Tokyo,
California Style

From Farm to Table

  • Photography by Kazufumi Shimoyashiki
  • Coordination by Asagi Maeda
  • Editing & Text by Tamio Ogasawara

ファーマーは誇りを持って野菜を作り、収穫したそばから詰め合わせ、レストランに送り届ける。

シェフは受け取った食材を見て、その日のメニューをアレンジし、フレッシュで最高の味を生み出す。

お店を訪れたお客さんには、大地の味をダイレクトに届けることができ、食せば心から力が湧いてくる。

ケイティ・コールさんが営む『ロカール』では「ファーム・トゥ・テーブル」に基づき、料理が振る舞われる。

オープンキッチン越しに、楽しい会話と素材を生かした美味しい食事で、人と人をつないでいる。

Katy Cole | ケイティ・コール

Chef

アメリカ・LA生まれ。サンフランシスコの『ル・コルドン・ブルー』で料理を学び、『フォーク』『スコット・ハワード』『ステートバード・プロヴィジョンズ』などのレストランで経験を積み、2017年10月、目黒に『ロカール』をオープン。お店で使われる器は陶芸スタジオで自作したものも。

扉を開けると、そこにはサンフランシスコでたくさん嗅いだことのある、お洒落で、美味しそうな、外国の匂いがした。

土曜日の朝9時半過ぎにお店を訪れると、もうすでに1組のお客さんが座っていて、笑顔のケイティ・コールさんがオープンキッチンの向こうで手際よく野菜をフライパンでローストしながら出迎えてくれた。「何か、飲みものでもいれましょうか?」。「それじゃあ、コーヒーを」。頼むと、途端に店内がいい香りで包まれる。パンの焼ける匂いもしてきた。先客のテーブルの上をこっそり覗くと、とても美味しそうなパンケーキに、細くリズムよくカットされたアボカドがのったオープンサンドが置かれている。もう一度、メニューに目をとおし、それと思しき、「バナナパンケーキ」と「アボカドのタルティーン、デュカ」を頼む。窓の外をぼんやりと眺めると、さっきまでは気づかなかったが、目の前にはゴルフ練習場があり、ゴルフクラブを片手にたくさんの人が並んでいる。

10時からオープンなのだろうか。気がつけば、お店も混み始めてきた。近所に暮らす常連であろう外国人の面々や、ランニングの途中に寄り、さっと食事を済ませて、また走り始めるカップルといった、素敵な人たちでお店は埋まっている。

オーナーシェフであるケイティ・コールさんがサンフランシスコから来日し、レストラン『ロカール』を開いたのは、2017年10月3日。目黒川から一本裏手の、大通りへの抜け道として使われる思いのほか交通量の多い裏通りにお店はある。

火曜市

週4日行われている高知市の街路市のひとつが「火曜市」。中心部を東西に走る電車通りを一本南に入った通り、上町4丁目から5丁目にかけて店が並ぶ。高知の郷土料理のひとつに、野菜やこんにゃくなどが使われる田舎寿司があるのだが、ここでもこんにゃくで包まれたものが売られていたので試しに食べてみたら驚くほど美味しかった。時間は朝6時くらいから15時くらいまで。

「初めて日本に来たのは10日間のトリップよ。私がサンフランシスコで働いていたレストランのお客さんが滋賀にピザ窯を作るっていうので一緒になって来たんです。その頃は、何かを変えたいって思いが強くなっていた時期で、日本にその何かがあると思ったの(笑)。やるなら、学んできたカリフォルニア・キュイジーヌを前面に出したお店で、サンフランシスコでは当たり前のことだった『ファーム・トゥ・テーブル』をコンセプトにしたかった。ファーマーから直接食材を仕入れることで、生産者を応援したいし、作ってくれた素材の素晴らしさを、料理をとおして伝えたくて。私にとっては、テクニックよりも、大変な思いをして作ってくれた素材を生かすことが大事なこと。今、付き合いのあるファーマーは、高知や東京の青梅、北海道などにあって、特に高知は一度訪れたことはあるのだけど、取引している『中里自然農園』にはまだ行けてなくて。夫婦でやられている小さなオーガニックファームで、奥さんの早紀子さんは『ロカール』にも食べに来てくれたこともあるんです。だから、早く行かなきゃってずっと思ってたの」

