

江戸時代にタイムスリップ!親方に聞く、大相撲の楽しみ方
Apr 03, 2025
UT
闘う伝統文化。大相撲で江戸時代にタイムスリップ
「大相撲は江戸時代から続く日本の伝統文化です。アマチュア相撲が“伝統文化の要素を取り入れたスポーツ”だとすれば、大相撲は“スポーツの要素を取り入れた伝統文化”。例えば、国技館では“ちゃんこ”が食べられたり、親方衆が売店に立ち接客をし、大相撲グッズが手に入るクレーンゲームがあったりと、令和の時代に即したファンサービスを行っています。しかし、アリーナの中に入ったら、そこは江戸時代。そのギャップが大きな魅力です」野球場やサッカー場のような大型ディスプレーがないアナログな空間に響くのは、力士がぶつかり合う音と、呼出し(土俵の進行や力士の呼び上げを務める)や行司(土俵上で取組を裁く役割を務める)の肉声、そして観客の歓声のみ。その迫力は昔も今も変わらない。大相撲とは、身近にある江戸時代体験であり、ライブで観られる伝統文化なのだ。そんな奥深い大相撲の魅力をひも解いていこう。
知ってる?“仕切り”の意味
大相撲には力士同士が取組(試合)に入るまでにさまざまな所作がある。その一つとして特徴的なのが、立ち合い(取組を開始する瞬間)の前に繰り返す“仕切り”だ。仕切りとは、力士同士の呼吸を合わせるために行う一種のルーティン。そこにも江戸時代から続く伝統が息づいている。「仕切りで力士が地面に手をつき、両手を揉み合わせ、そのあとに左右に手を広げる所作を“塵手水(ちりちょうず)”と言います。かつて野外で相撲をとっていたときの名残りで、まず地面の草を抜き、その露で手を清め、続いて両手を広げることで『武器を何も持っていません』、つまり正々堂々と闘います、ということを示しているんです」
ほかにも、高く挙げた足で地面を踏み締める“四股”には大地の邪気を踏み締めるという意味、仕切りで撒く塩には土俵を清めるという意味、立ち合いの前に口をゆすぐ“力水”にも清めの水という意味がそれぞれある。まるで神社に参拝する際の作法のようだが、それは相撲が五穀豊穣を祈る儀式、神事として行われていたことに由来する。力士の一挙手一投足には「神に捧げる」という意味が込められているのだ。
今も手書き!番付表に隠された秘密
UTのWAGARAモチーフにも登場する番付表は、本場所ごとに発表される力士のランキング表であり、力士たちにとっては跨いで歩けないほど大切なものだという。「番付表を書くのは行司の仕事。相撲字という独特の文字で書かれていて、太くて字に隙間がないのが特徴です。これには『お客さんが隙間なく入るように』という意味が込められています」番付表には力士だけではなく、行司や呼出し、年寄(役員・親方のこと)、床山(力士の髪を結う専門職)の名も記されている。基本的には、名前が大きく書かれていればいるほど“大物”であることを示している。
「立行司と呼ばれる木村庄之助、式守伊之助の名前はすごく大きく書かれていますよね。実は立行司のお二人を我々は“親方”と呼びます。それくらいの格があるんです。そして、番付表の中で一番大きく書かれているのが蒙御免(ごめんこうむる)の文字。これは、江戸時代に日本相撲協会の前身団体だけが、徳川幕府から相撲興行を許されたことの名残りなんです。実は、今も本場所中は国技館の正門付近に、行司さんが書いた“蒙御免”の立て看板が掲示されています。国技館に来たら、見てみてください」
取組の見どころ
大相撲最大の見どころは、なんといっても力士たちの真剣勝負の取組。平均身長180cm超、平均体重160Kg前後という大男揃いの幕内力士たちが、直径4.55mの円の中で闘う様子を生で見ると、そのパワーとスピードに圧倒される。取組を観戦するとき、どこに注目するべきだろうか。
「大相撲の面白さは大きい人が勝つとは限らないところです。大柄で筋肉ムキムキの力士のパワーに小兵力士が技で対抗する、階級別の柔道やボクシングと異なる“無差別級”の面白さが相撲にはあります。中級者向けの観戦ポイントとして、力士それぞれの得意技を把握しておくとより楽しめます。例えば、元横綱の照ノ富士は右四つで左上手を取る(組み合ったときに、右手が相手の左脇の下に入った状態=右四つで、左手で相手のマワシを相手の腕の外側からつかんだ状態=左上手)のが必勝のカタチですが、その体勢になった瞬間、お客さんもよくわかっていて場内がワッと盛り上がるんです」
そして、勝負の間は大声で応援しても、立ち合いの瞬間は音を立てずに見守る。シーンと場内が静まり返る様子も大相撲観戦の醍醐味のひとつなのだ。
推し力士の見つけ方
あくまで一番大切なのは土俵のなかの勝負だが、自分だけの“推し力士”を見つけて、推しを応援するために国技館に通う……そんな楽しみ方をしている相撲ファンもいるようだ。「まずは同郷の力士を探してみてはどうでしょう。大相撲では、四股名(力士の名前)に加え、所属する部屋、そして出身地も紹介されます。御嶽海なら出身は長野の上松町で、地元から応援団が来たりと、大相撲にはふるさとがあるように思います。あとは顔が好みの力士、強い力士、あるいは小兵力士を応援するのもいいですね」2025年2月末現在の情報でいえば、三段目の山藤は“イケメン”としてメディアで取り上げられることが多く、“肩透かし”という得意技で人気の翠富士は174cmと力士としては小柄ながら、幕内(前頭以上の地位にある力士たちが戦う最高位の枠組み)で好成績を残している。江戸時代から続く伝統文化である大相撲のなかに、令和的な「推し」の概念をミックスすれば、応援にもさらに力が入りそうだ。
「国技館」は大相撲のワンダーランド
大相撲では、年に6回「本場所」と呼ばれる15日間の定期興行が開催されるが、そのうち1月、5月、9月は東京の国技館が舞台となる。ここにも江戸時代から伝統行事が残っている。「初日の前日には、土俵祭といって、土俵に神様をお迎えする儀式を執り行います。これは一般開放されていて入場無料。その土俵も本場所前に呼出しさんが3日かけて作ります。機械は使わずすべて手作りで、自分の目だけで水平に整えるんです。本場所中の朝には国技館では『寄せ太鼓』という太鼓が叩かれますが、それも風物詩です」
また、相撲観戦時のおつまみといえば焼き鳥が名物。実はこの焼き鳥は外部業者から仕入れるのではなく、なんと国技館の地下の焼き鳥工場で作っているのだそう。見どころ盛りだくさんの国技館はまるで大相撲ワンダーランドだ。


