100とは

ヴィンテージレギュラーフィットチノ

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テンダーロイン

独りきりになって、はじめて気づいたことがある。

目をつむると、母や父、姉、友だち、よく知る親しい人、いつか会ったあの人、そんな人たちの顔が、ふわふわっと瞼の裏に浮かんでくる。

時には煩わしいとさえ思った人たちなのに、今、遠く離れた外国の地で、独りきりになってみると、その微笑んだ顔が、とっても大切に思えて仕方がない。

今朝、ホテルのロビーで朝食を食べている時、「君の家族のことを話してごらん」と、ここで友だちになったアルフレッドに聞かれた。

その時、僕は生まれてはじめて、自分の家族一人ひとりの人格というか、好きなところを言葉にしようとした。日本で暮らしている時は、家族なんてそこに居るのが当たり前だったから、うっとおしいとか、めんどうくさいと思うところは考えても、好きなところなんて考えたことすらなかった。

そうした時、僕は、家族や友だち、知人に至っても、誰一人、嫌いと思う人はいないとわかった。無視をしたり、あいさつさえしない時があったくせに、実は大好きなんだ。しかも、心の底から、「いつもありがとう」という気持ちが湧き上がった。

「会えなくてさみしい?」。

僕が黙っていると、「今日は街を歩くといい。ホテルの前の道をどこまでもまっすぐ歩けば海に出るよ」と言って、アルフレッドは席を立った。

僕は、さみしくてさみしくて、たまらないから、さみしいと言ってしまうと、つらくなると思った。

ホテルのドアを開けて、外に出ると、サンフランシスコのまぶしい陽射しが僕を包み込んだ。僕は一日20ドルと決めた生活費をポケットに入れて、海に向かって歩き出した。

テンダーロイン ストーリーイメージ

道の角にあったコーナーショップでミネラルウォーターを買った際、レジの女性に「この街は、なんていう名前ですか」と聞くと、何言ってるのこの人?という顔をされながらも、「テンダーロインよ」と教えてくれた。

道端のゴミ箱に、野球ボールがいくつも捨てられていた。僕はその中の一個を拾ってポケットに入れた。アメリカ製の野球ボールなんて、僕にとっては宝もの。今日はなんて良い日なんだろう。

僕はチノパンの裾をくるくるっとロールアップして、レブンワース・ストリートという名の道をどんどんと歩いた。

ヴィンテージレギュラーフィットチノ

本物をめざして

こだわり抜いたのは、上質でタフなチノクロス(生地)の開発。ヴィンテージのサンプルを研究し、タテ糸とヨコ糸の配列を何種類も試作。

ヴィンテージレギュラーフィットチノ

さらに洗いにかけ、柔軟剤の材料、ウォッシュの時間、水の温度などをバリエーション別に徹底して研究し、古きよき時代のチノクロスの風合いを再現。およそ1年半の歳月をかけて、本物のヴィンテージが持つ、独特の光沢やハリコシを残しながら、柔らかな風合いを兼ね備えた、オリジナル生地が完成。

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大切なもの

坂の多い街、サンフランシスコ。

ホテルのあるテンダーロインから、レブンワース・ストリートを北へと歩いた。

クリーニング屋、生活雑貨や食料品を売るコーナーショップ、簡易食堂やバー、そして、かわいらしいビクトリアン様式の住宅などを横目に坂をどんどんと登っていく。

「疲れたら、立ち止まって空を見上げるといい。そうすれば元気が出る。下を向いたらもっと疲れるぞ」。

子どもの頃、父から言われた言葉を僕は思い出しながら歩いた。そうだ、前を向いて歩こう、と。

レブンワース・ストリートを、横切るカリフォルニア・ストリートまで登ると、街の景色がすっかり変わった。空に近くなったというか、街がすっかりきれいになった。

小さな古本屋があった。中を覗くと、猫が一匹いて、その奥で痩せた老人が一人で本の整理をしていた。

ドアノブを回すと、鍵がかかっていた。僕を見た老人がどこかのボタンを押すと、鍵がカチャリと開いた。

「こんにちは」と声をかけると、老人はにこっと笑って、「やあ」と言った。寝転がった猫の背中をなでると、ぐーんと大きく伸びて、白いお腹を見せた。「元気かい」と老人は言った。

