100とは

エクストラファインメリノ

エクストラファインメリノ

雨に濡れて

僕はまだサンフランシスコのテンダーロインにいる。

サンフランシスコで一番好きな場所はどこかと聞かれたら、市の北東に位置する、テレグラフヒルのコイトタワーだと答える。

子どもの頃の夢は消防士になることだった。生まれ育った家のすぐ近所に、消防車が2台停まった小さな消防署があり、そこで働く消防士のかっこよさに憧れていた。

サンフランシスコが一望できる、白亜のコイトタワーのかたちは、消防用ホースのノズルを模している。1906年のサンフランシスコ地震で活躍した、勇敢な消防士を称えて建造されたと聞いた時、心が震えた。

あとでわかったのだが、その逸話は不確かで、実際は、「愛するサンフランシスコのために」という願いから、慈善家のリリー・ヒッチコック・コイトという女性が遺贈した塔だ。

僕はコイトタワーの展望台から眺めるサンフランシスコの海や街の、特に午後の景色が大好きだった。いやなことも、つらいことも、これからの不安なことも、広く美しい景色をぼんやり見ていれば、忘れることができた。

ある日の午後、いつものようにコイトタワーからの景色を眺めた後、テレグラフヒルを、ぼんやりしながら歩いていると(僕はこのエリアの町並みも大好きだった)、空が急に暗い雲で覆われ、ポツポツと雨が降ってきた。

僕は雨宿りをしようと、ちょうどよくそこにあった一軒のランドロマットに入った。日本で言うコインランドリーのことをランドロマットというのを知ったのは、リチャード・ブローティガンの詩の一篇からだった。

雨に濡れて ストーリーイメージ

赤い床のランドロマットには誰もいなかった。片隅に置かれた植木の葉っぱに、小さな白い蝶々が二羽とまっていた。

ブローティガンが通ったランドロマットも、きっとこのあたりだろうな、と思いながら、ウインザー調の椅子に座って、雨音を聴いていたら、いつしか僕は眠ってしまっていた。

人の声で目を覚ますと、女性がランドロマットを閉める準備をしていた。僕に早く出て行けと言った。外を見ると、強い雨が降り続けていた。

夏の終わりだったが、さすがに夜は、シャツ一枚では寒かった。セーターを持ってくればよかったと思った。僕は雨に濡れながら道を歩いた。

一体僕は毎日なにをしているんだろう。これからどうしたらいいのだろう。サンフランシスコに何を求めているのだろう。

冷たい雨にさらされて、寒さで肩を震わせ、そんなことばかりを考えて歩いた。

家々の窓を見ると、あたたかそうな、ほのかな明かりが灯っている。このあたりはほんとにすてきな家ばかりだ。

すれ違った人に時間を聞くと、9時を過ぎていた。

エクストラファインメリノ

呼吸する天然素材

世界最高峰のウール素材、エクストラファインメリノ。極細繊維が織りなす、肌に吸い付くような着心地としっとりとした極上の手触り、高級感ある美しいドレープ。通気性と吸湿速乾に優れ、かつ高い保温力を持っているので、暑い時は涼しく、寒い時は暖かい。

エクストラファインメリノ
エクストラファインメリノ

人の体温に応じて働き方を変える天然の機能は、まるで呼吸をしているよう。シワになりにくく防臭効果もあり、さらには自宅の洗濯機でも洗えてしまう、まさにLifeWearを象徴するアイテムです。

エクストラファインメリノ

星がきらめいた

雨の中、テレグラフヒルのグリーンストリートを歩いていると、一軒のジャズ・クラブのドアの隙間から音楽が聞こえてきた。

立ち止まって耳を澄ますと、ギターが奏でるジャズのメロディだった。僕はジャズクラブのドアを開けて中に入った。

店の中に客は数人しかおらず、奥の暗いスペースで、年老いた男が、木の椅子に座ってギターを演奏していた。男が弾くギターは、かなり古いギブソンで、そのリズムのサウンドと、低音の枯れた音色が、雨に濡れた僕の耳に心地よかった。

