プレスリリース

2006年04月04日

BACKSTAGE REPORT ユニクロのゆかた ~「考える人」2006年春号~

ゆかた姿で夏をより楽しく。品質には自信があります。

ユニクロらしいゆかた作りと提案

20060404_5.jpg 気象庁が暖冬予報を撤回するほどの厳冬だったせいだろうか、今年はいつにもまして春の訪れが待ち遠しかったように思う。

 新緑が萌え、風薫る五月になると、早くもユニクロの店頭に色とりどりのゆかたが並び始める。夕涼みに、夏祭りや花火大会に。夏を楽しむ若い女性や少女たちだけでなく、幅広い年齢層に人気の商品である。

 お客様の要望に応え、ユニクロがゆかたを手がけはじめて今年で四年目。洋服とゆかたでは、商品作りの発想も方法も違うのではないか? その舞台裏を探ってみたい。

 ユニクロの商品を企画し、作り、売るまでを方向づけ、統括するのはMD(マーチャンダイザー)の役割である。ゆかたのMDであり、インナー事業部の部長である白井恵美氏にまず話を聞いた。

呉服業界が出していない、ユニクロらしいゆかたを作ろう。

20060404_6.jpg「ゆかたはユニクロにとって新しいジャンルです。私自身もデザイナーもインナーが専門であり、三年前はゼロからの出発でした。とはいえ、『いける』という感触も十分持っていました。それは、ゆかたを夏のカジュアルウェアの一つと捉えていたからです。

 いまの若い人たちは洋服と同じようにゆかたを楽しんでいます。かんざしを帯に挿したり、髪や帯にコサージュをあしらったり、レースの足袋をはいたり。年配の方は驚くかもしれませんが、洋服感覚で小物をミックスしてアレンジするのも上手です。ボーイフレンドと花火大会や夏祭りに行くときに可愛くおしゃれする、いわばデート着ですよね。家族や友達と連れだって遊びに出かけるときも気軽に着ますし、昔はゆかたといえば『夕方から夜、ごく近所、花火大会、夏祭り』でしたけれど、いまはTPOも広がっています。

 着物という日本独特のカタチではあるけれど、夏の木綿着であればプリントも縫製の技術もユニクロのノウハウや蓄積を生かせます。というより、カジュアルウェアのプロである私たちだからこそできるものがあるはずですし、また、そうでなければいけない。呉服屋さんが出しているものと同じでは意味がありません。

 ユニクロらしい新しい提案を考えるにあたっては、古着の着物に代表される和ブームを基本に考えました。日本古来の古典文様だったり、大正時代や昭和初期のレトロモダンな色柄だったり。和の着物の魅力を新しい感性で再発見しているのがいまの若い人たちです。
 白地紺地の江戸前のゆかたも、金魚や兎などの動物柄の可愛いゆかたももちろん作ります。と同時に、洋服のトレンドとクラシックな和の着物のエッセンスを盛り込んでいくことでユニクロらしさが出せるのではないか。こうしてデザインの大きなテーマを決めました。懐かしく新しい、洋風と和風のミックスです。

 また、ゆかたはなんといっても帯や小物との組み合わせが醍醐味ですから、ゆかた、帯、腰ひも、巾着の四点をセットにしたコーディネートを用意しました。帯は裏表、色柄を変えて両面使えるリバーシブルです。あらかじめ結んである作り帯ではなく、自分で結ぶ半巾帯。着付けと帯の結び方をイラストで紹介した手引きもつけました。

 あえてそうしたのは、着物を着るという行為を楽しんでいただくため。みなさん自分で着てみたいですよね。着物を着たことがない若い女の子は初めて自分で着てみるのが楽しみですし、中級者や上級者であればあるほど結び方もコーディネートも自分らしいこだわりがあります。

 その年ごとのコンセプトとテイストテーマを決めることから始め、毎年、完成までに一年弱かけています。価格はゆかた、帯、腰ひも、巾着の四点セットで三九九〇円。初年度からこの価格を変えず、素材、織り地、染色、プリント、仕立て、すべてにこだわり、品質を追求しています。そのためにずいぶん苦労することにもなったのですが……(笑)。先ほど、いままでのユニクロのノウハウや蓄積を生かせると言いましたが、それだけではすまないことにも、スタートしてまもなく気づかされることになりました」

