京都ライフジャーナル

01.

才覚やリズムは京都から、
もらったもん。
岸田繁
作曲家/くるり/京都精華大学特任准教授

岸田繁

その土地固有の言葉を求めて
京都を活動拠点に

 くるりの岸田繁が京都に帰ってきた、そんなニュースが流れて約2年が経つ。東京には、音楽づくりの現場に必要なコミュニティやスタジオが充実している。岸田さんはその環境を評して「東京を否定しませんが」と前置きした上で、活動の拠点を京都に移した理由について穏やかに話し始めた。
「だいぶ背骨が曲がってきたなっていう感覚があったんですよ。15年はいたかな、東京に。その間に家族もできて、年齢も重ねて、ちょっと自分のやりたいこととはズレてきたというか」。
 自身がフロントマンを務める「くるり」は昨年、メジャーデビューから20年を迎えた。原型となるバンドの結成は、立命館大学の音楽サークル「ロックコミューン」から始まった。叙情的なメロディを生み出す京都生まれの若手バンドの登場を、メディアは“京都系”という表現をもって讃えた。渦中にいた当人は、「学生の時はこんなところ、はよ出たいわって思ってたんですけどね」とはにかむ。
 岸田さんが、京都という土地を求めた理由のひとつに“言語”があるという。日常の暮らしのなかに根付いてる、ちょっとした言い回しや間合い。言葉をつむぐことでリズムやメロディを生み出すミュージシャンにとって、その土地固有の言葉は創作活動の土壌になる。
「ロンドンとマンチェスターの音楽はまったく違いますし、アメリカの南部と内陸で聴かれている音楽のもつリズムも全然違います。自分の“型”が何かっていうと、京都。それも地元としての京都。やっぱり染みついてるものがありますから。托鉢のお坊さんが、ほぉーと唱えてる声や、古紙回収の軽トラから流れるBGMとか、街の環境音も含めて」。
 そう笑い、岸田さんは吉幾三さんの曲『俺ら東京さ行ぐだ』を口ずさんだ。「〈ディスコも無エ のぞきも無エ レーザー・ディスクは何者だ?〉って、吉幾三さんが津軽っぽく歌うと独特なんです。その土地らしいグルーヴ感というか。僕も京都固有のものにより戻されてるような感覚があります。自分のもつ才覚は、京都からもらったものでだいぶ出来てるんやなぁ、って」。

岸田繁

梅小路で13年目の音博
変えるものと、変えないもの

 取材の数日後、岸田さんはくるり主催の「京都音楽博覧会」のステージに立つことになっていた。「音博」と呼び親しまれるこの野外音楽イベントは、2007年の開催以来、今年で13回目を迎える。
「一回限り」と思って始めたそうだが、観客からの「来年もやってください」という声を受けて「ほんならやりますか」と2年目を開催。それが3年、4年となり、気づけば10年を超えていた。
 今年からプロモーターが変わり「心機一転の年」だという。ブッキングの毛色にも変化があった。出演者の顔ぶれには、大物アーティストに混じって、京都出身の若手ミュージシャンがラインナップされている。切れ目なく表出する京都のバンドシーンを、岸田さんはどう見ているのだろうか。
「この土地に住んで、ものを生み出してる人たちに共通して感じる源泉のようなものってありますよ、やっぱり。なんかわかる、なんか匂うなって」。
 一方で、変えないものもある。会場は、ずっと梅小路公園だ。京都に住む人なら、この10年の変化を感じずにはいられない場所だろう。岸田さんの言葉が民意を代表していた。「立派な公園やけど、あんまし人の来いひん場所やったんで」。
 しかし、音博の開催以降、梅小路公園のまわりは俄かに活気づく。その賑わいにつられるように、京都水族館、京都鉄道博物館、そして新駅「梅小路京都西駅」が開業。今では週末になると家族連れやカップルが押し寄せ、梅小路公園を狭く感じるほどだ。
 地方で盛んに行われている野外フェスの多くは、近隣トラブルを避けて人里離れた場所で開催されることが多い。音博のように市街地にスペースを見出し、街の賑わいの象徴となったケースは稀だ。なにより地域の理解が必要になる。京都出身のくるりがオーガナイザーを務め、近隣との結びつきや地域振興に貢献していく“お祭り”というスタンスを掲げている意味は大きい。
「続けてたら、あのへんが賑やかになっていったっていうのは、すごく嬉しい。梅小路にデカい顔をするわけじゃないんですけど、招き猫ぐらいにはなれたんじゃないかなぁ」と、その影響力について本人はいたって謙虚だ。

歌を生み出す、時と場所

 例年、音博のラストを飾る曲は『宿はなし』が定番となっている。今年も初秋の風に乗って、岸田さんの歌声が市内に心地よく流れた。その歌詞には、〈飛び石のほら真ん中で〉〈べんがら格子の街を背に〉と、京都の情景が浮かぶような言葉が並ぶ。岸田さんは、自身が生み出す曲と京都という街の関係についてどのように考えているのだろうか。
「僕らの曲を京都らしいと言わはる人も多いんですが、自分ではよく分からないです。ただ、京都に来てくるりを聴いたら、すごく良く聴こえたって言わはる人もいて。それって、沖縄で飲む泡盛は一味違うみたいな、そういうもんちゃうかと受け止めてます。何かがあるんちゃうかな、とは思いますね」。
 岸田さんが詞や曲を考えるのは、仕事場か移動している時だという。「新幹線の喫煙室とか、酔っぱらって家に帰ってる道すがらとか、そういう時が多いかなぁ」。
 実際、最新アルバム『ソングライン』に収録された表題曲をはじめ、くるりの曲には、ダイレクトに「移動」のイメージを描写する歌も少なくない。「不思議なもんで、移動してたら何か憑きもんが落ちていく感覚があるんです。いろんな邪念とか、凝り固まってる考えとか。同時に、何か新しいものが入ってくる余地ができるというか」。自動車の免許は持たず、デビュー前から変わらず今も電車移動。とくに阪急電車が好きな人だ。帰京してからは、歩く量と自転車に乗る機会が増えたという。土地がもつ景観やにおい、そして音。京都という“スタジオ”は、彼に何を授けるのだろう。岸田さんは最後、念を押すように付け加えた。
「僕にとって京都は、心拍数がちょうどよくなる感じがあるんです」。
 岸田繁は京都にいる。しかし、街で見かけても、声をかけるのはやめておこう。彼は、作曲中かもしれないのだから。

岸田繁(きしだ・しげる)

京都市生まれ。「くるり」のヴォーカルとギターを担当し、作詞・作曲を手がける。2007年から「京都音楽博覧会」を主催。16年に京都精華大学の客員教員就任。同年、京都市交響楽団からの依頼を受けたオーケストラ作品を発表している。

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