「Autumn Leaves」が流れた。

演奏の合間に、男は、「これが今夜の私のギャラです」と言って、ワイングラスを口につけて微笑んだ。

そして、ぽつりと、「ぼくたちはどんなふうに生きるのか」と呟いた。「従うのか、逆らうのか。そのどちらを君は選ぶのか」と言い、また静かに演奏を続けた。

僕は男の演奏に心を奪われた。僕を立ち止まらせたそのメロディは、テクニックではなく、単に作られた音楽でもなく、彼自身の生き方そのものをあらわしたものだった。

やさしく、静かに、強く、自由に、おおらかに、そのすべてが出会いであるかのように、男の奏でるギターが僕に何かを語りかけているようだった。

僕は、ひたすらその演奏に身を委ね、男が言った言葉の答えを出そうとしていた。

「従うのか。逆らうのか…」。

「最後に、敬愛するギタリスト、タル・ファーロウと、あなたのために「Misty」を弾きます」と男が言った。

演奏された「Misty」は、僕にとっての、このひとときを永遠にするにふさわしい曲だった。

星がきらめいた ストーリーイメージ

誰にでもその歩みを立ち止まらせる一瞬がある。その一瞬という呼びかけに、自分はどう答えるのか。その何か特別なものに、自分の心をどう開くのか。この思いがけない贈り物をどうやって受け取るのか。

演奏を終えた男は、ほっと安心するかのような表情をし、ワイングラスに口をつけて、こう言った。

「寒い季節になってきたので、どうぞあたたかくしてお過ごしください。おやすみなさい」

男はギターを、大切そうにギターケースにしまい、僕を含めて、たった三人の客に、手を上げて頭を下げた。

店を出ると、雨は上がっていて、夜空に星がきらめいていた。

∗タル・ファーロウ(Tal Farlow)1950年代に活躍したアメリカのジャズ・ギタリスト

エクストラファインメリノ

定番であるために

ウールは生き物。そのため原毛には微差が生じます。品質を均一に揃えるため、紡績、編み、仕上げの各段階の検証、素材の風合いやフィットの確定など数え切れないほどのサンプルを作成し、最高のバランスを探しました。

エクストラファインメリノ
エクストラファインメリノ

毎年ミリ単位の調整を行うリブは部分部分で、編みのテンションを変えている。特に袖と裾はボディの付け根、中腹、袖・裾口と編み地のテンションを変え、ストレスにならない自然なフィットを実現。季節を問わず日常で、旅するときも一緒にいられる定番です。

※モデル着用商品はモデル私物です。

今年は、数色揃えて、
コーディネートを楽しむ。
カジュアルだけどシック。
ちょっとしたイメチェン。

松浦弥太郎
エクストラファインメリノ
005 MENエクストラファインメリノ
クルーネック
セーター(長袖)
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LifeWear Story 100とは。

ユニクロには、
流行に左右されず、
けれども、決して古びることのない、
長い間、作り続けている普通の服がある。
品揃えの中では、
とても地味で目立たない存在である。
コマーシャルにもあまり出てこない。

それらは、ユニクロが、
もっと快適に、もっと丈夫に、
もっと上質であることを、
長年、愛情を込めて追求したものだ。

それらは、ユニクロの人格と姿勢が、
目に見えるかたちになったものであり、
丹精に育てているものだ。

昨日よりも今日を、今日よりも明日と。

手にとり、着てみると、
あたかも友だちのように、
その服は、私たちに、
こう問いかけてくる。

豊かで、上質な暮らしとは、
どんな暮らしなのか?
どんなふうに今日を過ごすのか?
あなたにとってのしあわせとは何か?と。

そんな服が、今までこの世界に、
あっただろうかと驚く自分がいる。

ユニクロのプリンシプル(きほん)とは何か?
ユニクロは、なぜ服を、
LifeWearと呼んでいるのだろう?
LifeWearとは、どんな服なのだろう?

ここでは、LifeWearの、
根っこを見る、知る、伝える。
そして、LifeWearと、自分にまつわる、
ストーリーを書いていきたい。

LifeWear Story 100は、
LifeWearと僕の、旅の物語になるだろう。

松浦弥太郎

松浦弥太郎
松浦弥太郎

エッセイスト、編集者。1965年東京生まれ。
2005年から15年3月まで、約9年間、創業者大橋鎭子のもとで『暮しの手帖』の編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。現在は(株)おいしい健康の取締役に就任。数々のメディアで、高い審美眼による豊かで上質な暮らし提案に努めている。新聞、雑誌の連載の他、著書多数。ベストセラーに「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」他多数。NHKラジオ第一「かれんスタイル」のパーソナリティとしても活躍。

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