プレスリリース

2007年10月05日

ロンドングローバル旗艦店オープンの舞台裏 ~「考える人」2007年秋号~

~「考える人」2007年秋号(新潮社)より転載~

ロンドンっ子を驚かす二店舗同時オープンへ

ユニクロ(U.K.)LTD. 代表取締役社長 永竹 正幸 (Nagatake Masayuki)

20071005_LND3.jpg イギリスにユニクロがオープンしたのは六年前。二〇〇一年の九月でした。現地のマスメディアにも取り上げられましたし、開店直後にはロンドンでは珍しい長い行列もできて、ブームといってもいいスタートを切ることができたのです。でも、それからが大変でした。
 まずは四店舗から始めて、十八ヶ月で一挙に二十一店舗まで増やすという戦略が、今思えばかなり無理があったのだと思います。初めての海外進出で強気に展開したものの、やはり準備不足は否めませんでした。日本でユニクロを動かしているときには空気のように意識しないでいられたシステム、たとえば物流などのインフラ、採用からトレーニングまでの人事も、それがそのままイギリスで同じように機能する、というわけにはもちろんいかなかったからです。これが何よりも大きかった。
 投資した額もかなりのものでしたので、各店舗で利益が出ない。判断が早いユニクロとしては全面撤退してもおかしくない状況にほどなく陥っていきました。あちこちで火が噴き始めている。そんな真っ最中に、私はユニクロに入社したんです。二〇〇一年の十一月頃です。

伝統的な日本企業にはフィットしない

 僕の父は日本人、母はイタリア人です。三井物産に勤めていた独身時代の父が、社内面接でイタリア語研修を希望する理由を聞かれたとき、「オペラが好きなので」と答えたそうです。ミラノに駐在させる前に一年以上もボローニャ大学へ留学させるんですから、商社っていうのは偉いもんですね(笑)。結局父は留学中に知り合ったイタリア人の母と結婚して、のちに本格的にオペラ評論家(永竹由幸氏)になり、昨年はイタリア文化の紹介者としての功労によって「コンメンダトーレ章」という勲章をイタリアの大統領から授与されるまでになりました。
 五人兄弟の僕は長男です。十一歳から十五歳までミラノに住んでいました。日本人学校に通っていたんですが、兄弟同士の会話はイタリア語でしか成立しないときもあったぐらい。ハーフだと英語はお手のものと誤解されやすいのですが、特に勉強していたわけじゃないので、得意というのではなかった。帰国してから慶応高校に入って、大学はそのまま慶応の経済、就職先は野村證券でした。
 入社して間もなく、社内制度としてあったMBA派遣に希望を出したら、あっけなく通ってしまったんですね。でもビジネス・スクールのトップテンに入る名門校に半年以内で合格するのが条件。つまり英語力だけでTOEFLとGMATをそれぞれ六〇〇点以上取れるまで持って行かなければならないわけです。スタート時点では、僕の実力はTOEFLが五〇〇点、GMATは四〇〇点そこそこでした。半年で合格点にまで引き上げるのは、客観的に言ってかなり厳しい。
 社内で選ばれた手前、合格しなかったらシャレになりません。半年しか時間がないのに、勤務しながらの勉強でしたからもう必死です。出社する前の早朝と、昼休みと、退社後の時間をフルに使いました。ビジネス・スクールの予備校には自費で一〇〇万以上かけましたし、勉強に集中するため定時退社を頼み込んで、理解ある上司がそれを許してくれたんです。半年後に、アメリカのウォートン・スクールに合格しました。チャンスを与えてくれた野村證券には今でもほんとうに感謝しています。ただ、ウォートン・スクールに合格したのはいいんですが、学校が始まるとネイティブの同級生のスラングが全然わからない。最初はだいぶ落ち込みました。半年ぐらい経って、やっとなんとか慣れましたけど。
 帰国後には、小売りのアナリストとして、外資系の会社ゴールドマン・サックスに入社しました。もう仕事も上司との喧嘩も英語だらけです。
 その次には、リサーチ専門のジュピターというアメリカの会社を日本で立ち上げたのですが、二年弱でアメリカ本社が他社と合併して、さらに日本の別の会社とジョイントベンチャーをすることになり、続いて今度は、そのアメリカ本社そのものが身売りすることになって、結局日本の会社も売却という、めまぐるしくひととおりの経験をさせてもらったんです。アメリカの会社には「まったく!」と思わされたことが何度もありました(笑)。とは言え、僕は伝統的な日本の企業には自分がフィットしないこともわかっていましたから、年齢に関係なく経営にかかわることができて、自分がこれまでにやってきたことを活かせる会社はどこだろうと探した結果、ユニクロに入社することになったわけです。

「イギリス流」との戦い

20071005_LND1.jpg イギリスでユニクロをオープンするにあたって、現地採用された優秀なディレクターたちは、イギリスの「小売りのプロ」という自負の強い人ばかりでした。たしかに「君たちはイギリスの小売りの実態を何も知らない」と言われてしまったら、こちらには反論する材料が当時はまだなかった。さらに言うと日本サイドのスタッフが英語に自信がなかったり、外国人に対するコンプレックスが少しでもあったりすると、もう駄目なんですね。「イギリスにはイギリスの、こういうルールがある」なんて言われると、つい気圧されてしまう。たしかに制度や法律がイギリスでは非常にかっちりとできていますけど、ひとつひとつ調べてわかってしまえば、むしろ管理しやすいところがある。
 当時、私は副社長で、ユニクロUKの社長だった玉塚さんから、「あちこちで火を噴いているシステムを一緒に直していこう」と言われました。物流や店舗オペレーションの要素をひとつひとつ、それぞれの部門の日本での責任者をイギリスまで連れて行って、どうすれば改善できるのかを検討し、丁寧に問題点を潰していったんです。イギリス側には頑固な人もいましたから、時間も根気もかかりましたけどね。でも少しずつ確実に変えていきました。
 日本のやり方をそのままイギリスに持ち込んでも、うまく行かないのはもちろんです。日本で理想的に行われていることを、ルールが違う同士で共同して実現するのは決して簡単ではありません。すりあわせが必要だし、法律や規制をよく勉強しなければいけない。でも、仕切り直せば何とかなると思ってました。いつも「楽観的だね」と人に言われるんですよ。でも、ポジティブに考えないと前に進めないだろうって思ってましたから。

