Simple
and
Timeless

Interview with Yoko Andersson Yamano

スウェーデン・ストックホルムに拠点を構える
ガラス作家の山野・アンダーソン・陽子。
彼女の自宅と工房を訪ね、創作と暮らしの美学に迫った。

Glass with functional beauty, born from dialogue.

対話から生まれる、用の美のガラス

炎の色を写し取るように、1200℃を超える炉からすくい取られたガラスはオレンジ色に輝く。顔に塩を吹くほど灼熱の工房で、私たちが普段目にすることのない液状のガラスと向き合うのは、ガラス作家の山野・アンダーソン・陽子だ。「ガラスの流動性を手助けし、液体の姿が垣間見えるガラス」を目指すという彼女は、型を使わずに伝統的な手吹きで制作を行う。

ガラスのテーブルウェアを制作しながら、彼女自身は熱を帯びたガラスそのものに触れることができない。だからこそ木製の杓や小手、トングのような形状のジャック、水で濡らした紙でさまざまに成形する。そして形が出来上がる中で、ガラス自体の動きをあえて残そうとする。

「ガラスの一部をぽってりさせることで、ガラスらしい触り心地や口当たりを表現できます。少し厚くなった部分には光が溜まる。ガラスの素材感も出るし、窓際に置くと陽の光の溜め方や反射で表情も変わります。マテリアルを楽しむ感覚は光とともにあるのかな。ガラスは生活の中で、光や触感を意識させてくれる存在かもしれません」

山野さんは自身が作るガラスに、必ず機能があるという。人の行為からインスピレーションを得ることがほとんどだが、しかしそれは一般的な行為に限らないと言葉をつなぐ。

「たったひとりのパーソナルな行為や癖みたいなことを面白いと思えば、私はそこに着想を得てしまう。誰もがする行為をもとにしなくても、そこから生まれる形は面白いかもしれない。誰かの特別な仕草を起点にして生まれるテーブルウェアがあるなら、それは美しい結果であると思います」

この日はボトルを制作しており、写真は真っ黒に焦げた木製の杓を使ってガラスの形を整える様。

高温の炉の中で形状を整えつつ、注ぎ口のガラスが割れないよう、パイプに新たなガラスを巻き付けている。

ジャックを使いボトルの口部分を開ける。この作業はスウェーデンの古典的な手法で、口の形状をなめらかにするために作業を繰り返す。

家族3人でストックホルム市内に暮らす山野さんは、家族の時間同様、ひとりの時間も大切にする。休日に長い時間をかけて料理を作り込んだり、旅をしたり。そうした時間で何より好きなのは手紙を書く時間だ。

「こんな時代だから、手紙は届かずにどこかで行方不明になっているかもしれない。忘れた頃に返事が届くこともあれば、スマートフォンに連絡してくる人もいます。ひとりの時間が好きだと思っていたけれど、私はその時間の先に誰かと何かを共有することを求めているのかもしれません。彼らがいるから、私ひとりの時間は成り立っているのだし」

昼食の支度をする山野さんと7歳の息子キーゴ。

そんな彼女が準備を進めるのは、来年日本で始まる巡回展だ。さまざまな国の画家と対話し、彼らの描きたいガラスのテーブルウェアを山野さんが制作。それを画家たちは好きなモチーフとともに描き、両者を展示する。それは彼女が友人と交わす手紙のやりとりのようでもある。

「私はレストランやバーのためにテーブルウェアを作ることを中心としていて、その用途に応じて仕様が細かに決まることも少なくありません。でも例えば、私にとって美しいワイングラスの形はどんなものだろうと考えたら、実はそれを作ったことがないことに気付きました」

一見アートオブジェに見えるこの作品にも、窓やランプの側に置いて「光を楽しむ」という機能がある。

食卓に並ぶカラフェやボウルをはじめ、自宅では自身の作品を日常的に使う。

彼女は美術館で絵を眺めていても、そこに現れるガラスや食器にばかり目がいくと笑う。「時代風俗がわかる絵もあれば、絶対にガラスで作れない形を描いた絵もあります」。そうしているうちに絵画の中で長く残るガラスを羨む気持ちが芽生えた。作家には透明のガラス食器であることだけを条件に、描きたいものを言葉で説明してもらった。もし彼らが思っていたものと違うものを彼女が作ったとしても面白いし、そのガラスを彼らが好きなように描いてもいいのだという。

「そういう関係性も含めて楽しみたい。同じ言葉を使っていても人によって思い描くサイズ感や形は違う。でもワイングラスを想像している限りはワインを飲めるグラスにはなるはずだしね」

彼女は人との繋がり、そして時にそれが生むズレに楽しみや美しさを見出す。シンプルな機能美を目指す日常の道具。だからこそ、通常なら見落とされてしまいがちな些細でユニークな視点が際立ち、彼女のやわらかなガラスに人肌を持って写り込むのだ。

炎の色を写し取るように、1200℃を超える炉からすくい取られたガラスはオレンジ色に輝く。顔に塩を吹くほど灼熱の工房で、私たちが普段目にすることのない液状のガラスと向き合うのは、ガラス作家の山野・アンダーソン・陽子だ。「ガラスの流動性を手助けし、液体の姿が垣間見えるガラス」を目指すという彼女は、型を使わずに伝統的な手吹きで制作を行う。

