名車で紐解く、トヨタのモノづくり
撮影協力:トヨタ博物館
トヨタのモノづくりの精神「誰かのために」
発明家 豊田佐吉から受け継がれ、会長の豊田章男もよく使う言葉ですが、「モノづくり」の根底には「誰かのために」という大きな柱があります。常に人が第一優先であり、まずは「誰のために、何ができるか」を考え、そのための機能やデザイン、あらゆる手法やソリューションはあとからついてくる。これがトヨタのモノづくりのベースとなる精神であり、デザインの基本です。
その上でデザインのプロセスとしては、まず使い手である人を研究します。人がいて、そこから生まれてくるコンセプトにどうアプローチするか。クルマの歴史というよりも、暮らしの歴史に寄りそい、ライフスタイルや環境問題などを考慮しながらその都度最善を探していきます。
デザインの本質とは「思いを見える化する」こと
トヨタにとってデザインとは、社内外の皆さんの思いを見える化、ビジョンを形にすることです。それは絵や立体から、文章、コンセプトだったりいろいろですが、私たちビジョンデザイン部ではそういった思いを国内外のデザイン拠点と連携しながら具現化していきます。これはとても大事なことで、いくらデスクを囲んで議論ばかりしていても結局決まらない。現地現物主義で、やっぱりモノを作って、実際に試してはじめてわかることが多いので、どう表すのが最適かを見える化することが、デザインの大きな役割です。その先にあるクルマ、カーデザインがどのように生まれていくかは、コンセプトの構築が出発点となります。人が移動するときの体験価値を具現化することも、結局人の思いをつなげていく、見える化することに集約されます。
ランドクルーザー(20系)
1957年
6 気筒 3878cc 105 馬力エンジン 四輪駆動
警察予備隊(現陸上自衛隊)の要請による不整地走行用クロスカントリー仕様車の入札用として開発された初代(BJ 型)のあと、民間向けの外観を備えた 2 代目の通称「20系」。強力な機動力から、陸の巡洋艦をイメージし、水中渡河、山登りでも条件問わず走破を可能にする、どんな用途にも使える万能車として進化した四輪駆動車のパイオニア。シンクロメッシュ機構、ステアリングダンパー、乗用車並のサスペンションを用いているため運転しやすく、快適な乗り心地を実現。貨客兼用からトラック、ライトバン、消防車、診療車など幅広い用途に応用された。海外への本格的な輸出をスタートしたモデルでもある。
コンセプトの構築から始まるカーデザイン
カーデザインのプロセスは、まずコンセプトを立てます。ただ移動できればいいのではなく、誰かの暮らしや仕事を楽にすることを前提に、レジャーのためなのか、働くためなのか、目的によって大きく道が分かれていきます。100 人いれば 100 人違う価値観の中でも共通項を土台として押さえながら、プラスαを加えていく。家族構成、世代によっても異なるので、大きな道が分かれた先もたくさんの小道に分かれていきます。それらをどこまでカバーしながらコンセプトを立てるかが重要です。
そして、外見のシルエットやデザインに入る前に、もうひとつやらなければならないのは、パッケージデザインと呼ばれるもので、車両の設計・レイアウト全体、つまり乗員空間、部品配置など多岐にわたります。これもコンセプトのひとつで「何人乗りなのか」「どういうポジションで乗せるのか」目的に合わせて、人の座る位置、エンジンと 4 つのタイヤの位置を決めていきます。
TOYOTA COROLLA1966
1077cc 強力60馬力エンジン 6000回転 0発進 400m 19.7秒 最高速度140km/h
1500cc クラスの実力を誇り、ヨーロッパ水準を超える高速設計。大衆車市場に向けて提供した5人乗り乗用車。豹の目を思わせるダイナミックなヘッドランプ、中央部に優美な膨らみをみせるボンネット、シャープな流れをみせるリア、全面的に曲面を多用した斬新なスタイル。さらにゆったり余裕のある室内空間、雑音遮断した静粛設計、家計にやさしい低燃費の経済設計などの特長をもち、ハイコンパクトカーとして、マイカーを持ちたいという幅広い層の憧れを満たした。