2度目の高知。初めての『中里自然農園』へ。

快晴の天気の中、午前9時には降り立った高知で、お目当ての『中里自然農園』を訪れる前に、「火曜市」と呼ばれている市内にあるファーマーズマーケットに寄ることにした。火曜日に行われるから「火曜市」。他には木曜、金曜、日曜にも開催され、最も出店数が多いのは「日曜市」。それぞれ開かれる場所は異なり、なかでも小規模な「火曜市」は、用水路の上に戸板を渡して十数店ほどのお店がポツポツと並んでいる。観光客というよりは、地元の人たちが日常生活の中で買いに来る。そもそもは、300年前から続くマーケットだそうで、お父さんが野菜を作って、お母さんが市に作ったものを売りに来る。ケイティも積極的にコミュニケーションを取り、地元の野菜を買っていた。

火曜市を後にし、車を1時間ほど走らせて、中土佐町久礼にある『中里自然農園』に到着したのはお昼どき。山と海に囲まれた自然豊かな土地で、すぐ近くの「大野の浜」は有名なサーフポイントとのことだった。だからか、どこからどう見てもお手本のようなサーファーの女性2人組が、ちょうど中里さんのところに挨拶に訪れていて、聞けば、毎週野菜を送ってもらっているので、サーフィンしに来たついでに、農園にも寄ったのだと言っていた。

中里自然農園

高知市の西、中土佐町久礼にある『中里自然農園』。畑は点在していて、年間約50種の野菜の栽培のほか、土佐ジローと呼ばれる地鶏の平飼い、日本ミツバチの養蜂、裏山では文旦や小夏を育てる。裏山からはサーフポイントである「大野の浜」も見える。微生物を育て、土作りをし、種をまき、数ヶ月かけて育てた野菜を収穫し、その日のうちに出荷。畑の畝の間には、わざと牧草を育て根を張らせることで、水がたまらないようにしているのだそうだ。収穫された野菜は、「季節のお野菜便」としてHPから注文可能。

高知県高岡郡中土佐町久礼5840
farmnakazato.theshop.jp

日曜日の朝の大きなテーブルの上は、家族で食べに来た子どもたちの遊び場ともなっていた。

『中里自然農園』は、7年ほど前に中里拓也さんが始めたファームで、結婚を機に早紀子さんも一緒に働くようになった。一切の農薬や化学肥料を使わずに、自然に近い環境下で育てる露地栽培、無農薬、有機肥料栽培で、季節に合わせて年間約50種類の野菜を作っている。一般的な野菜から、ビーツやケール、ミックスリーフなどの洒落たものも育てている。「日本は野菜の種類が少ないですからね。新しいものも植えてみたり、やめたり、毎日試行錯誤しています。夏場は暑すぎて野菜が育ちませんし、台風が来たら育てたものも飛ばされてしまいます。悲しいですけど、理不尽ではないんです。予定にそれは入っている」とは拓也さん。早紀子さんも、「動物たちにもしょっちゅう食べられてしまうんですよ。美味しい時期をちゃんと知っていて、とうもろこしなどは見事に一口ずつ食べていくくらい。もう丸ごと3本渡すからそれだけ食べてと言いたいです(笑)。ケイティには、ダイレクトに野菜を送ることで私たちの思いが直接伝えられますし、その気持ちを存分に汲んでくれて、料理を作ってくれているかと思うと胸がいっぱいになる。『ロカール』に食べに行って本当にそう思いました」。

拓也さんはアメリカで生物の進化学を学び研究し、教えながら20年過ごし、小さい頃からよく訪れていた祖母のいたこの土地に移住してきた。早紀子さんも移住組で、ふたりは高知で出会った。到着がお昼だったので、たっぷりとカツオのタタキなどのお刺身がのった皿鉢やとれたての野菜をふんだんに使った手料理をご馳走になった。

「スティックセニョールやオータムポエムを畑で食べるのは格別ね。美味しいのは、天候や動物たちから野菜を守らなければならないのに、そんな大変さも出さずに、一生懸命に育ててくれているから。届いた野菜を見たら、ふたりの畑姿が目に浮かんじゃう。だから、野菜の本当の美味しさを自分の料理で伝えられるのはとても嬉しい。生産者と食事に来たお客さんをつなぐことのできるのが私の役割なんだなと再認識できました」。畑に座り込み、しげしげと育つ野菜を見つめながら、ケイティさんはつぶやいていた。