六年目、満を持してのオープン

 この十一月に、まったく新しい、グローバル旗艦店がロンドンにオープンします。この六年間のさまざまな蓄積の上に、満を持してスタートを切ることになりました。今年に入ってから夏にかけて、ユニクロの注目度が以前にも増して高まってきている状況下でのオープンなので、ベストのタイミングだと思っています。
 いま注目が集まっているのは、ひとつにはイギリスでもインターネット販売が始まったことです。全国紙や一般誌、先端をゆくファッション誌などでも、しきりに取り上げられています。
 もうひとつはプリントTシャツが絶好調だということ。とくに手治虫さんのプリント柄のものが大人気で、イギリスでは知名度が低いし売れないんじゃないかと言う声も実はあったんですけど、蓋を開けてみれば大ヒットでした。それ以外のTシャツでも、ジャパニーズ・ポップ・カルチャー系のもの、あるいは日本の伝統的な老舗企業の、漢字まじりの和風のものが売れていたりするんです。
 それからカシミヤのセーター。イギリスでは色のバリエーションを増やして、明るい色から濃い色まで二十種類以上の展開をしているんですね。これだけの高品質で、なおかつこの価格で提供できる競合ブランドはひとつもないんです。欧米はニットを着る機会が日本よりも断然多いですから、ユニクロといえばクオリティが高く、カラーバリエーションも豊富なニットを扱う店だということで、だいぶ浸透してきたと思います。ニットはリピーターが多いのも目立ちます。
 デニムも、日本で大成功したスキニー・ジーンズのように、他社にさきがけて売り出したワイドレッグジーンズがセールスはもちろん業界の評価も高く、ブランドイメージがさらに高まりました。六年間の蓄積が、このタイミングで次々といい流れをつくりだしているんです。

一度入ったら絶対に忘れない

20071005_LND2.jpg 二〇〇一年にロンドンに来たときがカオスの段階だとすれば、修正を加えた基礎設計の段階を経て、今はまさに成長段階に入ったところです。今回のグローバル旗艦店のオープンは、ユニクロブランドを一気に広める最大のチャンスだと考えています。新しくオープンするのはロンドンのオックスフォードストリート。セルフリッジなど高級百貨店をはじめとして、有名ブランドのひしめきあう、世界でも有数の「目抜き通り」に、約七〇〇坪のグローバル旗艦店と、もうひとつ四〇〇坪弱の大型店を同時にオープンします。これぐらい大規模の店をオックスフォードストリートに二つ、しかも同時期に出すというのは、ちょっと普通では考えられないし、実現も不可能です。二年近くかけて市場に出ていない物件まで水面下で調べて、タフな交渉をまとめ上げた結果なんですが、この世界ではかなり話題になりました。
 店舗全体のプロデュースとデザインはソーホー ニューヨークの旗艦店と同じく、佐藤可士和さんと片山正通さんのコンビにお願いしています。ニューヨークで大変に話題になった店づくりの基本的な考え方をきちんと踏まえつつ、ロンドンのお客様にとっても「一度入ったら絶対に忘れない」という店になると思っています。ブランドをどうアピールしてゆくかという考え方もニューヨークと同じで、日本のブランドであることを堂々と打ち出していきたい。これだけの規模で、二つの店をオープンするなんて、たぶん一回しかないチャンスですから。
 十一月にオープンするのは、年に一回のクリスマス商戦の時期にあてたんですね。この時期のセールスというのは、日本とは比べものにならないぐらい大きなものなんです。十一月オープンは、必然的なタイミングでした。
 イギリスの経済状況ですか? 今は、悪くないですね。消費も活発です。ユーロ高、ポンド高という為替の状態も、業績に対してプラスに働いています。だからといって、私たちが断然有利な立場かと言えば、ロンドンは競争が大変に激しいですから必ずしもそうとはいえない。オープンに向けて、もちろんオープンした後も、かなりの集中力を持って取り組まなければ、戦いは厳しくなるでしょう。
 しかもロンドンの旗艦店は、ロンドンのためだけにオープンするのではありません。ニューヨークと同じように、ユニクロが世界に向けて発信する、グローバルな旗艦店という役割も果たす必要がある。だからこそやりがいも大きいんだと、自分の背中を自分の手で、いまはグイッグイッと押しているところです。

uniqlo_logo.gifユニクロは、ヨーロッパを代表するショッピングエリアのロンドン、オックスフォードストリートにグローバル旗艦店をオープンいたします。英国最大700坪の売場面積を誇る同店舗のオープン日は11月7日(水)の予定。また同日、同ストリートに売場面積400坪の新規大型店もオープン。クリエイティブディレクションを佐藤可士和氏、インテリアデザインを片山正通氏が担当し、ユニクロが現時点で実現できる最高水準の商品を、ロンドンを基点に世界へ、発信します。

「考える人」2007年秋号
(文/取材:新潮社編集部、撮影:広瀬達郎)
詳しくは、新潮社のホームページをご覧下さい。