プレスリリース

2006年07月04日

BACKSTAGE REPORT ユニクロ ソーホー ニューヨーク店 佐藤可士和 ~「考える人」2006年夏号~

~「考える人」2006年夏号(新潮社)より転載~

ユニクロの哲学と僕のデザイン哲学

グローバル旗艦店 ユニクロ ソーホー ニューヨーク店
佐藤 可士和 (Sato Kashiwa)

20060703_5.jpg ユニクロの哲学と僕のデザインの哲学は、かなり近いんじゃないか、と思っています。対象の本質をつかんで、それを引き出して、磨く。余計なものを足していくのではなくて、削ぎ落とす。僕のデザインのやり方は、つねにそうです。柳井さんも僕も、合理的であることについて突出した美意識を持っているところが似ているかもしれない。この部分が際立っていて、しかも仕事に直結している人は、いそうでいて、あまりいない。
 ユニクロという会社の、服についての考え方の明快さが好きですね。ファッションというものは人の魅力を引き出すものであって、服に着られてしまうことではない。服という部品によって自分をコーディネイトする。自分の本来の魅力を引き出していく。そういう考え方なんですね。僕にとってのデザインの本質と同じ考え方です。だから今回、ユニクロの「ソーホー ニューヨーク店」の全体をディレクションする仕事を任されたのは、柳井さんに「僭越ながら適任だと思います」と申し上げたぐらい(笑)、自分にマッチしたピンとくる依頼でした。

お医者さんの問診のように

 僕は清涼飲料水や携帯電話のデザインから、企業や幼稚園、大学にいたるまで、いろんなもののブランディングをやっています。ブランディングというのは、既存のブランドの価値を整理して明確化し、それを新たなデザインによって人々に伝達する仕事です。
 ユニクロのブランディングをやるとしたら、何をどのように考えればいいのか。それは現在の姿をよく見ることと、そもそもそのブランドが持っていた本質は何だったのかをあらためて見直すことで浮かび上がってくるはずです。
 ユニクロは短期間で急成長しました。業績が下降した時期もある。しかし今は好調。そういう感じだと思います。だけど、世の中でどのようにとらえられているかといえば、ちょっとフォーカスがボケているんじゃないか。この間、ユニクロの価値が浸透したようでいて、世の中の持つ認識がどこかぼんやりしてきたのではないか。そこに問題があるかもしれない。ではどうすればいいのか。
 そういう時期に、ニューヨークの活気あふれるソーホー地区に千坪の店を出す、というのは実にいいタイミングです。これを、ユニクロが本来持っている一番いいところをぴっかぴかに磨いた状態で出て行く機会にすればいい。これが今回、僕の考えた最大のポイントでした。  僕の仕事は、お医者さんの問診と同じです。まずはクライアントから徹底的に話を聞くことから始めます。自分たちのブランドを世の中にどう認識してもらいたいのか? 本来そのブランドが持っていたはずの本質とは何だったのか、その上でいま課題になっている部分は何だろうか。それらがお互いにはっきりと見えてくるまで話し合うわけです。この過程を抜きにして、なんとなく新しいイメージだけをデザイン的につけ加えたって、なんにもならない。
 最初のうちは互いに矛盾する要望が並んでしまう。ビジネスといっても暮らしのなかの普通の欲求とたいして変わらないものです。「食べたいけど痩せたい」とか「遊びたいけど金も稼ぎたい」みたいなものがどんどん出てくる(笑)。
 ベクトルがあっちこっちバラバラで相反する要望に、それぞれ対症療法で向かおうとすると、本当の意味での解決策は見つかりません。そのやり方だと、またいつか同じ症状が出て、同じ薬を出すという繰り返しになりかねない。
 でもそういう矛盾は、企業の本質がしっかりしていれば、話し合っているうちに「こういう視点から見れば、答えはスパッとひとつになりますよね?」と提案できるところへたどりつきます。その視点を見つけ出すのが僕の仕事です。
 最初からロゴが頭にひらめくとか、いつかこういう書体でデザインしてみたかったとか、デザイナーとしてやってみたかった絵柄をここで実現させようなんていうのは、まったくない。ひらめきでやりたいことをやっている、と思われることもあるみたいですが、デザインは一人歩きはできない。まずは問診ありき、です。
 矛盾する希望をひとつに集約できる視点が見えれば、そこからはデザインの力、クリエイティブの力の出番になる。
 ここは問診と違って、あざやかに一気にやらねばならない。問診の結果をもとに、単純な足し算をしていては駄目なんです。クリエイティブの仕事にはある種のジャンプが必要だからです。模範解答的なデザインでは、「まあ否定はできないけど、感動もしないなあ」という(笑)平均点的な結果にしかならない。
 美大を卒業してから僕は広告代理店に入ったわけですけど、入社する前は広告に対して「メディアを使ったアート」のようなイメージを持っていた。だから会社に入ってみたら「えーッ? 全然イメージと違う!!」(笑)と驚いたこともあります。広告というのは企業の経済活動や経営戦略の一環であって、必ずしもアート的な格好いい広告をつくるのが正解とは限らないわけです。というか、格好いい広告は特別な事例。代理店での十年間で、僕はクライアントの要望とはどういうものか、結果はどうやって出していくのか、世の中の常識的なことを一から学ぶことになった。だからと言って、自分のなかのアート志向を葬り去ったわけじゃない。「ダセえなあ」と感じる美大生的な感覚は、それはそれとして維持し続けています。それがジャンプする原動力にもなっている。

