矢沢あい作品が世界中で愛される理由
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『NANA』 コミック3巻より
恋もおしゃれも楽しみ、挫折しながら成長していく青春物語
2025年にデビュー40周年を迎える矢沢あいの漫画は、日本のみならず世界各国で翻訳され愛読されている。今回、UTがコラボレーションする、1990〜2000年代に発表されたこれらの作品は、リアルタイムの読者世代はもちろん、近年のY2Kブームも相まって、Z世代の少女たちの心も掴み、20年以上前の作品とは思えないほど、今も色褪せることなく輝きを放っている。設定はさまざまだが、どの作品にも共通しているのは、魅力的な登場人物が繰り広げる物語と、おしゃれでリアルなファッションやスタイリッシュな世界観、そして、いわゆる少女漫画の王道である恋愛を軸にしながら、“夢を追うこと”“自分らしく生きること”“幸せのカタチ”をいろいろな視点で描いていることだ。
完璧じゃない人間味のあるキャラクター
『天使なんかじゃない』コミック2巻より
人間なら誰にだって弱さやズルさ、わがまま、妬み、臆病といったかっこ悪い面があるように、矢沢作品のキャラクターたちは、決して完璧ではなく欠点がある。だからこそ人間らしい。『天使なんかじゃない』の主人公・冴島翠は、明るく前向きでみんなの人気者だけど、恋に悩み、時に疑い嫉妬し意地悪をしてしまうこともある。天使の顔だけじゃない、自分の幸せを守ろうとする普通の女の子だ。逆に嫌なヤツだと思っていた子だって、強がっているだけで、実は愛らしく、他人には見せない不器用な優しさを持っていたり、どの人物描写にもリアリティがある。そこには主人公の立場からだけでなく、例えば、『NANA』では、ハチこと小松奈々を優しく厳しく見守る親友・淳子のように、周囲の客観的なまなざしから描かれることで、主人公の内面がいっそう浮き上がってくる。
大切なのは、自分らしくあること
『Paradise Kiss』コミック4巻より
また、今では当たり前となっている多様性にもオープンだ。『ご近所物語』の幸田実果子は、子どもの頃からおしゃれが好きで個性が強く、周りからはいつも浮いた存在。ずっと仲間外れにされていたが、矢澤芸術学院では異端ではなく、むしろ自分の世界を輝かせ、才能を開花させる。『Paradise Kiss』の早坂紫は、くすぶっていた高校生活から一転、夢に向かって一途な仲間との出会いによって、自分の人生を自分の手で選ぶようになる。キャラクターたちの姿を通して、人と違って当たり前、自分らしく生きていいと、背中を押してくれる。自分を好きになること、自分を大切にすることの意味を教えてくれる。
恋と夢、幸せのカタチは人それぞれ
『ご近所物語』コミック5巻より
多くの女性たちが直面する「恋と夢、どっちを選択するか」という悩みに、答えへのヒントをくれるのも矢沢作品の魅力。『ご近所物語』では、ロンドン留学を巡って、迷わず恋を選ぶリサに対し、ファッションデザイナーを目指す実果子は悩み抜いた挙句、幼なじみの恋人・山口ツトムに後押しされ、夢に向かっていく。「夢を実現できるかどうかはそれに向かってどれだけ行動を起こせるかにかかっている」「手に入れたいのは、ハッピーエンドじゃない。鍛え抜かれたハッピーマインドだ」。これらの名言通り、結果、夢と恋を両立させ、幸せを手に入れる。『Paradise Kiss』では、紫と恋人ジョージは互いに納得したうえで別々の道を歩み、もうひとつのハッピーエンドの形を示した。