老人の手元に、表紙に海賊ジョン・シルバーが描かれた、ロバート・ルイス・スティーブンソンの『宝島』があった。

「ジョン・シルバーは好きかい?」と老人は僕に聞いた。そして、「ジョン・シルバーはいいやつだ。彼こそが海の男だよ」と言った。

「はい、僕もシルバーは好きです。その本はいくらですか?」。僕は『宝島』が無性に読みたくなって聞くと、「15ドル。いや10ドルにしてあげよう」と老人は言った。

大切なもの ストーリーイメージ

この本を買うと、今日の夕食は抜きになる。どうしようかと迷った。けれども、今の僕には『宝島』が必要に思えて仕方がなった。この古ぼけた『宝島』が、僕に勇気を与えてくれるような予感がした。

老人から受け取った『宝島』を、チノパンツの後ろポケットに入れて、僕は再び、海に向かって歩いた。

「一番大切なものは何か」と、主人公のジムがシルバーに聞くと、見つけた宝ものよりも「一杯のコーヒーさ」と答えたシルバー。

僕の大切なものって何だろう。ふと前を向くと、道の彼方に青い海が見えた。

ヴィンテージレギュラーフィットチノ

育てるヴィンテージ

ゴワッとした手触りが嬉しい、コットン100%のポケットの袋地。頑丈な巻き縫いのステッチ、ボタンやポケットなどのディテールは、ヴィンテージを忠実に再現。マニアならきっとわかる、こだわりだらけのここやあそこ。

ヴィンテージレギュラーフィットチノ
ヴィンテージレギュラーフィットチノ

ただしシルエットだけは現代のアレンジ。裾幅にこだわった、程よいストレートと股上で、着心地と動きやすさは快適。カジュアルにも、ジャケットスタイルにも幅広く使える定番。履きこむほどに変化していく“アジ”が楽しみなチノパンツ。

ワンサイズ大きめを選んで、裾を短めにロールアップ。二日目の姿を、鏡に映してみた。このチノパンツに惚れた。好きなタイプだ。

松浦弥太郎
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LifeWear Story 100とは。

ユニクロには、
流行に左右されず、
けれども、決して古びることのない、
長い間、作り続けている普通の服がある。
品揃えの中では、
とても地味で目立たない存在である。
コマーシャルにもあまり出てこない。

それらは、ユニクロが、
もっと快適に、もっと丈夫に、
もっと上質であることを、
長年、愛情を込めて追求したものだ。

それらは、ユニクロの人格と姿勢が、
目に見えるかたちになったものであり、
丹精に育てているものだ。

昨日よりも今日を、今日よりも明日と。

手にとり、着てみると、
あたかも友だちのように、
その服は、私たちに、
こう問いかけてくる。

豊かで、上質な暮らしとは、
どんな暮らしなのか?
どんなふうに今日を過ごすのか?
あなたにとってのしあわせとは何か?と。

そんな服が、今までこの世界に、
あっただろうかと驚く自分がいる。

ユニクロのプリンシプル(きほん)とは何か?
ユニクロは、なぜ服を、
LifeWearと呼んでいるのだろう?
LifeWearとは、どんな服なのだろう?

ここでは、LifeWearの、
根っこを見る、知る、伝える。
そして、LifeWearと、自分にまつわる、
ストーリーを書いていきたい。

LifeWear Story 100は、
LifeWearと僕の、旅の物語になるだろう。

松浦弥太郎

松浦弥太郎
松浦弥太郎

エッセイスト、編集者。1965年東京生まれ。
2005年から15年3月まで、約9年間、創業者大橋鎭子のもとで『暮しの手帖』の編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。現在は(株)おいしい健康の取締役に就任。数々のメディアで、高い審美眼による豊かで上質な暮らし提案に努めている。新聞、雑誌の連載の他、著書多数。ベストセラーに「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」他多数。NHKラジオ第一「かれんスタイル」のパーソナリティとしても活躍。

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