合理性を美しさに変えるシステム

20060703_6.jpg ユニクロは問診のしやすい会社でした。若い会社だからです。ユニクロの歴史が無理なく見通せる。創業の精神がリアルに感じられる位置にいる。伝統的な企業や組織だと、そこがわからなくなってしまっている場合がしばしばあります。では、ユニクロ創業の精神とは何だろう。
 最初にも言ったように、合理性を美しさに変えるシステムがユニクロの原点だと思うのです。日本にも本来、合理的で美しいものはたくさんある。建築で言えば障子とか畳のように、古くなればアップデートが可能な合理的なシステムがありますし、日本の自動車がアメリカの自動車を圧倒してしまったのは、やはり日常生活の道具としての車の機能を合理的かつ美しく磨きあげていったことが受け入れられたのでしょう。
 ユニクロの合理性は日本固有の合理性と同調している。ここを特化して、圧倒的な迫力で世界へプレゼンテーションすればいい。「ソーホー ニューヨーク店」に「超合理性」というキーワードを立てたのはそういう理由によります。
 ではその「超合理性」をどうやって表現するか。
 ブランドを最前線で体現するのはロゴマークです。だからここで一回ユニクロのシンボルマークをチューニングし直して、研ぎ澄ませていく必要があると考えました。まず、四角の中にUNIQLOと置く考え方はとてもいいと思うので、これは残したほうがいい。しかし、最初に今のロゴマークをあらためて見たときに、「あれ? ユニクロのマークって地は赤じゃなかったっけ?」と思ったんですよ。記憶していたものと違う。エンジ色になっている。
 柳井さんに二回目の打ち合わせでお会いしたとき、恐る恐るうかがってみたんです。「記憶が定かじゃないんですけど、マークの地の色って赤じゃなかったでしたっけ?」「そうです」「これいつ変わったんですか?」「いつの間にかですね」と柳井さんはおっしゃる。「え? いつの間にかってことはないんじゃないですか?」と聞くと「いや、いつの間にか変わったんです──これが今のユニクロの問題を象徴していますね」と。
 ユニクロの本質をもう一度ぴかぴかに磨きあげて出て行こうと考えているわけですし、じゃあここで本来のユニクロの赤に戻すべきだ、ベンチャースピリッツの象徴であり、日本を代表する色でもある赤。エンジではなく、もう一度鮮やかな赤に戻しましょうと。

ほかのどのブランドにも似ないものを

 では赤い四角の中の書体はどうするか。「ソーホー ニューヨーク店」はマンハッタンにとどまらないグローバルなユニクロの旗艦店ですから、ロゴを一つ作ったらお終い、というんじゃ駄目だろうと。ユニクロの欧文書体をここできちんと全部作っておこうと思ったんです。住所の表記も、文章で情報発信する場合も、書体を統一しておけば必然的にユニクロのイメージが確立されていく。決定したユニクロ書体のグリッドは縦横を32対20で作ってるんですけど、33対21だとどうなるかとか、他の可能性も探りつつ呆れるほどたくさんやってみました。書体を作るのは本当に地道な作業で、ジャンプする直前まで信じられないような検証を繰り返しやってみるわけです。
 欧文とは別につくったカタカナのロゴは、ニューヨークのマンハッタンに住んでいる人たちにクールだと思われるものができないか、という思いで作りました。もちろんこれだけだとほとんどのアメリカ人には読めない。でも、コンピュータのバグみたいな面白さがあるんじゃないか。ちょっと過激すぎるかな、と思わないでもなかった。ところが柳井さんが「これがいい」とおっしゃる。カタカナは最高に新しいですよって。欧文書体のロゴと一緒に使えば、遊び心も入るし、ファッションの楽しさを表現することにもなる。表現になれば、それはメッセージになるということですから。
 ユニクロはニューヨークであろうがどこであろうが、ほかのどのブランドにも似ないでほしいんです。軸がしっかりとしていれば、似たものが回りにあったとしても、大丈夫です。強いものだけが残る。だからこそロゴマークや書体を軸がぶれないように、そしていつでもここに帰って来られるものとして、デザインしたわけです。

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uniqlo_logo.gif2006年秋、ユニクロはニューヨーク、ソーホー地区に新たな旗艦店をオープンいたします。売り場面積はユニクロ史上最大の1000坪。このプロジェクトには、今それぞれのジャンルで世界的に注目されている、最高の才能が集結しました。クリエイティブディレクター佐藤可士和、インテリアデザイナー片山正通、アートディレクターのマーカス・キールステン、インターフェースデザイナー中村勇吾の各氏。彼らの才能が、ユニクロの本質である「美意識ある超合理性」をユニクロ ソーホー ニューヨーク店で展開します。ご期待ください。

「考える人」2006年夏号
(文/取材:新潮社編集部、撮影:菅野健児、丸山晋一(ニューヨーク撮影))
詳しくは、、新潮社のホームページをご覧下さい。