トヨタらしいプラスαの付加価値
コンセプトを押さえた上で、私たちはプラスαの付加価値を常に考えます。例えば、初代カローラは、同時期のライバル車や欧米車の排気量が 1000cc だったのに対して、1077cc にすることで、同じ機能性を持たせつつ、スペックでのプラスαを工夫しました。デザインでも同じで、大衆車は人が乗る空間を求めると、四角くなってしまいますが、初代カローラでは、デザイン用語でいう質感にもプラスαの仕掛けを施しました。他メーカーのクルマの外形デザインが少し硬くて痩せた表面の質感だったのに対し、カローラは少しラウンドさせながら張りを持たせ、表面や線の質感を上げていくことで、ちょっと手が込んだリッチな印象に仕上げました。それによってワンクラス上の車のような価値をもたらし、お客様に響くのではないかと考えたのです。
トヨタ2000GT 1967年
高速度220km/h 最高巡航速度205km/h 0発進 400m 15.9 秒
2000cc クラスの世界トップレベルの高性能 GT(グランツーリスモ)でありながら、市街地の走行も可能な豪華な実用性も併せ持つ、ヤマハ発動機 (株) の協力を得て開発した先進技術の結晶。速く走るためのパッケージとして、エンジン、車台、室内寸法などの位置、大きさを決め、空気抵抗を極端に減らしたなめらかな曲線の理想のボディで包んだ優雅なスタイルを持つ。オープントップに改造されたプロトタイプが映画『007 は二度死ぬ』で使用されるなど、世界にその名を知らしめた。性能と美しさの両方を最高レベルで融合した 1 台。
最後まで諦めないクリエイティビティ
トヨタのクリエイティビティの特徴は、デザインと設計が一体化していること。人間工学に基づいた安全性や耐久性を考慮した上で、性能を落としたくない設計者と、もっと美しくしたいデザイナーが、いいソリューションはないかと、膝を突き合わせながら納得いくまでやり取りを続ける。例えば、小さいミラーのほうが格好いいけど、小柄な人には見づらい。機能を損なわず造形的にも美しく見せられる手法はないか、誰かが我慢するのではなく、みんなが使いやすいものを目指します。全員を 100%満足させるのは難しいですが、できる限りそこに近づけられるよう最後の最後まで諦めません。いろんな角度から検証を重ねた上で決定する。しかも、こういった改善は発売後も続き、部品を取り替えたり常にアップデートしていく。マニアックなところまで突き詰める姿勢は、トヨタのクリエイティビティの表れだと思います。
ハイエース デリバリーバン 1967年(10月発売)
1345cc 65馬力エンジン 積載量500~850kg
全天候型の本格的貨客兼用車として設計、開発されたハイエース・デリバリーバン。モノコック構造のボディを採用することで、床面を低くし広い積載スペースの確保を可能にした。乗降、荷物の積み降ろしがしやすい、商用車としての機能は充分に持ちながら人間尊重の精神に基づき設計された乗用車ムードの新しい商用車。世界的に流行していたトラックのバン型化をいち早く採用したトヨタ技術陣の先見性を示した。
トヨタの歴史を築いた4台のクルマ
UT のアートワークに選んだ「カローラ」「ランドクルーザー」「ハイエース」「2000GT」の 4 台は、それぞれの用途、目的におけるトヨタにとっての元祖です。カローラは、乗用車の中で国民的ファミリーカーの代表格としての位置付けを確立しました。世界中で最も売れたクルマのひとつであり、トヨタの歴史を語る上で欠かせないアイコンです。
ランドクルーザーは、4WD、SUV の元祖。「どこへでも行ける、必ず帰って来られる車」をコンセプトに、どんな過酷な環境下でも発揮する最大限の耐久性、走破性、信頼性という価値が詰まっています。デザインのアプローチも、崖から落ちないための視界の確保、車体の四隅がわかるようにボンネットフードの端を上げるなど、安全に走行するための機能が骨格です。
