Backstage
at the Louvre

  • Photography by Yuji Ono
  • Coordination by Izumi Fily-Oshima
  • Editing & Text by UNIQLO
  • Special thanks to the Musée du Louvre

この美術館の舞台裏は、全ての美の歴史につながっている。
今春、ユニクロとパートナーシップを結び、アートの裾野を広げたルーヴルで、その一端を垣間見た。

Musée du Louvre

今やルーヴルになくてはならないシンボルとなった建築家イオ・ミン・ペイ作のガラスのピラミッド。
完成から30年あまり、年間1000万人を超えることもある世界中からの来館者を出迎えている。その7割が外国からというのも国際的な美術館ならでは。

美の殿堂、フランスの至宝、あの「モナ・リザ」があるところ──。8世紀にも及ぶ歴史のあるルーヴルは、そんな枕詞とともに世界一の美術館として語られる場所だ。総面積36万㎡という途方もない広さのうち、来館者が目にする場所はほんの一部でしかないというのに、それでも多くの人が1日では回り切れない。

ここで40年余りを過ごした名誉館長は、著作でこう述べている。「ゆっくりと時間をかけルーヴルに慣れ親しむことが、迷子にならずに済む唯一の道だ」と。

403ある展示室、長い廊下、地下室、少なくとも1万段はある階段、図書室、工房。来るもの全てを圧倒するこの大ルーヴルに足を踏み入れれば、否応なく好奇心をかきたてられる。そしてふと考えるだろう。この巨大な舞台裏を支える人々は、何を思い、どんな日々を送っているのだろうか?まずはルーヴルの玄関、ガラスピラミッドから館内に降り立ちナポレオンホールの案内所に進もう。

「オーディオガイドを貸し出すとき、身分証を差し出されて初めて知る国があるほど」と語るのは、1,200人もいるというウェルカムサービスで副部長を務める、セルヴァン・ド・ランセールさんだ。世界中からの来館者が最高の状態でルーヴルを楽しむために、常にセキュリティと受け入れ態勢に目を配る。「見るもののノルマなど決めず、作品との偶然の出合いを楽しむことをオススメします」。さあ、目もくらむようなルーヴルの舞台裏を見に行こう。

Daniel Soulié | ダニエル・スーリエ

Archaeologist, Art Historian

考古学者、美術史家としてエジプトでの発掘など研究活動を経て、1988年よりルーヴル美術館勤務。現在ワークショップやツアーの企画、書籍の執筆などを担当するメディアシオン(美術館と人をつなぐ媒介)。愛してやまないという北イタリア絵画が並ぶグランド・ギャラリーにて。

全ての人に
美術館を楽しむ権利があります

「実際に歩いて見て回ることでしか、美術館を自分のものにすることはできないからね」

館内を悠然と歩くこの男性は、ルーヴルの生き字引ともいえるダニエル・スーリエさん。訪れたことのある人なら、知らぬ間に出会っていたことがあるかもしれない。それほどに彼は、日々ルーヴルという作品の海の中を泳ぐ魚のように巡り続ける人だ。フランスで美術史を学んだ者として、深い憧れを抱いていたというこの美術館の一員に加わったのは、まだ中庭のピラミッドが建設中だった1988年。以来30年余の長きにわたり、学者としての知識と驚異的な記憶力をもとにルーヴルと人々を結ぶ「メディアシオン」という肩書で活躍している。あまり聞きなれない名前だが、主にパネルやオーディオビジュアルなど来館者が触れる情報全てに目を通し、科学的な裏付けや監修を担当する役職という。監修と聞いて思い浮かぶような、机の上で多くの本に囲まれながら校正をするイメージとは異なり、彼はとにかく一つのところにとどまらない。情報を集めるには、考古学者、美術史家としての知識と同じように、足で稼ぐという大事な信念があるからだ。

