プレスリリース

2004年12月28日

BACKSTAGE REPORT(2) 韓国への進出 ~「考える人」2005年冬号〜

~「考える人」2005年冬号(新潮社)より転載~

「”小さく産んで徐々に育てる”でなければ駄目なんです」

韓国への進出
ロッテショッピング社との合弁会社設立


韓国では百貨店というものに対するブランド信仰が相当な力を持っている

20041227_7.jpg  二〇〇五年秋、ユニクロは韓国に進出する。海外進出は英国、中国に続いて三番目。英国には現在六店舗、中国上海には七店舗が営業中である。
 韓国進出は、英国や中国への進出とは異なる部分がある。それは、今回のプロジェクトが現地の老舗企業ロッテショッピング社との合弁事業だということである。
 ユニクロの果瀬聡氏(韓国事業プロジェクト部長)は新卒入社後、半年で福岡の店長の仕事に就いた。その後も店舗運営をめぐる様々な仕事を担当し、ユニクロの新展開の重要なポイントに関わってきた。まずはここに至るまでの話。
「入社した頃のユニクロはフリース・ブーム以前の時代です。それでも毎日忙しかった。覚えなければいけないことがたくさんありました。店長を経験した一年後には全員が新人という新店の立ち上げも担当しました。ゼロから作り上げるのがあんなに大変だとは思いませんでしたね。人を使うこと、人に教えることの難しさ、大切さを痛感しました。
 一番印象が強かったのは、フリース・ブーム真っ最中の池袋東口店で、店長をサポートするスーパーバイザーになった時です。今でも忘れられないのは、店の二階から見下ろせる目の前のスクランブル交差点が青信号になると、こちら側に渡ってくる大勢の人たちがそのまま店に入ってくるのが見える(笑)。本当に怖くなるぐらい。入場制限しても店内は満員電車状態です。とにかく来店してくださるお客さんの数が普通じゃなかった。この状況を乗り越えるなかでありとあらゆることを経験し、勉強しました。店舗をどうやって運営すればいいのか、ここで学んだことは本当に大きかった。ブームから続いて年間百店舗以上を出店したオープンラッシュ時代には、新店のオペレーションを開発するチームを担当するようになったんです。
 次は英国でした。本当は自分が行くはずじゃなかった。本音を言えば中国に行きたかったんです。研修で中国に行ったとき、発展途上のエネルギッシュな雰囲気がなんとも言えず気に入ったので。ここでやるならゼロからやらなきゃならない、だからこそ自分がやりたい。そう思っていました。
20041227_8.jpg ところが、ロンドン一号店オープン直前に『このままじゃ間に合わない』って緊急の応援要請があったんです。オープンの五日前にロンドンに飛びました。日本ではあり得ないような物流のトラブルが起こっていたり、現地採用の店員のトレーニングも遅れ気味で、あちこちに赤信号が点滅していました。任せていたら商品が店に並ばないと、自分たちで倉庫に行って出荷したり(笑)。滑り込みセーフのオープンでした。
 僕らがユニクロで培ったノウハウというのは現場で試行錯誤をしながら作りあげたものなんです。そのことに自信を持ってやればいいのに、海外を意識し過ぎて予測だけで英国流を導入してしまった。初動ミスでした。妙な現地主義で調整すると失敗した原因がわからなくなる。そのことを学んだ貴重な経験です。
 日本に帰ってきてからは、店舗サポート部と在庫コントロール部で引き続き店を支える体制を作りました。そして現在の韓国進出のプロジェクトに関わってくれ、と言われたのは二〇〇四年の九月。
 韓国のロッテショッピングとの合弁事業の最大のメリットは出店候補地の選定です。ロッテショッピングは百貨店を中心に一兆円ぐらい売り上げる大企業です。彼らと手を組めばその既存店舗にユニクロを出店できますし、新たに店舗候補地を探す場合にも、集客力のある場所を選ぶことが可能になります。
 韓国ではまだまだ百貨店の集客力がすごい。百貨店というものに対するブランド信仰が相当な力を持っている。一方で量販店を覗いてみると低価格だけど品物は質が悪い。安かろう悪かろうなんです。なんとなく十年以上前に僕がユニクロに入社した頃の日本の市場に近い。  それにどうやら韓国の人たちは日本人に負けず劣らず見栄っ張りらしい(笑)。だから高品質のユニクロの商品を、低価格に力点を置いてアピールし過ぎてしまうと、品物の良さを知ってもらう以前に敬遠されてしまう可能性がある。だから、品質が高いということをきちんと丁寧に伝えなければいけない。これは日本でも取り組んでいる大きなテーマでもありますから、韓国でやるべき仕事も日本と同じ、と言えるでしょう。
 英国で学んだのは゛大きく産んで大きく育てる〟のは無理がある、ということでした。やっぱり店も、゛小さく産んで徐々に育てる〟でなければ駄目なんです。だから韓国においても、一店舗、一店舗がどうやって利益を出せるか、少しずつ実績を積み上げながら、利益を出す構造をきっちり作っていくのが勝負だと思っています。店舗の拡大はそれからです。
 韓国でも日本でやってきたことと同じようにベーシック・カジュアルの市場を僕らがつくりに行くんだと思っています。
 韓国から研修のため、三人の方が来日しています。まずは店舗でスタッフの仕事を一通り経験してもらいました。モップをかけたり、棚の整理から接客まで。一ヶ月半ぐらいでユニクロのやり方や考え方を伝えることができたはずです。韓国では小売業の地位はまだ低い。その状況も彼らと一緒に変えてみたいと思っています。ただ、韓国のベーシック・カジュアルの市場は日本の十年ぐらい前の状態だと申し上げたのと同じように、会社のあり方もまだまだ年功序列が主流なんです。ユニクロの完全実力主義、風通しのいい自由な社風に彼らはだいぶ刺激を受けたようですね。
 韓国への出発は間もなくです。我が家には小学生の子どもが二人いるんですが、最初は妻に『どうせあんたが好きなようにやるんやろう。私は行かんけん』と言われちゃって(笑)。ところがですね、先週ぐらいから妻が韓国語の語学学校に通い始めた。いつでも行けるようにという準備をしてくれてるのかな、と思って黙って見ているんですが(笑)」