ハイエースは、働く車の代表。これまでのトラック型から乗用、商用の両方をカバーできるようにバンという形をとったことで、働く現場で活躍すると同時に、週末には家族を連れてレジャーにも行ける。1 台のクルマで 2 つも 3 つも使い手のニーズを満たすことができました。
2000GT は、国産最高級スポーツカーの地位を確立した元祖。当時の技術を結集した日本の自動車史においてもレジェンドであり、トヨタの情熱と技術力、デザイン力を世界にアピールした象徴的な 1 台です。これら4 車種でトヨタの多様なモノづくりの歴史を表現できると考えました。
ビリーバブルな未来を提供する
これからのカーデザインをどのように考えていくか。チーフ・ブランディング・オフィサーのサイモン・ハンフリーズがよく言うのが「ビリーバブルな(信じられる)ものを提供しよう」ということ。宇宙船みたいなドリームカーを作って、20 年後のクルマといわれても全然想像がつきません。20 年先の未来を思い描き、それを実現するために今何をすべきかを逆算して計画、考えることをバックキャストと言いますが、コンセプトはぶっ飛んだ空想や妄想でも、そこからどこまで戻すかは、ピンとくる 5 年ぐらい先、実現可能かもしれないと思えるギリギリのところを提供します。そのためには、人口比率や市場動向といったベーシックなリサーチだけでなく、「いけそう」というデザイナーの直感も必要です。衣食住すべてにまつわる、まだトレンドにはなっていない兆しを集めて、どれに賭けてみるかとアイデアを出し合います。アフリカの新興国向けに発表したコンセプトカー「IMV オリジン」を開発する際も、アフリカのマサイ族の村に赴き、実地調査をしました。現地現物をすることで、ビリーバブルな未来のヒントを見つけることができるのです。
これからのモビリティのあり方
タイヤが4つ付いているクルマという乗り物としてのかっこよさや美しさ、ファンダメンタルな価値は変わらない要素だと感じていますが、一方で、変わっていくべき部分もあります。ひとつはコスト。初代カローラが目指したような、道具としてもっとローコストにできないか。クルマが高価なものになっている今、もう一度、あの身近な感覚を再現できないかと考えています。もうひとつは多様性への対応力。世界中の多様化しているニーズに応えるためには、さらにラインナップを細分化し 、誰もが必ずフィットするものを見つけられるように、誰も取り残さないようにどう取り組んでいくかが大事になってきます。
また、グローバルでの展開をしていく上で、カーボンニュートラル(CN)達成に向けて、私たちは「マルチパスウェイ(MultiPathway)」という選択をしています。つまり、電気自動車(EV)一方向を見るのではなく、ガソリン、ハイブリッド車、燃料電池車(FCV)、水素など、すべてあり。私たちの敵はあくまで CO₂です。例えば、EV が有利な地域もあれば、電池製造に大量の電力を使っていたり、大元のエネルギーをその国がどう供給しているか、またガソリンが安価な地域ではハイブリッド車の方が航続距離が伸び、結果的に CO₂ 排出量が少なくなる場合もあります。それぞれの国と地域によって求められる要素、環境、状況に合わせて、ベストな脱炭素の方法を考える。多様なパワートレインを提供していくことが使命だと考えています。私たちの仕事は、クルマから始まり、より快適に豊かに生活するためのモビリティを提供していくこと。これからも、この哲学をもって、ビリーバブルな未来を形にしていきたいと考えています。

なかじま・たかゆき|1991 年、愛知工業高校デザイン科卒業後、入社。初代ヴィッツ、初 代 オ ー リ ス、 初 代 AYGO、IQ、JAPAN TAXI ショーカー、グランエースなど多くの内装デザインを手がける。2008 〜 11 年、欧州赴任。2015 年、現 YARIS のプロジェクトチーフデザイナー、2017 年にインテリアデザイン室室長を経て 2021 年より、ビジョンデザイン部部長に就任。
© 2026 TOYOTA MOTOR CORPORATION. All Rights Reserved.
商品一覧はこちら