「学生の頃から、ここルーヴルには週に数回は来ていました。今も私はオフィスにじっとしていることはなく、館内を歩き回ります。同僚から散歩かい? と聞かれると、『いや、必要だからだよ』と答える。何をしているのかと言えば、特に館内でビジターがどうしているかを見るんです。1つの部屋に1時間座っていると、人々が何を見て、何を読んで、はたまた何を読まずに、どこで足を止めるのかが分かる。それがメディアシオンという仕事の基本であり、そして館内で何時間も過ごさないと学べないことなのです。おかげで、来る人々がどう行動するのかということを理解できているのだと思います」
紙媒体やサイネージなどの平面的な情報だけでなく、彼の仕事はより立体的に、複眼的なチェックが求められる。ビジターコースを作り検証することもその一つだ。1時間半で全体を回るコースが欲しい、と言われても彼は明確に首を横に振る。「理由はとてもシンプルです。物理的に無理なのです。その時間でドゥノン翼の1階からコの字型の館内をぐるりと回ってリシュリュー翼の3階までフランス絵画を見に行くなんて。でも、その答えを言うには実際に自分が場所を知り尽くしていなければいけませんよね」

ルーヴルという美術品の宝庫は海のように広く、欲張ればすぐに溺れてしまいそうになる。うまく息継ぎをしながら進むにはどうすればいいのだろう。初心者向けの著作も多く手掛けるダニエルさんは「例えば、入館無料の夜間開館を利用するのも一つの手ですよ」とアドバイスする。一度にたくさんの作品を見て、全てを制覇しようと思ってはいけない。何度かに分けて、短い時間を過ごすのが良いのだという。さらに言えば、夜のルーヴルは別世界に来たような美しさを味わえる。普段は午後6時に閉館するが、より多くの人に楽しんでもらえるよう、土曜日の夜は無料で午後9時45分まで滞在できるフリーサタデーナイトを2019年1月に始めた。アートの裾野を広げようという理念に共感し、パートナーシップが始まる今春からユニクロがこの活動をサポートしている。夜景にきらめく古代ローマガラス、照明に浮かび上がるイスラム美術展示室のモザイクタイル。厳かな静寂の中で絵画と対峙する時間を過ごせば、出口に来る頃にはまるで長い映画を見終えた後のような贅沢な余韻を感じるだろう。

「あなたは美術館に来る権利があって、ここはあなたの場所です。ルーヴルは国立美術館なので約6700万のフランス人は皆、コレクションの共同所有者です。もちろん、世界から訪れる人々も同じように最高の状態でコレクションを見ることができます。ですから作品を好きになる権利も、好きにならない権利もあなたにあって、他の誰かが言う『これは大事な作品だ』とか、『これを覚えなさい』といったことはさほど重要ではありません。大事なのは、あなた自身が喜びを見出すこと。どんな作品でも良い。その作品によって心に静寂がもたらされ、落ち着きや喜びが感じられればそれが一番。美術館というのは、心豊かに楽しむためにある場所なのですから」

ダヴィンチ作品の中で、ダニエルさんが「モナ・リザ」より好きだと言う「ラ・ベル・フェロニエール」。その理由は、15世紀絵画らしい精緻な筆使いと、表情豊かなモデル、そしてルーヴルが美術館になるより遥か昔からフランス王室のコレクションだったというストーリー。

ダニエルさんの著作より、『エジプトはルーヴルに在り』(左)と、『誰にでもわかるルーヴル』(右)。

Alexandra Yernaux | アレクサンドラ・イェルノー

Gilder

金箔職人。布張り職人、家具修復職の教育を受けたのち、金箔職人のコースへ進み、CAP(職業教育修了証)取得。ヴェルサイユ宮殿で修業中に若手の最高章であるMeilleur Apprenti de Franceを受章。2018年に美術技術者として公務員採用試験に合格、ルーヴル美術館に配属される。彼女のチームが額縁を修復した「メデューサ号の筏」の前で。