『NANA』コミック4巻より
集大成とも言える『NANA』では、ストイックなまでに夢に生きる不器用なナナと、恋に流されるように生きる奈々、強い絆で支え合う二人が、時にすれ違い、満たされぬ心を抱きながら、届かない希望を追いかけ続ける。人生の節目で選択をすること、恋も夢も幸せの価値観も人それぞれ。どの物語でも主人公は、読者の私たちと同じように悩み、挫折し、苦しみながら成長していく。その揺れ動く心の機微が、胸に刺さるモノローグと、繊細なタッチで描き込まれた豊かな表情や仕草といった、圧倒的な言葉と画の力によって表現されている。気づくと自然に引き込まれ、いつの間にか共感し、感情移入してしまう。
お手本にしたいファッション&カルチャーの宝庫
『ご近所物語』コミック3巻より
そして、登場人物たちのファッション、ヘアスタイルやメイクはもちろん、聴いている音楽、部屋のインテリア、行きつけの店…彼らの住む世界全体がとにかくおしゃれでかっこいい。物語の中で知らなかった新しいカルチャーに出合うことができる。作品が生まれた90年代、2000年代は、東京・原宿を中心に裏原(ウラハラ)やカワイイといった日本独自のポップなストリートファッションやカルチャーが生まれ、世界中から注目を集めていたとき。漫画を読むだけで、その時代のトレンドや空気を感じることができる。まさにそこを描いているのが『ご近所物語』。矢澤芸術学院というアートスクールに通い、デザイナー、クリエイターを目指す若者たちの、’60S レトロポップ、コギャル、スケーター、パンク、ヒップホップ、アメカジ、グランジなど個性豊かなスタイルは、どれもお手本にしたくなるものばかりだ。
『Paradise Kiss』4巻より
『Paradise Kiss』では、ファッションデザイナーでも既製服だけでなくオートクチュールというゴージャスな世界があることを知ったり、当時、ファッション雑誌『Zipper』で連載されていたこともあり、ファッションビジュアルの撮影の現場など、ファッション業界の裏側を覗き見できる。
『NANA』コミック11巻より
一方、『NANA』では、ナナと彼女のバンドメンバーたちの、70年代ロンドンストリートに影響を受けた、ボンデージパンツ、ライダースジャケット、ワークブーツなどのパンクファッションが印象的だ。ブリティッシュパンクの女王、ヴィヴィアン・ウエストウッドのロッキンホース、オーブロゴモチーフのリング、ライターペンダントなどアイコニックなアイテムも多数登場する。ナナと奈々の暮らす部屋も、レンガ造りの建物、ヴィンテージ家具や猫足のバスタブなどヨーロッパのアパートのような雰囲気。矢沢作品には、ファッションも音楽も、おしゃれなカルチャーへの憧れがぎゅっと詰まっている。
Tシャツのグラフィックを作品の豆知識とともに紹介
UTコレクションに登場する4作品のあらすじと、Tシャツデザインの元ネタとなった各作品のビジュアルをトリビアを交えながら解説する。さらに、矢沢あい先生が描き下ろしたおすすめコーディネートイラストも公開!