高知を訪れた翌日に届いたのが、早紀子さんのメッセージ入りの段ボールに入ったとれたて野菜。畑で食べたオータムポエム(アスパラ菜)やスティックセニョール(茎ブロッコリー)はもちろん、葉付きにんじんなどがどっさり。テーブルに野菜が積み上がるのは、最初の頃に頼みすぎてしまい置き場に困ったのがきっかけだったそうだ。

雨が降っていなければ自転車通勤のケイティさん。春めくコートは腰のベルトをギュッと絞って。

誰かが喜んでくれたら、それでいいですよね。

「初めて日本に来たときに紹介してもらって食べに行ったのが、『ロカール』の場所にあった『ビアード』です。本当に美味しくて感動して、いつかこういうレストランを出したいと思いました。しかも、この場所がいいなって。高校卒業後何を学ぶべきか見つけられず、サンフランシスコの料理学校に通い、これが私の道だ!と信じ、いろんなお店で修業もしてきましたが、自分の何かを変えたくて日本に渡り、たくさんの偶然と出会いがありました。『ビアード』の原川慎一郎さんが次のプロジェクトに移るということを聞き、この場所を譲ってほしいと頼んだんです。初めて『ビアード』で食べた日が2013年の10月3日だったのですが、その4年後の同じ日に『ロカール』をオープンすることができました。日本に来ていなかったら、私はカリフォルニア出身のただのカリフォルニアのシェフだったかもしれません。日本だからこそ、カリフォルニア・キュイジーヌを思う存分出せるし、自分に正直にもなれる。私のお母さんは12年前に亡くなってしまっているのですが、自分らしさを出すスタイルはお母さんから受け継がれていると思うし、原体験には家族で囲んだ食卓の楽しかった食事がある。料理ってエゴが出がちだし、シェフは評価に対するプレッシャーを感じることも多い。気にするがあまり、外との接点を持たなくなる人もいますが、私はオープンにグッドエナジーをみんなに届けたい。農家の素晴らしい野菜をみんなに届けたい。ハッピーになってくれたら、それが私のハッピーだし、原動力にもなる。誰かが喜んでくれるのが一番。レストランを持つ前は、今日も1日疲れたなあと思うことが多かったものですが、今はオープンキッチンでみんなから逆にエネルギーをもらえちゃうから、元気になれる。誰かからメッセージを受け取ったら、間に入って、次の人にそれを届ける。いいバイブスは循環するし、いろんな人とつながることで、人は成り立つ。料理だってまさに循環で、食材が作られ、それを料理し、口にしたものが排泄物となって肥料となり、また食物が作られる。ヘルシーな考え方ですよね」

家のような場所にしたくて、ローカル行きつけのコーヒーショップのようなお店にもしたくて、『LOCALE』と名付けた。予約の電話が鳴り、ケイティさんが出る。「ロカール、トウキョー。ハイ、オッケー、じゃあ、また明日~」。誰でも心温まる場所がここにある。元気が出る。そんな場所をひとつ知っているだけでも、人生は少し豊かになる。

日が暮れた高知の帰りの道にはフルムーンが光り輝いていた。「この月は、お店で朝出している卵の色と同じね」

黒板のメニューには書かれていなかったが、中里さんのところから届いた野菜をローストし、カシューナッツソースをかけたスペシャリテも。これこそまさに、ファーム・トゥ・テーブルである。

子どもたちが食べ終わり、外に遊びに出て行ったあとは、お父さんたちのブランチタイム。ここが日本であることを忘れさせてくれる光景である。平日は夜からのみの営業だが、やはりこのテーブルを中心に、お客さん同士が会話を始めて、新しく人と人がつながっていく。ケイティさんもこういう場が生まれるのが嬉しいそうで、「ご自由にどうぞ!」とフリーなマインドで交流を見守っているのだそうだ。

LOCALE Tokyo

平日はディナーのみで、日によって5,000円から6,000円のコースと、黒板のメニューからも選べる。
休日のブランチの気持ちよさは格別。

東京都目黒区目黒 1-17-22
03-6874-6719
  • OPEN Wednesday-Saturday 18:00-22:00,
    Saturday and Sunday 9:30-14:30
  • CLOSED Monday and Tuesday

*状況により、営業日と時間が変更となる場合がございます。

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