韓国のカジュアルウエアの市場は低迷している。しかし……

20041227_10.jpg 研修中のロッテショッピング社の三人にも話をうかがった。まずは高校まで日本で暮らしていた最若手の金昌南氏(三十三歳)の話。
「ユニクロと当社の一番の違いは、若さですね。会社自体が若いということと、決断の早さ。それから、会社の掲げる目標が経営陣の中での話に終わらず、上から下までよく浸透していること。僕らの会社も百貨店での小売りが中心ですから、売り場を清潔にするとか、製品をきれいにたたんでおくとか、販売ロスが起きないように補充するとか原則は同じなんです。でも、担当者によってそのやり方にはどうしても差が出てくる。ユニクロの場合はそういった悪い意味での個人差が出ない。本当にきめ細かくディレクションをされています。そこが凄い」
 李同烈氏(四十二歳)の話。
「生き生きとした組織だなあということを最初に感じました。店舗について言えば、マニュアルが実によく出来ている。でもマニュアルは永久不変ではなくて、日々刻々と改善もされている。それにマニュアルは経営理念と密接につながっているから、単なるカタチの問題に留まらない。経営理念の具体的反映なんですね。そこが明快です」
20041227_9.jpg そして合弁事業で指揮をとることになる安星洙氏(四十六歳)は言う。
「韓国におけるカジュアルウエアの市場がどうかと言えば、現在はあまりいい状態ではありません。低迷していると言っていいでしょう。しかしユニクロの日本での成功の道筋をたどって考えれば、韓国にも同じような市場は絶対にあるはずなんです。今の韓国は十年前の日本と同じようにブランド志向が強い。いっぽうで、消費者も合理的な消費を考えるようになってきている。今がチャンスです」
 安氏は釜山にロッテデパートがオープンした昔、その現場に立ち会っている。その日は百貨店なるものをひと目見ようと田舎からおじいちゃんおばあちゃんがお弁当を持ってやって来て、店の前にゴザを敷きお弁当を食べながら見学していたという。現在は百貨店は珍しいものではもちろんなくなったが、しかし買い物をするならやはりデパートという傾向は相変わらず強いらしい。店員の対応についても昔の日本の百貨店と同じで、かなりきめ細かい。
 ヘルプ・ユアセルフのユニクロ方式については三人の間に微妙な受け取り方の違いがある。百貨店の仕事が一番長い安氏はユニクロの販売方式に最初は驚いたという。
20041227_11.jpg「服を売るというイメージではなくて、ファーストフードでハンバーガーを売っているような印象を受けましたね。悪い意味じゃないんです。店内の品揃えも見やすいし、選びやすい。実に機能的です。お客さんの来店をじっと待っているだけではなくて、一週間単位でチラシをまいて目玉商品を知らせたり、お客さんが品揃えに変化を感じるように工夫している。スタッフは無駄なく真面目に働いているし、驚くことばかりでした」
 安氏はこのユニクロ方式をそのまま韓国で展開するのが本当にいいのかどうかまだ多少の迷いがあるようだ。
「韓国で服を買うお客さんはこういうやり方を経験したことがありません。人によっては放って置かれていると勘違いされる方も出てくるかもしれ ない」