変わらない技術と、変わりゆく美術館

1824年、早世の奇才テオドール・ジェリコーの最高傑作「メデューズ号の筏」がルーヴルに所蔵された。カンバスには実寸大の人々が躍動感をもって描かれ、前面に横たわる男性は2mをゆうに超える。そのせいか、この絵画を見上げる人たちは実在の事件に居合わせたかのような迫力に気圧されるほど。約2世紀の間壁にかけられていたという巨大なこの作品が2018年11月、修復のために初めて外された。

大工とともに集まったのは、3人の金箔職人たち。絵画ではなくその周囲を支える額縁の金を稀有な技術で繕っていく。この修復に携わった1人が、アレクサンドラ・イェルノーさんだ。パリでも1つしか学校がないという専門コースで学び、ヴェルサイユ宮殿での修業を経てルーヴルへ進んだ。21歳以下の技術者に贈られる最優秀職人章の名誉を受けた彼女は、ルーヴルという場所をこう表現する。

「とにかく壮大で、仕事のバリエーションが広い。ヴェルサイユにいた頃はフランス王室時代の額縁ばかりを直していましたが、ここルーヴルではスペイン、イタリア、フランスなど様々。さらにその国の作品ごとに、金箔職人として関わる額のスタイルが全然違います」

ひと口に絵画と言っても、例えば「ナポレオンの戴冠式」などは縦約6.3m、横約9.8m、面積にすると約60㎡と1人暮らしのアパートの1室より大きい。ルーヴルには、このように工房へ運び込めないほどの絵画や移動の難しいデリケートな美術品が収められていて、修復もかなりの困難を要する。一つの作品に対し、長いものでは数人がかりで1ヶ月程度の期間がかかるそうだ。職人たちは金の色味を丹念に見比べながら時には水彩絵の具を使い調整を加える。

「ルーヴルでの金箔の修復は額を新品のようなピカピカの金色に貼り直すのではなく、あくまでもその時代を意識して自然に経年しているかのような仕上がりを目指します。その技術は、フランスで金箔が使われるようになったルイ14世の時代、つまり17世紀頃から実はあまり変化していません」

幼い頃から手先が器用で、歴史あるものが好きな祖母の影響もあって自然と職人の道を志した。そんな彼女が金箔の美しさに惹かれたのは、家具修復職人として研修を受けていた工房でひとつの鏡に出合ったからだという。「あちこち装飾の欠けた金縁の鏡があったんです。どう修復するのかと聞いてみたら『木はここで直すけど、金の部分は金箔職人というのが別にいるんだよ』と言われて。そこから勉強を始めたら面白くなってしまって、金箔職人という道に進み今があります」

思いがけない出会いと人々の心が交わりながら美術館は新陳代謝を繰り返し、美と知の歴史をつなぐために進歩していく。変わらない技術を着実に伝え、傑作を次の世に残す。まるでルーヴル美術館そのものが、未完の大作のように見えてくる。ふと、メディアシオンのダニエルさんの言葉が脳裏によぎった。「進化しない美術館は死んだ美術館です。変わらないのは、歴史ある建物の壁に絵が掛けられているということだけですよ。我々には作り直して、考え直して、構築していく使命がある。場所とコレクションに敬意を払いつつ」

館内の額縁に「化粧」と呼ばれるリタッチをして回るときにアレクサンドラさんが持つ、水彩絵の具のパレット。「額があるからこそ、作品の魅力が生きてくる」という。

The Louvre × UT

パートナーシップの一環として発売されたUTコレクション。メンズのデザインはイギリスの巨匠グラフィックデザイナー、ピーター・サヴィルが手掛けた。ルーヴル内部で使われている作品の管理番号(「モナ・リザ」であればINV 779)を落とし込んだ唯一無二のデザインとなっている。

Partnership Between
Musée du Louvre and UNIQLO

ルーヴル美術館が誇る歴史的名作をより多くの人に鑑賞してもらうため、ユニクロがスポンサーとなり無料入館プログラムの活動をサポート。今後も継続的なコラボレーション商品の発売や、各種プログラムが予定されている。

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