口には、アンリ・ルソーのポスターが飾られた小さなロビーがあった。

僕がエレベーターの場所を探していると、ドアマンが近づいてきて、「あなたはセスの友だちですよね? 聞いていますよ」と言って、親切にエレベーターの場所を教えてくれた。

セスの部屋は最上階のペントハウスだった。「PH」というボタンを押して、彼の部屋へと向かった(「PH」というボタンがかっこいいと思った)。エレベーターの中は、ローズマリーのいい匂いがした。

エレベーターのドアが開くと、セスが満面の笑顔で僕を待っていてくれた。

「君が来たことを、ドアマンが連絡くれたんだ。ようこそわが家へ!」と言って、僕の肩を抱いて、部屋へと案内してくれた。

ペントハウスというと豪奢なイメージがあったが、そこは普通のアパートの最上階で、一人暮らしにはちょうどよい広さの、気取りのないシンプルなワンルームだった。

「こっちこっち」と、セスは僕をバルコニーに連れ出し、「見てごらん。ここからの景色が僕は大好きなんだ。どうだい?」と言った。

バルコニーに置かれたプランターには、ローズマリーが植えられていた。

「部屋よりも外のほうが気持ちいいんだ」と言って、セスは、バルコニーに置かれた折りたたみの椅子に「どうぞ、ヤタロウ」と言って僕を座らせた。

そこから見えるニューヨークの広い景色、階下から聞こえる街の音、そよぐ風、きらきらとした秋の陽射し、そのすべてが、セスの言うように心地よかった。

「ほら、あそこにエンパイヤーステートビルが見えるだろう。夜になるときれいなんだ」。

この部屋は、長年、仲違いしている不動産屋を営む父の持ち物であること。時折、ニューヨーク・タイムズにコラムを寄稿していること。トーコさんとの関係など、セスは自分のことを僕に話してくれた。

「ニューヨーカーのセス」 ストーリーイメージ

「いろいろ話してくれてありがとう」と言うと「いつか君のことも話してくれたら嬉しいよ、ヤタロウ」とセスは言った。

「今度、僕が好きなニューヨークの本屋を紹介してあげよう。あとは、これからしばらくニューヨークにいるなら、ホテルではなく、どこか部屋を借りるといいよ。僕が探すのを手伝うから心配しないでいいよ」。

「ほんとうにありがとう」と言うと、「君はもう僕の友だちだよ。ニューヨークは人と人が支え合う街なんだ。気にしないで」と言ってセスは笑った。

「さ、ピザでも食べに行こう! 寒くなったからあったかい服を着たほうがいい」。

シャツ一枚の僕に、セスはセーターを貸してくれた。セーターは大きくてぶかぶかだったが、とてもあたたかった。

カシミヤクルーネックセーター

最上級のやわらかさ

しなやかさとなめらかな艶、あたたかさと吸湿性の高さ。繊維の宝石と言われるカシミヤを惜しみなく100%使用。一番のこだわりは「風合い」の仕上げです。着るたびに毛羽が立ち、だんだんと柔らかくなるものがほとんどですが、ユニクロのカシミヤは購入してすぐに極上のやわらかさを肌で感じていただけるはずです。

気持ちまでほころぶこの上ないカシミヤの風合いは、数え切れないほどのサンプルを作り、研究を重ねてたどりついた成果です。

カシミヤクルーネックセーター
カシミヤクルーネックセーター

気持ちまでほころぶこの上ないカシミヤの風合いは、数え切れないほどのサンプルを作り、研究を重ねてたどりついた成果です。

カシミヤクルーネックセーター

セーターのぬくもり

セスは「僕の好きなピザ屋だよ」と、ブリーカー・ストリートの老舗「ジョンズ・ピッツェリア」に連れていってくれた。僕らは本場ナポリの名物マルゲリータを頼み、一枚を分け合って食べた。

「おいしい!」と僕が喜ぶと、「ここはウディ・アレンの映画にも出てくる、ニューヨーカーに愛される店なんだよ」とセスは言い、この店のピザが、なぜこんなにおいしいのかを僕に詳しく説明してくれた(小麦の種類と焼き方らしい)。

セスは、どんなことにも、好みやこだわりがはっきりとあり、何か聞くと、かなり詳しく教えてくれるところが、いかにもニューヨーカーらしいと思った。

食後、僕らは夜のグリニッジ・ヴィレッジを散歩して、一軒のカフェに入って、熱いコーヒーを飲んだ。するとセスは、バッグからニューヨーク・タイムズを取り出し、「個人が期限付きでアパートを貸してくれるサブレットというのがあるんだ。その投稿を見てみよう」と言って新聞を広げた。「一カ月400ドルくらいで、いい部屋があるといいんだけどな……」。