和の着物ならではの、美しい色柄を表現するための挑戦。

20060404_7.jpg 古典的趣のある朱色の地に配した可憐な花輪文様。大人っぽい黒地と競うかのように流麗に描かれた秋草の撫子。桜模様や波模様が浮き立つ、あでやかなジャカード織りの帯。……今年の新作一着一着を手にとりながら思ったのは、「これはもう、ゆかたと着物の境を超えているのではないか」ということだった。着物のような色柄にこだわったため、インドネシアの染色工場を開拓したとも聞いている。インナーデザインチームのリーダーであり、ゆかたのデザインをディレクションする竹田柚香子氏にうかがった。

「たとえば黒地のものは『抜染』という技法を使っています。あらかじめ黒に染めた生地の地色を抜き取って白くし、そこに模様をプリントするのです。これだけでも高度なテクニックを要するのですが、ピンクの撫子の花と白地の境目には微妙なぼかしまでありますでしょう。それから撫子の枝葉も水彩でさっと描いたような線描き風にしています。こうした『ぼかし』や『水彩タッチ』などの繊細な表現には、さらに熟練の手業が必要です。それができたのも、インドネシアの染色工場と出会えたからでした。

 織り地にもこだわっていて、今年は市松、紅梅、スラブ調のたて透かしの三種類を作っています。市松模様はご存知の通り、碁盤の目状の格子柄ですね。紅梅織は勾配ともいい、地糸より太い糸を織物のたて・よこに織り込み、織柄を浮き出させたもの。スラブ調のたて透かしは、ちょっと透けた模様のところどころに節状の太い糸を出したものです。こうした織り地を使ったのは和の着物らしい奥ゆきや涼しげな感じを出すためですが、これをどう生かすかは染色とプリントの技術にかかってくる。赤の色のものはとくに難しく、こちらが指定した色味が出るまで修正を繰り返しました。奥深い和の色を再現するのがそもそも難しいうえ、実際に生地に乗せてみると出方が違ってくる。模様の織り地に色の出方が左右されるんですね。

『試刷り』で修正を重ねていくのですが、こうした難問をクリアして原画に忠実に仕上げてくれるインドネシアの職人たちの力量には本当に敬服します。

 インドネシアはバティック(ろうけつ染めによる更紗)やイカット(糸を括り染めによって部分的に染めて織る絣)の産地であり、染色やプリント技術には伝統があります。そこで培われたセンスというほかないのですが、この色を出すには染料をどう盛り込むかという案配や手加減。それが色柄にニュアンスとなって出てくるのだと思います。それと、なんといってもやはり手先の器用さです。

 プリントは版画のように色数分、金属の版を作ります。一着、だいたい六~十版、多いものは十二版。色を重ね、一枚の絵にしていく。一版一版の彫りが精巧でなければいけませんし、最初に申し上げたような水彩タッチやぼかしの手法も版を彫る技術力とセンスがあってこそ可能なものです。コンピュータでやってもいいのですが、それではきっちりとした固い線になり、味が出ません。

 紗がかかったような、ちょっとかすれた感じの地模様を入れているものもあります。遠目で見ると織り柄のように見えますが、実はこれはプリントなんですよ。こちらの技術をもっていき、お願いしたものですが、見事に応えてくれました」

洋服のように着ても、粋に美しく決まるよう、仕立てを工夫。

20060404_8.jpg 地色や模様の色柄はいかようにもこだわることができる。しかし、ゆかたのカタチは決まっていて、工夫の余地はないのではないか。後ろ衿を抜いたり、裾すぼまりにしたり、前の衿合わせや帯の位置と結び方といったポイントはあるものの、それは着る側の着こなし次第─というのも、どうやらしろうと考えらしい。引き続き竹田氏の話。