ガラスのテーブルウェアを制作しながら、彼女自身は熱を帯びたガラスそのものに触れることができない。だからこそ木製の杓や小手、トングのような形状のジャック、水で濡らした紙でさまざまに成形する。そして形が出来上がる中で、ガラス自体の動きをあえて残そうとする。

「ガラスの一部をぽってりさせることで、ガラスらしい触り心地や口当たりを表現できます。少し厚くなった部分には光が溜まる。ガラスの素材感も出るし、窓際に置くと陽の光の溜め方や反射で表情も変わります。マテリアルを楽しむ感覚は光とともにあるのかな。ガラスは生活の中で、光や触感を意識させてくれる存在かもしれません」

山野さんは自身が作るガラスに、必ず機能があるという。人の行為からインスピレーションを得ることがほとんどだが、しかしそれは一般的な行為に限らないと言葉をつなぐ。

「たったひとりのパーソナルな行為や癖みたいなことを面白いと思えば、私はそこに着想を得てしまう。誰もがする行為をもとにしなくても、そこから生まれる形は面白いかもしれない。誰かの特別な仕草を起点にして生まれるテーブルウェアがあるなら、それは美しい結果であると思います」

この日はボトルを制作しており、写真は真っ黒に焦げた木製の杓を使ってガラスの形を整える様。

家族3人でストックホルム市内に暮らす山野さんは、家族の時間同様、ひとりの時間も大切にする。休日に長い時間をかけて料理を作り込んだり、旅をしたり。そうした時間で何より好きなのは手紙を書く時間だ。

「こんな時代だから、手紙は届かずにどこかで行方不明になっているかもしれない。忘れた頃に返事が届くこともあれば、スマートフォンに連絡してくる人もいます。ひとりの時間が好きだと思っていたけれど、私はその時間の先に誰かと何かを共有することを求めているのかもしれません。彼らがいるから、私ひとりの時間は成り立っているのだし」

昼食の支度をする山野さんと7歳の息子キーゴ。

「そういう関係性も含めて楽しみたい。同じ言葉を使っていても人によって思い描くサイズ感や形は違う。でもワイングラスを想像している限りはワインを飲めるグラスにはなるはずだしね」

彼女は人との繋がり、そして時にそれが生むズレに楽しみや美しさを見出す。シンプルな機能美を目指す日常の道具。だからこそ、通常なら見落とされてしまいがちな些細でユニークな視点が際立ち、彼女のやわらかなガラスに人肌を持って写り込むのだ。

高温の炉の中で形状を整えつつ、注ぎ口のガラスが割れないよう、パイプに新たなガラスを巻き付けている。

ジャックを使いボトルの口部分を開ける。この作業はスウェーデンの古典的な手法で、口の形状をなめらかにするために作業を繰り返す。

そんな彼女が準備を進めるのは、来年日本で始まる巡回展だ。さまざまな国の画家と対話し、彼らの描きたいガラスのテーブルウェアを山野さんが制作。それを画家たちは好きなモチーフとともに描き、両者を展示する。それは彼女が友人と交わす手紙のやりとりのようでもある。

「私はレストランやバーのためにテーブルウェアを作ることを中心としていて、その用途に応じて仕様が細かに決まることも少なくありません。でも例えば、私にとって美しいワイングラスの形はどんなものだろうと考えたら、実はそれを作ったことがないことに気付きました」

彼女は美術館で絵を眺めていても、そこに現れるガラスや食器にばかり目がいくと笑う。「時代風俗がわかる絵もあれば、絶対にガラスで作れない形を描いた絵もあります」。そうしているうちに絵画の中で長く残るガラスを羨む気持ちが芽生えた。作家には透明のガラス食器であることだけを条件に、描きたいものを言葉で説明してもらった。もし彼らが思っていたものと違うものを彼女が作ったとしても面白いし、そのガラスを彼らが好きなように描いてもいいのだという。

一見アートオブジェに見えるこの作品にも、窓やランプの側に置いて「光を楽しむ」という機能がある。

食卓に並ぶカラフェやボウルをはじめ、自宅では自身の作品を日常的に使う。

やわらかな表情の脚付きフルーツボウル。気温や湿度などによって左右されるガラスの動きを作品に取り込んでいる。

3人の作家仲間とともに工房を構えるのは、ストックホルム郊外にある陶磁器メーカー〈グスタフスベリ〉の工場跡。1階がガラス工房で、2階が山野さんのアトリエだ。

Yoko Andersson Yamano

山野・アンダーソン・陽子

Glass Artist

日本の大学を卒業後、北欧最古のガラス工場であるコスタ内の学校で吹きガラスの手法を学ぶ。その後、スウェーデンの国立美術工芸デザイン大学で修士課程を修了。在学中は同国を代表するデザイナー、インゲヤード・ローマンにその美学を学び、〈マーガレット・ハウエル〉をはじめ、スウェーデン、イギリス、日本などで作品を展開する。

ガラスの器と静物画 山野アンダーソン陽子と18人の画家

  • 会期: 2024年1月17日(水)〜2024年3月24日(日)
  • 会場: 東京オペラシティ アートギャラリー

www.operacity.jp/ag/

このページをシェアする

本ページに記載の価格は、2月10日時点での消費税込みの価格です。価格は変更になる可能性がございます。