『天使なんかじゃない』
『天使なんかじゃない』コミック1巻より
1991〜1994年に漫画雑誌『りぼん』で連載された、高校一年生しかいない新設校を舞台に展開する学園ラブストーリー。主人公の冴島翠は、いつも明るく元気なみんなの人気者で、生徒会の副会長に選ばれた。会長は、翠が一目惚れした気になるお相手、リーゼントヘアがトレードマークの須藤晃。そこに、少し気難しいお嬢様で優等生のマミリン(麻宮裕子)、優しい美男子タキガワマン(瀧川秀一)、翠の中学時代の同級生・(河野)文太が加わり、生徒会活動がスタート。大好きな晃と美術担任のマキちゃんとの関係にヤキモキしたり、恋に友情に将来に悩みながらも学園生活をエンジョイする翠と仲間たちが生き生きと描かれている。
Tシャツのグラフィックには、『天使なんかじゃない』コバルト文庫6巻の表紙イラストをフロントにデザイン。笑顔がトレードマークの翠のニックネーム、エンジェル冴島を体現する、天使の翠がハートを抱えた姿が描かれている。翠にとって「エンジェル冴島」は、最高の褒め言葉であり、天使は翠のシンボル。晃が翠の誕生日にプレゼントした天使の羽モチーフのネックレス、翠に片想いする中学の同級生でバンドマンの中川ケンが作った歌のタイトル『天使のほほ笑み』など、作品の中にいろいろな形で登場する。ちなみに、『ご近所物語』の実果子の幼なじみ山口ツトムは、後にプロデビューしたマンボーのケン似と言われている。
矢沢あいのおすすめコーディネート
Tシャツのベージュを基調にしたワントーンコーディネート。ハートとリンクする赤のアクセントカラーを、ハイソックス&ガーターベルト、チョーカーリボンで取り入れた。コンパクトなシルエットに、ベレー帽とレースアップブーツでトップと足元にボリュームをもたせたスクールガール風の着こなし。
『ご近所物語』
『ご近所物語』コミック5巻より
ファッションデザイナーになって、自分のブランドの店を持つことを夢みる主人公の幸田実果子。矢澤芸術学院(通称:ヤザガク)の服飾デザイン科に通い、課題に取り組む忙しい日々を送っている。隣に住む幼なじみで、同じヤザガクに通う山口ツトムとは生まれたときからずっと一緒。お互いの恋心にもようやく気づきはじめた二人。共にファッション、アートを学ぶ個性豊かな仲間たちとの学生生活。夢に向かって突き進むなか、恋もおしゃれも全力で励み、大人へと成長していく。1995〜1997年『りぼん』にて連載、95年にはテレビアニメ化、さらに96年にはアニメ映画化され、爆発的な人気を誇る。物語を彩るレトロポップで可愛いファッションやヘアメイクは今なお新鮮。
(右)『ご近所物語』コミック2巻より
ツトムたち仲間と一緒に、自分たちで作ったものを売る店「AKINDO」で、フリーマーケットに参加することにした実果子。そこで初お披露目したファッションブランドが「ハッピー・ベリー」。着る人を元気に、ハッピーにする服作りを目指している。フリマでは全然売れずに落ち込む実果子だったが、最後に「ハッピー・ベリー」モチーフのリュックが売れて大喜び。その最初のお客さまは、『天使なんかじゃない』の翠だった。UTのTシャツには、この「ハッピー・ベリー」のシンボルマークである天使のイチゴがプリントされている。
矢沢あいのおすすめコーディネート
ストライプ柄のルーズなオーバーオールパンツ。足元はTシャツと同じハッピー・ベリーのワークブーツを合わせたボーイッシュなカジュアルスタイル。ヘアはアップにしてフラワーモチーフのヘッドアクセやピアスでキュートな甘さをプラス。
『Paradise Kiss』
『Paradise Kiss』コミック1巻より
都内有数の進学校に通い、大学受験を控える高校三年生の早坂紫(ゆかり)は、ある日、街で出会った矢澤芸術学院(ヤザガク)の生徒に頼まれ、学園祭のファッションショーのモデルをすることに。デザイナーを目指すジョージと、彼の服を作る実和子(『ご近所物語』の実果子の妹)、嵐(実果子の友人リサの息子)、イザベラ。紫にとって別世界の人たちだったが、彼らの服作りへの情熱に次第に感化され、鬱屈とした日々に変化が訪れる。恋と夢に目覚め、新たな道を切り開こうとする紫と、夢や理想に妥協しないジョージの恋の行方、ユニークなキャラクターたちの姿を、緻密に作り込まれたファッションの世界を通して描く。1999〜2003年、ファッション誌『Zipper』にて連載後、2005年にTVアニメ化、2011年に実写映画化。