すると、西74丁目に小さなワンルームの貸出しが載っているのをセスが見つけた。

セーターのぬくもり ストーリーイメージ

「ここは場所がいい。明日、僕が持ち主に電話して聞いてみよう。ホテル暮らしよりこっちのほうが絶対にいいよ」とセスは言った。僕は、短期にしろ、ニューヨークで部屋が借りられるなんて夢みたいだと思った。

別れ際に、貸してくれたセーターを脱いで返そうとすると、「寒いから着て帰ったほうがいいよ。今度会う時に返してくれれば大丈夫」とセスは言った。

「明日の夕方に僕に電話してくれ。その時には、きっと部屋のことがわかっていると思う」。

セスは「今日はありがとう、ヤタロウ」と言って、軽くハグをしてくれた。僕も「ありがとう、セス」と言った。

言葉の最後に、こんなふうに僕の名前を、セスが言ってくれるのが、とても嬉しかった。嬉しかったから僕も真似をして、そう言ってみたら、もっと嬉しい気持ちになった。

ホテルの部屋に戻り、セスに借りたセーターを脱いだ。ぶるっと身体が震えて、今夜がこんなに寒かったのかと驚いた。

僕は、セーターを着直して、部屋の窓を開け、ニューヨークの夜景を眺めた。

カシミヤクルーネックセーター

究極のベーシックとは

常に変化し続ける時代の中でベーシックであるためには、すべてのバランスが重要だと考えます。ニットの厚み、サイズ感、時代に寄りそうフォルム。首回り、袖付けのラインや形など、毎シーズン数ミリ単位のアップデートを繰り返し、究極のベーシックを追求しました。

今シーズンからはエクストラファインメリノと同様にリブを改良。袖を付け根、中腹、袖口と編み地のテンションを変えてストレスにならない自然なフィットに仕上げました。

カシミヤクルーネックセーター
カシミヤクルーネックセーター

今シーズンからはエクストラファインメリノと同様にリブを改良。袖を付け根、中腹、袖口と編み地のテンションを変えてストレスにならない自然なフィットに仕上げました。

カシミヤを着る。
カシミヤをさわる。
カシミヤを感じる。
今日のしあわせ。

松浦弥太郎
カシミヤクルーネックセーター
010 MENカシミヤクルーネック
セーター(長袖)
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LifeWear Story 100とは。

ユニクロには、
流行に左右されず、
けれども、決して古びることのない、
長い間、作り続けている普通の服がある。
品揃えの中では、
とても地味で目立たない存在である。
コマーシャルにもあまり出てこない。

それらは、ユニクロが、
もっと快適に、もっと丈夫に、
もっと上質であることを、
長年、愛情を込めて追求したものだ。

それらは、ユニクロの人格と姿勢が、
目に見えるかたちになったものであり、
丹精に育てているものだ。

昨日よりも今日を、今日よりも明日と。

手にとり、着てみると、
あたかも友だちのように、
その服は、私たちに、
こう問いかけてくる。

豊かで、上質な暮らしとは、
どんな暮らしなのか?
どんなふうに今日を過ごすのか?
あなたにとってのしあわせとは何か?と。

そんな服が、今までこの世界に、
あっただろうかと驚く自分がいる。

ユニクロのプリンシプル(きほん)とは何か?
ユニクロは、なぜ服を、
LifeWearと呼んでいるのだろう?
LifeWearとは、どんな服なのだろう?

ここでは、LifeWearの、
根っこを見る、知る、伝える。
そして、LifeWearと、自分にまつわる、
ストーリーを書いていきたい。

LifeWear Story 100は、
LifeWearと僕の、旅の物語になるだろう。

松浦弥太郎

松浦弥太郎
松浦弥太郎

エッセイスト、編集者。1965年東京生まれ。
2005年から15年3月まで、約9年間、創業者大橋鎭子のもとで『暮しの手帖』の編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。現在は(株)おいしい健康の取締役に就任。数々のメディアで、高い審美眼による豊かで上質な暮らし提案に努めている。新聞、雑誌の連載の他、著書多数。ベストセラーに「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」他多数。NHKラジオ第一「かれんスタイル」のパーソナリティとしても活躍。

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