「若い人がいつもの洋服のように着ても決まるように、後ろの衿ぐりをカーブさせ、ほんの少し下がるようにしています。若い人は衿をつめて着ても清潔感があって可愛いんですが、やはり少しは抜かないと、後ろ衿が立って首もとが暑苦しく見えますから。また裾すぼまりに着られるよう、左右の脇を少し中に入れて縫製したり、衿幅も上を細く、下をちょっと太くしています。こうすると格好よく、着物に近い感じで着られるんです。

 お仕立てものや呉服屋さんで売られているゆかたにもこうした工夫をしたものがあり、特別なことではないかもしれません。ただ、着物のテクニックを取り入れ、お仕立てと同じくらい本格的に仕上げている、それには自信をもっています。

 こうしたパターン(型紙)の工夫も、ひとつひとつ勉強しながらやってきたことです。着付けの先生にアドバイスしていただいたり、若手のスタッフが着てみて、『これは初心者では着こなしが難しい、もっさり、ずどんとした感じになる』(笑)となれば、そこを改善する。専門のインナーとはそれは勝手が違います。

 発見ということでいえば、まさに縫製がそうでした。シャツが縫える工場なら、ほぼ直線縫いで仕上げられるゆかたなど簡単だろうと思われますよね? ところが違うんです。長い直線を、まっすぐ、きれいに縫うのが難しい。洋服ではありえない用尺ですし、ロールになっていますから、それはそれは長いわけです。少しでも曲がってしまえば、品質にかかわるのはもちろん、きちんと畳むこともできません。立体的にできている洋服と違い、ゆかたも着物もほぼ直線でフラット。この計算されたカタチには『畳む』という日本の文化も含まれているんですね。

 そんなわけで縫製工場も新しく探しました。中国にある、ゆかただけの契約の専用工場です。縫い目も丈夫な袋縫いにしていますが、指示通り、直線縫いでここまできれいに仕上げられるところはそうはないはずです」

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見た目も涼しげに、着心地もすっきり涼しく。

 発売以来、品質を高めてゆく努力がつづけられるなか、今年はまたひとつ新しい技術が取り入れられた。ガムや寝具、肌着などに使われる、注目の『キシリトール』を付与した涼感加工である。ゆかたは暑い夏に着るものだから爽やかな清涼感が嬉しいし、着心地もさらっと、しゃきっとするという。ふたたび白井氏の話。

「暑苦しくなく、通気性も肌あたりもいい薄い素材を使っているうえ、さらに今年は『より涼しく』をテーマに、スラブ調たて透かしなどの織り地とキシリトール加工の両面で清涼感を追求しています。いろいろな面で、今年のゆかたは、これまで以上の自信作です。

 品質のグレードを上げていくのは確かに容易ではありません。プリントや縫製の工場も変えたように、いままでのユニクロの製品では要求されなかった技術も必要になる。けれど、そうしたこと全部が私たちには得がたい経験です。チャレンジングな商品作りによって、本格的なゆかたを手頃な価格で提供できる、それが何より嬉しいのです。

 呉服店や百貨店に置いても遜色のない商品だと自負しています。価格は『ゼロ』がひとつちがうでしょうけれど(笑)。ぜひお店で見ていただいて、そして着ていただきたい。すっきり涼しく、美しく。大人っぽく粋にも、また可愛く華やかにも。着てくだされば、違いがよくわかっていただけるはずです」

uniqlo_logo.gif5月中旬より、ユニクロの各店舗でゆかたを販売いたします。今年のテーマは、『レトロ、キュート、クラシック』。5月の立ち上げから8月・盛夏まで、テイスト別に女性用30柄、ガールズ用3柄の計33柄が順次、登場する予定です。デザインから縫製までの品質はもちろんのこと、ゆかた、リバーシブルの帯、腰ひも、ゆかたと共布の巾着のコーディネートの提案も幅広い年齢層の方から毎年、ご好評をいただいております。また、下駄や男性用の甚平も揃えた幅広い内容になっています。どうぞご期待ください。

「考える人」2006年春号

(文/取材:新潮社編集部、撮影:広瀬達郎、坪田光晃(人物))

詳しくは、新潮社のホームページをご覧下さい。