『Paradise Kiss』コミック3巻より
ジョージがデザインし、イザベラが型紙を作り、実和子と嵐が縫う、彼らのブランド「Paradise Kiss」。学園祭のファッションショーのために制作したドレスには、一面にビーズ刺繍の花々があしらわれ、アクセサリー代わりにヘアと首元には青いバラ。ジョージが作った大ぶりな蝶々のリングが指先を飾る。このショーの衣装からインスピレーションを受け、Tシャツの胸元に、リングの蝶々モチーフとブランドロゴをプリントで表現した。デザイナーの卵、ジョージにとって、紫は恋人であり、モデルであり、彼の服をイメージ通りに着こなすミューズだった。
矢沢あいのおすすめコーディネート
シンプルなワンポイントデザインのTシャツに、ボリュームのあるフリルのアシメトリーなミニスカート、さらにクロシェ編みのフリンジ使いのジレを重ねて、ガーリーに仕上げた。ソックスと大きめのリボンバックルのシューズで上品に。
『NANA』
『NANA』コミック4巻より
友達や恋人と一緒にいたくて上京する小松奈々(通称ハチ)。一方、恋人レンとの切ない別れを経て、歌での成功を目標に強い意思を持って上京する大崎ナナ。東京へ向かう列車の中で偶然出会い、容姿も性格も生まれ育った環境も正反対の二人が意気投合する。ひょんなことから一緒に暮らし始めた二人だが、希望に満ちているはずの東京生活は、シビアな現実の連続で前途多難。恋に生きる奈々と夢を追うナナの、互いを思い合う友情を超えた強い絆を中心に、二つのバンド、BLACK STONES(ブラスト)とTRAPNEST(トラネス)の因縁めいた関係が絡み合うドラマチックな展開に目が離せない。二人のNANAの運命の行方は…。1999年に読み切り2編でスタートし、2000年から『Cookie』にて連載。2005年、06年には実写映画化、06年にはTVアニメ化され、大ブームを巻き起こした。
ルームメイトとなった奈々とナナ。同居初日に買い物に出かけた場面で、人懐っこいけれど手のかかる奈々を犬っぽいとたとえ、ハチと呼んだことから、ハチ公、ハチコのニックネームが誕生した。UTコレクションでは、そんな愛らしい「ハチコ」のキャラクターTシャツを着こなすナナの描き下ろしイラストがプリントされている。デザインの中のナナの表情を見ると、707号室の部屋での暮らし、大切なイチゴのペアグラスなど思い出のモチーフとともに、二人の微笑ましい光景がよみがえってくるようだ。
矢沢あいのおすすめコーディネート
チェックシャツの上にTシャツをレイヤードし、デニムショートパンツでヘルシーに。足元はムートンボアブーツでボリューム感を出しつつ、シャツ、ツインテールのヘアと全体をパープルトーンにまとめた。ラインストーンの王冠モチーフのヘッドアクセがポイント。
ハチが好みの男性をたずねると、セックス・ピストルズのシド・ヴィシャスだと答えたナナ。セックス・ピストルズとは、イギリスのパンクムーブメントを象徴する、カリスマ的人気を誇ったバンドだ。作品の中には彼らやパンクロックへのオマージュが見受けられるが、TRAPNEST(トラネス)のギタリストで、ナナの恋人レンの首に付けられた、シドのトレードマークの南京錠もその一つ。UTでは、パンクバンドBLACK STONES(ブラスト)のバンドTシャツをイメージしたコラージュデザインをあしらった。余談だが、バンド名はリーダーでドラム担当のヤスが吸っているタバコの銘柄から取ったもの。
矢沢あいのおすすめコーディネート
バンドTシャツ風のデザインをモノトーンカラーを生かして大人っぽくシックに着こなす。ゆったりしたきれいめのジョガーパンツにインして、ウエストはスカーフでマーク。華奢なトングミュールが女性らしさを演出している。
漫画家。兵庫県出身。1985年『あの夏』(『りぼんオリジナル』早春号)でデビュー。代表作に、『天使なんかじゃない』『ご近所物語』『下弦の月』『NANA』(以上、集英社刊)『Paradise Kiss』(祥伝社刊)他がある。2002年に『NANA』で小学館漫画賞受賞。
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