江戸時代の決まり手や技の図柄。「現代とは異なりますが、例えば、現代の『送り釣り出し』『喉輪』『おっつけ』といった相撲の決まり手と技のようです」(西岩親方)


力士にとって大切な番付表。「今はもっと力士の人数も多く階級が細かいですが、番付表は江戸時代から変わらず行司さんによる手書きです」(西岩親方)


歌川(安藤)広重による浮世絵『東都両国回向院境内相撲の図』


江戸時代、天下無双の大力士と呼ばれた雷電為右衛門。「相撲博物館に所蔵されている雷電為右衛門の羽織を着させてもらったことがあるんです。すごく大きくて、重みがあったことを思い出します」(西岩親方)

西岩親方|ニシイワオヤカタ
元関脇・若の里。現役時代は“史上最強の関脇”とも呼ばれ、相次ぐ怪我に泣かされながらも通算勝利数歴代7位(2025年2月末現在)の914勝を挙げた名力士。現在は西岩親方として日本相撲協会広報部委員の職務をこなしつつ西岩部屋を運営、未来の横綱を育てるべく親方業に邁進している。1976年青森県弘前市出身。得意技は左四つ、寄り。
元関脇・若の里。現役時代は“史上最強の関脇”とも呼ばれ、相次ぐ怪我に泣かされながらも通算勝利数歴代7位(2025年2月末現在)の914勝を挙げた名力士。現在は西岩親方として日本相撲協会広報部委員の職務をこなしつつ西岩部屋を運営、未来の横綱を育てるべく親方業に邁進している。1976年青森県弘前市出身。得意技は左四つ、寄り。
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