「いらっしゃいませ」はあまり気安く連発する言葉じゃない

 若手の金氏は違う見方をしている。
「お客さんが自由に店内を見て回ることができる良さは必ず伝わると思うんです。そのことは大丈夫じゃないでしょうか。ただ、僕は店で研修を受けているとき、『いらっしゃいませ』と何度も声をかけることには抵抗があった(笑)。韓国のお店ではああいう対応はしないんです。『いらっしゃいませ』はあまり気安く連発する言葉じゃない。何ていうか、もうちょっと重みのある言葉なんです」
 英国進出の際に、英国流を意識しすぎたことが裏目に出た、という果瀬氏の経験や分析とあわせて考えると、韓国と日本の文化の違いの問題はなかなか一筋縄ではいかないかもしれない。李氏は言う。
「ユニクロの方式を韓国流に寄せることは当面考えないほうがいいのではないかと思います。ユニクロの現状のシステムをそのまま持っていくことから始めたほうがいい。まずはそこから始めて現実を見ながら修正すればいい。それに、百貨店で販売員が近づいて来るのは、実は僕も苦手なんですよ(笑)」
 一番若い金氏は続ける。
「若い人ほど気にはしないでしょう。ただ年輩の人も百貨店には多数いらっしゃいますから、その点は意識しておいたほうがいいとは思います。いずれにせよ、まずはこの完成されたユニクロの方法を韓国でそのままやってみたい今からオープンが楽しみです」
 二〇〇五年秋の韓国進出はこの四人を中心に動き出している。日韓の共同事業がどのように展開するか。約一年後、ソウルでのスタートが注目される。

uniqlo_logo.gif株式会社ファーストリテイリングは、韓国の大手流通グループ、ロッテショッピング社との間で合弁会社エフアールエルコリア株式会社を設立いたしました。2005年秋からの出店を予定しています。また、2005年は米国への進出も予定しており、子会社ユニクロ・ユーエスエー・インクを設立いたしました。展開中の英国は前期黒字化を達成。中国事業も今期黒字に転換する予定です。海外事業は、私たちが世界一のカジュアル企業になるための絶対条件。拡大再生産できる水準まで効率をあげ、継続的な出店・事業拡大につなげることはもちろん、真のグローバルブランドとなることをめざします。

「考える人」2005年冬号
(文/取材:新潮社編集部、撮影:広瀬達郎、菅野健児)
詳しくは、新潮社のホームページをご覧下さい。